姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛

文字の大きさ
1 / 22

1

しおりを挟む
 この街に立つ魔法学校の学生は、山から海に向けて吹く山おろしを『さらばの大風』と呼んでいる。風が下りると季節が巡り、いよいよ卒業の時期が迫ってくるからだ。

(風が温む頃にはここを出て、さよならか……)

 魔導師の認定試験にも無事通り、本当ならもっと浮かれてもいい頃なのだが、ユーディアの心はこの白っぽい寒空に似て曇ったままだ。

(今日もあいつに声をかけられなかった)

 宝物を無くし途方に暮れた子供のような顔で溜息をつく。吐息で目の前が白く煙るのも物悲しい。
 ユーディアはこのところ毎日毎日、疎遠になってしまった親友と、どうしたらまた元のような関係に戻れるのか、そればかり考え焦っているのだ。

(何か口実があれば尋ねていけるのに)

 再び長く深いため息をつくと、ユーディアはまた考え込みながら背中を丸めてとぼとぼ歩く。

「待ちなさいよ! ユーディア!」 
 
 考え事でいっぱいだった頭にねじ込まれるように名前を呼ばれた。振り返らずとも、キンキン声で誰であるか分かる。ユーディアの双子の姉、リリールーだ。
 普段は地味な弟が近づくのを嫌がるくせに、お願い事がある時だけこうして会いに来る。そんな姉の相手をするのは億劫だった。返事もせずに無視を決め込むと、そのまま立ち去る足を止めないでいた。すると周囲の目を避けるように目深に被っていたフードの房を、後ろから思いっきり引っ張られた。

「何すんだよ」

 フードが外れて頭がふきっさらしになると、折り悪くそこにまた大風が吹いた。頬に当たる風がとても冷たい。ユーディアは痩せた身体を震わせると、開いていたローブの前を抱き込むように閉じた。

「呼んでも無視するからじゃない。また得意のぼんやり?」

 見下ろせば勝気そうに吊り上がった眉と薄蒼い瞳と目があった。二人の母もこの魔法学校の卒業生だが、同じ時期に通っていた教員曰く、常に人々の噂に上る程の美女だったらしい。
 そんな母似の玲瓏な顔立ちと瞳の色は似通っているが、ユーディアと姉の性格は真逆だ。だからあまり気は合わず、だが共に育った姉弟としての情はそれなりにある。つかず離れずの間柄だ。

「いつも優美なリリールー嬢は実は弟を苛める乱暴者って噂が立つぞ」 

 森を背にした音楽堂前の小道はまだ校舎から寮へ向かう学生たちが多く歩いている。流石の姉も人目を気にしたようだ。

「あら、可愛い弟とお喋りしたかっただけじゃない」

 姉が本性を知らぬものなら見惚れるような笑顔を振りまけば、道行く男たちがちらちらと視線を送ってきた。

「お前に話があるのよ」

 急に甘ったるい声を出す姉も二人を見比べるような好奇の視線も不快で、ユーディアは再びフードを深く被り直した。すると姉に「あっち、いくわよ」腕を強引に取られ人影の少ない雑木林の方に引っ張ってこられた。

「寒い……。早く寮に帰りたいんだけど」
「ぶつぶつうるさいわね。話があるからあんたを探したのに。上花会で……」
「またその話かよ?」
「私の華麗なる学校生活を締めくくる為に大切な話よ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中
BL
30歳の警察官、オメガの貴弘(たかひろ )は、猫獣人の不実な恋人・アルファの猫井司(ねこいつかさ)に裏切られたショックで家出をした矢先、埼玉山中の交通事故で事故死してしまう。 ところが、気付けば猫井と出会う前に時間が戻っていた。 今度の人生では猫井に振り回されるのをやめようと決心するが……。 本編「理想の結婚 俺、犬とお見合いします」のスピンオフです。 全く話が繋がっていないので、単体で問題なく読めます。 (本編のコミカライズにつきましては、日頃より有難うございます)

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです

まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。 そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。 だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。 二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。 ─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。 受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。 拗らせ両片想いの大人の恋(?) オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。 Rシーンは※つけます。 1話1,000~2,000字程度です。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

処理中です...