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トリオ
哲也の本音
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「うん。バンドでも組んでみたいなって思ったんやけど、こんな下手くそと誰も一緒にやってくれへんねん……っていうかよう言わん。申し訳なくて」
「まあ、そうやろうなぁ。言いにくいかもなぁ……でも、ど下手ってわけでもないんやろ?」
「そりゃ少しは弾けるわ。でもなぁ……他人とバンドを組むレベルではないな」
「他にも下手でバンド組みたがっている奴はおるやろ?」
「うん。女の子が少しおるけど、そんな中に入って一緒にチマチマ演奏できるか? 亮平、お前ならやれるか?」
「いや、ちょっと無理かもしれん……流石に恥ずかしい」
考えるまでもなくとてつもなくそれは恥ずかしい。
「やろ?」
「でもお前ならやれそう」
「やらんわ。あほ」
「で、なんでギターやねん。チェロは趣味か?」
哲也の安易な発想を少しけなしてみたくなった。
「ちゃう。結構本気や。でなかったら高校生になってまでこんな楽器やってない!」
あまりにも哲也がきっぱりと返事を返したのでそれ以上ツッコミを入れられなくなった。
「そこまで言ってなんでギターやねん? おかしいやろ?」
「それを言われると返す言葉もない」
と哲也は思った以上に恥じ入っている様だった。
「……もしかして音大目指してんの?」
「うん。それを悩んでんねん。要するに今の俺は頭打ち状態。今一つピンとこえへんねん。だから目先を変えてみようかと思ってんけどな」
哲也は正直に自分の状況を教えてくれた。僕もその気持ちはなんとなく分かる。頭打ち感はまだないが、自分の思う音が出せない焦燥感を感じることはある。
「安易な発想やな。要するに才能に限界を感じて伸び悩んでいる訳ね」
僕はあえて哲也に軽口を叩いてみた。こういう場合変な同情は彼のためにならないと思ったが、だからと言ってどういう対応が正解なのかも分からなかった。しかし彼に言いながら、それは自分に対しても言っている気分になった。
「伸び悩みは否定せえへんけど、才能が無いとはまだ言うてへんぞぉ」
苦笑いしながら哲也は答えた。
「でも、思いかけているくせに」
と横から急に瑞穂が口を挟んで来た。
僕と哲也は瑞穂の顔をじっと見た。
「哲ちゃん、高校に入ってから伸び悩み中。コンクールでも入賞で終わってしまう。周りのライバルに取り残されているように感じてんねん」
瑞穂は軽く笑いながら僕に教えてくれた。
「うるさいなぁ。そこまでは言うてないやろ。でも、この頃、もう一つ満足のいく音が出なくなったと感じているのは事実や」
哲也はまた頭を掻きながら最後は呟くように言った。
そろそろ風呂へ入って頭を洗えと突っ込んでも良い頃合いか? そんな事を思いながら僕は瑞穂の話を聞いていた。
「良い音出してんのに、本人がそれを認めへんと余計な事ばっかりするからおかしくなるんや。で、ギターやて。全然似合わんわ。まだ藤崎君の方がギター似合うと思うな」
瑞穂は何とか哲也の音を取り戻させたいみたいだ。僕は瑞穂の話ぶりを見てそう思った。しかし哲也は彼女のその気持ちに気が付いているのか居ないのか……気づいていたとしても素直にそれを表すかも怪しい。
ただ僕は哲也の話を聞いて彼の気持ちが良く分かった。
つい最近まで僕も同じような事でウジウジと考え込んでいた。
僕の場合は過去から自分の音がどう聞こえているかなんて全く興味も関心もなかったのが、お嬢と出会ってから本来この場で鳴り響く音が聞こえるようになって葛藤が始まった。
自分の技術が上がれば上がるほど、その音から遠ざかっているような気がしていた……いや、近づく気がしなくなってきたというべきか……。自分の腕の未熟さに叩きのめされていた。
技術だけに埋没すると本当に周りが見えなくなる。
僕はオヤジに……それと安藤さんにそれを教えてもらった。
あの安藤さんの店での一曲だけのライブで。
「まあ、そうやろうなぁ。言いにくいかもなぁ……でも、ど下手ってわけでもないんやろ?」
「そりゃ少しは弾けるわ。でもなぁ……他人とバンドを組むレベルではないな」
「他にも下手でバンド組みたがっている奴はおるやろ?」
「うん。女の子が少しおるけど、そんな中に入って一緒にチマチマ演奏できるか? 亮平、お前ならやれるか?」
「いや、ちょっと無理かもしれん……流石に恥ずかしい」
考えるまでもなくとてつもなくそれは恥ずかしい。
「やろ?」
「でもお前ならやれそう」
「やらんわ。あほ」
「で、なんでギターやねん。チェロは趣味か?」
哲也の安易な発想を少しけなしてみたくなった。
「ちゃう。結構本気や。でなかったら高校生になってまでこんな楽器やってない!」
あまりにも哲也がきっぱりと返事を返したのでそれ以上ツッコミを入れられなくなった。
「そこまで言ってなんでギターやねん? おかしいやろ?」
「それを言われると返す言葉もない」
と哲也は思った以上に恥じ入っている様だった。
「……もしかして音大目指してんの?」
「うん。それを悩んでんねん。要するに今の俺は頭打ち状態。今一つピンとこえへんねん。だから目先を変えてみようかと思ってんけどな」
哲也は正直に自分の状況を教えてくれた。僕もその気持ちはなんとなく分かる。頭打ち感はまだないが、自分の思う音が出せない焦燥感を感じることはある。
「安易な発想やな。要するに才能に限界を感じて伸び悩んでいる訳ね」
僕はあえて哲也に軽口を叩いてみた。こういう場合変な同情は彼のためにならないと思ったが、だからと言ってどういう対応が正解なのかも分からなかった。しかし彼に言いながら、それは自分に対しても言っている気分になった。
「伸び悩みは否定せえへんけど、才能が無いとはまだ言うてへんぞぉ」
苦笑いしながら哲也は答えた。
「でも、思いかけているくせに」
と横から急に瑞穂が口を挟んで来た。
僕と哲也は瑞穂の顔をじっと見た。
「哲ちゃん、高校に入ってから伸び悩み中。コンクールでも入賞で終わってしまう。周りのライバルに取り残されているように感じてんねん」
瑞穂は軽く笑いながら僕に教えてくれた。
「うるさいなぁ。そこまでは言うてないやろ。でも、この頃、もう一つ満足のいく音が出なくなったと感じているのは事実や」
哲也はまた頭を掻きながら最後は呟くように言った。
そろそろ風呂へ入って頭を洗えと突っ込んでも良い頃合いか? そんな事を思いながら僕は瑞穂の話を聞いていた。
「良い音出してんのに、本人がそれを認めへんと余計な事ばっかりするからおかしくなるんや。で、ギターやて。全然似合わんわ。まだ藤崎君の方がギター似合うと思うな」
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ただ僕は哲也の話を聞いて彼の気持ちが良く分かった。
つい最近まで僕も同じような事でウジウジと考え込んでいた。
僕の場合は過去から自分の音がどう聞こえているかなんて全く興味も関心もなかったのが、お嬢と出会ってから本来この場で鳴り響く音が聞こえるようになって葛藤が始まった。
自分の技術が上がれば上がるほど、その音から遠ざかっているような気がしていた……いや、近づく気がしなくなってきたというべきか……。自分の腕の未熟さに叩きのめされていた。
技術だけに埋没すると本当に周りが見えなくなる。
僕はオヤジに……それと安藤さんにそれを教えてもらった。
あの安藤さんの店での一曲だけのライブで。
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