魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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古書

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「来いよ。一緒に見よう」
 イーサンは高速で頁を繰った。
「あ、あったぞ。ここだ。えっと……」

 俺は猫を抱いたまま、後ろからのぞき込む。

 王……唯一……とうとい? 焼いた肉? うん? 料理の本か?

 先に読んでいるイーサンの表情が険しくなった。指でたどるように、文字を確認し、最後まで行ってからもう一度、頭に戻って読み返している。

「ランス、これ、本当かな?」

「うん? 何の料理だろうね」

「……冗談を言っている場合か」

「え? でも、これ、肉……」
 俺が差した単語を見てイーサンは目を怒らせた。

「それは肉体。体のこと。いや、肉ともいえるけれど……」

「ほかにも、蜂蜜とか香辛料とか書いてあるし、挿絵が……ほら、ね」

 着飾った人々が料理を囲んでいる姿が描かれている。

「料理に関する言葉だけわかるんだな」
 イーサンは頭を抱えた。
「……訳すから、聞いて」

『王は仰せになった……』
 イーサンがすべてを俺にわかる程度に訳するに、だいぶ時間がかかった。

「つまり、どういうことだ?」

「だから、僕達の予想はほとんど当たっていたんだよ。結界の維持に必要なのは、血と魂。それを定期的にささげる必要がある。
 えっと、ここだな。……精霊に身をささげることは古では戦士に対する最大の栄誉とされ、各々が競って神殿の前に列をなしたものだが、嘆かわしい現在の風潮では……」

「原文はいいよ。何を言いたいのかさっぱりわからないぞ。 精霊に身をささげるって、それも自発的に?人って、精霊になるものなのか?」

 俺とイーサンは顔を見合わせた。猫の喉を鳴らす音だけがよく聞こえる。

「なるものなのかな。聞いたことないな……えっと、子供たちに告げる。これは神聖な儀式であること。これは大精霊を召喚するための一連の儀式であることを忘れてはならない。仲間を集めなさい。仲間とのきずなを深め、精霊の恵みに感謝をささげなさい。誰が選ばれるにせよ、それは大いなる栄誉である。
 すべての儀式は愛の教えに基づくものであることを忘れてはならない。無用な血は災厄を生む。必要とされるのは、えー」

 イーサンが言いよどんだ。

「ほかのところには、こうも書いてある。ちょっと、待てよ」

 イーサンがまた本を繰って、それから書棚から新しい本を引っ張り出してきた。

「何が書いてあるんだよ」
 読むことを放棄した俺はイーサンをせかす。

「デリン家の本で切り取られていた部分だね。一回目の儀式の模様が……
 うーん、待ってくれ……血を流したと非難されるのなら、我らの間違っていたところがあるのならただせばよい。そう、公たちは口々に王に要求した。
 ……ここからは結界の中の話みたいだ。化け物が出たり、それを退治したり……えっと、
 ……その中で、一人の騎士が歩み出た。敬愛する王子、我が王よ。私の血と魂をあなたに捧げる。我が魂は永久に貴方のもの。誓約をもって、すべてを貴方に捧げることを誓う」

「まるで、結婚の儀式みたいだな」

「それに近いな。たぶん」

「腕輪の交換とかするのか?」

「そんなくだりは……あー……」
 イーサンは先を見ている。
 そしてまた、ここでも宴会の挿絵だ。くそ、帝国の連中、このころからこんなうまそうな料理を……

「……なんだか、もめたみたいだな。どちらが王になるか、精霊になるかで。信頼関係のある二人の間での長いやり取りがあった。結局、王子が騎士の望みを受け入れて、騎士は精霊の御許に行く、みたいな……」

「なぁ、魔法士ではなく、騎士なのか?」

「うん。この時代にはまだ騎士も力が強かったんだ。この後かな? 剣術が廃れていくのは」

 イーサンの口調が寂しそうだ。

「……どうやら、儀式というのは適合者を選ぶものらしい。学園に公家の血を引くものを集めて、その中で王と精霊、深い絆で結ばれたものを選定して、どちらかが王に、どちらかが精霊に……」

「精霊になるって、なった奴はどうなるんだ? 血と魂を全部捧げたら、ふつう死ぬよな……死んでしまうのか?」

「そこまでは書いていない。でも、まぁ、そういうことになるんだろうか?」
 イーサンの言葉が乱れる。

「体のいい生贄、黒魔術じゃないか、それは」

「違う。全然違うぞ。古魔法の系譜だから……」

 イーサンが必死で説明するけれど、俺の頭では理解できなかった。どこが違うのかわからないぞ。

「つまりなんだ。仮に俺が王になろうとする。そうしたら、俺を支持しているイーサン、おまえは精霊になる。逆にイーサンが王になろうとすれば、俺が精霊になる、そういうことなんだろう?」

「違うだろ」
 イーサンが顔を赤くして怒る。
「なんで君が僕の精霊になるんだよ。特別な絆のある二人なんだぞ。君は僕のことをそんな風に考えている、なんてことは……ないだろ」

「いや、わかりやすくするために俺たちを当てはめてみたんだが」
 うむ。ちょっとたとえが不適切だったか。
「安心しろ。たとえそんな関係であっても、俺はお前に精霊になれとか言わない。逆の立場でも、自分を犠牲にしてまで、お前を王にするなんてまっぴらだ。
 俺はもっとお前と長く付き合いたいと思っているからな。二人は長く楽しく暮らしました。
 そういう終わり方をする話が好きなんだよ。俺は」

 いいながら、自分でも変な気分になってきた。
 なんだ? これは? なんだか恥ずかしくなってきたぞ。

「う、うん。ちょっと変なことをいってしまったかな。この話は、忘れようか」

「そ、そうだね」
 俺たちは互いから目をそらした。

「ということは、なんだ? この儀式は王を選ぶのではなく……精霊志願者を募る儀式だったのか? 生贄になる自殺志願者を募る……」

「自殺志願者とはひどい言い方ですね」

 いてほしくない人物の声だった。
 あの嫌味な大神官が扉のところに立っていた。
 驚いたイーサンが慌てて身を起こしたので、椅子にぶつかって大きな音がした。
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