姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛

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「勉強はそっちのけで社交にばっか精を出した、だろ?」

 だが姉に限らず女学生はみな、顔を合わせればこの話ばかりしている。卒業の儀の後の舞踏会である「上花会」は、魔法学校在学中最後にして最大の華々しい催しだ。
 姉はライバルの才媛シュファより一番目立って場の中心に立ちたいと、やたらと鼻息が荒くしている。男子学生も誰をパートナーに申し込むかで盛り上がっているようだが、ユーディアは誰が誰とくっついたとか別れただとか、そんな話にそもそも興味がないのだ。

「はあ……。今度は何? ドレスなら大好きなお義姉様の見立てで誂えるんだろ? 俺の分は兄さんのお古で借りるからいいって言ったよな?」

 気分屋のリリールーに義姉の話題を出したら途端に嬉しそうに頬に赤みがさした。
 兄の花嫁は王都の裕福な一族の出で、美しく外面の良いリリールーを実の妹のように可愛がっている。

「あんたと兄様じゃ、体格が全然違うでしょ。棒っ切れに紳士の装いを巻き付けてもみっともないだけだわ。義姉様と相談してあんたは私と生地や色合いがお揃いになるようにしたの。月光色の衣装に差し色は青紫。もう決定よ」
「お揃い?」
(あー。俺まで注目されると機嫌悪くなるくせに、面倒ったらないな。それに普通はダンスの相手と合わせるものじゃないのか?)

 しかし口を挟むと話が長くなりそうだから、ユーディアはシニカルな笑みを浮かべ肩をすくめるに留めた。

「それで話は済んだ? もう行くね」

 風はどんどん強くなるし、日が傾いて寒さも増してきた。青い顔をしているユーディアと違って、見た目よりずっと丈夫な姉は生き生きとした表情で「まだよ」と胸を張る。

「聞いて」

 少しは機嫌が直ったように見えた姉だったが、柳眉を吊り上げた表情がまた見る見るうちに険しくなった。

「シュファの相手がついに誰だか分かったのよ。特別授業に来ていた隣国の、王都の貴族ですって。ユーディアも知ってる?」
「多分それ、ユリウスだな。偉ぶったところがなくて、気さくで、アタマも切れるし、まあ見栄えも悪くない」

 本当は悪くないどころか極上の美男子だが、悪戯に姉を刺激したくなくてそんな風に誤魔化した。

「シュファったら二人で映った『姿映し』の鏡をいちいち見せびらかしてくるんだもの。むかつくったらないわ。すごい美形で、背が高くて……。私だって授業に出ていさえすれば彼と知り合うことができたのに」

 隣国の学生も参加する夏の特別授業は、校内の成績優秀者のみが選抜される。本の虫であるユーディアは勿論、リリールーも選ばれていた。

(夏の間中ずっと、義姉さんにくっついて遊び歩いて、ろくに授業に出なかったくせに)

 だが勝手な姉の言い分にいちいち反論してもキリがない。とにかく早く解放されたい。そのためには気が乗らなくとも黙って話をきくしかないのだ。

「来週からダンスの練習が始まるのよ」

 姉の話はいつも唐突に切り替わるせいで、ユーディアはいい加減面倒になった。

「それが?」
「それがって。分からないの? それまでに上花会のパートナーを決めないといけないでしょ?」
「え? 姉さん、まだパートナー決まってなかったのか?」
「そうよ。悪い?」
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