アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

308 45階層 ナイトメア③

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 【  キムside  】

 「兄さんただいま」
 「お帰りキム。ヴィヨルドはどうだった?」
 「ああ、とっても楽しかったよ。あのね‥‥」


海洋諸国連合。
ヴィヨルド領から遠く西の大海に位置する連合国家である。広く「海洋諸国」として認知されている。
その名のとおり、西海の多くの小島やその周辺の小国家群から構成された連合体である。主な産業は塩を含む海産物と海運業。それと‥‥。


この地域では古来より小島間の争いが絶えなかった。それは海洋諸国という寄合世帯となってからも変わらなかった。小さなパイの奪い合いに永く心血が注がれたのである。
幸か不幸か、地域が小さいが故にそこに多勢で攻め入る敵対勢力は出現しなかった。よって多勢に対抗する軍師、軍略家が育つこともなかった。周辺の大国からみれば遠征して併合するまでの旨みには欠けていたのである。
よってこの地域で起きたのは小島同士の争い。個と個が血で血を洗う抗争だ。個と個の血に塗られた争いの歴史が続いたのである。そしてその個と個の抗争の果てに生まれたのが隠密や暗殺の類い。非合法な技術の飛躍的な進化が生まれた。さらに西国の多種多様な生態系が生みだす生と死のエッセンスが加味された。さまざまな植物が生む毒物、さまざまな生物が生む毒物の活用技術である。
こうして生まれた毒物の生成は他の中原諸国には見られないほど独自の進化を遂げることになる。

そして現在。
毒殺、暗殺といえば海洋諸国という図式が中原人に広く認知されるようになった。


アイランド一族。
要人の護衛或いはその暗殺を請負う一族である。一族は海洋諸国でも1、2位を争う名門でもある。表向き営むのは海運業。その実、非合法なものを生業としていることはあまり知られてはいない。


キム・アイランド。
黒髪を民族衣装風の飾り紐で束ねた小柄な体格の男。記憶に残り難い平凡な顔立ちは、まさにアイランド一族の男子を如実に現す容姿である。
ちなみに一族の女は比較的長身である。風になびく艶のある長い黒髪は多くの女性憧れの対象。妖艶さを併せ持つその見目麗しさは吟遊詩人の題材にも好んで用いられ、西海の真珠や傾城の美姫と呼ばれている。財を成す男性からは万金を賭しても侍らせたいとも言われるほどの存在。

アイランド一族を語るとき、忘れてはならないのが一族鉄の団結力である。決して裏切らない。一族の名のためには生命を捨てるのも厭わない。
その団結力を支えているのが一族の者が指にはめる指輪「隷属の指輪」である。これは当代の当主に服従を誓う証。
1度嵌めれば当主に逆らうこと能わず、万が一のことがあれば指輪より放出される毒物により即座に死に至るという。キムもまたこの隷属の指輪を嵌めていた。

一族の教育は苛烈極まりない。男子に生まれた者は成人を迎えるまでに各種毒物の生成から、自らの身体を実験台とした耐性実験を課せられる。さらには隠密術、暗殺術も徹底的に仕込まれる。
アイランド一族の男が小柄な体躯であるのは何世代にも渡って厳格な肉体改造を強いられた結果であるともいえるのだ。また女に生まれた者もその肉体と容姿を武器に、これも激烈な訓練を経るという。
「男子たる者影なるべし。女子たる者光なるべし」
アイランド一族の家訓である。


一族の男子は海洋諸国の初級学校の6年間を卒業した者から各国各領に留学する習わしがある。それは身をもって各国の情勢に触れるのはもちろんのこと、先々で次代を担う同期との人脈作りの側面もあるのだ。


ーーーーーーーーーーー


 「とっても楽しかったよ。あのね‥‥」

ヴィヨルド学園を卒業。帰国したキム・アイランド。
その元来の性格は明朗快活、饒舌だったのかもしれない。
 
 「聞いてくれよ兄さん。ヴィヨルドではたくさん友だちもできたんだ。人族、獣人族、エルフ族。みんなヴィヨルド学園の6年間を一緒に過ごした仲間だよ。気持ちのいい奴らばかりさ」
 「それは良かったな。将来に続く友だちはお前自身はもちろん我が海洋諸国にとっても永く益をもたらすからな」
 「ああもちろんだよ」
 「それからねアニキ、後輩におもしろい奴がいてね。そいつは馬鹿なんだけど呆れるくらいに真面目なんだ」

笑顔のキムが話す。

 「あっ、そうだ!忘れるところだったよ!
俺もう行かなきゃ。仲間が待って‥‥」
 「何言ってんだキム。6年ぶりに帰ってきたんだぞ。お前の6年間の話を兄さんにもっと聞かせてくれよ。そのおもしろいという後輩の話も」
 「う、うん。もちろんだよ。そいつがね‥‥」

 「それから‥‥」


 「それ‥‥」



 「そ‥‥」




 「‥‥」






 「‥」



 「うーん惜しかったね。はい、斥候の子も夢の中ー」



 【  ブーリ隊side  】

それはボル隊が出発してからしばらくのことである。

 「気をつけろ!」
 「「「!」」」

その異変に最も早く気づいたのはタイガー。
階層主の扉前の床が淡く光ったかと思うと、そこに大きな魔法陣が出現した。10傑の仲間全員が余裕で乗れる大きさの魔法陣だ。

 「みんな離れて!」

ビリーの声かけ。

 「おいおい、いきなり魔法陣かよ!」
 「リズこれって?」
 「たぶんビリーの想像どおりなの。帰還の魔法陣なの」
 「やっぱり‥‥」

 羊皮紙を出して魔法陣の術式を書き写すリズ。

 「これは初めてみるタイプなの。それほどは‥たぶんそれほど遠くには飛べない術式なの‥‥ここから近い魔法陣‥‥」
 「それってひょっとして40階層の休憩室かい?」
 「たぶんそうなの!」

 (やっぱりそうだ。前回の先輩たちのパーティーはデューク先輩が居なくなってから50階層休憩室の魔法陣から帰還したんだよね。てことはここも簡単にはいかないってことなんだろうな‥‥)

ビリーは思案中、リズは書写中、タイガーが警戒中のなか。
どこかから拾った小枝を片手にするオニールとゲージ。

ツンツン  ツンツン‥

 「魔法陣だってよ」
 「ああ魔法陣だってなギャハハ」



――――――――――――――



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