アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)

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ぽんこつアイドルくん

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ある日の午後。
俺が夕食の買い出しから帰ってくると、キッチンから何やら香ばしい…いや、明らかに焦げ臭い匂いが漂ってきた。同時に、けたたましい火災報知器の警告音が鳴り響いている。

「な、なんだ!?」

慌ててキッチンへ駆け込むと、そこには煙がうっすらと充満していた。
煙の発生源は、電子レンジだ。そしてその前で、顔をうっすらと煤で汚した圭吾が、目を白黒させて立ち尽くしている。

「橘!お前、何やったんだ!」
「せ、先輩!お帰りなさい!あの、お腹がすいちゃって、冷凍のチャーハンを温めようとしただけなんですけど…!」
「袋のまま入れたな!?」
「えっ、ダメだったんですか…?」

絶句した。こいつは、本当に、何も知らないんだ。
俺は急いで窓を全開にし、換気扇を最強モードにする。火災報知器のスイッチを切り、煙を追い出すと、電子レンジの扉を恐る恐る開けた。
中では、銀色のパッケージが見事に黒焦げになり、火花を散らした痕跡を残していた。

「はぁ……。お前なぁ、アルミとか金属はレンジに入れちゃダメだって、小学生でも知ってるぞ…」
「そうなんですか!?知らなかったです…」

しゅん、と効果音がつきそうなほど、圭吾はしょんぼりと肩を落とした。その大きな瞳が、不安げに潤んでいる。まるで、飼い主に叱られた大型犬だ。
こんな顔をされたら、怒る気も失せてしまう。

「…怪我は?」
「だ、大丈夫です。びっくりしただけです」
「そうか。ならいい。腹、減ってるんだろ?なんかすぐ作るから、リビングで待ってろ」
「…はい」

素直に頷いて、とぼとぼとリビングへ向かう圭吾の背中を見送る。その背中が、やけに小さく見えて、胸がちくりと痛んだ。
両親は海外で、彼は中学二年から一人暮らし 。きっと、誰も彼に、こういう当たり前のことを教えてくれなかったのだろう。キラキラしたアイドルの仮面の下に隠された彼の孤独が、垣間見えた気がした。

俺は手早く冷蔵庫の残り物でチャーハンを作り、圭吾のもとへ運んだ。

「ほら、できたぞ。火傷しないように食えよ」
「わ…!ありがとうございます!先輩のチャーハン、お店のより美味しいです!」

さっきまでのしょげた顔はどこへやら、圭吾はぱあっと表情を輝かせ、大きな口でチャーハンを頬張り始めた。その幸せそうな顔を見ていると、呆れた気持ちも、怒りも、全部どこかへ消えていってしまう。

「まったく、しょうがないな…」

口からこぼれたのは、呆れと、ほんの少しの優しさが混じった、自分でも驚くほど穏やかな声だった。
世話が焼ける。本当に、心底、手のかかる男だ。
だけど、その世話を焼くことに、俺はいつの間にか、やりがいのようなものを感じ始めている自分に気づいていた。

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