猫と幼なじみ

鏡野ゆう

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帝国海軍の猫大佐 裏話

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 1

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帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです


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 その日、海上自衛隊のSNSのアカウントを見ていたら、しゅうちゃんが乗艦している護衛艦の一般公開の予定が載っていた。去年から任務に就いた護衛艦ということで、ここ最近はマニアさん達に写真を撮られまくっている。そのうち行きたいなと思っていたのだ。これはいい機会。

「ねえねえ、かず君、パパのおふねを見にいけるけど、行きたい?」
「パパのおふねー?」

 猫達と一緒に、テレビを見ていたおちびさんに声をかける。

「うん」
「お泊りー?」
「パパはお仕事だけど、お泊りもできると思うよー?」
「いくー!!」

 修ちゃんがくれの総監部で勤務していた時、お姉ちゃん達と家族旅行がてらに見学しにいったことがある。その時はまだ小さすぎて退屈だったらしく、大変だった。おとなしくしていてくれたのは、寝ている時と新幹線に乗っている時ぐらい。でも、今は少し大きくなったし、大好きなパパが乗っている護衛艦だから大丈夫かな。

「パパに聞いてみようか?」
「さんせーい!!」

 時計を見れば夕方の四時。たしか今日は夜勤明けで休みのはずだから、この時間なら電話に出てくれるはずだ。スマホを手にとって電話をかける。

「出てくれるかなー。ああああ!! シイタケ! マイタケ! カーペットで爪とぎしないでー! 本当にやめてー!!」

 猫達は、かず君の注意が自分達からそれたのが気に入らないのか、その場でカーペットに爪を立てた。そしてバリバリと激しく爪をとぎはじめる。

『はい……大丈夫?』

 叫んでいる途中で修ちゃんが電話に出た。

「だ、大丈夫。カーペットが猫達に襲われて存亡の危機だけど。もしかして寝てた?」
『いや、起きてたよ。そろそろ夕飯の準備をするかなって考えてたところ』
「今、電話で話しても大丈夫かな?」
『なにかあった? カーペットの危機以外に』
「あのさ、いまネット見たら、修ちゃんとこのみむろ、一般公開があるって出てたんだよ」
『あー……』

 どうやら察してくれたようだ。ただし浮かない口調だけど。

「なに、気乗りしないの? パパの仕事する姿を見せる良い機会じゃ?」
『本音はまこっちゃんが見たいだけだよな?』
「え、そんなことないですよ。大事な広報活動の場に、身内の若者をつれていこうと思っているだけ」
『その若者が入隊する年齢になるまで、あと何年だよ』

 修ちゃんが電話の向こうで笑った。

「ダメなのー?」
『ダメとは言ってないよ』
「でもイヤそうだよねー?」
『そんなことないさ。和人かずとの顔も見られるし、来てくれるのは大歓迎』

 それは事実だと思う。艦艇勤務になるとなかなか戻ってこれない。今は比較的近い場所だけど、これが他府県に異動なったら、それこそ半年に一度、会えるか会えないかになってしまう。

「でも見学に行くのは歓迎したくない、と」
『気恥ずかしいんだよ、俺だってさ』
「なんで恥ずかしいのー? 家族持ちなのは自分だけじゃないでしょー?」
『まあそうなんだけど。でも、本音はまこっちゃんがみむろを見たいんだよな?』
「そこが大事なの?」
『けっこう重要だと思うけど? そのへんはどうなんですか、奥様』
「まあ、見たいですね。せっかくピカピカの新しいふねなわけですし」

 中を見る機会は少ないからなおさらだ。

『じゃあ条件を出す』
「えー? なんでそこで条件なのー?」
『まあまあ。そんなに難しいことじゃないから』

 そうは言うけど、修ちゃんの出す条件て、たまにとんでもなく難易度が高いから困るんだよ……。

『簡単だよ。当日は艦長のお茶会に出席すること』
「ほらーー! やっぱり簡単じゃないじゃん!!」

 本当なら修ちゃんは今度の艦艇勤務では、横須賀よこすかに行くはずだった。それを「みむろ」の艦長に任命された大友おおとも一佐が、副長として呼んでくれたのだ。他の幹部の人達も、今回は艦長さんに呼ばれた人がほとんどらしい。それを聞いた時、お役所ってマニュアル通りにしか動かないと思っていたけど、意外と臨機応変りんきおうへんなんだなって感心した。

 言いたいのはそこじゃなく、問題なのは修ちゃんが今、「みむろ」の副長だってことだ。

「それって、副長夫人として出席しろってことでしょー? 私が人見知りなの知ってて、その条件出すわけでしょー?」
『たまには俺の仕事を手伝ってくれよ。普段は、山部やまべの奥さんが引き受けてくれてるんだしさ』

 山部さんとは「みむろ」の航海長をしている幹部さんだ。ちなみに防大では、修ちゃんの二つ下だった人。

「じゃあ私からも条件があるー」
『なに』
「コーヒーは飲めないから、当日は紅茶かなにか用意してください」
『えー? それ、俺が艦長に言うわけ?』
「なによー、だったら私から大友さんに電話しようか? 電話番号、奥様から聞いてるよ?」

 電話の向こうで大きなため息が聞こえた。

『……その条件、飲みます。艦長にも俺から頼んでおく。ただし確約はできないぞ?』
「その時は、コーヒーをお茶に見えるぐらい薄めるから大丈夫」
『……無理にでも別の飲みものを用意したほうが、平和な気がしてきた……』
「がんばれ、修ちゃん!」
『……おう』

 商談成立!!
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