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王室図書館
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周りは静かだった。
先ほどまでの部屋がいかに華やいでいたか、それを実感できるほどの人気のなさだ。床に敷かれていた絨毯は消え、まるで神殿のような石の敷かれた冷たい床と最低限の明かり。
俺は早速、上に羽織っていた女物の長衣を脱いだ。
「あー、すっきりする」
「おいおい、誰が来るかわからないんだぞ。着ておいたほうがいいんじゃないか?」
イーサンに注意されたけれど、ここから先は動きやすいほうがいいと思う。先ほど、穴に引っかかるなどという無様な姿をさらしたからな。カツラも外して、頭もすっきりした。
イーサンが男に戻る俺の姿をどこか残念そうに見ている。
「おい、さっきのほうがよかったとかいうんじゃないだろうな。惚れたか?」
俺はイーサンをからかう。
「いや、まぁ、確かにかわいかったけれど……でも、いつものほうがいいかな」
まじめな顔で返された。
「は? なんだ? それ」
「いや、そういう姿のほうが君らしいというかなんというか……」
イーサンは自分のカツラを手にもじもじとしている。なんだ、この妙な間は?
「中身は同じだよ」
俺はカツラを袋に丸めて押し込む。
「行くぞ。……それで、どっちだ?」
「君は……また迷子か? 肝心なところで抜けているんだな」
イーサンが相変わらずひどい評価をする。
「仕方ないだろう。魔道帝国の王宮なんて入ったこともないんだぞ。お前は何度か来たことがあるんだろ?」
はぁ、とイーサンはため息をつく。
「図書館は、この先の別棟になっているんだ。こっちだよ」
階段を下りて、その先にある渡り廊下を抜け、ようやく図書館にたどり着いた。道中、あまりに静かで、見回りの誰かに出くわすのではないかという警戒も薄れていた。先ほどまでの舞踏会場とは別の世界だった。
「なぁ、なんだか学園に似ているな」
俺は図書館の大きな扉を見上げてイーサンにきく。
「そうだね。この図書館は古い建物を改修して使っていると聞いた。学園も古い神殿が基盤になっているから、建てられた時代が似ているんじゃないかな」
「しかし、これだけの建物、全部本が詰まっているんだろ。どうやって目当ての本を見つけるんだよ」
「だから、本屋の兄弟を一緒に連れてきたかったんだよ。君と二人でこの中から本を探すかと思うとぞっとするね」
一応、俺は扉を調べた。なにか結界や罠でも仕掛けてあるかと思ったが、チビ犬は反応しなかった。物理的な鍵もかかっていない。
「不用心だな」
「……普通、ここに忍び込もうなんて思う人間はいないと思うぞ。許可さえ得られれば、誰でも入れる場所だからね」
「俺たち、北の戦士でもか?」
「許可が得られれば。そもそも、君たちが本に興味を持つなんて思えないのだけどな」
失礼な。俺達だって本くらい読むぞ。
俺は大きな正面の扉を開けた。そこから先は椅子が並んだ待合のような部屋になっている。そして、壁には大きな本棚が並んでいた。
「すごいな、この中から探すことができるかな?」
イーサンは無言で奥の大きな扉を開けた。
目の中に本棚が飛び込んできた。本がぎっしり詰まった棚が光の届かない奥のほうまで並んでいた。
秘密の図書館もすごいと思ったけれど、ここは俺の想像を上回る本がここにある。
まるで群生する虫の群れのようだ。
本の群れ……俺は気分が悪くなった。
「……これでも禁書や貴重な本をのぞいた量だぞ」
「どうやってこの中から目当ての本を探すんだよ」
背表紙を見て歩くだけで何日もかかりそうだ。エレインが新たな戦力としてリーフたちを勧誘した理由に今さら納得した。
「一応、エレイン様から資料が収めてある部屋の場所は聞いている。その中から絞るんだ」
イーサンは本棚の奥にずかずかと歩いていく。
俺は周りの本が群れで俺たちに襲い掛かってくる妄想が頭をよぎる。
本棚の並ぶ広い空間を抜け、これまた本棚が壁のようになっている廊下を抜け、手すりの下まで本が収納されている階段を上り……
帝国の奴ら、ここまでして本が好きなのか? 俺は本型の魔獣の巣に紛れ込んだような感覚におびえている。
「そんなに忍び歩きをしなくても。怖いのか?」
イーサンはそんな俺の怯えぶりをあきれていた。
「怖いだろう。なんでこんなに本がたくさんあるんだよ」
「本だけじゃない、いろいろな資料や書類、そういったものも収納されているからね。それで量が多い。普段はたくさんの人がいるから、こんな雰囲気じゃないんだよ」
そういうイーサンもあちこち迷いながら目当ての部屋を探している。
「神殿の資料を集めた部屋があるんだよ。奥のほうにね。エレイン様はそこでデリン家にあった資料を見たといっていた」
エレイン、どれだけここに入り浸っているんだ。彼女と俺が同じ血を引いているとはとても思えない。
ようやく見つけた部屋は王宮図書館の皿に奥まったところにあった。扉に大きく神殿の印が掲げられていたから、何とか見つけられた。
「僕はこちらを探す。君は向こうを調べて」イーサンは部屋に入るや否や、本棚に突進する。
「どうだろう。なにかわかるかな?」
兄貴の子犬を呼び出しては見たが、子犬は俺の足元で尻尾を振っている。かわいらしいが、役に立たないな。
もう、文字なんか見ないぞ。俺はデリン家で見た本に似た背表紙の本を探した。
同じような大きさ、同じ色……壁一面の本が同じ形式だった。
誰か助けて。
俺は目を閉じて、もう一度開いてみた。そんなことをして神聖文字が読めるようになるわけではなく……
「数だよ。年号で探してくれ」
イライラとイーサンが俺に指示を出してきた。
「数くらい読めるだろ」
ニャァ
小さな声がした。俺は振り返る。いつもの猫が机の下で尻尾を揺らしている。
「やぁ」
俺は声をかけた。
「さっきはありがとう。助けてくれて」
俺はしゃがみこんで白い猫を抱き上げた。
「本当に助かった」
「見つけたぞ。最初の年だ。……おい、何をぶつぶつ独り言を言っているんだ?」
イーサンが本を引っ張り出して、机の上に広げた。
先ほどまでの部屋がいかに華やいでいたか、それを実感できるほどの人気のなさだ。床に敷かれていた絨毯は消え、まるで神殿のような石の敷かれた冷たい床と最低限の明かり。
俺は早速、上に羽織っていた女物の長衣を脱いだ。
「あー、すっきりする」
「おいおい、誰が来るかわからないんだぞ。着ておいたほうがいいんじゃないか?」
イーサンに注意されたけれど、ここから先は動きやすいほうがいいと思う。先ほど、穴に引っかかるなどという無様な姿をさらしたからな。カツラも外して、頭もすっきりした。
イーサンが男に戻る俺の姿をどこか残念そうに見ている。
「おい、さっきのほうがよかったとかいうんじゃないだろうな。惚れたか?」
俺はイーサンをからかう。
「いや、まぁ、確かにかわいかったけれど……でも、いつものほうがいいかな」
まじめな顔で返された。
「は? なんだ? それ」
「いや、そういう姿のほうが君らしいというかなんというか……」
イーサンは自分のカツラを手にもじもじとしている。なんだ、この妙な間は?
「中身は同じだよ」
俺はカツラを袋に丸めて押し込む。
「行くぞ。……それで、どっちだ?」
「君は……また迷子か? 肝心なところで抜けているんだな」
イーサンが相変わらずひどい評価をする。
「仕方ないだろう。魔道帝国の王宮なんて入ったこともないんだぞ。お前は何度か来たことがあるんだろ?」
はぁ、とイーサンはため息をつく。
「図書館は、この先の別棟になっているんだ。こっちだよ」
階段を下りて、その先にある渡り廊下を抜け、ようやく図書館にたどり着いた。道中、あまりに静かで、見回りの誰かに出くわすのではないかという警戒も薄れていた。先ほどまでの舞踏会場とは別の世界だった。
「なぁ、なんだか学園に似ているな」
俺は図書館の大きな扉を見上げてイーサンにきく。
「そうだね。この図書館は古い建物を改修して使っていると聞いた。学園も古い神殿が基盤になっているから、建てられた時代が似ているんじゃないかな」
「しかし、これだけの建物、全部本が詰まっているんだろ。どうやって目当ての本を見つけるんだよ」
「だから、本屋の兄弟を一緒に連れてきたかったんだよ。君と二人でこの中から本を探すかと思うとぞっとするね」
一応、俺は扉を調べた。なにか結界や罠でも仕掛けてあるかと思ったが、チビ犬は反応しなかった。物理的な鍵もかかっていない。
「不用心だな」
「……普通、ここに忍び込もうなんて思う人間はいないと思うぞ。許可さえ得られれば、誰でも入れる場所だからね」
「俺たち、北の戦士でもか?」
「許可が得られれば。そもそも、君たちが本に興味を持つなんて思えないのだけどな」
失礼な。俺達だって本くらい読むぞ。
俺は大きな正面の扉を開けた。そこから先は椅子が並んだ待合のような部屋になっている。そして、壁には大きな本棚が並んでいた。
「すごいな、この中から探すことができるかな?」
イーサンは無言で奥の大きな扉を開けた。
目の中に本棚が飛び込んできた。本がぎっしり詰まった棚が光の届かない奥のほうまで並んでいた。
秘密の図書館もすごいと思ったけれど、ここは俺の想像を上回る本がここにある。
まるで群生する虫の群れのようだ。
本の群れ……俺は気分が悪くなった。
「……これでも禁書や貴重な本をのぞいた量だぞ」
「どうやってこの中から目当ての本を探すんだよ」
背表紙を見て歩くだけで何日もかかりそうだ。エレインが新たな戦力としてリーフたちを勧誘した理由に今さら納得した。
「一応、エレイン様から資料が収めてある部屋の場所は聞いている。その中から絞るんだ」
イーサンは本棚の奥にずかずかと歩いていく。
俺は周りの本が群れで俺たちに襲い掛かってくる妄想が頭をよぎる。
本棚の並ぶ広い空間を抜け、これまた本棚が壁のようになっている廊下を抜け、手すりの下まで本が収納されている階段を上り……
帝国の奴ら、ここまでして本が好きなのか? 俺は本型の魔獣の巣に紛れ込んだような感覚におびえている。
「そんなに忍び歩きをしなくても。怖いのか?」
イーサンはそんな俺の怯えぶりをあきれていた。
「怖いだろう。なんでこんなに本がたくさんあるんだよ」
「本だけじゃない、いろいろな資料や書類、そういったものも収納されているからね。それで量が多い。普段はたくさんの人がいるから、こんな雰囲気じゃないんだよ」
そういうイーサンもあちこち迷いながら目当ての部屋を探している。
「神殿の資料を集めた部屋があるんだよ。奥のほうにね。エレイン様はそこでデリン家にあった資料を見たといっていた」
エレイン、どれだけここに入り浸っているんだ。彼女と俺が同じ血を引いているとはとても思えない。
ようやく見つけた部屋は王宮図書館の皿に奥まったところにあった。扉に大きく神殿の印が掲げられていたから、何とか見つけられた。
「僕はこちらを探す。君は向こうを調べて」イーサンは部屋に入るや否や、本棚に突進する。
「どうだろう。なにかわかるかな?」
兄貴の子犬を呼び出しては見たが、子犬は俺の足元で尻尾を振っている。かわいらしいが、役に立たないな。
もう、文字なんか見ないぞ。俺はデリン家で見た本に似た背表紙の本を探した。
同じような大きさ、同じ色……壁一面の本が同じ形式だった。
誰か助けて。
俺は目を閉じて、もう一度開いてみた。そんなことをして神聖文字が読めるようになるわけではなく……
「数だよ。年号で探してくれ」
イライラとイーサンが俺に指示を出してきた。
「数くらい読めるだろ」
ニャァ
小さな声がした。俺は振り返る。いつもの猫が机の下で尻尾を揺らしている。
「やぁ」
俺は声をかけた。
「さっきはありがとう。助けてくれて」
俺はしゃがみこんで白い猫を抱き上げた。
「本当に助かった」
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イーサンが本を引っ張り出して、机の上に広げた。
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