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お正月の頃の物語
おでん
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その代わり
「そうなんや。年越しおでんかぁ……安藤さんとかは?」
とその場しのぎに聞いた。
「あいつは今年からは仁美と一緒や。そんなもんと一緒におったらお邪魔虫やろうが……」
オヤジは鼻を膨らませて『何をおバカな質問をするんだ』と言わんばかりに僕を見上げて言った。
「あ、そうか!」
僕はオヤジの言葉にとても納得できた。と同時にその場しのぎだったとはいえ、迂闊(うかつ)な質問をしたと反省した。少し悔しい。
ただ『今年からは……』という言葉を聞いて、例年であればここに安藤さんが一緒にいたという事は容易に想像できた。
「じゃあ、鈴原さんは?」
「更に愚問やな。家庭持ちはこんな日に一人で出歩いたりせえへんわ。それに俺の友達は安藤と鈴原しかおらへんみたいな言い方はお父様に対して大変に失礼やぞ」
とオヤジは今度は鼻を膨らませなかったが少し憤慨気味に言った。僕は迂闊で愚かな質問を立て続けに発してしまったようだ。
そう言われても僕はオヤジの友達はこの二人ぐらいしか知らない。あと知っているのは元部下の大迫夫婦だけだが、流石にこの夫婦の名前まで出すような愚かな真似はしなかった。
「へい、お待ち」
さっきの若い店員が一升瓶を持って来た。そしてオヤジのグラスに酒を注いだ。グラスから酒が溢れて桝の中を満たした。
オヤジはそれを受け取って迎え口で飲んだ。とても嬉しそうな良い笑顔だった。
そこへオフクロと宏美がやってきた。どうやらオフクロが待ちくたびれたようだった。
オヤジは二人の顔を見ると
「お、あけましておめでとう」
とマスを軽く持ち上げた。
「あけましておめでとうございます」
宏美はそつなくオヤジに新年の挨拶をした。
「ほい。今年も亮平をよろしくな」
オヤジは笑って宏美に挨拶を返していた。
オヤジのこの笑顔は好きだな。本当に優しそうな笑顔だ。たまに思う。オヤジが笑う時は心底楽しそうに笑う……と。
たまに含み笑いもするが、基本的にはオヤジは良く笑う。
「こんなとこで、なに一人で飲んでんの?」
オフクロは新年の挨拶もそこそこにオヤジにツッコミを入れていた。
「しゃあないやろう。今年は安ちゃんが仁美に取られてんから」
オヤジの顔から笑いが消えて怪訝な顔でオフクロを見た。やはり毎年オヤジの向かいには安藤さんが座っていたようだ。
「ああ、そうかぁ……あんたの唯一の友達やもんな。しゃあないな」
オフクロは完全にオヤジを見下したように言った。
「アホ。他にも友達はおるわ。亮平といい、お前といい……同じような事を言うな。俺は誰彼ともなく群れるのが好きやないだけや」
「はいはい。昔から少数先鋭の友人たちやもんね」
とオヤジとオフクロは元夫婦で今は赤の他人の関係とは思えない、遠慮も気遣いもへったくれもない会話を始めた。しかしこれではっきりした。オヤジの友達は昔から少なかったようだ。
「あんたぁ、まだここにおるんやろ?」
オフクロは立ったまま、丸椅子に座っているオヤジを見下ろして聞いた。はっきり言ってオフクロはオヤジの話しなんか聞いていないのではないか? と僕は思う。
「ああ、おるで」
オヤジは日本酒がなみなみと注がれた枡を持ったまま応えていた。
傍から見たらアル中の旦那を見つけた奥さんがあきれ果てて詰めている構図にしか見えんだろうなと思う。
「じゃあ、お参り済まして帰って来るからそれまで席を確保しといて」
オヤジを席取り要員にするとオフクロは予想通り返事も聞かずに僕たちを急き立てた。僕たちはオヤジを置いて本殿に向かった。一人取り残されたオヤジは唖然と僕らを見送っていた。
「そうなんや。年越しおでんかぁ……安藤さんとかは?」
とその場しのぎに聞いた。
「あいつは今年からは仁美と一緒や。そんなもんと一緒におったらお邪魔虫やろうが……」
オヤジは鼻を膨らませて『何をおバカな質問をするんだ』と言わんばかりに僕を見上げて言った。
「あ、そうか!」
僕はオヤジの言葉にとても納得できた。と同時にその場しのぎだったとはいえ、迂闊(うかつ)な質問をしたと反省した。少し悔しい。
ただ『今年からは……』という言葉を聞いて、例年であればここに安藤さんが一緒にいたという事は容易に想像できた。
「じゃあ、鈴原さんは?」
「更に愚問やな。家庭持ちはこんな日に一人で出歩いたりせえへんわ。それに俺の友達は安藤と鈴原しかおらへんみたいな言い方はお父様に対して大変に失礼やぞ」
とオヤジは今度は鼻を膨らませなかったが少し憤慨気味に言った。僕は迂闊で愚かな質問を立て続けに発してしまったようだ。
そう言われても僕はオヤジの友達はこの二人ぐらいしか知らない。あと知っているのは元部下の大迫夫婦だけだが、流石にこの夫婦の名前まで出すような愚かな真似はしなかった。
「へい、お待ち」
さっきの若い店員が一升瓶を持って来た。そしてオヤジのグラスに酒を注いだ。グラスから酒が溢れて桝の中を満たした。
オヤジはそれを受け取って迎え口で飲んだ。とても嬉しそうな良い笑顔だった。
そこへオフクロと宏美がやってきた。どうやらオフクロが待ちくたびれたようだった。
オヤジは二人の顔を見ると
「お、あけましておめでとう」
とマスを軽く持ち上げた。
「あけましておめでとうございます」
宏美はそつなくオヤジに新年の挨拶をした。
「ほい。今年も亮平をよろしくな」
オヤジは笑って宏美に挨拶を返していた。
オヤジのこの笑顔は好きだな。本当に優しそうな笑顔だ。たまに思う。オヤジが笑う時は心底楽しそうに笑う……と。
たまに含み笑いもするが、基本的にはオヤジは良く笑う。
「こんなとこで、なに一人で飲んでんの?」
オフクロは新年の挨拶もそこそこにオヤジにツッコミを入れていた。
「しゃあないやろう。今年は安ちゃんが仁美に取られてんから」
オヤジの顔から笑いが消えて怪訝な顔でオフクロを見た。やはり毎年オヤジの向かいには安藤さんが座っていたようだ。
「ああ、そうかぁ……あんたの唯一の友達やもんな。しゃあないな」
オフクロは完全にオヤジを見下したように言った。
「アホ。他にも友達はおるわ。亮平といい、お前といい……同じような事を言うな。俺は誰彼ともなく群れるのが好きやないだけや」
「はいはい。昔から少数先鋭の友人たちやもんね」
とオヤジとオフクロは元夫婦で今は赤の他人の関係とは思えない、遠慮も気遣いもへったくれもない会話を始めた。しかしこれではっきりした。オヤジの友達は昔から少なかったようだ。
「あんたぁ、まだここにおるんやろ?」
オフクロは立ったまま、丸椅子に座っているオヤジを見下ろして聞いた。はっきり言ってオフクロはオヤジの話しなんか聞いていないのではないか? と僕は思う。
「ああ、おるで」
オヤジは日本酒がなみなみと注がれた枡を持ったまま応えていた。
傍から見たらアル中の旦那を見つけた奥さんがあきれ果てて詰めている構図にしか見えんだろうなと思う。
「じゃあ、お参り済まして帰って来るからそれまで席を確保しといて」
オヤジを席取り要員にするとオフクロは予想通り返事も聞かずに僕たちを急き立てた。僕たちはオヤジを置いて本殿に向かった。一人取り残されたオヤジは唖然と僕らを見送っていた。
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※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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