皆様覚悟してくださいませ。偽聖女の義妹から全て取り戻します。今まで受けた仕打ちは倍にしてお返し致します。

くろねこ

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二十三

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義妹マリエル

――社交デビュー、地獄を見る

その日、マリエル・フォン・ハーベルトは――
“主役になるはずだった”。

淡い桜色のドレス。
年齢に合った控えめな装飾。
鏡の前で何度も確認した、いちばん可愛く見える角度。

(大丈夫……)
(今日は、失敗しない)

母タミアは後ろに控え、
オリビアは少し離れた位置で、静かに全体を見ている。

――守られている、と。
マリエルは、勝手にそう思っていた。

一歩目で、終わる

最初の挨拶。

相手は、伯爵家の次男。
人当たりが良く、情報収集役として知られる人物。

「ご機嫌よう」

マリエルは、完璧だと思っていた笑顔で言った。

相手は、にこやかに返す。

「ええ。今日は初めての社交だとか?」

「はい!」

ここまでは、良かった。

――次の一言。

「少し緊張してしまって……」
「聖女として期待されているので」

……空気が、止まる。

伯爵次男の目が、わずかに細くなる。

「……聖女、ですか?」

「はい。神殿が――」

言い切る前に、
周囲の会話が、一斉に“こちらを避けた”。

ざわつきが、消える。

(……え?)

二発目:神殿の名を出す

別の貴族令嬢が、話題を変えようとする。

「最近の慈善事業は――」

マリエルは、被せた。

「神殿の指示で動いておりまして」

――最悪の選択。

慈善事業は、“貴族の顔”。
神殿の指示を前に出すのは、

「あなたたちの裁量は意味がない」

と言っているのと同じ。

令嬢たちの微笑みが、
完全に“壁”に変わった。

三発目:比較される

囁き声。

「……あの子、オリビア様の義妹よね?」
「随分……軽いわね」

「聖女を名乗る割に、実績は?」

「……奇跡、見たことないわ」

マリエルの耳に、全部届く。

胸が、ぎゅっと縮む。

(違う……)
(私は……選ばれたはず……)

とどめ

年上の侯爵夫人が、穏やかに言った。

「マリエル様」
「聖女でいらっしゃるなら――」

一拍。

「今日、何を“成し遂げましたの?”」

答えられない。

祈った?
祝詞?
それで、何が変わった?

沈黙。

社交界は、沈黙に容赦がない。

見捨てられる瞬間

マリエルは、助けを求めて周囲を見る。

母タミアは、
完全に距離を取っていた。

(……お母様?)

オリビアは?

――いる。

だが。

助ける気配は、ない。

ただ、観察している。

崩壊

足が、震える。

視界が滲む。

「……ごめんなさい……」

誰にともなく呟いた瞬間、
完全に“終わった”。

社交界では、
謝罪=負けの宣言。

その後、
誰もマリエルに話しかけなかった。

彼女は、
壁際で、
置物のように立ち尽くす。

帰路

馬車の中。

マリエルは、声を殺して泣いた。

「……ひどい……」
「みんな……」

オリビアは、淡々と告げる。

「当然よ」

冷たい声。

「あなた、価値を出していないもの」

マリエルが、はっと顔を上げる。

「顔が可愛い?」
「若い?」

肩をすくめる。

「それ、今だけ」

一拍。

「育てば、価値は上がる」
「育たなければ、廃棄」

淡々。

「今日のあなたは」
「“育成途中の失敗例”」

マリエルは、言葉を失う。

「次があると思わないで」

視線が、刺さる。

「次は」
「結果を持って行きなさい」

「できなければ」
「社交には出しません」

それは、罰であり、
最後の猶予だった。



部屋に戻り、
マリエルは一人で震えていた。

(……私……)

初めて理解する。

――守られていたのは、
自分ではなかった。

**“商品としての可能性”**だけだったのだと。

そして。

社交界は、
優しくない。

可愛いだけの少女を、
容赦なく地獄に落とす場所だということを。
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