異世界無宿

ゆきねる

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第二十四章 暴走を止めろ

第四百三十三話 通り雨と警告

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移動を始めて8日目。
思わぬ寄り道をしたものの、概ね予定通りである。
ヴィラード達もマスタングの乗り心地に慣れてきたのか、初日よりも表情の固さが和らいでいるように思える。
とても順調な旅路だ。

「イズミ、この前精霊に渡してたお菓子、アタイも食べてみたいんだけど」

「旅の途中で食べるもんでも無いだろうに」

「一度気になっちまうとさ、気になって仕方が無いんだよ」

好奇心旺盛なベリアの熱い視線が、運転をしているイズミに向けられている事を事を除けば。

「オブリビアに到着したら冒険者としての仕事が始まるし、隣の村で食べても目立つだろ?ならバレるリスクが1番低いのは移動中になるだろ」

「それも一理あるけどなぁ、マスタングはどう思う?」

安易に首を縦に振るのは良くないので、取り敢えずマスタングに相談をしてみる。

「オブリビアでの仕事前に食べておくのも良いと思います」

「マスタングさんは話が分かるなぁ!」

「オブリビア近辺の魔力溜まりに揺らぎが発生していますので、タフな状況になる可能性が高いです」

ニコニコだったベリアの表情が真剣なものに変わる。

「スタンピードの可能性は?」

「現状では低いです。オブリビアのダンジョンに異変が発生する可能性はあります」

「それは…考える必要があるな」

ナイフの柄を軽く握りながら思案するベリアだったが、まだオブリビアまでは距離があるので風詠みはしきれないのか、答えは出て来ないようだった。

「…テレジア様、少しお休みになられた方が」

「大丈夫よ。時間があるなら練習をしておきたいの」

テレジアは時間と体力がある間は、ずっと聖魔法の練習をしているのだ。
車酔いをしないか不安だったが、三半規管は強いようで気分が悪いと言われる事は無かった。

「少しづつですが、感覚が掴めてきた気がします」

「短期間で実感出来る程なのですか…」

ヴィラードは少し考え込むと、イズミに問いかける。

「イズミ殿、あのメダルには何かの加護があったりするのではないか?」

「それは無いな、本当に只のメダルさ。本人の素養だと思う」

普段は首に下げているが、練習の時は外して右手で強く握りしめているようなので、後で真鍮の清掃方法を伝えておいた方が良いかもしれない。

今日はオブリンドの少し手前で夜営をする想定で移動を進めていたが、天気が怪しくなってきた。
雨が降りだす前に予定地に到着したが、ポツポツと雨が降り始めている。

「雨か…濡れると大変なんだよなぁ」

ベリアは獣人なので濡れた時の対応に時間がかかるので、悪天候の際はインドア派になるのだ。

「マスター。雨は2時間程度で止みます」

「しばし車内で様子見だな」

車内空調を確認し後部座席の2人も快適に過ごせるように調整すると、イズミは窓の外を見つめた。
雨足は強くなり、マスタングのルーフを叩く音が睡眠導入にもなる心地良さである。
微睡みそうになっていると、運転席側のドアを誰かにノックされて意識が戻って来た。

「うん?」

視界のピントを合わせると、窓の向こうには1体の魔物が居た。
ケルピーだ。
マスタングも特に反応をしていないので、敵意は無いと判断しているのが分かる。

イズミはマスタングから降りケルピーに右手を触れないように気を付けながら伸ばすと、ケルピーは匂いを確かめるように鼻を近付ける。
問題無いと判断したのか、頭を足に擦り付けてキュルルと鳴いた。

「どうしたんだ、散歩か?」

ケルピーの頭を優しく撫でていると、自分の身体が雨に濡れていない事に気付いた。
上を見ると大きな葉っぱが傘の代わりになって雨避けになっていたのだ。

「イズミ。久し振り」

「アルハ…さんでしたね」

「よく覚えてるね、意外」

アルハはマスタングのルーフ上に浮いており、器用にケルピーのご飯を投げる。

「私は今、雨を降らして回ってる」

「恵みの雨ですね、感謝します」

「農作業をする者達には恵みであっても、旅路にいる者には辛いものがある」

「自分は気にしませんよ、こうしてアルハさんにも会えた訳ですし…何か食べます?」

最近女神様や精霊にお菓子や飲み物をお供えしたりしているので、特に問題は無いと告げる。

「お菓子もお酒も大丈夫。好意に甘えるなら、この前貰った果物について知りたい」

「リンゴでしたっけ?」

「そう。色々と試したけど、あの甘さにならない」

アルハは品種改良を独自に行っているらしいが、まだ納得の出来る領域にはなっていないようだ。

「あの甘い蜜は本当に甘美。ケルピー達も喜んでる」

「マスタングに聞いてみましょう」

イズミは早速マスタングに聞いてみると、一冊の本と大きめな布袋いっぱいに詰められた種を実体化された。

「書物は品種改良に関する情報が、種は糖度の高いリンゴのものです」

「後は自分達で頑張れって事か」

「そうなります。通常であれば育つのに時間がかかりますが、精霊であれば直ぐに成長させられるでしょう」

「…だろうな」

イズミは本と布袋を回収すると、濡れないようにしつつアルハに手渡した。

「私の居た世界の知識ベースですが、品種改良に関する本です。布袋にはリンゴの種が入ってますので、ご活用下さい」

「ありがとう、試してみる。これはお礼」

本と布袋を異空間に収納したアルハは、イズミの右手に何かを実体化させた。
それは綺麗な蒼色の魔石だった。

「それを砕けば、必ず雨が降る。効果は1度きり」

「そんな凄い代物を…」

「問題ない。またね」

アルハはケルピーを抱きかかえると、雨雲と共に姿が薄れてゆく。

「オブリビアでの仕事、気を付けてね。イズミにしか出来ない事がある」

「…俺だけ?」

それだけ言い残すと、イズミの呟きを聞く前に完全に消えてしまった。
車内に戻るとアルハの事を聞かれはしなかったものの、無言の圧を感じたのでベリアが所望していたマカロンを実体化してお茶を濁す事にする。
口止め料代わりになるのかと聞かれると、微妙かもしれないが。
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