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番外編
5 世界が君に気づいた日-1
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☆北門視点です
あの時の事は目に焼き付いてる。
体育祭、副団長からバトンを受け取った燈真先輩は真っ赤な羽織を翻してすぐに走り出した。
きりっとハチマキを締め、日の光を浴び艶やかな黒髪を弾ませ駆ける。
赤い残像が残るほどの速さで、あっという間に前を走る団長たちを捉えていった。
そのたび沸き起こる歓声、俺はぎりっと拳を握る。
その光景はあまりにも力強く、あまりにも綺麗だった。
(先輩、燈真先輩)
俺の中で先輩のカラーは初めから鮮烈な赤だ。出会った時に来ていたユニフォームの印象が強いから。
だけど周りの人から見たら先輩はどちらかというと癒しの緑とか、親しみやすい黄色とか。
そんなイメージだったんだろうなと思っていた。
だが体育祭の、あの勝ちにこだわる真剣な走りで、きっと誰もが先輩への認識を改めたはずだ。
俺の大切な思い出に宿る秘密の赤。俺の大切な人が「世界」に気づかれてしまった瞬間だ。
ただでさえ先輩の周りは彼を慕う人だらけだったのに、きっとこれで先輩に恋焦がれる者も増えたはずだ。
俺の燈真先輩は穏やかで気遣いが上手、笑うとすごく可愛い。半面人とぶつかることを恐れない男気と勇気も兼ね備えた人だ。
だから誰もが魅了されて当たり前なんだ。
俺みたいに見掛け倒しの男じゃない。
先輩、先輩……。
一番にテープを切り、バトンを掲げる姿に興奮の渦と人々の羨望が一心に集まる。
先輩が走り終わった人の待機場所、俺のいる場所まで歩いてくる。
『燈真』
先輩が俺を呼ぶ声が好きだ。耳障りがいい、明るいトーンで、元気が出る。
先輩が俺に駆け寄ってきてくれた。
俺は先輩に向けて一歩足を踏み出す。
なのに先輩は俺をすり抜けて後ろへ走っていった。
『え……』
後ろには沢山の人がいた。先輩のクラスメイト。みんな優しくて俺みたいな異物を歓迎してくれた。
バイト先の人たち、温かくて先輩の第二の家族みたいなものだ。
誰だかわからないけど、応援団の女子、俺のクラスメイト、商店街のおじさんたち。
中学の時のバスケ部のユニフォームを着た人たち。
なんでここにいるのかもわからない人も沢山いる。
俺は必死で人垣をかき分けた。先輩の一番傍にいたい。
先輩の隣は俺の居場所だ。
なのにどんどん人だかりが増えていった。俺の周りにも人が増えて、ぐっと背中を掴まれる。
『北門君、北門君』
甘ったるい声で名前を呼ばれる。
(邪魔するな。俺は先輩のところに……)
声を出したいのにしわがれて声が出ない。身体中が熱くて苦しくて、それでも俺はなんとか必死で指先を伸ばして、先輩の肩に手をかけた。
先輩はもっさりとした前髪のまま振り返る。
俺はほっとした。
だけど前髪をかき上げた先輩の目は、俺を冷たく睨みつける。
『お前、誰?』
※※※
着信音とアラームが鳴り響く。俺はパッと目を覚ました。
息が苦しい、身体中が熱い。額にまで汗がにじんでいた。
「夢……?」
起きた瞬間から夢の内容は薄らいでいったが、久しぶりに、昔よく見ていたパターンの夢だった。
(先輩が、俺の事を覚えていなかった夢)
中学生の頃、一回だけ数時間だけ関わったような他の部活の後輩の事なんて、先輩が覚えていない可能性だってあった。ずっとそれが不安で、先輩が俺の事をまるで覚えていなかったとしても、俺の事を知ってもらってあわよくば好きになってもらいたい。
ずっと考えていたけど自信はなくて……。両思いになった後は幸せで忘れていたけど、体育祭で皆から慕われる先輩の姿を見て、無意識に過去の不安を意識をしてしまっていたんだろう。
(俺は、相変わらず情けない男だな)
充電もせずに枕元に置き去りにしていたスマホを取り上げる。ロック画は何度目かトライしてうまくいった先輩のバイト先の庭で撮ったのツーショット写真だ。
すでに通知に先輩の名前が沢山あって、俺は慌ててメッセージを読む。
『唯、大丈夫か? 体調悪いのか?』
昨日の晩、俺は季節の変わり目のせいかのどの痛みがあって声がかすれてしまっていた。先輩に早く寝るように言われて、でも明日は日曜だったから夜更かししたいって駄々をこねたら、先輩が通話を切ってしまった。
先輩を怒らせてしまったってショックもあって、だけどどんどん身体が怠くなってきて、そのまま眠ってしまった。
もしかしたら微熱があったのかもしれないほど、今は身体がぐっしょりと汗をかいている。
メッセージを読み進めた。
『大丈夫なのか? お父さん出張って言ってたよな?』
『休日に行ける病院を母さんに聞いてみた。俺も付き添うから一緒に行く?』
『眠ってる? 倒れてる?』
『そっち行ってもイイか?』
『今家出た』
「え……」
アラームを設定しないままに眠ってしまったから、先輩からのメッセージの通知音にも気づけずに眠り続けてしまっていたみたいだ。
やってしまった……。
慌てて通話をしようとタップした瞬間、玄関先でインターフォンが鳴る音がした。
あの時の事は目に焼き付いてる。
体育祭、副団長からバトンを受け取った燈真先輩は真っ赤な羽織を翻してすぐに走り出した。
きりっとハチマキを締め、日の光を浴び艶やかな黒髪を弾ませ駆ける。
赤い残像が残るほどの速さで、あっという間に前を走る団長たちを捉えていった。
そのたび沸き起こる歓声、俺はぎりっと拳を握る。
その光景はあまりにも力強く、あまりにも綺麗だった。
(先輩、燈真先輩)
俺の中で先輩のカラーは初めから鮮烈な赤だ。出会った時に来ていたユニフォームの印象が強いから。
だけど周りの人から見たら先輩はどちらかというと癒しの緑とか、親しみやすい黄色とか。
そんなイメージだったんだろうなと思っていた。
だが体育祭の、あの勝ちにこだわる真剣な走りで、きっと誰もが先輩への認識を改めたはずだ。
俺の大切な思い出に宿る秘密の赤。俺の大切な人が「世界」に気づかれてしまった瞬間だ。
ただでさえ先輩の周りは彼を慕う人だらけだったのに、きっとこれで先輩に恋焦がれる者も増えたはずだ。
俺の燈真先輩は穏やかで気遣いが上手、笑うとすごく可愛い。半面人とぶつかることを恐れない男気と勇気も兼ね備えた人だ。
だから誰もが魅了されて当たり前なんだ。
俺みたいに見掛け倒しの男じゃない。
先輩、先輩……。
一番にテープを切り、バトンを掲げる姿に興奮の渦と人々の羨望が一心に集まる。
先輩が走り終わった人の待機場所、俺のいる場所まで歩いてくる。
『燈真』
先輩が俺を呼ぶ声が好きだ。耳障りがいい、明るいトーンで、元気が出る。
先輩が俺に駆け寄ってきてくれた。
俺は先輩に向けて一歩足を踏み出す。
なのに先輩は俺をすり抜けて後ろへ走っていった。
『え……』
後ろには沢山の人がいた。先輩のクラスメイト。みんな優しくて俺みたいな異物を歓迎してくれた。
バイト先の人たち、温かくて先輩の第二の家族みたいなものだ。
誰だかわからないけど、応援団の女子、俺のクラスメイト、商店街のおじさんたち。
中学の時のバスケ部のユニフォームを着た人たち。
なんでここにいるのかもわからない人も沢山いる。
俺は必死で人垣をかき分けた。先輩の一番傍にいたい。
先輩の隣は俺の居場所だ。
なのにどんどん人だかりが増えていった。俺の周りにも人が増えて、ぐっと背中を掴まれる。
『北門君、北門君』
甘ったるい声で名前を呼ばれる。
(邪魔するな。俺は先輩のところに……)
声を出したいのにしわがれて声が出ない。身体中が熱くて苦しくて、それでも俺はなんとか必死で指先を伸ばして、先輩の肩に手をかけた。
先輩はもっさりとした前髪のまま振り返る。
俺はほっとした。
だけど前髪をかき上げた先輩の目は、俺を冷たく睨みつける。
『お前、誰?』
※※※
着信音とアラームが鳴り響く。俺はパッと目を覚ました。
息が苦しい、身体中が熱い。額にまで汗がにじんでいた。
「夢……?」
起きた瞬間から夢の内容は薄らいでいったが、久しぶりに、昔よく見ていたパターンの夢だった。
(先輩が、俺の事を覚えていなかった夢)
中学生の頃、一回だけ数時間だけ関わったような他の部活の後輩の事なんて、先輩が覚えていない可能性だってあった。ずっとそれが不安で、先輩が俺の事をまるで覚えていなかったとしても、俺の事を知ってもらってあわよくば好きになってもらいたい。
ずっと考えていたけど自信はなくて……。両思いになった後は幸せで忘れていたけど、体育祭で皆から慕われる先輩の姿を見て、無意識に過去の不安を意識をしてしまっていたんだろう。
(俺は、相変わらず情けない男だな)
充電もせずに枕元に置き去りにしていたスマホを取り上げる。ロック画は何度目かトライしてうまくいった先輩のバイト先の庭で撮ったのツーショット写真だ。
すでに通知に先輩の名前が沢山あって、俺は慌ててメッセージを読む。
『唯、大丈夫か? 体調悪いのか?』
昨日の晩、俺は季節の変わり目のせいかのどの痛みがあって声がかすれてしまっていた。先輩に早く寝るように言われて、でも明日は日曜だったから夜更かししたいって駄々をこねたら、先輩が通話を切ってしまった。
先輩を怒らせてしまったってショックもあって、だけどどんどん身体が怠くなってきて、そのまま眠ってしまった。
もしかしたら微熱があったのかもしれないほど、今は身体がぐっしょりと汗をかいている。
メッセージを読み進めた。
『大丈夫なのか? お父さん出張って言ってたよな?』
『休日に行ける病院を母さんに聞いてみた。俺も付き添うから一緒に行く?』
『眠ってる? 倒れてる?』
『そっち行ってもイイか?』
『今家出た』
「え……」
アラームを設定しないままに眠ってしまったから、先輩からのメッセージの通知音にも気づけずに眠り続けてしまっていたみたいだ。
やってしまった……。
慌てて通話をしようとタップした瞬間、玄関先でインターフォンが鳴る音がした。
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