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帝国海軍の猫大佐 裏話
一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 8
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帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです
+++++
「こんにちはー」
「こんにちわっ」
ゲートを入ると、いつものように受付があった。声をかけられたおちびさんは、元気にあいさつをする。時計を見れば約束した時間の十分前。なかなかいい感じで現地到着だ。
「かず君、ちょっと止まって、これを首からかけて」
受付で渡されたネックストラップを渡す。
「あ、パパいるー!!」
「ちょっと、それより先に首に……」
私の言葉は丸っと無視された。修ちゃんの姿を見つけたおちびさんは、入場者証を振り回しながら、全力でみむろめがけて走っていく。
「もー、またなのー?! いいかげんにして――!!」
岸壁から落ちでもしたら大変なので、慌てて追いかける。なんで幼稚園児なのにこんなに足が早いの?! 甲板に出ていた修ちゃんが気づいて、桟橋をこっちに渡ってくる。助かった! 少なくともかず君が桟橋に突撃することはなくなった。
「本当に元気すぎて困る……」
「お疲れ、まこっちゃん」
「あいさつ代わりの社交辞令とかじゃなくて、本当に疲れてるんですけどね、私」
「だろうねえ」
おちびさんにまとわりつかれながら、修ちゃんは笑った。
「幼稚園児の瞬発力なめてた。パパ好き好きモードが落ち着くまでは、ロープでつないでおきたい……」
「うちの余っているロープはあったかな?」
冗談なのか本気なのか。でも護衛艦に置いてあるロープって、頑丈そうだよね。
「修ちゃん、降りてきちゃって良かったの? 見学している人に、写真撮らせてくれって言われるよ?」
「小さい子供と一緒なら、逆にその心配がないんだよ」
「あ、そうなんだ」
考えたら肖像権がなんたらとか、小さい子供の顔をそのまま出すのはどうのとか、最近のSNS事情は色々と難しい。よそのお子さんの写真を勝手に撮るのもよろしくないし、ましてやそれを流すことなんてもってのほか。だから、その「よそのお子さん」がくっついている限り、修ちゃんはいきなり写真を撮られる心配はないということだ。
「今、見学してる人、乗ってるの?」
「ちょうどお昼時間で、午後からの見学はあと五分で開始ってところだな」
「他の御招待客は?」
「皆さん、そろそろじゃないか? 多分あの集団じゃ?」
「あ、藤原さーん」
振り返ると、見知った顔の奥様がニコニコ顔で手を振ってきた。この艦の先任伍長をしている、清原海曹長さんの奥様だ。
「清原さーん、おひさしぶりですー」
「もー、なかなかこっちに来てくれないから、寂しいじゃないの! 艦長のお茶会でやっと来てくれたのね!」
「すみません。仕事と子供の幼稚園の都合が、なかなか合わなくてー」
これは嘘じゃない。休みの時は平日にため込んだ家事を片づけたいし、自分達が疲れない日程を組むのは難しい。無理に顔を出さなくても大丈夫だよって言ってくれる、修ちゃんや他の幹部の奥様の達の言葉に甘えっぱなしだ。
「清原さん、今日のお茶会の参加メンバーは、どういった皆様ですか?」
「曹候補で入隊して、今年からみむろで教育訓練を始めた、海士長君達の親御さん達。こちらは比良さん。副長の下にいる海士長君のお母さんよ」
「はじめまして。藤原の家内です」
「こちらこそはじめまして。いつも息子がお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそー」
紹介されたお母さんに頭をさげた。それから順番に紹介されたので、それぞれの親御さんとごあいさつをしていく。都合がつかず、今日は欠席されたご家族のかたも何人かいらっしゃるらしい。
「副長ー」
「なんだ?」
甲板からお声がかかった。
「艦長が、少し早いけど皆さんをご案内しろって」
「わかった。……和人、ママと手をつないで」
いつもはニコニコしているパパがお仕事モードになったのを感じたのか、おちびさんはおとなしく私と手をつないだ。
「では皆さん、ご案内します。艦内の通路は非常にせまく、階段も急です。上り下りをする時は手すりをもって、十分に気をつけてください。十分に」
最後、私の顔を見た。おちびさんをつれている私は、特に気をつけるようにと言いたいらしい。わかってますよ。十分に気をつけます。修ちゃんを先頭に、清原さん、ご家族の皆さんが乗艦する。私とおちびさんは、一番最後に桟橋を渡った。
「にゃんこ!」
「え?」
おちびさんの声に、全員が廊下の先を見た。
「かず君、さすがに艦内ににゃんこさんはいないと思うよ? 桟橋のあたりには野良ちゃんいそうだけど」
「しっぽみえたよ?」
「そうなの?」
「うん」
とは言え、言った本人も自信がなさそう。もしかしたら、お掃除で使うモップを運ぶ隊員さんがいて、その人の姿をチラ見したのかもしれない。
「副長」
途中で伊勢さんが合流した。
「和人、伊勢さんとトレーニングルームに行ってくるか? 立検隊がトレーニングするって話だったぞ?」
「いくー!」
「じゃあ伊勢、頼む。ああ、これも頼む」
修ちゃんはズボンのポケットから何か出して、伊勢さんにサッと渡した。目の錯覚でなかったら、紙パックのリンゴジュースだったような気がする。
「じゃあ和人君、行こうか。奥さん、またのちほど」
「お願いします」
おちびさんはご機嫌な様子で、伊勢さんと手をつないで行ってしまった。
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「こんにちはー」
「こんにちわっ」
ゲートを入ると、いつものように受付があった。声をかけられたおちびさんは、元気にあいさつをする。時計を見れば約束した時間の十分前。なかなかいい感じで現地到着だ。
「かず君、ちょっと止まって、これを首からかけて」
受付で渡されたネックストラップを渡す。
「あ、パパいるー!!」
「ちょっと、それより先に首に……」
私の言葉は丸っと無視された。修ちゃんの姿を見つけたおちびさんは、入場者証を振り回しながら、全力でみむろめがけて走っていく。
「もー、またなのー?! いいかげんにして――!!」
岸壁から落ちでもしたら大変なので、慌てて追いかける。なんで幼稚園児なのにこんなに足が早いの?! 甲板に出ていた修ちゃんが気づいて、桟橋をこっちに渡ってくる。助かった! 少なくともかず君が桟橋に突撃することはなくなった。
「本当に元気すぎて困る……」
「お疲れ、まこっちゃん」
「あいさつ代わりの社交辞令とかじゃなくて、本当に疲れてるんですけどね、私」
「だろうねえ」
おちびさんにまとわりつかれながら、修ちゃんは笑った。
「幼稚園児の瞬発力なめてた。パパ好き好きモードが落ち着くまでは、ロープでつないでおきたい……」
「うちの余っているロープはあったかな?」
冗談なのか本気なのか。でも護衛艦に置いてあるロープって、頑丈そうだよね。
「修ちゃん、降りてきちゃって良かったの? 見学している人に、写真撮らせてくれって言われるよ?」
「小さい子供と一緒なら、逆にその心配がないんだよ」
「あ、そうなんだ」
考えたら肖像権がなんたらとか、小さい子供の顔をそのまま出すのはどうのとか、最近のSNS事情は色々と難しい。よそのお子さんの写真を勝手に撮るのもよろしくないし、ましてやそれを流すことなんてもってのほか。だから、その「よそのお子さん」がくっついている限り、修ちゃんはいきなり写真を撮られる心配はないということだ。
「今、見学してる人、乗ってるの?」
「ちょうどお昼時間で、午後からの見学はあと五分で開始ってところだな」
「他の御招待客は?」
「皆さん、そろそろじゃないか? 多分あの集団じゃ?」
「あ、藤原さーん」
振り返ると、見知った顔の奥様がニコニコ顔で手を振ってきた。この艦の先任伍長をしている、清原海曹長さんの奥様だ。
「清原さーん、おひさしぶりですー」
「もー、なかなかこっちに来てくれないから、寂しいじゃないの! 艦長のお茶会でやっと来てくれたのね!」
「すみません。仕事と子供の幼稚園の都合が、なかなか合わなくてー」
これは嘘じゃない。休みの時は平日にため込んだ家事を片づけたいし、自分達が疲れない日程を組むのは難しい。無理に顔を出さなくても大丈夫だよって言ってくれる、修ちゃんや他の幹部の奥様の達の言葉に甘えっぱなしだ。
「清原さん、今日のお茶会の参加メンバーは、どういった皆様ですか?」
「曹候補で入隊して、今年からみむろで教育訓練を始めた、海士長君達の親御さん達。こちらは比良さん。副長の下にいる海士長君のお母さんよ」
「はじめまして。藤原の家内です」
「こちらこそはじめまして。いつも息子がお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそー」
紹介されたお母さんに頭をさげた。それから順番に紹介されたので、それぞれの親御さんとごあいさつをしていく。都合がつかず、今日は欠席されたご家族のかたも何人かいらっしゃるらしい。
「副長ー」
「なんだ?」
甲板からお声がかかった。
「艦長が、少し早いけど皆さんをご案内しろって」
「わかった。……和人、ママと手をつないで」
いつもはニコニコしているパパがお仕事モードになったのを感じたのか、おちびさんはおとなしく私と手をつないだ。
「では皆さん、ご案内します。艦内の通路は非常にせまく、階段も急です。上り下りをする時は手すりをもって、十分に気をつけてください。十分に」
最後、私の顔を見た。おちびさんをつれている私は、特に気をつけるようにと言いたいらしい。わかってますよ。十分に気をつけます。修ちゃんを先頭に、清原さん、ご家族の皆さんが乗艦する。私とおちびさんは、一番最後に桟橋を渡った。
「にゃんこ!」
「え?」
おちびさんの声に、全員が廊下の先を見た。
「かず君、さすがに艦内ににゃんこさんはいないと思うよ? 桟橋のあたりには野良ちゃんいそうだけど」
「しっぽみえたよ?」
「そうなの?」
「うん」
とは言え、言った本人も自信がなさそう。もしかしたら、お掃除で使うモップを運ぶ隊員さんがいて、その人の姿をチラ見したのかもしれない。
「副長」
途中で伊勢さんが合流した。
「和人、伊勢さんとトレーニングルームに行ってくるか? 立検隊がトレーニングするって話だったぞ?」
「いくー!」
「じゃあ伊勢、頼む。ああ、これも頼む」
修ちゃんはズボンのポケットから何か出して、伊勢さんにサッと渡した。目の錯覚でなかったら、紙パックのリンゴジュースだったような気がする。
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