魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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オモチャ

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 やっと手に入れた魔道具は小さな箱だった。本当にこんなものでいいのか、と思える安い作りの箱だ。

「本当にこれ?」
 俺とイーサンは疑いの目で見ていたけれど、リーフは嬉しそうにうなずいた。

「外側は僕の手作りだから、あれだけど、中はちゃんとしたつくりになっているよ。箱にまでお金がかけられなかったんだよ」
 リーフはうきうきと使い方を教えてくれた。

「魔法現象を発見したらまず、ここを押すんだ」
 リーフは四角い箱のボタンを押す。
「緑の明かりがともるだろう。魔力の痕跡を見つけたら、赤く点滅する」
 部屋の隅に置かれた別の魔道具を作動させるとあたりが薄暗くなる。
「ほら、こうやって近づけると……」

 緑の明かりが赤くなって緩やかに点滅を始めた。それが、別の魔道具のそばに来ると点滅が早くなり、近寄せると赤いままになる。

「どのくらいの距離で反応する?」

「今の範囲くらいかな?」

「短いな」
 俺を監視するといってついてきたイーサンがつぶやく。

「十分だろう」
 俺はお手製の地図を広げて見せた。
「見てみろよ。今まで陰の目撃情報があったのはこの図書館周りに集中している。それで、そこを監視できる場所をいくつか見つけておいた」
 俺は丸がつけてある地点をさす。

「一か所じゃないのか?」
 イーサンが興味を持ったみたいだ。

「うん。目撃された場所が離れていて、たぶん魔道具をもって移動していると思われる。で、目視して獲物を見つけて変な幻影を見せているんだよ。幻だけなら、簡単に見せることができるんだよな」
 俺はリーフに確認する。

「雑な映像なら簡単に映し出せますよ。映像を見せるだけなら、魔道具を使わなくてもほら、こういう陰絵でも」
 リーフは明かりを使って壁に自分の手の影を投影してみせる。
「これなら、実は魔法を使わなくてもできるんですよ。ラークさんでも人を脅せるというわけです」

「うん、用意してある」
 さすが、リーフ、俺のやりたいことがわかっている。俺は苦労して作った陰絵用の人形をお披露目した。
「見ろ。これが熊だ。それに、これが狼。それから、よくわからないが魔物……」
 棒に切り抜いた紙を張り付けただけの絵だけれど、自分でもよくできていると思う。
「ほら、目のところはくりぬいて赤く見えるようにしてみたんだ」

「……君が人を脅してどうするんだ?」
 イーサンがぽつりと指摘した。

「いやだなぁ、脅し返すっていっただろ。あいつらに陰を見せてやるんだよ。明かりを消して真っ暗にしてからね」俺は俺の作った魔物人形をリーフの陰絵に合流させた。

「相手を先生に突き出すんじゃないんですか?」
 リーフはぎょっとしたように手を引っ込める。

「そんなことをしても、無駄だと思う。どうせこの前みたいにうまく言い逃れるに決まっている。やるのならきっちりと本人たちを懲らしめないと」

「確かに一理あるが……そんなにうまくいくかな」

「いくさ。だから、今、ここで、みんなの作戦会議だろ」

「みんな……って誰ですか」
 リーフがもぞもぞと聞き返した。

「だから、みんな。俺……僕とイーサンとリーフ。あ、リーフは補助役でいいよ。ちゃんと魔道具感知器が作動しているかとか、相手の魔道具の見極めとか、現場は僕とイーサンが受け持つから」
 リーフの顔がゆがむのを見て俺は慌てて付け足した。

「僕と、イーサン」イーサンが力なく言葉を繰り返した。「僕は実行役に入っているのか?」

「もちろん。だって、イーサンはいざとなれば逃げきれる体力があるだろう。実行役は素早く動ける人間がいいからね」

 俺たちは早速準備にかかった。

 自分は現場に出なくてもいいとわかったリーフは積極的に計画に参加してくれた。もしこの計画が失敗したら全部の責任を俺に押し付けてもいいからと必死で説得したかいがあった。彼の魔道具の知識は素晴らしく、様々な画期的なアイデアや方法を教えてくれた。

「これ、あたりを暗くする魔道具です。一回限りしか使えないオモチャですけど、明かりを壊すよりは証拠が残らないと思います」
 彼は眼鏡の奥を光らせながら、魔道具を提供してくれた。
「それから、これが足元に水たまりを作る悪戯道具……」

 持つべきものは頭のいい友達だな。

 一方、最後まで抵抗していたのはイーサンだった。もっとノリノリで計画に参加してくれると思っていたのに意外だった。

「なぁ、ラーク。やっぱりやめよう。この計画は無謀だ」

 相手の潜みそうな場所を下見している最中にもイーサンは泣きごとをいう。

「悪い奴らを成敗するだけだぞ。偽の陰をつかって、おまえの名誉をけがす奴らに報復したくないのか?」

「僕の名誉じゃなくて、君の名誉だろ」

「同室なんだから、似たようなものだろう?」

 同室、同室って、いつもそんなことばかり……とイーサンは不安そうにぶつぶつと文句を言う。

「いいじゃないか。相手をけがさせないように投石はやめたんだ。魔道具を使うんだから、間違って相手にあたることもない」

「学校の備品を壊すこともな」

 そういいつつも、イーサンもスリングの練習をしている。小型の魔道具とはいえ正確に目標にあてる必要がある。

「こういう魔道具は、起動して、投げる、です」
 これが基本、とリーフは繰り返す。
「一回限りのオモチャなので確実に当ててくださいね」

「なぁ、これから君の店がばれたりはしないかな?」イーサンがリーフに聞いている。
「これ、量販品なのでまず出所はばれません」
「そ、そうか」
 残念そうなイーサン。何を期待していたのだろう。

 大体の場所も下見をした。あとは彼らが偽陰を誰かに仕掛けてくれればいいだけ……

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