12 / 55
猫と幼なじみ
第十二話 五山の送り火 3
しおりを挟む
「あ、点いた!」
時間になってもなかなか見えてこなくて、遅れているのかなと思っていたら、ポッとなにもない暗い場所に光の点があらわれた。一つが点くとあっという間で、どんどんと光の点がつながっていく。まずは大文字、そして妙、法、船形、左大文字、そして鳥居。
「私、自分の目で鳥居を見るの初めて。誘ってもらわなかったら、一生、見れなかったかもしれない。今日、修ちゃんが誘ってくれて良かった」
「地方出身の人間の言うことも、たまには役立つだろ?」
「私、そんなこと言ったっけ?」
後ろに立っていた修ちゃんの顔を見あげる。
「言ってないけどさ、京都駅の屋上で大文字みたいとか、地方から来た人間って信じられないぐらい思ってたろ?」
「あちゃー、バレてましたか」
誘われた時、こんな人混みに来たがるなんて、やっぱり修ちゃんも地方の人なんだなと思っていたのがバレていたらしい。
「まこっちゃんの考えてることぐらい、聞かなくてもわかるよ」
「だって、自宅で手を合わせたほうが、落ち着くじゃない? ご先祖様はうちの仏壇に帰ってきてるんだから。今年は二人はどこに行ったんだろうって、ご先祖様も首をかしげているかも」
「どうだろうねえ」
私と修ちゃんはその場で手をあわせた。自宅の祖母も、今頃は送り火を見ながら手を合わせているだろう。
「これでお盆も終わりだな。今年も送り火を見られて良かった」
「だねー」
山に灯っていた火が消えると、その場にいた大勢の人達がどんどん帰りはじめた。
「さてと、じゃあ、行こうか」
「あ、そうだ。ねえ、どこ行くの? さっき、お姉ちゃんに渡されていたのはなに?」
「お姉ちゃんに渡されていたのは、これ」
修ちゃんが手に持っていたものを私に見せてくれた。
「……カード?」
「部屋のカードキーだよ」
「へえ…………え?」
「じゃあ行くよ」
修ちゃんは私と手をつなぐと、そのまま歩きだす。
「家に帰らないの?」
「さっき、お姉ちゃんが言ってたろ? お姉ちゃんちで泊まって朝に一緒に帰るって」
「待ち合わせは西口でってやつ?」
「朝の八時にね。いま見せてたカードキー、なんのためだと思ってるんだよ」
人混みをよけてホテルに入ると、そのままエレベーターに向かう。
「ねえねえ、それって、もしかして……お泊りってこと?」
「そうだよ。もしかしなくても、お泊り」
「お姉ちゃんに部屋をとってもらったの?」
エレベーターの中に押し込まれながら、さらに質問をした。
「うん。この時期は空き部屋を確保するのが大変だって聞いてたから、予約したのは五月なんだけどね」
「五月って、前に帰ってきた時?」
「あの直後」
つまり、修ちゃんが私にキスをしたあの帰省の後、ここの部屋を姉にとってもらったらしい。
「修ちゃん! それってつまり! めっちゃ計画的な」
「計画的な?」
「えーと、計画的なぁ…………犯行?!」
「犯行とか!」
修ちゃんが笑い出す。エレベーターに乗っているのが二人だけで良かった。
「だって、計画的にって言ったら、それしか浮かばなかったんだもん」
自分の語彙力にウンザリしながらそう言った。
「まあ、まこっちゃんからしたら、そうなのかな」
「別に犯行とは思ってないけどさあ。どっちかと言うと、青天の霹靂?」
「計画的な青天の霹靂とか」
「なんで二つをわざわざくっつけるかな。いいかげんに笑うのやめようか、修ちゃん」
馬鹿みたいに笑っている修ちゃんの足を踏みつける。
「いてっ! まこっちゃん、下駄で踏むのはやめようか。シャレにならないぐらい痛かったんだけど」
「あ、忘れてた」
自分がいつものパンプスではなく、下駄を履いていることをすっかり忘れていた。
「やれやれ、困ったもんだ。俺、五体満足でここから出られるかな」
エレベーターから出ると、誰もいない廊下を二人で歩く。そしてカードに刻印された番号のついたドアの前に来ると、キーでドアを開けて入った。テーブルの上にお花と、可愛らしいカットケーキが置いてある。
「修ちゃん、お花とケーキがあるよ」
「お姉ちゃん、気を回しすぎ……」
つまりこれは、姉からのサービスらしい。
「ねえ、お姉ちゃんにどこまで話したの」
あの口振りからすると、なにもかもお見通しだったように思う。
「え、あー、送り火の日に、まこっちゃんと二人だけですごしたいんだけど、部屋ある?って聞いた」
「まさかの、ずばりそのまま!」
「変に隠し事すると、根掘り葉掘り質問されるだろ? だったら最初に白状しておいたほうが良いと思ったんだよ」
「うわ、恥ずかしすぎる……まさかの筒抜け状態とは」
しかも三月間も! この三ヶ月間、姉は私の顔を見るたびに、心の中でニヤニヤしていたに違いない。
「せっかくお姉ちゃんが用意してくれたやつだから、食べたら? 紅茶もあるみたいだし、お湯、こっちのポットでわいてるよ」
「修ちゃん、落ち着きすぎ」
「俺までまこっちゃんみたいにテンパったら、それこそ大変じゃないか。で? 食べる?」
「……食べる」
ケーキのお皿を手に取ると、フォークを持って椅子に座った。
「ねえ、まさかこのケーキ、お義兄さんが作ったんじゃないよね?」
一口食べながら、思いついたことを口にする。
「どうだろう。でも、それがなにか問題?」
「だってさ、お姉ちゃんだけでなく、お義兄さんにまで筒抜けって、いたたまれないじゃない。明日、顔を合わせるんだよ?」
それを思うと、今からちょっと憂鬱だ。
「たとえそうだとしても、別に問題ないんじゃ? あっちだって似たような道を通ってるんだし」
「やっぱり修ちゃん、落ち着きすぎ」
「これでも落ち着こうと頑張ってるんだけどなあ……」
修ちゃんは、紅茶をカップに注ぎながらつぶやいた。
「とても頑張ってるようには思えないけど」
「本当ならケーキなんてそっちのけで、まこっちゃんのこと、食べちゃいたいのに、こうやってケーキを一緒に食べてるって、俺、けっこう紳士的だと思うよ?」
そう言いながら、ケーキを乗せた皿を手に私の前のイスに座る。そしてケーキを一口、口にほうりんだ。
「うまー。やっぱりホテルのケーキって一味違うなあ」
「学校でケーキって出るの? デザート的なもので」
「こういうのはないかなあ……」
「じゃあ、ケーキを食べたくなったら、休みの日に学校の外に出かけるしかないんだ?」
「野郎ばっかりで喫茶店でケーキなんて、ちょっと笑えない光景だけどね」
お皿に乗ったケーキを食べ終わるまでは、いつものように何気ない会話を続けた。だげど私の心臓はバクバクして落ち着かない。修ちゃんはどうなんだろう。見た感じでは本当に落ち着いて見えるけど。
「まこっちゃん?」
「……なに?」
「俺を探るような目で見ないでくれる?」
「別にそんな目で見てないよ」
「嘘ばっか。なんでこいつは、そこまで落ち着いてやがるんだって顔してるよ」
相変わらず修ちゃんはするどい。
「……だって、落ち着いて見えるんだもん。私、きっとケーキの味、半分ぐらいしか感じてない気がする」
とにかくこういうことが初めての私にとっては、これから起きるであろうことはすべてが未知の世界。落ち着かない気分になるのは当たり前だと思う。それに比べて修ちゃんの落ち着きっぷりときたら、腹が立つよりうらやましい。
「そりゃまあ、まこっちゃんは初めてだからしかたないけどさ」
「修ちゃんは初めてじゃないってことだよね?」
とたんに修ちゃんがむせた。
「なんてこと言うんだよ」
「だって」
「そこが気に入らないとか?」
「別に気に入らないわけじゃないよ。それはそれ、これはこれだから」
実際のところ、修ちゃんは防大に進学するまでは遠く離れた場所に住んでいた。そこで高校生まで過ごしたのだから、誰かと付き合っていたとしても不思議でもなんでもない。ただ、じゃあその人とはどうして別れたんだろう?とか、なんで今は私なんだろう?とか、その点はそれなりに気にはなる。
「まあ……少しは気になるかな」
「二股かけてるとかそういうのはないから」
「修ちゃんが、そういうことするような人じゃないのはわかってる」
「それを聞いて安心した」
修ちゃんがニッコリと笑った。
「でもさ、まこっちゃんが今まで誰とも付き合わずにいてくれたことは、すごく嬉しいんだよな」
「別に、好きで誰とも付き合わなかったわけじゃないんだけどね……」
高校までは女子校で、同世代の異性と顔を合わせる機会がなかっただけなのだ。そして大学は共学ではあったけど、気が合うゼミの友達という存在がほとんどで、異性として意識する存在はあらわれなかった。それが幸か不幸なのか、その点は自分でもよくわからない。
「うん。それでも嬉しい。そのおかげで俺はこうやって、まこっちゃんの初めてをもらえるわけだし。それに対して、俺がまこっちゃんにあげられるものはなんだろうな」
しばらく考え込んでから言葉を続けた。
「俺にあげられるものって、まこっちゃんが俺にとって、『最後の人』になる、ぐらいしかないかな」
「それって一生、浮気はしません宣言?」
「そうとも言うかな。ただ、俺は自衛官になるわけだし、これからのことを考えると、そう簡単に死ぬまで一緒にいてくださいとは言えないかな」
お皿をテーブルに置くと、立ち上がって私の横にくる。
「だけどまこっちゃんのことは好きだから、できたらずっと一緒にいたいと思うよ」
「ずっとってどれぐらい?」
「そうだなあ。縁側でのんびりとお茶を飲みながら、孫やひ孫が庭の松によじ登るのを見るぐらいまで?」
「あの松、お婆ちゃんと同い年ぐらいって知ってた?」
私がそう言うと、修ちゃんはニッコリとしてから、私の手からケーキのお皿を取り上げた。
時間になってもなかなか見えてこなくて、遅れているのかなと思っていたら、ポッとなにもない暗い場所に光の点があらわれた。一つが点くとあっという間で、どんどんと光の点がつながっていく。まずは大文字、そして妙、法、船形、左大文字、そして鳥居。
「私、自分の目で鳥居を見るの初めて。誘ってもらわなかったら、一生、見れなかったかもしれない。今日、修ちゃんが誘ってくれて良かった」
「地方出身の人間の言うことも、たまには役立つだろ?」
「私、そんなこと言ったっけ?」
後ろに立っていた修ちゃんの顔を見あげる。
「言ってないけどさ、京都駅の屋上で大文字みたいとか、地方から来た人間って信じられないぐらい思ってたろ?」
「あちゃー、バレてましたか」
誘われた時、こんな人混みに来たがるなんて、やっぱり修ちゃんも地方の人なんだなと思っていたのがバレていたらしい。
「まこっちゃんの考えてることぐらい、聞かなくてもわかるよ」
「だって、自宅で手を合わせたほうが、落ち着くじゃない? ご先祖様はうちの仏壇に帰ってきてるんだから。今年は二人はどこに行ったんだろうって、ご先祖様も首をかしげているかも」
「どうだろうねえ」
私と修ちゃんはその場で手をあわせた。自宅の祖母も、今頃は送り火を見ながら手を合わせているだろう。
「これでお盆も終わりだな。今年も送り火を見られて良かった」
「だねー」
山に灯っていた火が消えると、その場にいた大勢の人達がどんどん帰りはじめた。
「さてと、じゃあ、行こうか」
「あ、そうだ。ねえ、どこ行くの? さっき、お姉ちゃんに渡されていたのはなに?」
「お姉ちゃんに渡されていたのは、これ」
修ちゃんが手に持っていたものを私に見せてくれた。
「……カード?」
「部屋のカードキーだよ」
「へえ…………え?」
「じゃあ行くよ」
修ちゃんは私と手をつなぐと、そのまま歩きだす。
「家に帰らないの?」
「さっき、お姉ちゃんが言ってたろ? お姉ちゃんちで泊まって朝に一緒に帰るって」
「待ち合わせは西口でってやつ?」
「朝の八時にね。いま見せてたカードキー、なんのためだと思ってるんだよ」
人混みをよけてホテルに入ると、そのままエレベーターに向かう。
「ねえねえ、それって、もしかして……お泊りってこと?」
「そうだよ。もしかしなくても、お泊り」
「お姉ちゃんに部屋をとってもらったの?」
エレベーターの中に押し込まれながら、さらに質問をした。
「うん。この時期は空き部屋を確保するのが大変だって聞いてたから、予約したのは五月なんだけどね」
「五月って、前に帰ってきた時?」
「あの直後」
つまり、修ちゃんが私にキスをしたあの帰省の後、ここの部屋を姉にとってもらったらしい。
「修ちゃん! それってつまり! めっちゃ計画的な」
「計画的な?」
「えーと、計画的なぁ…………犯行?!」
「犯行とか!」
修ちゃんが笑い出す。エレベーターに乗っているのが二人だけで良かった。
「だって、計画的にって言ったら、それしか浮かばなかったんだもん」
自分の語彙力にウンザリしながらそう言った。
「まあ、まこっちゃんからしたら、そうなのかな」
「別に犯行とは思ってないけどさあ。どっちかと言うと、青天の霹靂?」
「計画的な青天の霹靂とか」
「なんで二つをわざわざくっつけるかな。いいかげんに笑うのやめようか、修ちゃん」
馬鹿みたいに笑っている修ちゃんの足を踏みつける。
「いてっ! まこっちゃん、下駄で踏むのはやめようか。シャレにならないぐらい痛かったんだけど」
「あ、忘れてた」
自分がいつものパンプスではなく、下駄を履いていることをすっかり忘れていた。
「やれやれ、困ったもんだ。俺、五体満足でここから出られるかな」
エレベーターから出ると、誰もいない廊下を二人で歩く。そしてカードに刻印された番号のついたドアの前に来ると、キーでドアを開けて入った。テーブルの上にお花と、可愛らしいカットケーキが置いてある。
「修ちゃん、お花とケーキがあるよ」
「お姉ちゃん、気を回しすぎ……」
つまりこれは、姉からのサービスらしい。
「ねえ、お姉ちゃんにどこまで話したの」
あの口振りからすると、なにもかもお見通しだったように思う。
「え、あー、送り火の日に、まこっちゃんと二人だけですごしたいんだけど、部屋ある?って聞いた」
「まさかの、ずばりそのまま!」
「変に隠し事すると、根掘り葉掘り質問されるだろ? だったら最初に白状しておいたほうが良いと思ったんだよ」
「うわ、恥ずかしすぎる……まさかの筒抜け状態とは」
しかも三月間も! この三ヶ月間、姉は私の顔を見るたびに、心の中でニヤニヤしていたに違いない。
「せっかくお姉ちゃんが用意してくれたやつだから、食べたら? 紅茶もあるみたいだし、お湯、こっちのポットでわいてるよ」
「修ちゃん、落ち着きすぎ」
「俺までまこっちゃんみたいにテンパったら、それこそ大変じゃないか。で? 食べる?」
「……食べる」
ケーキのお皿を手に取ると、フォークを持って椅子に座った。
「ねえ、まさかこのケーキ、お義兄さんが作ったんじゃないよね?」
一口食べながら、思いついたことを口にする。
「どうだろう。でも、それがなにか問題?」
「だってさ、お姉ちゃんだけでなく、お義兄さんにまで筒抜けって、いたたまれないじゃない。明日、顔を合わせるんだよ?」
それを思うと、今からちょっと憂鬱だ。
「たとえそうだとしても、別に問題ないんじゃ? あっちだって似たような道を通ってるんだし」
「やっぱり修ちゃん、落ち着きすぎ」
「これでも落ち着こうと頑張ってるんだけどなあ……」
修ちゃんは、紅茶をカップに注ぎながらつぶやいた。
「とても頑張ってるようには思えないけど」
「本当ならケーキなんてそっちのけで、まこっちゃんのこと、食べちゃいたいのに、こうやってケーキを一緒に食べてるって、俺、けっこう紳士的だと思うよ?」
そう言いながら、ケーキを乗せた皿を手に私の前のイスに座る。そしてケーキを一口、口にほうりんだ。
「うまー。やっぱりホテルのケーキって一味違うなあ」
「学校でケーキって出るの? デザート的なもので」
「こういうのはないかなあ……」
「じゃあ、ケーキを食べたくなったら、休みの日に学校の外に出かけるしかないんだ?」
「野郎ばっかりで喫茶店でケーキなんて、ちょっと笑えない光景だけどね」
お皿に乗ったケーキを食べ終わるまでは、いつものように何気ない会話を続けた。だげど私の心臓はバクバクして落ち着かない。修ちゃんはどうなんだろう。見た感じでは本当に落ち着いて見えるけど。
「まこっちゃん?」
「……なに?」
「俺を探るような目で見ないでくれる?」
「別にそんな目で見てないよ」
「嘘ばっか。なんでこいつは、そこまで落ち着いてやがるんだって顔してるよ」
相変わらず修ちゃんはするどい。
「……だって、落ち着いて見えるんだもん。私、きっとケーキの味、半分ぐらいしか感じてない気がする」
とにかくこういうことが初めての私にとっては、これから起きるであろうことはすべてが未知の世界。落ち着かない気分になるのは当たり前だと思う。それに比べて修ちゃんの落ち着きっぷりときたら、腹が立つよりうらやましい。
「そりゃまあ、まこっちゃんは初めてだからしかたないけどさ」
「修ちゃんは初めてじゃないってことだよね?」
とたんに修ちゃんがむせた。
「なんてこと言うんだよ」
「だって」
「そこが気に入らないとか?」
「別に気に入らないわけじゃないよ。それはそれ、これはこれだから」
実際のところ、修ちゃんは防大に進学するまでは遠く離れた場所に住んでいた。そこで高校生まで過ごしたのだから、誰かと付き合っていたとしても不思議でもなんでもない。ただ、じゃあその人とはどうして別れたんだろう?とか、なんで今は私なんだろう?とか、その点はそれなりに気にはなる。
「まあ……少しは気になるかな」
「二股かけてるとかそういうのはないから」
「修ちゃんが、そういうことするような人じゃないのはわかってる」
「それを聞いて安心した」
修ちゃんがニッコリと笑った。
「でもさ、まこっちゃんが今まで誰とも付き合わずにいてくれたことは、すごく嬉しいんだよな」
「別に、好きで誰とも付き合わなかったわけじゃないんだけどね……」
高校までは女子校で、同世代の異性と顔を合わせる機会がなかっただけなのだ。そして大学は共学ではあったけど、気が合うゼミの友達という存在がほとんどで、異性として意識する存在はあらわれなかった。それが幸か不幸なのか、その点は自分でもよくわからない。
「うん。それでも嬉しい。そのおかげで俺はこうやって、まこっちゃんの初めてをもらえるわけだし。それに対して、俺がまこっちゃんにあげられるものはなんだろうな」
しばらく考え込んでから言葉を続けた。
「俺にあげられるものって、まこっちゃんが俺にとって、『最後の人』になる、ぐらいしかないかな」
「それって一生、浮気はしません宣言?」
「そうとも言うかな。ただ、俺は自衛官になるわけだし、これからのことを考えると、そう簡単に死ぬまで一緒にいてくださいとは言えないかな」
お皿をテーブルに置くと、立ち上がって私の横にくる。
「だけどまこっちゃんのことは好きだから、できたらずっと一緒にいたいと思うよ」
「ずっとってどれぐらい?」
「そうだなあ。縁側でのんびりとお茶を飲みながら、孫やひ孫が庭の松によじ登るのを見るぐらいまで?」
「あの松、お婆ちゃんと同い年ぐらいって知ってた?」
私がそう言うと、修ちゃんはニッコリとしてから、私の手からケーキのお皿を取り上げた。
44
あなたにおすすめの小説
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
白衣の下 第一章 悪魔的破天荒な医者と超真面目な女子大生の愛情物語り。先生無茶振りはやめてください‼️
高野マキ
ライト文芸
弟の主治医と女子大生の甘くて切ない愛情物語り。こんなに溺愛する相手にめぐり会う事は二度と無い。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる