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10話.村びとの決意

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ソフィの手のひらに強い光の球体が現れる。

きっとそれがメタトロンさまの加護なのだろう。
これがあれば、俺も勇者に。
それは、俺が一番欲しかった才能という力。

加護を譲渡なんて、またよくわからない理屈だけど、そんなことはもう関係ない。

俺もこれを受け取ればそっち側にいける。

ふと、考える。
今までの生活を。

惨めだった。
才能がないと言うだけで、幼馴染と引き離され、夢は潰れて全てを失った。

そして、無気力に生きてきた。

ソフィだって、俺にふさわしいと託してくれてるんだ。
受け取ることは、悪いことではないはず。

俺はゆっくりとソフィの腕に手を伸ばす。
だが、光に触れる寸前。

ふと、ある記憶が蘇った。3年間ずっと追いかけてきた日々の記憶。
俺はぴたりと手を止めた。


「ソフィ。ごめん。俺はそれを受け取ることはできない」
ソフィは驚いて顔を歪める。
「そんな!?どうして!?これがあれば夢が叶うんだよ。世界を救って英雄になれるのに。なんで!?」
俺は首を振る。

「これは、もうお前の物語だからだ。お前の活躍は、ずっと見てきた。覚えてるか?村の中央にある会館の掲示板。あそこにさ、ずっとお前の活躍が張り出されてたんだ」
「え?」
ソフィは、不思議そうにして戸惑っている。
だからなんだと言うのだ、と思っているのだろう。
俺は言葉を続ける。

「毎日、俺はあの掲示板に足を運んでた。だから、お前たち勇者一行の動向は、見聞き程度だけど分かってる」 
「そんな表面だけみて、何だって言うの」
ソフィが眉をひそめた。


「例え表面でも、お前たちがどれだけの偉業を成し遂げてきたかは、分かってるってことだ。ソフィ、お前は、ずっと頑張ってきたじゃないか。世界を救うために、一歩一歩強くなって、仲間との絆を深めて、それで、魔王にもうちょっとまで迫った。もうお前は、俺にとって単なる幼馴染じゃない。俺が知ってる中で1番かっこいい英雄なんだよ」
「・・・っ」
「そうやって地道にやってきた強さを、俺が貰ったから何ができるって言うんだ。仲間の思いも、メタトロンさまの加護も、全部お前が向き合ってきたものだろ。だから、それはお前の力だ。最後までお前が使うべきだ」

ソフィは小さく悲しそうに笑って手のひらの光を消した。

うん、と頷き、俺も小さく笑う。

心が晴れたような気分だ。
ソフィの気持ちが分かって。
ずっと迷子だった俺が、どう歩くべきなのか、やっと道が見えたような気がした。

確かに俺にはメタトロン様の加護のような特別な力も才能もない。

それでもソフィが憧れてくれた昔の俺を貫きたい。

それが俺の答えだ。

そして、昔の俺ならきっと、ソフィの加護を受け取ったりしない。

それがソフィの提案を断った理由だ。

「お前が俺のことをよく知ってるように、俺もお前のことは1番よくわかってる。お前ならきっと魔王にも打ち勝てる」

そうして、ソフィの肩に手を置く。
それは、ずっと隣でソフィを見てた本心の言葉だった。

ソフィも納得してくれるんじゃないかと思った。

だが、それを聞いたソフィの返答は俺の予想しないものだった。


「そうやって、また逃げるの?あのときみたいに私に押し付けて。レオはずるい。ひどいよ。また、私を1人にするの?」
ソフィは泣き崩れた。
また、とソフィは言った。
それが何を意味するのか、俺にはよくわかっている。

「あの日は、悪かったと思ってる。本当にすまなかった」
俺は、頭を下げた。
ほんとうは、あの日しないといけないことだったんだ。

「やっぱり、レオはずるいよ」
ソフィは俺の謝罪を受けても泣き止むことはなかった。

当然だ。そんな一言で許せるわけがない。
だから、証明しなければならない。

「勘違いしないでくれ。俺はもうお前を1人で戦わせるつもりはない」
「え」

「例え力がなくても一緒に戦う。いや、戦わせて欲しいんだ。俺はもう逃げない」

それが、俺の覚悟の証明だ。

「それってどうするの?」
「ソフィこの呪いに打ち勝つための時間を1秒でも長く稼ぐ」

慌ててソフィが叫ぶ。

「そんなの無理だよ!大体わたしにこの呪いは」
「ソフィならとけるはずだ」
結局頼ったのは、俺の気持ちのゴリ押し。
単なる村人である俺には、それくらいしかできない、

ただ、やるべきことをやると言う信念。
かつてソフィを感動させた信念。
それに賭けたのだ。

「分かってるだろ。無理かどうかは関係ないんだ。お前を守れるなら、俺は死んだって構わない」
それは、俺の原点だった。
誰かのために。

ましでソフィのためならば、何だってできる。


「そんなの本当に死んじゃうよ!!」

「大丈夫。俺は死なない」
「何でそんなことが言えるの!?私は」
「言ったろ。お前のことは、俺が1番よく分かってるって。ソフィは、俺が好きになった人は、こんな呪いなんかに負けるようなやつじゃないってな」

どさくさに紛れた告白。
それは、この3年で俺が気づいた俺の本心だった。

受け流してくれていい。
ただ覚悟を決めるために伝えたかっただけだから。

俺がソフィと釣り合わないことなんて、俺が1番知ってるから。

こんな周りくどくしか言えないなんてとてもカッコ悪い。

だけど、これで思い残すことはもうない。

「え」
ソフィは目を見開いた。
「俺が伝えるべきことは伝えた。だから、先に行く。待ってる」










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