勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール

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3話.勇者一行

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ソフィが死んだと聞かされた次の日。

頭がガンガンと痛み、俺はベットに寝込んでいた。
2日酔いである。

俺の両親は、畑の手入れをしに出かけた行った。
いつもは俺が寝坊をすると、無理矢理起こされるのだが、今日は何も言われなかった。

2人とも俺とソフィの関係をよく知っている。
だから、俺に気を使ったのだろう。

この3年間、両親に多大な迷惑をかけてきた自覚はある。

今ですら両親の畑仕事をちょっと手伝っているだけだ。とても満足に働いているとは言えない。

そのちょっとの手伝いも迷惑をかけている罪悪感から行っているに過ぎない。

何も手につかないのだ。
気力が湧いてこない。

このままじゃダメだと思うこともある。
だが、そうして何か行動を起こそうとする度に、
試験官から言われた「何もするな」という言葉が脳裏によぎる。

自分が何をしたところで無意味で無価値。
それどころか害悪だ。

何といっても自分はあの大英雄、勇者ソフィの足を引っ張ってしまっていたのだから。

その一方で、本当の俺はこんな奴じゃないはずだと、ありもしない妄想をしてみたり。

そして、また自分がソフィの邪魔をしていた事実を再確認。

そんな思考をグルグル回すような、自己嫌悪の3年間だった。



目を覚ました俺は、顔を洗いに部屋を出る。

無精髭が色濃く生えていた。
髪は寝癖まみれ。
生気のない落ち武者のようなどんよりした目が、鏡を通してこちらを覗いていた。

これじゃ人には会えないな、と思う。
もっとも誰にも会いたくないが。

歯を磨き、再び布団に戻ろうとした時。


ドンドンと扉を叩く音がした。

おそらく両親に用がある誰かだろうと考えた俺は、無視をすることにした。

放置しておけば留守だと思って帰るだろう。

だが、ドンドンと音は鳴り続けている。
しつこいなと思いつつ、無視を続けていると、次は、大声が聞こえてきた。

「おい!いるのは分かってんだよ。開けろ!さもねぇと扉をぶち壊すぞ」

怒号が聞こえ、思わずビクリとする。
なんと横暴な言い分だろう。

どこぞのヤクザだろうか?それとも野党?借金取り?
両親が借金をしているという話は聞いたことがない。

なぜこんな乱暴そうな奴が来たのかまるで検討がつかなかった。

扉に近づくと、防音性の低いこの家なら外の音も十分に聞こえた。

ガンと何かがぶつかる鈍い音が聞こえた。
先程の乱暴な男がいてぇと小さく言っているのが聞こえる。

「お前は黙ってろ」
次に聞こえたのは、女の声だ。
凛としていて、且つ聞き心地のいい美声は、その女性がさぞ美人なのだろうと想像を掻き立てた。

女の声は続く。
「大変失礼した。この男は少々礼にかけていて、病的に気が荒いだけなのだ。根は悪い奴ではないので許してやって欲しい。私たちは、勇者ソフィの一行である。この度はレオ殿に話があって参った。どうか開けて欲しい」

衝撃だった。
勇者パーティが何故ここに?

会いたくないという気持ちと話を聞きたいという気持ちがせめぎ合う。

だが、すぐに会うことを決意し、自分がとても人に会える格好をしていないことに気づいた。

ソフィはいなくとも、ソフィが率いた勇者パーティ相手にだらしない格好で会うことは、何故か非常に気が引けた。

「少し準備がある。申し訳ないが、少し待っていてくれないか!」

扉の外の女性の了解したという返事を聞き、俺は急いで身支度を整えた。



◇◇



それから30分ほどで身支度を済ませ、ドアを開ける。

「チッ、いつまで待たせんだよ。まったく」
男の方がイライラとした口調で言う。

男は目を吊り上げこちらを睨んでくる。
逆立つようにボサボサとした黒い髪、赤い瞳。それに、目元には稲妻の形をした黒い紋様が刻まれていた。
タトゥーだろうか。
服装は灰色のコート1枚と半ズボン。コートのチャックはつけておらず前を開けている。その空いている隙間から、胸筋や腹筋が非常に厚く発達していることが見て取れた。

少々変わった格好だが、それよりも怖いという印象が強い。

「アポなしで来たのだ。仕方なかろう。それよりもお前のその態度どうにかならんのか?」

男を嗜める女は、キレイで長い緑の髪をした美女だ。白いマントを羽織っており、右手には、先端に煌びやかな宝石をつけた大きな杖を握っている。
女の方からは、まるで聖女のような神々しさすら感じた。

2人からは対象的なイメージを感じたが、共通しているのは、どちらの装備も恐ろしく高価なことだ。
けっしてこのような辺境の村に来る人物ではない。


「こんな時に冷静になれるかっての」
男が言う。
こんな時とは、おそらくソフィが亡くなったことを指しているのだと気づいた。

「あの、ソフィはどうなったんだ!」
いてもたってもいられず、思わず質問する。
そんな事聞く気はなかったのに、自分でも驚いた。

俺が質問したことで、両者の表情に変化が起きた。
男は怒りの顔を、女は悔しげな顔を浮かべていた。

「話すと少し長くなる。中で話しても構わないだろうか」
「あ、ああ。どうぞ」
そうして、俺は2人を家に案内した。



「おい!準備したんじゃなかったのかよ」
男が俺の散らかった俺の部屋を見て吐き捨てるように言った。
「いや、その悪い」
何も反論できなかった。

俺も自室に案内する気はなかったのだが、女の方が横になれる布団やベットがある部屋を要望したのだ。
用途は分からなかったが、客用の布団を入れた押し入れがある俺の部屋に案内することにした。



俺の汚い部屋を見たせいか、これまで礼を欠かさなかった女の方まで小さくため息をついたのが分かった。

「構わない。少し、部屋を整理させてもらおう」
女が杖を上げると、敷いた布団の周りにあるゴミが、端っこに移動していく。

不思議な現象に思わずうわっと声をあげる。
「これが魔法。初めて見た」

「レオ殿。先程の質問に答えよう」
そして、女が杖を振ると、空間が歪んだ。

現実離れした光景に、唖然とする。
勇者一行は、田舎者の自分とは住む世界が違う人たちなのだと改めて理解した。

だが、次に起きた光景を見てそんなことはどうでも良くなった。

その歪んだ空間から1人の少女が倒れ込む形で出てくる。

女は少女が倒れる前に優しく抱えて、布団に寝かした。
その白銀の髪にあどけない顔立ち。
目を閉じているその少女に意識はないように思えた。

幼少期から何度も見た顔。

間違いない。その少女こそ死んだとされた勇者ソフィだった。








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