勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール

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11話.村びとと魔王

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俺は目を覚ました。隣では、ソフィが変わらずに無表情で寝ている。

あー。言っちまった。けど、これから俺がどうなろうときっとソフィと会うのは最後だ。
俺とソフィは住む世界が違う。

魔王討伐後も世界を守るために必要な存在のはずだ。

俺なんかにかまってる暇はないだろう。

だから、これが一緒に戦える最後。
だから、言えてよかった。これで心置きなく戦える。

時間を稼ぐ。
そうは言ったが、できることはソフィを戦場から可能な限り遠ざけることくらいだろう。

だが、それだって命懸けだ。

ソフィに会って、彼女が何で呪いが解けなかったのか、なんとなく分かった気がした。
だから、俺の言葉では、決してソフィを救うことはできない。

俺にできる事は、今この時だけでも、かつての俺に戻る事。
勇者を目指したものとして、その信念を行動で示すだけだ。

その時だった。
土煙が舞った。

その直後、激しい衝撃音が響き、地面が大きく抉られた。

土煙の中心を見ると、人影があった。
煙は張れ、その人影が鮮明に目に映る。

その瞬間、全身に震えが走る。

目の前に現れたのは、魔王ゼクロスだった。


俺は震える膝をドンドンと拳で叩く。
上等だよ。クソ魔王。




「お前!ザックとミカエラはどうした!」
俺は、魔王の姿を見てすぐに話しかけた。

魔王は俺を見て、少し意外そうな顔をする。

「ほう?お前、俺を前にしても平静を保っているな。一体何者だ?」

とりあえずは予想通りの反応だ。
即座に殺されなかったことにとりあえず安堵する。

「勇者ソフィの幼馴染。村びとのレオだ!」
「なるほど、あの勇者の。なかなか肝の座ったやつだ」

話している間も俺はじっと魔王を観察する。

結局俺みたいな村びとが魔王相手に時間を稼ぐには、舌戦しかない。

と言っても稼げるのは魔王の気まぐれの会話10数秒くらいだろう。

魔王の興味を引かせられれば数分ってとこか。

ソフィの反応から、魔王の威圧に耐えられるのは、かなり少ないことが予想される。

なぜ俺が耐えられているのかは分からないが、それでも魔王は俺に多少なり興味を持つはずだ。
雑魚であるはずの俺が自信の威圧に耐えられていることに疑問を持って。

少しでも、俺という存在を魔王に興味を持たせるんだ。

「そんなことより、ザックとミカエラはどうしたって聞いてるんだ」
「…さぁな。恐らく無事ではないだろうな」

時間を稼ぐためとはいえ、知りたかった質問でもあった。
魔王の体を観察すると、微かに傷ついている。

その僅かな傷が、ザックたちの奮闘の証であること、そして彼らがもうやられてしまっていることを意味していた。

魔王にやられたと言うならばおそらくもう…


「…く」
俺は、顔を背ける。

「どうした?かかってこないのか」
魔王ゼクロスは、能面のような真顔で答える。
魔王が、自身の感情を表に出さないタイプであることは知っている。

「お前に勝てるとは思えない」
「だろうな。ならば、ソフィを置いてさっさと去れ。そうすれば命だけは助けてやるぞ」
「魔王ともあろうものが、ずいぶんと甘いんだな。俺みたいな路傍の石くらい、蹴飛ばしていけばいいだろ」
「…ほぉ、雑魚のくせになかなか面白い男だな。お前」
魔王は能面のような顔のまままじまじとコチラを見る。
魔王ならば、俺の弱さくらい1目見て気づいているだろう。
勇者の幼馴染だと名乗ったし、魔王の威圧に耐えているのだから、勘違いする可能性も考えたが、やはりそう上手くいくはずもなかった。

だが、その弱さ故に俺の興味を持ち始めているのだろう。
俺は知っている。
魔王は意外と好奇心旺盛だと言うことを。

何度も読んできた英雄譚。
その悪役である魔王のモデルこそが目の前にいる本物の魔王ゼクロスなのだから。


「魔王に褒めていただいて光栄だね」
「ふむ。意志の強さと言うやつか。これならどうだ」

瞬間、凄まじい負のオーラがあたりを襲った。
鳥が一斉に飛び去り。森の木々は震えるように揺れたあと、一気に枯れ始めた。


「…っ」
俺は、恐怖で逃げたくなるその理性を一気に押し殺した。
ここで逃げてどうする。
ソフィを守るためなら死んでもいいと誓ったはずだと、自分に強くいい聞かせた。

その様子に魔王ゼクロスは少しだけ驚いたそぶりを見せた。

「ふむ、気が変わった」
魔王ゼクロスは小さく笑うとゆっくりと一歩一歩こちらに近づく。

俺は1歩後ずさるが、すぐに立ち止まる。そして言った。
「どうするつもりだ!!」
「さっき言ったことを取り消そう。お前もう逃げなくてもいいぞ。お前の目の前で勇者ソフィを殺すことにしたからな」
「なっ!?」
「ソフィはどうせ殺すつもりだったんだ。その方がより面白いだろう」
済ました顔でさらに魔王ゼクロスは俺との距離を詰める。
俺はさらに1歩下がると、振り向きかけ出した。

魔王ゼクロスは、若干呆れたような顔をして、手から魔法を繰り出そうとしているのが見えた。

おそらく雷の魔法だ。

魔王の指に雷鳴と共に雷がバチバチと顕現しているのが見えた。

だが、次の瞬間、俺はソフィの体で隠していた武器を取り出した。

それは農民に必須のもの。振り続け、もはや俺の愛刀とも言える武器。
クワだ。

俺はクワを剣に見立て、一気に魔王に振りかざした。それがたとえ無駄だと分かっていても、1秒でも長く時間を稼げるように。

俺の覚悟を貫き通すために。

だが、その一撃は簡単に止められてしまう。
「狙いは悪くない。気迫も伝わったが、それだけだな」


魔王はいっさい慌てる様子を見せず、魔法を展開していない方の手でクワを掴み、劣等生物を馬鹿にしたように鼻で笑う。

そして、ソフィを狙い撃ちしようとしたその時だった。

「だったらよぉ」

声と共に草むらから影が飛び出す。
影は思いっきり魔王ゼクロスを殴りつけた。

魔王ゼクロスの体が後方に飛び、木に叩きつけられる。その木はバキリという音を立ててあっけなく倒れ、魔王は背中を地につけた。

「その情けねぇ攻撃に隙を作らされた気分はどうだい?魔王ゼクロスさまぁ」

そこには、満身創痍のザックが立っていた。

「ザック!!」
俺は、頼もしい助っ人の参戦に歓喜の声をあげた。

予想外の援軍だが、頼もしいったらありゃしない。


やっぱり、英雄譚で読んだ通り、勇者の仲間はしぶといものなんだなぁと感心する。

魔王も俺も新たな乱入者に注目する。

そんな中、ソフィの体が僅かに光ったことには誰も気が付かなかった。













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