異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
322 / 624
第二十一章 武器が出来るまで

第三百十二話 恐怖の散髪

しおりを挟む
ドワーフを後にしたイズミ達が馬車まで戻る途中での事。

「イズミ、結構髪が伸びたよな」

「だな。旅路で髪を切る機会も場所も無かったからな」

風に揺られボサボサになる髪をまとめ直すと、フラウリアに美容室があるか確認をする。

「フラウリアさん、髪を切るお店とかは何処にあります?」

「そうですね…無いわけではありませんが、正直オススメは出来ませんね。屋敷に器用な者がおりますので、その者に頼みましょう」

「オススメ出来ない?」

フラウリアの説明が妙に気になり、思わず聞き返してしまった。

「…あちらの冒険者を見て下さい。赤い防具を身に着けている男性です」

「あぁ、あの独特な髪型の?」

「問答無用であの髪型にされます」

「…その店に行くのは止めておこう」

赤い防具を着けた冒険者は、サイドを剃り上げ頭頂部に髪がある。
モヒカンと形容した方が良さそうな髪型をしていた。

「あの髪型が流行っているのか?」

何気ない様子で男の髪型を観察していたベリアが聞くと、フラウリアは首を横に振る。

「なんと言いますか、職人の拘り…でしょうか?」

「その店では切らないぞ」

似合わないと分かっていながら、わざわざその店で髪を切る理由は毛頭無いのだ。

何者かからの視線を感じつつ馬車に乗り込み、屋敷へと戻ると直ぐに散髪の手配をしてくれた。

「殿方の散髪、ですか?」

フラウリアが屋敷の従者に声を掛けると、道具類を準備させている。
椅子に座らされたイズミが待っていると、1人の作業着を着た従者がやって来た。

「散髪は久しぶりでして…」

従者はそう言いながらハサミ…見るからにデカい…を目の前でチャキチャキと動かしている。

「このハサミはドワーフ工房で拵えた品でして、切れ味は文句無しです」

「…サイズ感が人間向けでは無いような」

「ラミア族の散髪に適したハサミですので…動かないで下さいませ、じっとしていて下されば事故を防げますので」

不安な事を言われたイズミは、思わず身を強張らせた。
モヒカンみたいな髪型も考えようかと思ったが、似合わない自信があるので戦闘する時と同じレベルの覚悟を決めて動かないように集中した。


30分後。

「出来ました。如何でしょうか?」

従者が小さな鏡で…ラミア族基準なので人間には普通サイズだ…確認をする。

「…良い感じです。ありがとう御座います」

この世界に来てから伸ばしっぱなしだった髪が、スッキリサッパリ整ったのだ。

「イズミさん、お風呂の準備が出来てますよ」

散髪が終わったと聞いたフラウリアが、事前に汚れや髪を洗い流す為に風呂の準備をしてくれていたのだ。

「お風呂に入ったら、夕食を取りましょう。その後あの薬を飲んで下さいね」

「分かりました」

屋敷の従者の案内で風呂のある部屋に向かい、しっかりと身体を洗い細かな髪の残りも落とす。

着替えて部屋に戻ると、既に夕食が用意されていた。
グラテミア達と一緒に夕食を取るのかと思ったが、今日はグラテミアが別の拠点で仕事をしているとの事だった。

料理は肉も野菜も沢山の鍋料理だった。
フラウリアが笑顔でお椀によそってくれた。

「旅路では野菜を取りにくいですから」

「鍋にすると野菜の甘みが増したり、温かさがご馳走になりますから有り難いですね」

「お肉もしっかり食べて下さいね」

フラウリアの目がギラギラしているが、もうどうしようもないのでイズミは気にしない事にした。

「ご馳走様でした」

完食したイズミはフラウリアから渡された薬を飲むと、眠る準備を始めた。

「この睡眠薬は即効性がありますので、直ぐに眠くなりますよ」

歯を磨いてから少し身体を伸ばしていると、意識が遠のくのが分かる。
フラつきながらベッドに横になると、イズミはすぐに意識を失った。


「眠りましたね」

イズミが意識を手離した事を確認すると、フラウリアは隣の部屋で持たせていた2人のラミアを連れてきた。

「あの…私達の紹介をしてませんでしたが、良かったのでしょうか?」

「…すっかり忘れてましたわ」

研究熱心だが変な所が抜け落ちがちなフラウリアが、表情を崩しつつこめかみを押さえる。

「あの薬を飲んだら、明日の朝までは絶対に起きないので…明日改めて自己紹介をしましょうか。後はよろしくね」

それだけ伝えると、フラウリアは2人のラミアを部屋に残して自室へと戻って行った。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...