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昔は、手が届かなかった。
いつもリリーの背中を追いかけていた。
眩しくて、真っすぐで、まるで自分とは違う場所に立っているような人だった。
好きで、好きで、たまらなかった。
けれど、何も言えなかった。
言葉にすれば、その光が遠ざかってしまう気がしたから。
――あの日までは。
リリーが“できない子”になったと聞いたとき、胸の奥で何かが変わった。
あの意志の強い彼女が、まるで別人のように弱い少女になっていた。
――ノルティアに感謝さえした。
逆転の女神の逆転を、心から喜んだのは僕だった。
ようやく触れられると思った。
完璧だった彼女が、自分の手の届くところまで落ちてきてくれた気がした。
その瞬間、アシュレイは心のどこかで決意していた。
――もう、逃さない。
誰よりも愛おしくて、誰よりも壊れそうで、
だからこそ、手を離したくなかった。
“可哀想なリリー”のままでいてほしいと願ってしまった。
そうすれば、ずっと自分のそばにいられると思った。
歪んでいるとわかっていた。
けれど、あのときの自分はそれ以外の愛し方を知らなかった。
強くて、誰よりもまぶしい光。
それがまた遠い空へ戻ってしまうのが怖かった。
だから――あの夜、リリーが笑って「触って」と言ったとき、
初めて本当の意味で手が届いた気がした。
弱い彼女を抱きしめたいと思っていたけれど、
今はもう違う。
自分の隣で、まっすぐに笑う彼女を守りたい。
たとえその光が、もう自分を照らさなくても。
アシュレイがふと物思いに沈んでいると、隣に座るリリーがその横顔を見上げていた。
彼の私室は整然としていて、壁には剣と勲章が並び、机の上には未開封の書簡がきちんと積まれている。
生活感が薄いのに、不思議と落ち着く空間だった。
まるで彼そのもののように。
「アシュレイ……考え事? なに? また私が怖くなったとか?」
リリーが冗談めかして言うと、アシュレイはふっと笑って彼女に歩み寄った。
「そんなわけないよ。」
「だって、最近の君――触っても怒らない。それどころか“もっと”って顔してるでしょ?」
「な、なにそれ……違うわよ!」
「違わないよ。キスしただけで身体をくっつけてくるし、髪に触れただけで可愛い顔して僕を見てくる。これって、僕のせい?」
「そ、そうよ! アシュレイのせいよ。アシュレイが私をそうしちゃったのよ!」
「うん。じゃあ――僕のせいでいいから、またリリーをちょうだい?」
その低い声に、胸が熱くなる。
リリーが慌てて言葉を探す。
「ま、待って! 明日は結婚式……があるのよ?」
「大丈夫、多分遅刻はしないから。」
その軽口は、すぐに口づけで封じられた。
唇が重なり、空気が溶ける。
そう――明日は、ついに結婚式を迎える。
王族の婚姻には通常長い準備期間を要するが、アシュレイの行動は驚くほど早かった。
相手が幼馴染のリリーであるということ以上に、
“彼女を早く妻にしたい”という願いがすべての原動力だった。
リリーが正転したあの夜から、わずか一ヶ月。
彼は王としての手続きをすべて終え、明日を迎える準備を整えた。
「明日からは、リリーは僕の妻だよ。」
アシュレイの声は穏やかで、どこか重みを帯びていた。
「わかってる。私はアシュレイの妻としてあなたを支える。」
「そして、騎士として――あなたを守るわ。」
幼い頃に交わした約束が、今ふたたび同じ場所で交わされる。
それはもう、決して揺るがない誓いだった。
いつもリリーの背中を追いかけていた。
眩しくて、真っすぐで、まるで自分とは違う場所に立っているような人だった。
好きで、好きで、たまらなかった。
けれど、何も言えなかった。
言葉にすれば、その光が遠ざかってしまう気がしたから。
――あの日までは。
リリーが“できない子”になったと聞いたとき、胸の奥で何かが変わった。
あの意志の強い彼女が、まるで別人のように弱い少女になっていた。
――ノルティアに感謝さえした。
逆転の女神の逆転を、心から喜んだのは僕だった。
ようやく触れられると思った。
完璧だった彼女が、自分の手の届くところまで落ちてきてくれた気がした。
その瞬間、アシュレイは心のどこかで決意していた。
――もう、逃さない。
誰よりも愛おしくて、誰よりも壊れそうで、
だからこそ、手を離したくなかった。
“可哀想なリリー”のままでいてほしいと願ってしまった。
そうすれば、ずっと自分のそばにいられると思った。
歪んでいるとわかっていた。
けれど、あのときの自分はそれ以外の愛し方を知らなかった。
強くて、誰よりもまぶしい光。
それがまた遠い空へ戻ってしまうのが怖かった。
だから――あの夜、リリーが笑って「触って」と言ったとき、
初めて本当の意味で手が届いた気がした。
弱い彼女を抱きしめたいと思っていたけれど、
今はもう違う。
自分の隣で、まっすぐに笑う彼女を守りたい。
たとえその光が、もう自分を照らさなくても。
アシュレイがふと物思いに沈んでいると、隣に座るリリーがその横顔を見上げていた。
彼の私室は整然としていて、壁には剣と勲章が並び、机の上には未開封の書簡がきちんと積まれている。
生活感が薄いのに、不思議と落ち着く空間だった。
まるで彼そのもののように。
「アシュレイ……考え事? なに? また私が怖くなったとか?」
リリーが冗談めかして言うと、アシュレイはふっと笑って彼女に歩み寄った。
「そんなわけないよ。」
「だって、最近の君――触っても怒らない。それどころか“もっと”って顔してるでしょ?」
「な、なにそれ……違うわよ!」
「違わないよ。キスしただけで身体をくっつけてくるし、髪に触れただけで可愛い顔して僕を見てくる。これって、僕のせい?」
「そ、そうよ! アシュレイのせいよ。アシュレイが私をそうしちゃったのよ!」
「うん。じゃあ――僕のせいでいいから、またリリーをちょうだい?」
その低い声に、胸が熱くなる。
リリーが慌てて言葉を探す。
「ま、待って! 明日は結婚式……があるのよ?」
「大丈夫、多分遅刻はしないから。」
その軽口は、すぐに口づけで封じられた。
唇が重なり、空気が溶ける。
そう――明日は、ついに結婚式を迎える。
王族の婚姻には通常長い準備期間を要するが、アシュレイの行動は驚くほど早かった。
相手が幼馴染のリリーであるということ以上に、
“彼女を早く妻にしたい”という願いがすべての原動力だった。
リリーが正転したあの夜から、わずか一ヶ月。
彼は王としての手続きをすべて終え、明日を迎える準備を整えた。
「明日からは、リリーは僕の妻だよ。」
アシュレイの声は穏やかで、どこか重みを帯びていた。
「わかってる。私はアシュレイの妻としてあなたを支える。」
「そして、騎士として――あなたを守るわ。」
幼い頃に交わした約束が、今ふたたび同じ場所で交わされる。
それはもう、決して揺るがない誓いだった。
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