25 / 82
オモチャ
しおりを挟む
やっと手に入れた魔道具は小さな箱だった。本当にこんなものでいいのか、と思える安い作りの箱だ。
「本当にこれ?」
俺とイーサンは疑いの目で見ていたけれど、リーフは嬉しそうにうなずいた。
「外側は僕の手作りだから、あれだけど、中はちゃんとしたつくりになっているよ。箱にまでお金がかけられなかったんだよ」
リーフはうきうきと使い方を教えてくれた。
「魔法現象を発見したらまず、ここを押すんだ」
リーフは四角い箱のボタンを押す。
「緑の明かりがともるだろう。魔力の痕跡を見つけたら、赤く点滅する」
部屋の隅に置かれた別の魔道具を作動させるとあたりが薄暗くなる。
「ほら、こうやって近づけると……」
緑の明かりが赤くなって緩やかに点滅を始めた。それが、別の魔道具のそばに来ると点滅が早くなり、近寄せると赤いままになる。
「どのくらいの距離で反応する?」
「今の範囲くらいかな?」
「短いな」
俺を監視するといってついてきたイーサンがつぶやく。
「十分だろう」
俺はお手製の地図を広げて見せた。
「見てみろよ。今まで陰の目撃情報があったのはこの図書館周りに集中している。それで、そこを監視できる場所をいくつか見つけておいた」
俺は丸がつけてある地点をさす。
「一か所じゃないのか?」
イーサンが興味を持ったみたいだ。
「うん。目撃された場所が離れていて、たぶん魔道具をもって移動していると思われる。で、目視して獲物を見つけて変な幻影を見せているんだよ。幻だけなら、簡単に見せることができるんだよな」
俺はリーフに確認する。
「雑な映像なら簡単に映し出せますよ。映像を見せるだけなら、魔道具を使わなくてもほら、こういう陰絵でも」
リーフは明かりを使って壁に自分の手の影を投影してみせる。
「これなら、実は魔法を使わなくてもできるんですよ。ラークさんでも人を脅せるというわけです」
「うん、用意してある」
さすが、リーフ、俺のやりたいことがわかっている。俺は苦労して作った陰絵用の人形をお披露目した。
「見ろ。これが熊だ。それに、これが狼。それから、よくわからないが魔物……」
棒に切り抜いた紙を張り付けただけの絵だけれど、自分でもよくできていると思う。
「ほら、目のところはくりぬいて赤く見えるようにしてみたんだ」
「……君が人を脅してどうするんだ?」
イーサンがぽつりと指摘した。
「いやだなぁ、脅し返すっていっただろ。あいつらに陰を見せてやるんだよ。明かりを消して真っ暗にしてからね」俺は俺の作った魔物人形をリーフの陰絵に合流させた。
「相手を先生に突き出すんじゃないんですか?」
リーフはぎょっとしたように手を引っ込める。
「そんなことをしても、無駄だと思う。どうせこの前みたいにうまく言い逃れるに決まっている。やるのならきっちりと本人たちを懲らしめないと」
「確かに一理あるが……そんなにうまくいくかな」
「いくさ。だから、今、ここで、みんなの作戦会議だろ」
「みんな……って誰ですか」
リーフがもぞもぞと聞き返した。
「だから、みんな。俺……僕とイーサンとリーフ。あ、リーフは補助役でいいよ。ちゃんと魔道具感知器が作動しているかとか、相手の魔道具の見極めとか、現場は僕とイーサンが受け持つから」
リーフの顔がゆがむのを見て俺は慌てて付け足した。
「僕と、イーサン」イーサンが力なく言葉を繰り返した。「僕は実行役に入っているのか?」
「もちろん。だって、イーサンはいざとなれば逃げきれる体力があるだろう。実行役は素早く動ける人間がいいからね」
俺たちは早速準備にかかった。
自分は現場に出なくてもいいとわかったリーフは積極的に計画に参加してくれた。もしこの計画が失敗したら全部の責任を俺に押し付けてもいいからと必死で説得したかいがあった。彼の魔道具の知識は素晴らしく、様々な画期的なアイデアや方法を教えてくれた。
「これ、あたりを暗くする魔道具です。一回限りしか使えないオモチャですけど、明かりを壊すよりは証拠が残らないと思います」
彼は眼鏡の奥を光らせながら、魔道具を提供してくれた。
「それから、これが足元に水たまりを作る悪戯道具……」
持つべきものは頭のいい友達だな。
一方、最後まで抵抗していたのはイーサンだった。もっとノリノリで計画に参加してくれると思っていたのに意外だった。
「なぁ、ラーク。やっぱりやめよう。この計画は無謀だ」
相手の潜みそうな場所を下見している最中にもイーサンは泣きごとをいう。
「悪い奴らを成敗するだけだぞ。偽の陰をつかって、おまえの名誉をけがす奴らに報復したくないのか?」
「僕の名誉じゃなくて、君の名誉だろ」
「同室なんだから、似たようなものだろう?」
同室、同室って、いつもそんなことばかり……とイーサンは不安そうにぶつぶつと文句を言う。
「いいじゃないか。相手をけがさせないように投石はやめたんだ。魔道具を使うんだから、間違って相手にあたることもない」
「学校の備品を壊すこともな」
そういいつつも、イーサンもスリングの練習をしている。小型の魔道具とはいえ正確に目標にあてる必要がある。
「こういう魔道具は、起動して、投げる、です」
これが基本、とリーフは繰り返す。
「一回限りのオモチャなので確実に当ててくださいね」
「なぁ、これから君の店がばれたりはしないかな?」イーサンがリーフに聞いている。
「これ、量販品なのでまず出所はばれません」
「そ、そうか」
残念そうなイーサン。何を期待していたのだろう。
大体の場所も下見をした。あとは彼らが偽陰を誰かに仕掛けてくれればいいだけ……
「本当にこれ?」
俺とイーサンは疑いの目で見ていたけれど、リーフは嬉しそうにうなずいた。
「外側は僕の手作りだから、あれだけど、中はちゃんとしたつくりになっているよ。箱にまでお金がかけられなかったんだよ」
リーフはうきうきと使い方を教えてくれた。
「魔法現象を発見したらまず、ここを押すんだ」
リーフは四角い箱のボタンを押す。
「緑の明かりがともるだろう。魔力の痕跡を見つけたら、赤く点滅する」
部屋の隅に置かれた別の魔道具を作動させるとあたりが薄暗くなる。
「ほら、こうやって近づけると……」
緑の明かりが赤くなって緩やかに点滅を始めた。それが、別の魔道具のそばに来ると点滅が早くなり、近寄せると赤いままになる。
「どのくらいの距離で反応する?」
「今の範囲くらいかな?」
「短いな」
俺を監視するといってついてきたイーサンがつぶやく。
「十分だろう」
俺はお手製の地図を広げて見せた。
「見てみろよ。今まで陰の目撃情報があったのはこの図書館周りに集中している。それで、そこを監視できる場所をいくつか見つけておいた」
俺は丸がつけてある地点をさす。
「一か所じゃないのか?」
イーサンが興味を持ったみたいだ。
「うん。目撃された場所が離れていて、たぶん魔道具をもって移動していると思われる。で、目視して獲物を見つけて変な幻影を見せているんだよ。幻だけなら、簡単に見せることができるんだよな」
俺はリーフに確認する。
「雑な映像なら簡単に映し出せますよ。映像を見せるだけなら、魔道具を使わなくてもほら、こういう陰絵でも」
リーフは明かりを使って壁に自分の手の影を投影してみせる。
「これなら、実は魔法を使わなくてもできるんですよ。ラークさんでも人を脅せるというわけです」
「うん、用意してある」
さすが、リーフ、俺のやりたいことがわかっている。俺は苦労して作った陰絵用の人形をお披露目した。
「見ろ。これが熊だ。それに、これが狼。それから、よくわからないが魔物……」
棒に切り抜いた紙を張り付けただけの絵だけれど、自分でもよくできていると思う。
「ほら、目のところはくりぬいて赤く見えるようにしてみたんだ」
「……君が人を脅してどうするんだ?」
イーサンがぽつりと指摘した。
「いやだなぁ、脅し返すっていっただろ。あいつらに陰を見せてやるんだよ。明かりを消して真っ暗にしてからね」俺は俺の作った魔物人形をリーフの陰絵に合流させた。
「相手を先生に突き出すんじゃないんですか?」
リーフはぎょっとしたように手を引っ込める。
「そんなことをしても、無駄だと思う。どうせこの前みたいにうまく言い逃れるに決まっている。やるのならきっちりと本人たちを懲らしめないと」
「確かに一理あるが……そんなにうまくいくかな」
「いくさ。だから、今、ここで、みんなの作戦会議だろ」
「みんな……って誰ですか」
リーフがもぞもぞと聞き返した。
「だから、みんな。俺……僕とイーサンとリーフ。あ、リーフは補助役でいいよ。ちゃんと魔道具感知器が作動しているかとか、相手の魔道具の見極めとか、現場は僕とイーサンが受け持つから」
リーフの顔がゆがむのを見て俺は慌てて付け足した。
「僕と、イーサン」イーサンが力なく言葉を繰り返した。「僕は実行役に入っているのか?」
「もちろん。だって、イーサンはいざとなれば逃げきれる体力があるだろう。実行役は素早く動ける人間がいいからね」
俺たちは早速準備にかかった。
自分は現場に出なくてもいいとわかったリーフは積極的に計画に参加してくれた。もしこの計画が失敗したら全部の責任を俺に押し付けてもいいからと必死で説得したかいがあった。彼の魔道具の知識は素晴らしく、様々な画期的なアイデアや方法を教えてくれた。
「これ、あたりを暗くする魔道具です。一回限りしか使えないオモチャですけど、明かりを壊すよりは証拠が残らないと思います」
彼は眼鏡の奥を光らせながら、魔道具を提供してくれた。
「それから、これが足元に水たまりを作る悪戯道具……」
持つべきものは頭のいい友達だな。
一方、最後まで抵抗していたのはイーサンだった。もっとノリノリで計画に参加してくれると思っていたのに意外だった。
「なぁ、ラーク。やっぱりやめよう。この計画は無謀だ」
相手の潜みそうな場所を下見している最中にもイーサンは泣きごとをいう。
「悪い奴らを成敗するだけだぞ。偽の陰をつかって、おまえの名誉をけがす奴らに報復したくないのか?」
「僕の名誉じゃなくて、君の名誉だろ」
「同室なんだから、似たようなものだろう?」
同室、同室って、いつもそんなことばかり……とイーサンは不安そうにぶつぶつと文句を言う。
「いいじゃないか。相手をけがさせないように投石はやめたんだ。魔道具を使うんだから、間違って相手にあたることもない」
「学校の備品を壊すこともな」
そういいつつも、イーサンもスリングの練習をしている。小型の魔道具とはいえ正確に目標にあてる必要がある。
「こういう魔道具は、起動して、投げる、です」
これが基本、とリーフは繰り返す。
「一回限りのオモチャなので確実に当ててくださいね」
「なぁ、これから君の店がばれたりはしないかな?」イーサンがリーフに聞いている。
「これ、量販品なのでまず出所はばれません」
「そ、そうか」
残念そうなイーサン。何を期待していたのだろう。
大体の場所も下見をした。あとは彼らが偽陰を誰かに仕掛けてくれればいいだけ……
343
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)
たたら
BL
久々の新作です。
全16話。
すでに書き終えているので、
毎日17時に更新します。
***
騎士をしている公爵家の次男は、顔良し、家柄良しで、令嬢たちからは人気だった。
だが、ある事件をきっかけに、彼は【不能】になってしまう。
醜聞にならないように不能であることは隠されていたが、
その事件から彼は恋愛、結婚に見向きもしなくなり、
無表情で女性を冷たくあしらうばかり。
そんな彼は社交界では堅物、女嫌い、と噂されていた。
本人は公爵家を継ぐ必要が無いので、結婚はしない、と決めてはいたが、
次男を心配した公爵家当主が、騎士団長に相談したことがきっかけで、
彼はあっと言う間に婿入りが決まってしまった!
は?
騎士団長と結婚!?
無理無理。
いくら俺が【不能】と言っても……
え?
違う?
妖精?
妖精と結婚ですか?!
ちょ、可愛すぎて【不能】が治ったんですが。
だめ?
【不能】じゃないと結婚できない?
あれよあれよと婚約が決まり、
慌てる堅物騎士と俺の妖精(天使との噂有)の
可愛い恋物語です。
**
仕事が変わり、環境の変化から全く小説を掛けずにおりました💦
落ち着いてきたので、また少しづつ書き始めて行きたいと思っています。
今回は短編で。
リハビリがてらサクッと書いたものですf^^;
楽しんで頂けたら嬉しいです
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる