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トリオ
トリオへの誘惑
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哲也が唐突にここで軽音楽部の話をした理由がやっと分かった。
僕は「今度三人で演奏しない?」ぐらいのことは言われるものだと思っていたが、まさか軽音楽部へ勧誘されるとは思ってもいなかった。
瑞穂は小学生が同級生の友達に『かくれんぼせえへんか?』と聞くぐらいに気安く言ったが、僕はまるで道端で新興宗教の勧誘に遭遇したような気持ちになっていた。
「なんで俺が?」
「うん。哲っちゃんと私と藤崎君の三人でトリオを組みたいん。これって良いでしょう?」
何がいいのかさっぱり分からんが瑞穂の中ではとっても素敵な事に思えているようだ。
「三人で演奏するのは理解できるけど、一気に軽音楽部かぁ? 俺が?」
「そう」
「でもこのトリオって軽音楽やないやろ?」
「だったらなんなん? もしかしてラフマニノフとかメンデルスゾーンとかが頭の中を走り回っていたりすんの?」
「メンデルスゾーンは走り回っていないが、ラフマニノフのピアノ三重奏曲第一番 ト短調は鳴ったぞ」
「悲しみの三重奏曲かぁ」
哲也が呟いた。彼の頭の中にも今ラフマニノフが哀しく鳴り響いた様だ。
「ほほぉ、哲也も知ってんねんや」
「当たり前やろ」
哲也は当然と言わんばかりに胸を反らして答えた。
僕はちょっと驚いた。案外彼はまじめにチェロと向き合っていたのかもしれないと思った。
それにこの曲は弾いた事はないが、この瞬間に弾いてみたいという衝動に駆られたのも事実だった。
「別にクラシックばっかりやらんでもええやん」
瑞穂が憤ったように言った。
「え?」
「だって、折角三人でやるんやから、弾きたい曲を片っ端から演奏したらええやん。そう思わへん?」
瑞穂は僕達二人に向かって両手を腰に当てて胸を反らして聞いてきた。とっても凛々しい。結構胸も大きいかも……ヴァイオリンを弾く時に邪魔にならないのか? と思わず心配して見入ってしまった。
彼女の中ではこの三人で演奏するのが既定の事実になっているようだ。僕はまだ何も返事をしていないというのに……。
「う、うん」
しかしその勢いに押されて僕は思わず頷いてしまった。
と、同時に僕の頭の中には本当にクラシックしかなかったんだなと、改めて確認させられてしまった。それはどちらかといえば不愉快な気持ちだ。自分の凝り固まった常識を急に自ら認識させられたようなとても気持ちの悪い感覚にとらわれた。
僕は黙って二人には気付かれない様に自分の気持ちを落ち着かそうとした。このままこの不機嫌な感情を持引きづってしまうと、誰かに八つ当たりしてしまいそうだった。
「ね、楽しそうでしょ?」
瑞穂は黙っている僕を見て笑ってそう言った。彼女は僕がこの三人で演奏している風景を想像していると思ったんだろう。それはこの場合、いい誤解だ。
「うん……まあね」
生返事をしながら瑞穂に言われてからそれを思い浮かべてみたが、確かにそれは魅力的に思えない事もない。
また瑞穂と演奏ができる。前回のあの至福の時間がまた味わえる。哲也の実力は分からないが、哲也となら楽しい演奏が出来そうだ。
「俺さぁ……確かに軽音では相手がおらんっていうたけど、軽音に入ったのはチェロを弾くためやなかってん」
哲也はいつの間にか自販機の横のベンチに座っていた。
「じゃあ、何のために入ったんや? かわいい女の子がいるとか?」
「ちゃう」
「顧問が美人とか?」
「それもちゃう」
「え? もしかして男が好きとか? あかんぞ俺はノンケやからな」
僕はおしりを抑えながら強く拒んだ。
「あほ。そんなんとちゃうわ。そこから離れろ」
最後は哲也も苦笑いしながら否定した。
「ギターでも弾こうかなと思ってん」
「ギター?」
意外な返事に僕は素面で聞き返してしまった。
僕は「今度三人で演奏しない?」ぐらいのことは言われるものだと思っていたが、まさか軽音楽部へ勧誘されるとは思ってもいなかった。
瑞穂は小学生が同級生の友達に『かくれんぼせえへんか?』と聞くぐらいに気安く言ったが、僕はまるで道端で新興宗教の勧誘に遭遇したような気持ちになっていた。
「なんで俺が?」
「うん。哲っちゃんと私と藤崎君の三人でトリオを組みたいん。これって良いでしょう?」
何がいいのかさっぱり分からんが瑞穂の中ではとっても素敵な事に思えているようだ。
「三人で演奏するのは理解できるけど、一気に軽音楽部かぁ? 俺が?」
「そう」
「でもこのトリオって軽音楽やないやろ?」
「だったらなんなん? もしかしてラフマニノフとかメンデルスゾーンとかが頭の中を走り回っていたりすんの?」
「メンデルスゾーンは走り回っていないが、ラフマニノフのピアノ三重奏曲第一番 ト短調は鳴ったぞ」
「悲しみの三重奏曲かぁ」
哲也が呟いた。彼の頭の中にも今ラフマニノフが哀しく鳴り響いた様だ。
「ほほぉ、哲也も知ってんねんや」
「当たり前やろ」
哲也は当然と言わんばかりに胸を反らして答えた。
僕はちょっと驚いた。案外彼はまじめにチェロと向き合っていたのかもしれないと思った。
それにこの曲は弾いた事はないが、この瞬間に弾いてみたいという衝動に駆られたのも事実だった。
「別にクラシックばっかりやらんでもええやん」
瑞穂が憤ったように言った。
「え?」
「だって、折角三人でやるんやから、弾きたい曲を片っ端から演奏したらええやん。そう思わへん?」
瑞穂は僕達二人に向かって両手を腰に当てて胸を反らして聞いてきた。とっても凛々しい。結構胸も大きいかも……ヴァイオリンを弾く時に邪魔にならないのか? と思わず心配して見入ってしまった。
彼女の中ではこの三人で演奏するのが既定の事実になっているようだ。僕はまだ何も返事をしていないというのに……。
「う、うん」
しかしその勢いに押されて僕は思わず頷いてしまった。
と、同時に僕の頭の中には本当にクラシックしかなかったんだなと、改めて確認させられてしまった。それはどちらかといえば不愉快な気持ちだ。自分の凝り固まった常識を急に自ら認識させられたようなとても気持ちの悪い感覚にとらわれた。
僕は黙って二人には気付かれない様に自分の気持ちを落ち着かそうとした。このままこの不機嫌な感情を持引きづってしまうと、誰かに八つ当たりしてしまいそうだった。
「ね、楽しそうでしょ?」
瑞穂は黙っている僕を見て笑ってそう言った。彼女は僕がこの三人で演奏している風景を想像していると思ったんだろう。それはこの場合、いい誤解だ。
「うん……まあね」
生返事をしながら瑞穂に言われてからそれを思い浮かべてみたが、確かにそれは魅力的に思えない事もない。
また瑞穂と演奏ができる。前回のあの至福の時間がまた味わえる。哲也の実力は分からないが、哲也となら楽しい演奏が出来そうだ。
「俺さぁ……確かに軽音では相手がおらんっていうたけど、軽音に入ったのはチェロを弾くためやなかってん」
哲也はいつの間にか自販機の横のベンチに座っていた。
「じゃあ、何のために入ったんや? かわいい女の子がいるとか?」
「ちゃう」
「顧問が美人とか?」
「それもちゃう」
「え? もしかして男が好きとか? あかんぞ俺はノンケやからな」
僕はおしりを抑えながら強く拒んだ。
「あほ。そんなんとちゃうわ。そこから離れろ」
最後は哲也も苦笑いしながら否定した。
「ギターでも弾こうかなと思ってん」
「ギター?」
意外な返事に僕は素面で聞き返してしまった。
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※この物語はフィクションです。
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