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さよならコンサート
愛のダメ出し
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音楽室に静かに彩音さんのヴァイオリンの音色が響く。彩音さんの『愛の悲しみ』は軽いタッチで始まった。もう少し重い音が出てくるのかと思っていたので意外だった。しかし僕のピアノはその調べを優しく支えるように音を紡いだ。
彩音さんの透明感のある音がこの曲の切ない旋律に深みを与えている。物悲しい半音階の塊に耐え忍ぶ葛藤が伝わってくる。切なさの中に哀愁が伝わってくる。
――ああ、彩音さんの音を聞いているととてつもなく切ない物語を聞かされているような気分になる――
そう、彩音さんの感情がそのまま伝わってくるような音の繋がりだった。
僕のピアノの音が彩音さんの音の艶を損なわない様に、僕は注意深く弾いた。間違っても冴子の伴奏では、そんな事を考えたりはしない。そして彩音さんの音の粒は聞き惚れてしまうような音色だ。
いつまでも聞いていたくなる音だ。
本当の愛を知った事で生まれる悲しみ。
それを表現するかのように彩音さんのヴァイオリンは琥珀のため息の様な間を作る。僕はそこに飲み込まれてしまいそうな錯覚さえ感じた。
悲しみの中に包み込むような優しさを感じる。彩音さん表現力は凄まじい。どれだけ引き出しを持っているんだ?と僕は驚きながらピアノを弾いた。
――こんな『愛の悲しみ』って……彩音さんてどんな恋をしてきたんだ?――
なんてことを考えていたら、『愛の悲しみ』は静かに終わった。
僕は楽譜をめくった。
彩音さんと目が合った。
同時に一気に愛の喜びが音の粒になって溢れ出す。もちろん僕もそれに軽やかに合わせた。
それにしても彩音さんの音は多彩で艶やかだ。色々な愛の喜びをヴァイオリンの音色で表現する彩音さんの音色を邪魔しない様に、そして僕はうっとりとその音の粒を眺めながら気持ちよくピアノを弾いていた。
――この曲ってこんなに楽しい曲だったんだなぁ――
と改めで思い直しながら僕はピアノを弾いた。
どんなに表現してもどんなに表現を変えてもこの喜びは語りつくせない……そんな愛おしい思いが伝わってくる演奏だ。本当にこの曲が好きなのがよく分かる。
あっという間に至福の時は終わった。物足りないほどあっけなく終わってしまった。
「彩音さん流石ですね。聞き惚れてました」
と僕はお世辞ではなく本心で言った。
「ありがとう。でも藤崎君も一発で合わせてきたね。流石やわ」
「ありがとございます」
僕は内心ほっとしていた。とりあえず及第点は貰えたようだ……とほっとしたのも束の間で
「でも……」
と彩音さんは不満げな一言を呟いてヴァイオリンを肩から降ろした。
「はいぃ?……何か?」
僕は思わず唾を飲み込んで聞いた。
「うん。とってもいい感じだったけど……全然面白くない……流石全国一位の伴奏だったわ」
と彩音さんの口から出た言葉は僕が全く予想だにしていなかった台詞だった。
「ぜ全国一位の伴奏??……あのぉ……言っている意味がよく分からないんですけど……」
僕は彩音さんが何を言いたいのか全く理解できていなかった。もしかして僕は嫌味を言われているのか?
「藤崎君の伴奏はとっても弾きやすかったわ。私のヴァイオリンに合わせて、丁度いい加減で音が入ってくるし……私が欲しい音をちゃんと用意してくれていたし……」
「そこに何か問題でも?……」
僕は恐る恐る聞いた。
「なんか、あまりにもあっさりと弾きこなされたのもむかつくけど、私のヴァイオリンのためだけにピアノを弾いているというのがミエミエで何故か腹立たしい」
「え? そんな理不尽な……」
一生懸命伴奏してこのセリフはとても理不尽だ。なんかいつもの彩音さんと違う。何かのスイッチが入ってしまったかもしれない。
「本当に藤崎君のピアノは最高の伴奏やわ。これが私のリサイタルであれば、これもありの演奏なんかもしれんけど……」
「だから彩音先輩の伴奏やから、これでええのでは?……」
と僕は恐る恐る聞き返してみた。
彩音さんの透明感のある音がこの曲の切ない旋律に深みを与えている。物悲しい半音階の塊に耐え忍ぶ葛藤が伝わってくる。切なさの中に哀愁が伝わってくる。
――ああ、彩音さんの音を聞いているととてつもなく切ない物語を聞かされているような気分になる――
そう、彩音さんの感情がそのまま伝わってくるような音の繋がりだった。
僕のピアノの音が彩音さんの音の艶を損なわない様に、僕は注意深く弾いた。間違っても冴子の伴奏では、そんな事を考えたりはしない。そして彩音さんの音の粒は聞き惚れてしまうような音色だ。
いつまでも聞いていたくなる音だ。
本当の愛を知った事で生まれる悲しみ。
それを表現するかのように彩音さんのヴァイオリンは琥珀のため息の様な間を作る。僕はそこに飲み込まれてしまいそうな錯覚さえ感じた。
悲しみの中に包み込むような優しさを感じる。彩音さん表現力は凄まじい。どれだけ引き出しを持っているんだ?と僕は驚きながらピアノを弾いた。
――こんな『愛の悲しみ』って……彩音さんてどんな恋をしてきたんだ?――
なんてことを考えていたら、『愛の悲しみ』は静かに終わった。
僕は楽譜をめくった。
彩音さんと目が合った。
同時に一気に愛の喜びが音の粒になって溢れ出す。もちろん僕もそれに軽やかに合わせた。
それにしても彩音さんの音は多彩で艶やかだ。色々な愛の喜びをヴァイオリンの音色で表現する彩音さんの音色を邪魔しない様に、そして僕はうっとりとその音の粒を眺めながら気持ちよくピアノを弾いていた。
――この曲ってこんなに楽しい曲だったんだなぁ――
と改めで思い直しながら僕はピアノを弾いた。
どんなに表現してもどんなに表現を変えてもこの喜びは語りつくせない……そんな愛おしい思いが伝わってくる演奏だ。本当にこの曲が好きなのがよく分かる。
あっという間に至福の時は終わった。物足りないほどあっけなく終わってしまった。
「彩音さん流石ですね。聞き惚れてました」
と僕はお世辞ではなく本心で言った。
「ありがとう。でも藤崎君も一発で合わせてきたね。流石やわ」
「ありがとございます」
僕は内心ほっとしていた。とりあえず及第点は貰えたようだ……とほっとしたのも束の間で
「でも……」
と彩音さんは不満げな一言を呟いてヴァイオリンを肩から降ろした。
「はいぃ?……何か?」
僕は思わず唾を飲み込んで聞いた。
「うん。とってもいい感じだったけど……全然面白くない……流石全国一位の伴奏だったわ」
と彩音さんの口から出た言葉は僕が全く予想だにしていなかった台詞だった。
「ぜ全国一位の伴奏??……あのぉ……言っている意味がよく分からないんですけど……」
僕は彩音さんが何を言いたいのか全く理解できていなかった。もしかして僕は嫌味を言われているのか?
「藤崎君の伴奏はとっても弾きやすかったわ。私のヴァイオリンに合わせて、丁度いい加減で音が入ってくるし……私が欲しい音をちゃんと用意してくれていたし……」
「そこに何か問題でも?……」
僕は恐る恐る聞いた。
「なんか、あまりにもあっさりと弾きこなされたのもむかつくけど、私のヴァイオリンのためだけにピアノを弾いているというのがミエミエで何故か腹立たしい」
「え? そんな理不尽な……」
一生懸命伴奏してこのセリフはとても理不尽だ。なんかいつもの彩音さんと違う。何かのスイッチが入ってしまったかもしれない。
「本当に藤崎君のピアノは最高の伴奏やわ。これが私のリサイタルであれば、これもありの演奏なんかもしれんけど……」
「だから彩音先輩の伴奏やから、これでええのでは?……」
と僕は恐る恐る聞き返してみた。
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