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第5章
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ジェイの中を窓越しから伺うと、オールバックで派手なストライプのスーツを着た男と、グレーのスーツを着た男が並んで座っていた。カウンターにはハルがいて、ウイスキーのボトルを拭いていた。
「あいつら……どっちが余市なんだ?」
「知らん」
そう言うとジョニー・ウォーカーは店に入った。俺もあとから続く。キッド・スターダストの曲が流れていた。ハルがいらっしゃいませと言った。俺の顔を見ると、少し表情が緩んだ。
「お疲れさん。あがっていいぞ」
ジョニー・ウォーカーはカウンターの中へ入ってハルからエプロンを奪うとそのまま追い出した。ハルがなにか言おうとしたが、奴は構わずにモッズコートを脱いでエプロンをつける。俺は悪いと詫びを入れて、また連絡すると耳打ちした。ハルは黙って店を出た。
派手ななりをした男が腕時計を見やった。
「おせえな」グラスを一気に空けた。
「電話してみましょうか」
どうやらグレーのスーツのほうが舎弟のようだった。ストライプがいいとだけ言うとグレーは黙って酒を舐めた。俺もカウンターへ入ってハルがやっていたのを思い出しながらグラスを拭いた。ジョニー・ウォーカーが客のほうへ向かうのを横目で見る。
「なにかお飲みになりますか」
愛想笑いを浮かべてそう訊ねるとストライプは「強いのをくれ」と言った。ジョニー・ウォーカーは頷いた。
「しかし」舎弟が言った。「アキはどうしましょうか」
俺たちは一瞬その場に凍りついた。が、あくまで冷静を装って耳だけを研ぎ澄ませた。
オイルライターの開く音がする。それから紫煙の香りが届いた。ふう、とストライプが煙を吐いた。
「それは俺が決めることじゃない」
グラスの氷が音をたてた。
「あいつらはどうします? このままだと面倒ですよ」
「ああ」ストライプが煙草を吸う。「それはもう問題ない」
ジョニー・ウォーカーがストライプの前にライムを添えたショットグラスを置いた。「お待たせしました」
「これは?」ストライプが訊ねた。
「テキーラ。ショットガンです」
「なるほど」ストライプは笑っていた。
ジョニー・ウォーカーはそのショットグラスの口を手のひらで覆うようにして持つとそれを高々と上げた。ストライプと舎弟は黙ってそれを見つめていた。そして奴はグラスをストライプの頭に鋭く振り下ろした。鈍い音が店に響いた。てめえ、と舎弟が立ち上がった。ストライプはグラスの破片が飛び散った床に倒れて呻き声を上げている。打ちつけられた頭からは血が流れている。
「動くんじゃねえ」ジョニー・ウォーカーは拳銃を舎弟に向けた。もう片方の手にはスピリタスのボトルを持っている。
舎弟は黙って両手を挙げた。ジョニー・ウォーカーが銃口を舎弟に向けたまま、ゆっくりとカウンターを回って奴らに近づいた。ストライプがやっと起き上がろうと床に手をついたと同時にジョニー・ウォーカーがそいつの頭を踏みつけて動きを止めた。
「こいつが余市か」
ジョニー・ウォーカーが舎弟に訊ねた。奴は頷いてそれを認めた。
「アキについて知っていることを喋れ。全部だ」
余市は呻くだけで喋ろうとはしなかった。ジョニー・ウォーカーの足が奴の頭をさらに押さえつける。
「知らん」喘ぎながらも余市は言葉を継いだ。「俺たちも探してるんだ」
「俺たち?」
「あんただって知ってるだろ」舎弟が言った。
「カナディアンクラブが女一人になんの用だ」
流れている曲が場違いに感じた。ジョニー・ウォーカーが舌打ちをしてスピリタスを余市の身体に注いだ。くっ、と舎弟が目をつむる。
「火ダルマにされたいのか?」
「待て、待ってくれ」余市は叫ぶように言った。
「俺はなにも知らん。『アキという女が逃げたから探せ』って言われただけだ」
「いつ?」
「三日前だ」
「誰に?」
「それは言えない」
ジョニー・ウォーカーがライターの火をつけた。余市が待ってくれと叫んだ。
「ラフロイグ、ラフロイグだ。奴に俺は頼まれただけだ」
ラフロイグと聞いて、ジョニー・ウォーカーが一瞬、うろたえた。余市はそれを見逃さなかった。
「そうだ。これは、お前らが扱えるようなヤマじゃない……このことは忘れるんだ――そう言われなかったか?」
ジョニー・ウォーカーは余市の頭を蹴り飛ばした。
「いい加減――」
「黙れ」
ジョニー・ウォーカーは舎弟に喋らせなかった。舎弟が舌打ちをする。いまにも飛びかからんばかりの険しい表情だった。
「ジョニー・ウォーカー……」
余市が血だらけの頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。
「噂以上に獰猛なんだな」
「動くんじゃねえよ」
余市は拳銃を向けられても怯む様子はなかった。
「ナメてた……」余市が床に唾を吐いた。「が、お前に人が殺せるのか?」
舎弟も、いままでの緊張した面持ちを崩していた。ジョニー・ウォーカーは黙っていた。言葉を探しているのだろうか。わからない。
「人を殺せない殺し屋……」
余市の言葉に舎弟がふふっと笑った。
「それが、お前なんだろ? ――ジョニー・ウォーカー」
「あいつら……どっちが余市なんだ?」
「知らん」
そう言うとジョニー・ウォーカーは店に入った。俺もあとから続く。キッド・スターダストの曲が流れていた。ハルがいらっしゃいませと言った。俺の顔を見ると、少し表情が緩んだ。
「お疲れさん。あがっていいぞ」
ジョニー・ウォーカーはカウンターの中へ入ってハルからエプロンを奪うとそのまま追い出した。ハルがなにか言おうとしたが、奴は構わずにモッズコートを脱いでエプロンをつける。俺は悪いと詫びを入れて、また連絡すると耳打ちした。ハルは黙って店を出た。
派手ななりをした男が腕時計を見やった。
「おせえな」グラスを一気に空けた。
「電話してみましょうか」
どうやらグレーのスーツのほうが舎弟のようだった。ストライプがいいとだけ言うとグレーは黙って酒を舐めた。俺もカウンターへ入ってハルがやっていたのを思い出しながらグラスを拭いた。ジョニー・ウォーカーが客のほうへ向かうのを横目で見る。
「なにかお飲みになりますか」
愛想笑いを浮かべてそう訊ねるとストライプは「強いのをくれ」と言った。ジョニー・ウォーカーは頷いた。
「しかし」舎弟が言った。「アキはどうしましょうか」
俺たちは一瞬その場に凍りついた。が、あくまで冷静を装って耳だけを研ぎ澄ませた。
オイルライターの開く音がする。それから紫煙の香りが届いた。ふう、とストライプが煙を吐いた。
「それは俺が決めることじゃない」
グラスの氷が音をたてた。
「あいつらはどうします? このままだと面倒ですよ」
「ああ」ストライプが煙草を吸う。「それはもう問題ない」
ジョニー・ウォーカーがストライプの前にライムを添えたショットグラスを置いた。「お待たせしました」
「これは?」ストライプが訊ねた。
「テキーラ。ショットガンです」
「なるほど」ストライプは笑っていた。
ジョニー・ウォーカーはそのショットグラスの口を手のひらで覆うようにして持つとそれを高々と上げた。ストライプと舎弟は黙ってそれを見つめていた。そして奴はグラスをストライプの頭に鋭く振り下ろした。鈍い音が店に響いた。てめえ、と舎弟が立ち上がった。ストライプはグラスの破片が飛び散った床に倒れて呻き声を上げている。打ちつけられた頭からは血が流れている。
「動くんじゃねえ」ジョニー・ウォーカーは拳銃を舎弟に向けた。もう片方の手にはスピリタスのボトルを持っている。
舎弟は黙って両手を挙げた。ジョニー・ウォーカーが銃口を舎弟に向けたまま、ゆっくりとカウンターを回って奴らに近づいた。ストライプがやっと起き上がろうと床に手をついたと同時にジョニー・ウォーカーがそいつの頭を踏みつけて動きを止めた。
「こいつが余市か」
ジョニー・ウォーカーが舎弟に訊ねた。奴は頷いてそれを認めた。
「アキについて知っていることを喋れ。全部だ」
余市は呻くだけで喋ろうとはしなかった。ジョニー・ウォーカーの足が奴の頭をさらに押さえつける。
「知らん」喘ぎながらも余市は言葉を継いだ。「俺たちも探してるんだ」
「俺たち?」
「あんただって知ってるだろ」舎弟が言った。
「カナディアンクラブが女一人になんの用だ」
流れている曲が場違いに感じた。ジョニー・ウォーカーが舌打ちをしてスピリタスを余市の身体に注いだ。くっ、と舎弟が目をつむる。
「火ダルマにされたいのか?」
「待て、待ってくれ」余市は叫ぶように言った。
「俺はなにも知らん。『アキという女が逃げたから探せ』って言われただけだ」
「いつ?」
「三日前だ」
「誰に?」
「それは言えない」
ジョニー・ウォーカーがライターの火をつけた。余市が待ってくれと叫んだ。
「ラフロイグ、ラフロイグだ。奴に俺は頼まれただけだ」
ラフロイグと聞いて、ジョニー・ウォーカーが一瞬、うろたえた。余市はそれを見逃さなかった。
「そうだ。これは、お前らが扱えるようなヤマじゃない……このことは忘れるんだ――そう言われなかったか?」
ジョニー・ウォーカーは余市の頭を蹴り飛ばした。
「いい加減――」
「黙れ」
ジョニー・ウォーカーは舎弟に喋らせなかった。舎弟が舌打ちをする。いまにも飛びかからんばかりの険しい表情だった。
「ジョニー・ウォーカー……」
余市が血だらけの頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。
「噂以上に獰猛なんだな」
「動くんじゃねえよ」
余市は拳銃を向けられても怯む様子はなかった。
「ナメてた……」余市が床に唾を吐いた。「が、お前に人が殺せるのか?」
舎弟も、いままでの緊張した面持ちを崩していた。ジョニー・ウォーカーは黙っていた。言葉を探しているのだろうか。わからない。
「人を殺せない殺し屋……」
余市の言葉に舎弟がふふっと笑った。
「それが、お前なんだろ? ――ジョニー・ウォーカー」
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