76 / 439
お正月の頃の物語
お年玉
しおりを挟む本殿前に着いたが見えるのは、人々の後頭部だけだ。
その人込みの向こうにめがけてお賽銭を投げ入れると、手を合わせてお願い事をした。
横目でチラッと宏美を見たら一生懸命お祈りをしていた。よっぽど沢山の願い事があるんだろう。
顔を上げた宏美に『どんなことを願ったのか?』と聞いてみたが教えてくれなかった。
僕は何をお願いしたか歩きだしたら忘れてしまっていた。所詮初詣とはそんなもんだろう。
僕たちは一度生田神社の境内を北に抜け出てから神社の壁伝いに回って西門から元の参道に入った。
店に戻ったらオヤジはさっきと同じように一人で日本酒を飲んでいた。ただオヤジのテーブルには徳利とお猪口が四つ並んでいた。そしておでんも新たに注文されていた。
僕たちが席に着くとオヤジは、テーブルに重ねて置かれていたお猪口を三人に配ってお酒を注いだ。
「正月やしな。お屠蘇や」
と笑った。
僕達四人はお猪口を持って改めて新年の挨拶をした。
僕は一気にお猪口のお酒を飲み干した。
徳利の中の日本酒は熱燗だった。体が温まる。
宏美は口をつけた程度だったのに
「なんだか顔がポッポする」
と言って両手で頬を覆った。思わず可愛いと思ってしまった。
オヤジは唐突に
「ああ、そうやこれ渡しとくわ」
と言ってオヤジの目の前に座ってる僕と宏美にポチ袋をくれた。
「なにこれ?」
「なんや?お前。お年玉を知らんのか?」
オヤジは大仰に驚いたような表情を浮かべて僕を見た。
「いや、知っているけど、くれんの?」
「要らんならやらんけど」
怪訝な顔で僕を睨むオヤジ。
「いや、そんなわけないやろ? ありがたく頂戴するわ」
僕は慌ててポチ袋を持った手をひっこめた。
「私も貰って良いんですか?」
宏美が驚いたようにオヤジに聞いた。ちょっと頬が赤い。
「全然良いよ」
オヤジは優しい目で笑った。
人生で初めて貰うオヤジからのお年玉だった。
今までオヤジにお年玉を貰った事が無かったから、オヤジからポチ袋を手渡された時にピンと来なかった。
でもなんだか嬉しい。とっても嬉しい。そして新鮮な感覚だった。
オフクロを見ると
「私からのは家に帰ってからやからね」
と言われた。
別に催促した訳ではないのだが、オフクロにはそう見えたらしい。
勿論言われなくてもオフクロからはちゃんと回収する予定だった。
それにしても『高校生になったんだからお年玉はもうなしよ』とか言われないかとちょっと心配していたが、それは杞憂のようだった。
僕たちは屋台の中でテーブルを囲んでおでんを食べていた。
オヤジとオフクロは日本酒を飲んでいたが、僕と宏美はウーロン茶を注文した。
この頃、僕もオヤジとオフクロがサシで飲んでいる姿も慣れてきたようで、以前のような違和感は感じなくなっていた。
「この屋台って鈴原君のところが出してんのやったけ?」
オフクロは大根を箸で割りながらオヤジに聞いた。とっても味が染みていそうで美味しそうな大根だ。
「ああ、あいつは出したくないみたいやけど、何かとしがらみがあって毎年出さなアカンらしい」
オヤジはオフクロが割った大根の半分を素早く奪って自分の皿に置いた。
「そうなんや。で、その鈴原君は来てないん?」
オフクロはそれを睨みながら視線をオヤジに向けたが、それ以上は突っ込まずに話を続けた。
「あいつは家族サービスや。年に一度のな。こんな日ぐらい家におらな可憐ちゃんに逃げられるでぇ」
とオヤジはオフクロの視線をものともせずに笑いながら言った。
それを聞いて
「ホンマやな」
とオフクロもつられるように笑った。
「悪かったな、家庭を放ったらかしにして」
と僕の背中越しに声が聞こえた。
振り向くとそこには鈴原さんと奥さんの可憐さん、そして冴子が立っていた。全員着物姿だった。屋台のテントの中で、この場にそぐわないブルジョア階級のオーラが漂っていた。
可憐さんはオフクロの顔を見ると、とても嬉しそうに笑って抱きついていた。
やっぱりこの二人は仲が良いんだと改めて確認した。
「なんやお前らも来たんか」
とオヤジが鈴原さんを見上げながら声を掛けると
冴子が
「あけましておめでとうございます」
とこれもそつなくオヤジとオフクロに新年の挨拶をした。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる