世に万葉の花が咲くなり

赤城ロカ

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第5章

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 ジョニー・ウォーカーは煙草を消すと、シーバスリーガル兄弟を背中合わせに座らせてガムテープでふん縛った。腰、腕、脚を手際よく固定した。すると、片方が強くむせ込み始めた。
「生きてんのか?」
 ジョニー・ウォーカーはくっくと笑った。やがてシーバスリーガル兄弟は二人とも意識を戻した。四つの目が、鋭く射抜くように俺たちを見ていた。
「……あんたはいつもそうだった」
「絶対に人を殺さない」
 シーバスリーガル兄弟が交互に言った。
「銃を持っていたときは驚いた」
「まさかオモチャだったとは」
 ジョニー・ウォーカーは大きな声で笑い出した。
「オモチャじゃねえよ」かしゃんという音と共に、床に薬莢が落ちた。小さくて丸い、真っ赤なものだった。「DIJのピストルだ」
 ジョニー・ウォーカーはくっくと笑っていた。
「イカれてやがる」シーバスリーガル兄弟の片方が言った。
「それが俺の人生さ、兄弟」
 奴は誇らしげに銃を構えた。そしてその拳銃の先をシーバスリーガル兄弟の片方のこめかみに当てた。
「この銃の弾は野いちごだからこの距離で撃っても『痛え』で済むだろうが、相当痛えぞ」
 シーバスリーガル兄弟は黙っている。
「アキっていう女を探してる。それとこいつのギターを」
 は? 俺は思わず声を上げた。三人が俺の顔を見る。
「アキを探してんのか?」
「知ってんのか?」
 まあ、と俺は口ごもった。ジョニー・ウォーカーはくっくと笑った。笑いながらも銃の位置は動かさない。
「――どうやらこいつの元恋人らしい。いまは俺の大事な依頼人だ。お前らの目的はなんだ?」
 シーバスリーガル兄弟は喋らない。
「なあ、昔のよしみじゃねえか」
「依頼人を見失うようなポンコツなんか、俺たちゃ知らん」
 ジョニー・ウォーカーはそれを聞くと言葉の主の顔面に膝蹴りを食らわせた。二人とも床に転がった。野いちごとは別の赤で顔と床が染まった。倒れたまま、ぺっと血の混じった唾を吐き捨てた。
「そのシャイニング・ウィザードは健在か」
「『子猫殺し』と言ってくれ」
 ジョニー・ウォーカーは煙草に火をつけた。煙を吐き出すと言った。
「さあ、いい加減、アキの情報をもらおうか」
 シーバスリーガル兄弟の髪の毛を掴んで、無理やり座らせた。
「嫌だと言ったら?」
「殺すのか?」
 シーバスリーガル兄弟はニヤニヤと笑っていた。ジョニー・ウォーカーは舌打ちをするともう片方にも『子猫殺し』とやらを食らわせた。また奴らが転がる。
「人殺しは主義に反するが――」ジョニー・ウォーカーは、煙草をくわえたままシーバスリーガル兄弟の拳銃を拾って奴らに向けた。「――『主義に凝り固まれば、ソビエトも地図から消える』。そうだろ?」
 シーバスリーガル兄弟がごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。やがて片方がまた唾を吐くと言った。
「ヒトミちゃんにしゃぶってもらえ」
 ジョニー・ウォーカーは煙草をそいつの額に押し付けた。叫び声が狭い部屋に轟いた。
「ナメてっとマジで殺すぞ」
 煙草の火を食らったほうがわかったと観念した。
「俺たちはなにも知らないが……」
「余市に会えばいい」
 ジョニー・ウォーカーは奴らのガムテープを取った。解放された二人は同時にため息をついた。
「余市か……噂じゃ聞いてたが、会うのは初めてだな」
「俺たちは、余市から頼まれただけだ」
「お前らに手を引かせるように」
 ジョニー・ウォーカーがくっくと笑った。
「お前らに、俺は殺せない」
 シーバスリーガル兄弟はなにも言わなかった。
「これから余市と会う。お前ら、ちょっと電話して呼び出せ」
 片方が素直に携帯電話を出した。そして敬語でいくつかやりとりをして、ジョニー・ウォーカーのほうを見た。彼はジェイに来るようにと言った。それを余市に伝える。電話を切ると奴は余市が了解した旨を話した。
「行くぞ」ジョニー・ウォーカーが言った。
 俺は頷いた。そのとき俺の携帯に着信が入った。店長からだった。スタジオ終わりでシフトが入っていたのを忘れていた。でもこうなったらしょうがない。
「違うよ」
 店長の言葉を待たずに電話を切り、ジェイへ向かった。
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