異世界無宿

ゆきねる

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第十四章 運び屋稼業も楽じゃない

第百八十六話 嵐(魔王)は過ぎ去った

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魔王と言う名の嵐が過ぎ、少し落ち着いた頃合いでベリアが復活した。

「アレは夢…じゃあないよな?」

「現実だな」

カーネリアに後ろから抱きしめられているベリアが、少し恥ずかしそうだった。
懐かれているのは良い事である。

「魔王を見たのは初めて?」

「当然だろ!?」

ベリアとカーネリアは仲良くやれているようだ。
イズミは酒をお湯割りにして、ベリアへ手渡した。

「強い酒をお湯で割ったんだ。落ち着くぞ」

「ありがとう」

ホットウイスキーを飲んだベリアが一息ついた。

「温まるなぁ…」


一呼吸して落ち着きを取り戻したベリアだったが、魔王と会った事実から頭を悩ませる。

「イズミ、今夜の事は秘密だよな?」

「大半の者は与太話だと笑い、一部の人間からは根掘り葉掘り聞かれるだろうな」

酒盛りして、今頃ハーレーで風を感じているだろう魔王夫妻の事を思いつつ、説明し難い事柄である事を再認識する。

「…賢者様なら魔王が現れた事を察知してるだろうな」

「アーリアに聞いてみよう」

イズミは魔法通信でアーリアに連絡を取る。

「…イズミ、もしかしなくても、色々とやらかしてるわね?」

アーリアは通信が繋がると、開口一番にそう言った。

「あー、成り行き?」

「先程、魔王クラスの魔力を検知したけど?」

「それも、成り行き?」

少しの無音の後に。

「そっちに行くわ」

そう言ってアーリアが転移魔法でやって来た。


イズミとベリアが懸命に事情を説明すると、アーリアが大きなため息をついた。

「魔王夫妻と酒盛りして、アーティファクトクラスの代物をプレゼントした。ねぇ…」

「俺の人生は基本、その場のテンションと成り行きで成立しているからな」

そう言ったイズミの頭をアーリアがチョップする。

「行き当たりばったり過ぎるのよ!もう少し考えても良いと思うわ」

「それには同意だな」

「私も!」

焚き火を囲んでいる3人から突っ込まれてしまった。

「そっちの方が退屈しないぜ?」

「その結果生きにくくなったら、それはそれで大変よ?」

ガッツリとアーリアに注意されていると、遠くからハーレーの咆哮が聞こえて来る。
魔王夫妻が試走行から戻って来たのだ。

「イズミよ、これは良いハーレーを出してくれた」

「独特の振動ですが、こうやって走るのも気持ちの良いものですね」

ハーレーから降りた2人が焚き火へも近付くと、アーリアに気付いた。

「おぉ!アーリア、大賢者最後の弟子よ。息災だったか?」

「魔王様も元気そうで何よりです」

アーリアの表情も少し固いが、しっかりと話を出来ている。

「ハーレーの調子はどうです?」

「快調だ!少し魔力調整をすれば、海上も空も走れそうだ」

上下レザーの服から貴族の服へ瞬時に着替えた魔王が、焚き火の前に腰掛けて笑顔で答えた。

「此処でハーレーの褒美を渡そうと思うと、何かと波風が立つだろう…それに関しては何れ正式に会う時にしよう。コレを」

魔王が何かを取り出し、イズミへ渡した。
確認すると、ボロボロの腕時計だった。

ガラスはヒビが入り、針が取れている。
文字盤も損傷し、竜頭は固着して動かない。
ギザギザしたベゼルも傷と汚れがあり、金属のバンドもボロボロで外れている。
12時位置にある王冠だけが時計の威厳を保たせていると言ってよいだろう。

「所有者は大切にしていた代物だ。転移してしばらくは何とか生きていたが、最期は自暴自棄でな」

イズミは何も言えなかった。
自分もマスタングがいなかったら、同じ未来を辿っていたかもしれないからだ。

「それをやろう。イズミなら、直して使えるかもしれんな」

魔王はイズミが飲んでいた酒の瓶を掴むと、自らのグラスに注ぎお湯で割った。

「ジャックも悪くないな…馳走になった。また会おう」

魔王夫妻が立ち上がるとハーレーに跨りエンジンをかける。
挨拶を交わすと、勢い良く走り出し転移魔法で消えて行った。
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