北野坂パレット

うにおいくら

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お正月の頃の物語

お年玉

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 本殿前に着いたが見えるのは、人々の後頭部だけだ。
その人込みの向こうにめがけてお賽銭を投げ入れると、手を合わせてお願い事をした。
横目でチラッと宏美を見たら一生懸命お祈りをしていた。よっぽど沢山の願い事があるんだろう。
顔を上げた宏美に『どんなことを願ったのか?』と聞いてみたが教えてくれなかった。

 僕は何をお願いしたか歩きだしたら忘れてしまっていた。所詮初詣とはそんなもんだろう。
僕たちは一度生田神社の境内を北に抜け出てから神社の壁伝いに回って西門から元の参道に入った。

 店に戻ったらオヤジはさっきと同じように一人で日本酒を飲んでいた。ただオヤジのテーブルには徳利とお猪口が四つ並んでいた。そしておでんも新たに注文されていた。

 僕たちが席に着くとオヤジは、テーブルに重ねて置かれていたお猪口を三人に配ってお酒を注いだ。
「正月やしな。お屠蘇や」
と笑った。

 僕達四人はお猪口を持って改めて新年の挨拶をした。
僕は一気にお猪口のお酒を飲み干した。
徳利の中の日本酒は熱燗だった。体が温まる。

 宏美は口をつけた程度だったのに
「なんだか顔がポッポする」
と言って両手で頬を覆った。思わず可愛いと思ってしまった。

オヤジは唐突に
「ああ、そうやこれ渡しとくわ」
と言ってオヤジの目の前に座ってる僕と宏美にポチ袋をくれた。

「なにこれ?」

「なんや?お前。お年玉を知らんのか?」
オヤジは大仰に驚いたような表情を浮かべて僕を見た。

「いや、知っているけど、くれんの?」

「要らんならやらんけど」
怪訝な顔で僕を睨むオヤジ。

「いや、そんなわけないやろ? ありがたく頂戴するわ」
僕は慌ててポチ袋を持った手をひっこめた。

「私も貰って良いんですか?」
宏美が驚いたようにオヤジに聞いた。ちょっと頬が赤い。

「全然良いよ」
オヤジは優しい目で笑った。

 人生で初めて貰うオヤジからのお年玉だった。
今までオヤジにお年玉を貰った事が無かったから、オヤジからポチ袋を手渡された時にピンと来なかった。
でもなんだか嬉しい。とっても嬉しい。そして新鮮な感覚だった。

 オフクロを見ると
「私からのは家に帰ってからやからね」
と言われた。
別に催促した訳ではないのだが、オフクロにはそう見えたらしい。

 勿論言われなくてもオフクロからはちゃんと回収する予定だった。
それにしても『高校生になったんだからお年玉はもうなしよ』とか言われないかとちょっと心配していたが、それは杞憂のようだった。

 僕たちは屋台の中でテーブルを囲んでおでんを食べていた。
オヤジとオフクロは日本酒を飲んでいたが、僕と宏美はウーロン茶を注文した。
 この頃、僕もオヤジとオフクロがサシで飲んでいる姿も慣れてきたようで、以前のような違和感は感じなくなっていた。

「この屋台って鈴原君のところが出してんのやったけ?」
オフクロは大根を箸で割りながらオヤジに聞いた。とっても味が染みていそうで美味しそうな大根だ。

「ああ、あいつは出したくないみたいやけど、何かとしがらみがあって毎年出さなアカンらしい」
オヤジはオフクロが割った大根の半分を素早く奪って自分の皿に置いた。

「そうなんや。で、その鈴原君は来てないん?」
オフクロはそれを睨みながら視線をオヤジに向けたが、それ以上は突っ込まずに話を続けた。

「あいつは家族サービスや。年に一度のな。こんな日ぐらい家におらな可憐ちゃんに逃げられるでぇ」
とオヤジはオフクロの視線をものともせずに笑いながら言った。
それを聞いて
「ホンマやな」
とオフクロもつられるように笑った。

「悪かったな、家庭を放ったらかしにして」
と僕の背中越しに声が聞こえた。

 振り向くとそこには鈴原さんと奥さんの可憐さん、そして冴子が立っていた。全員着物姿だった。屋台のテントの中で、この場にそぐわないブルジョア階級のオーラが漂っていた。

 可憐さんはオフクロの顔を見ると、とても嬉しそうに笑って抱きついていた。
やっぱりこの二人は仲が良いんだと改めて確認した。

「なんやお前らも来たんか」
とオヤジが鈴原さんを見上げながら声を掛けると
冴子が
「あけましておめでとうございます」
とこれもそつなくオヤジとオフクロに新年の挨拶をした。

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