異世界無宿

ゆきねる

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第十九章 暴力の嵐

第二百八十八話 甘味が食べたい

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宿屋で身体を休めていたら、唐突に甘い物が食べたくなった。

あの戦闘以降、敵の偵察が来ないか張っていた時は黒パンと水と干し肉しか口にした記憶が無い。
疲れた身体には休息と同じくらい甘味が必要なのだ。

腕時計を確認すると14時になった所だったので、オヤツがてら探してみる事にした。

「…マスタングから実体化させるのも、何か違う気がするしなぁ」

手っ取り早くマスタングで実体化させる事も考えたが、時間があるなら自作も悪くない。
村に菓子の類いがあるならば、それを購入するのも良い。
そうブツブツと呟きながら部屋を出ると、宿屋の厨房へと歩き出した。

「甘い物はこの村じゃ売ってないね。少しだけ砂糖がある位さ」

宿屋の女主人が小振り壺を取り出すと、中に半分程入っている砂糖を見せてくれた。
少し茶色が混じった砂糖だった。

「これでも良い金額するんだよ」

聞くとこの村に行商人は来るものの、近くにある屋敷…イズミ達が破壊し尽くした…の者からの圧力で大した物は入って来なかったそうだ。

ただ、村で取れる食材を見せてくれた時に作る菓子は決まった。
卵と牛乳があったのだ。
それも今朝の取れたばかりの新鮮なものだ。
これはプリンを作るしかない。

イズミは悩んだ末、結局マスタングに1部の材料と道具を実体化してもらう事にした。
卵と牛乳、マスタングで実体化させた砂糖とバニラエッセンスを女主人から借りた厨房に並べる。

バニラエッセンスの小瓶には、バニラビーンズが3本入っている。
ウイスキーのように濃い茶色の液体が、プリンをより良い存在にしてくれるキーアイテムだ。

「自作するのは初めてだが、何とかなるだろ」

鍋は宿屋の物を借り、目分量で特に何も考えずに鍋へ牛乳と砂糖を入れていて混ぜる。
別で卵をかき混ぜ牛乳の入った鍋に入れ終えると、10人分くらいは用意出来そうなプリン液が鍋に収まっていた。

「…スープでも作ってるのかい?」

「いや、単純に分量を多くし過ぎただけだ」

丁寧にかき混ぜながら声の主を見ると
自分の仕事は終わっていたのか、女主人は興味本位でイズミの不器用な料理を眺めていた。

「…あー、忘れてたな」

カラメルを作り忘れたが、今回は無しにしようと決めるまでに時間は掛からなかった。

「カップなら用意するよ?」

女主人が多めにカップを準備してくれたので、有り難く利用させてもらう。

濾す道具はマスタングが出してくれていたので、ソレを活用してカップにプリン液を注いだ。

カップ12個に上手くプリン液を納めたイズミは、マスタングで実体化させていた鍋と宿屋の鍋にカップを入れた。

「次は確か…お湯だな」

またまた宿屋の道具を借りてお湯を用意して鍋に注ぎ、木製の鍋蓋をして加熱と蒸し作業を行った。

勿論、全ての作業工程がイズミのうろ覚えの知識で行われているので、順番やらが違っているとしても仕方がない。
気分転換としてならば、非常に有効な手段だった。

プリン液が良い感じに固まった事を確認したら、粗熱を取って冷蔵庫に…

「流石に冷蔵庫は無いな…井戸水が冷たかったから、それで冷やすか」

女主人に許可を貰い、井戸水でプリンの入ったカップを冷やす。
行き当たりばったりの大雑把料理だが、後は冷やしながら待つだけだ。

「何やってんだ?」

寝起きなのか髪がボサっとしたベリアがやって来て、イズミの行動に対して聞いてきた。

「思い立ったが吉日、お菓子作りだ」

「イズミって菓子も作れたのか?」

「下手の横好きってやつだ、期待はしないでくれ」

そう言ってプリンを冷やしている間に、後片付けを終わらせる。

段取り八分とは良く言ったものだと実感しながら、イズミはプリンの完成をゆっくりと待つ。
持て余した時間で甘い物のお供としてコーヒーを作りはしたが、相変わらずの苦さに思わず顔をしかめた。
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