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第2章 幼年編
236 サスカッチ
しおりを挟む本陣の前方。
話は再び。魔獣本隊が進軍してくる前に構えるアレクに戻る。
「サンダアアァァンプォォォ!」
雷魔法「土砂降りの雷(Thunder+downpour)」だ。
ピカッ!
ドカカカァァァン!
ピカッ!
ドカカカァァァン!
ピカッ!
ドカカカァァァン!
ギャーッ!
ギャーッ!
ギャーッ!
ギャーッ!
雷が落ちればもれなく当たる図式は終わりに近づいたようだ。
それでもガーゴイルはほぼ撃墜した。
ワーウルフとゴブリンライダー、コボルトの数もかなり減ってきた。
このままいけば先駆け部隊は壊滅できるだろう。
「シルフィ、今のままじゃ効率悪いよな?」
「ええ、雷を抜け出る魔獣も出てきたわね」
「そうだよなぁ」
そう、皮肉なことに魔獣の数が減ったことが、今残っている魔獣たちには幸いした。
ワーウルフやコボルトたちはより広い範囲を駆けるようになったのである。いつしか雷を避ける技術まで身に着けて。
アレクは集団の掃討から個別撃破に作戦を移行しつつあった。
魔獣と同じように、アレクもまた進化を続ける。
「スパーク!」
バチバチッ
ギャーーッ
「「エアカッター!」」
シュッ シュッ
ギャンッ ギャンッ ギャンッ
雷雨をくぐり抜けた魔獣を1体1体雷魔法や風魔法で仕留めていく。が……。
やはり、効率の悪さは否めない。
何より、1人でまかなうには範囲が広過ぎた。
「魔力枯渇もしたくないし…。やっぱり馬房柵を狭めて魔獣たちを集めるよ」
「わかったわ」
「馬房柵!馬房柵!」
「馬房柵!馬房柵!」
ズズズーーーーーッ
ズズズーーーーーッ
それは奇しくもセーラが発現した聖魔法の障壁と同じ目的のもの。
タイミングもほぼ同じであった。
馬房柵を逆三角形にし、面で迫る魔獣を1箇所の点に集める。
砂時計の入り口のように。
そしてその入り口に立つのはアレク。
先駆けの機動部隊をほぼ壊滅させたあと。
進軍してきたのは、魔獣本隊である。
ガウガウッ ガウガウッ ガウガウッ ガウガウッ…
本隊で現れたのはコボルトが50体。
冒険者ギルドでは討伐案件レベルである。
「気合い入れていくよアレク!」
「ああシルフィ」
背の刀をゆっくりと抜く。
その刀はヴィンサンダー領とヴィヨルド領の至宝、2人の刀鍛冶兄妹がアレクと共に顕現し、或いは共に磨いたアレクの愛刀だ。
「ヴァルカンさん、ミューレさん、俺を見守ってよね」
トントン
自らの愛刀の腹をトントンと叩いたアレクが上段に構える。
砂時計が落ちるように。コボルト50体が1体ずつ吐き出される。
ザンッ!
ザンッ!ザンッ!
ザンッ!ザンッ!ザンッ!
ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ…
魔獣コボルトを斬る。
斬って斬って斬りまくる。
ザンッ! ザンッ!
ザンッ! ザンッ!
ザンッ! ザンッ!
ザンッ! ザンッ!
ザンッ! ザンッ!
ギャンッ
ギャンッ
ギャンッ
ギャンッ
ギャンッ
ギャンッ…
「ハーハーハー」
「アレク、そろそろ来るよ」
「ハーハーハー。ああシルフィ」
半端ない疲労感。
それでも、疲労感を上回る闘志に衰えは少しもない。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
ウォーウォーウォーウォーウォーウォーウォーウォーウォーウォー…
早足の二足歩行で。
人と見間違えんばかりに、大型の魔獣ばかりが続く。
本隊。敵魔獣大将の登場だ。
ドドドドドドドドドドドドドド…
ウオオオオオオォォォォォォォ…
「う、嘘だろ……」
アレクに向けられるのは殺意。
そのピリピリとした明確な殺意たるや……。
ごくん。
思わず声を失くすアレク。
「学園レベルじゃねぇぞこれ……」
10体のオークを従えて、全身を白い体毛に覆われたミノタウロスが先頭に現れた。
それはまるで勇敢な団長を先頭に戦場に赴く、規律ある騎士団の行進のように見える。
◯ミノタウロス
二足歩行。雄牛(カウカウ)の頭を持つ魔獣。身長2.0から2.3m。豚(猪)魔獣のオークよりもはるかに凶暴である。
一説にミノタウロスは女の魔人と雄のカウカウの間にできた魔獣とされるが、魔人自体が少ないため確認する術がない。
常にハンドアックス(手斧)を手にしている。
鉄級冒険者、Level2以上を発現できる魔法士、回復魔法士の3人以上を推奨。
食用可。稀に宝箱をドロップする。
さらに。
そのミノタウロスでさえ脇に従えるのは、真っ白い体毛の二足歩行の魔獣。ミノタウロスよりは一回り小さい。
だが、漂うオーラはミノタウロスのはるか上……。
強い。紛うことなく強者の雰囲気を漂わせる。
「シルフィ…こいつゴリラか?」
「サスカッチじゃん。珍しいのが出てきたね」
アレクに憑く精霊のシルフィが応える。
「サスカッチ?」
「雪男よ」
「雪男ってあの雪男?」
「そうよ」
「あの」という表現に、俺とシルフィの間で齟齬があったのかもしれない。が、どうやらそれでもその認識に違いはなかったようだ。
◯サスカッチ(雪男)
二足歩行。会話も可能と言われる。
ゴリラの亜種とも考えられているが、魔石も見られないと報告されているため獣人の新種とも考えられている。
年間を通して積雪のある高地に生息する。
攻撃力の高さは外観の似たオークの比ではないという。その生息数の少なさ、目撃数の少なさから不明な点が多い。
食用不明。
「珍しい魔獣よ。私も実物見たのは100年ぶりよ。ミノタウロスなんか雪男に比べれば弱っちいもんよ」
「へぇー」
村にいた当時。
ニャンタおじさんと狩りに行ったときのアドバイス。
「いいかい、アレク君。もし勝てない魔獣に出会ったらすぐに逃げるんだよ。力では太刀打ちできない魔獣は危ないからね」
そんなアドバイスは生命のリスク回避。
探知能力が上がれば上がるほど、その言葉の意味がわかる。
春の修行。
ホーク師匠は言った。
「引くに引けないときもある。自分よりも格上の者と闘うときだ。そのときは頭を使え。闇雲に突っ込むのは愚か者のやることだ。そして精霊の声に耳を傾けろ」
これもよくわかる。自分1人じゃない。精霊魔法を発現できる俺は、精霊(シルフィ)と2人、二人三脚なんだ。
今の俺は……絶対引かない。
断固、引かない。
今が闘うそのときなんだ。
「シルフィどうすればいい?」
「ふふ。アレクの思った通りにやればいいわ。自信を持ちなさい」
「シルフィありがとう!」
「アレク、オークからよ。ミノタウロスとサスカッチはあと。絶対に気持ちで負けないようにね」
「わかった」
【 アレクside 】
ドドドドドドドド…
ウオオオオォォォ…
地響きをたてて。
10数体の大型魔獣の本隊がやってきた。
「来たよシルフィ」
「ええアレク」
「「!」」
接近してくる魔獣本隊との距離が50メルをきったときだ。
「「えっ?!」」
サスカッチ、ミノタウロスを先頭とするオークたちの陣形が変わったんだ。
2列縦隊で。
オークを先頭にサスカッチ、ミノタウロスが最後列になったんだ。
まるで俺からの魔法攻撃を予知するように、オークを盾にしたんだ。
「おいおいおい…」
これじゃあ俺がオークに手間取ってたら、ミノタウロスとサスカッチにやられる!
50メル40メル30メル20メル…
「アレク、強い雷魔法にしなきゃ、呑み込まれるわよ!」
「わかった!」
シルフィの助言がなければスパークを選択しただろうな。
そして倒しきれないうちに巻き込まれて、挙げ句には大将格2体の攻撃を受けてだろうな。
ここは一撃で。
確実にオークから倒さなきゃこっちがヤバいよな。
だったらここはライトニングだ。
先頭のオーク10体から強雷魔法のライトニングを放つんだ。
20メル 18メル 16メル 15メル。
「今よ!」
「ライトニング(雷鳴)!」
バチバチバチバチバチッバチバチバチッ…
ギャーーーーッ
ギャーーーーッ
ギャーーーーッ
ギャーーーーッ
前列のオーク10体がばたばたと倒れていく。
ドミノ倒しのように地に伏していくオークの最後列から。
ブンッ!
ミノタウロスが手にしたハンドアックスを投げてきた。
ブワワヮヮッ!
風を切り裂くような破裂音がした。
サッ!
間一髪。
さっと首を逸らして避けた顔の横をハンドアックスが通り過ぎた。
ザッッ
つぅぅーー。
こめかみから頬のあたりを流れるものが、唇に触れた。
ペッ。
うぇ、不味い。
鉄の味だ……。
(ヤ、ヤバかった……)
「アレク、落ち着いてる?頭に血が上ってない?」
冷静に。前を見たままシルフィが俺に問う口調は、シルフィの平常心を思わせた。
シルフィは動揺も一切なく俺を信じてくれてるんだ。
「ありがとうな、シルフィ。大丈夫。いつも通りだよ」
恐怖に打ち震えるでもなく、怒りに溢れるのでもなく。
俺自身が冷静に、俯瞰で闘いに臨めていることを自覚する。
「アレクやっつちゃえ!」
「おおよ!」
ダンッ
ダンッ
盾にしていたオークのいなくなったミノタウロスとサスカッチの2体が跳躍した。
10メルを隔てて、一気に俺へと迫る。
ダンッ!
「ブースト!」
俺もまた突貫にブーストを併せて魔獣2体に突撃する。
空中で。
ミノタウロスとサスカッチ2体の拳と、俺の刀が交錯した。
ザンッ!
ザンッ!
手応えはあった。
ドンッ
ドンッ
でも……俺も直撃を食らった。
「うっ…」
10メルを隔てて各々の位置が逆転した。
着地直後。
2体の魔獣に背を向けたまま、俺は腹部に強烈な痛みを覚え、同時に迫り上がる吐気に胃の吐瀉物をぶちまけた。
「うえええぇぇぇーーーー」
四つん這いになって吐いた。
「うえええぇぇぇーーーー」
たしかな手応えはあった。
でも胃の中がぐちゃぐちゃだ……。
息をするのでさえ辛い。
「アレク!立たなきゃやられるよ!前を向いてアレク!しっかりして!」
痛い、痛い、痛い、痛い。
強烈な痛みで気を失いそうだ。
てか、このまま気を失ったほうがどんなに楽だろう。
そんなことさえ思った俺だった。
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