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本編
第二話 一号&二号未知との遭遇 そして初めて挟まる日
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着ぐるみを着たまま、墓地を歩くというのもなかなかシュールだと思うんだが、どうなんだ?
え? どうして墓地を歩いているかって? そりゃ、商店街に行く近道なんだからしかたがない。正規ルートで行くと、裏から車が通る道路に出て商店街の正面へ……なんてルートだ。こんなのが一般道をヨタヨタと歩いていたら、110番に通報されるだろ?
商店街に出ると左右を見渡す。こりゃ、視界を確保するのがなかなか大変だな。首が回らないから、体ごと右向いたり左向いたりしなきゃならないし。
お、いたいた、くじ引きやらなにやらしているせいか、けっこうな人だかりだ。
そちらへとノシノシと歩いていくと、そこで子供たちの相手をしていた一号が、こちらに視線を向けた……んだと思う。それまでの動きがピタリと止まった。驚いているようだ。
だが、後ろにいる篠宮のオッサンや、他の自治会のメンバーがニヤニヤしているところを見ると、他の連中は義姉さんが言っていた通り、俺が来るのを待っていたらしい。つまり、義姉さんが知らせたというのは、冗談ではなく本当だったわけだ。
固まったままの一号、おいおい、大丈夫か? 心配になって歩み寄ると、何気にブヨンと抵抗を感じてよろけてしまった。あ、しまった、目測をあやまってぶつかったみたいだ、一号が視界から消えた。おい、どこ行った? 足元に転がっちまったか? これ、足元が見えないし、しゃがめないんだよな。
ゲラゲラ笑いながら篠宮のオッサンがやってきて、俺の前でしゃがみこむと一号を抱き起した。こりゃ、誰かに近づく時は、気をつけなきゃ駄目だな……って、俺、また入るつもりでいるのか?
「おい、気をつけろよ。こいつはお前と違って、非力なんだからよお」
「うるせえよ、おっさん」
「おい、お前はしゃべったらダメなんだぞ。黙って愛想をふりまいてろ、可愛くな」
可愛く……ほお、可愛くねえ……。にやにや笑っているオッサンに向けて、これでも食らいやがれと頭突きをかましてやった。ふふん、どうだ、可愛いだろう?
「おまっ、それのどこが可愛いってんだ?!」
今度はそのままジャンプしながら体当たり。そこはさすが酒屋のオヤジ、普段から足腰を鍛えているだけあって、しっかりと両足で踏ん張って踏みとどまった。さすがだな、おっさん、やるじゃないか。
この一件のせいで、キーボ君二号は少々ヤンチャであるということになってしまったのだが、これは俺の自業自得ってやつだな、いやあ、まいった。
+++++
「おい、京子!」
その日、交番勤務の三宅巡査が、勤務日誌を書いた時、いきなりガタンという音がして、それと同時に声をかけられた。彼女が顔を上げると、派出所の入口で、青いものがジタバタしている。
キーボ君がなんで派出所の入口にはさまっているんだろう?
「京子、これ何とかしてくれっ」
しかもこちらの名前を知っていて、助けを求めているようだ。
「えっと……どちら様?」
「俺だよ、恭一だよ!」
「恭ちゃん?」
しかも、どうやらキーボ君の中にいるのは、自衛官になって地元を離れた幼なじみの男らしい。椅子から立ち上がって。ジタバタしているキーボ君のところへと向かう。
「なんではさまってるのよ、そんなところで」
「んなこと言ったって、入れると思ったんだよ。なんとかして入れてくれ」
「自衛官が情けないわね。ちょっと待って……これで、どう?」
はさまってジタバタしているキーボ君の、脇のあたりを押してへっこませる。
なんとか動けそうなぐらいの空間は、できたと思うんだけど。それでもかなり無理やり体を押し込んできているようで、ドアとドア枠がミシミシと嫌な音を立てている。入口が壊れたら、防衛省に修理代を請求しても良いのかしら?
「んー……いけるか、な。入れたっ」
最後はズポッという感じで、前のめりによろめきながら、派出所の中へ転がり込んだ。
「んで? なんの用なのよ、これ、出るのがまた大変よ?」
「トイレ!」
「え?」
「トイレ貸してくれ。その前に後ろのチャック開けてくれ!」
そう言いながら、キーボ君はせわしなく体を揺する。
「なんでこんなところで……」
「しかたないだろ。中の人が見えたら子供の夢が壊れるって、自治会の爺さん達が言うんだから。だからここまで走ってきた。とにかくチャックおろせ」
「はいはい。まずは奥の部屋に行って。ここ、外から丸見えだから」
キーボ君を奥の休憩室へと連れていく……のもこれまた大変。あちらこちらの物を引っかけるものだから、彼が通った後は、ありとあらゆるものが床に落ちていた。
「はあ……これ、誰が片づけると思ってるの?」
「謝るのも手伝うのも後で。とにかくトイレに行かせてくれ!」
「はいはい」
チャックをおろすと、慌てた様子の幼なじみが飛び出してきた。
「久しぶりだな。だけど挨拶は後で!」
そう言って、久し振りに顔を合わせた幼なじみはトイレに駆け込んだ。
そんなわけで、希望が丘駅前派出所はキーボ君のトイレ休憩の場所として定着することになり、彼の通り道となる、扉から休憩室へと続く道のりにあった机や棚は、いつの間にか壁際へと押しやられていた。
え? どうして墓地を歩いているかって? そりゃ、商店街に行く近道なんだからしかたがない。正規ルートで行くと、裏から車が通る道路に出て商店街の正面へ……なんてルートだ。こんなのが一般道をヨタヨタと歩いていたら、110番に通報されるだろ?
商店街に出ると左右を見渡す。こりゃ、視界を確保するのがなかなか大変だな。首が回らないから、体ごと右向いたり左向いたりしなきゃならないし。
お、いたいた、くじ引きやらなにやらしているせいか、けっこうな人だかりだ。
そちらへとノシノシと歩いていくと、そこで子供たちの相手をしていた一号が、こちらに視線を向けた……んだと思う。それまでの動きがピタリと止まった。驚いているようだ。
だが、後ろにいる篠宮のオッサンや、他の自治会のメンバーがニヤニヤしているところを見ると、他の連中は義姉さんが言っていた通り、俺が来るのを待っていたらしい。つまり、義姉さんが知らせたというのは、冗談ではなく本当だったわけだ。
固まったままの一号、おいおい、大丈夫か? 心配になって歩み寄ると、何気にブヨンと抵抗を感じてよろけてしまった。あ、しまった、目測をあやまってぶつかったみたいだ、一号が視界から消えた。おい、どこ行った? 足元に転がっちまったか? これ、足元が見えないし、しゃがめないんだよな。
ゲラゲラ笑いながら篠宮のオッサンがやってきて、俺の前でしゃがみこむと一号を抱き起した。こりゃ、誰かに近づく時は、気をつけなきゃ駄目だな……って、俺、また入るつもりでいるのか?
「おい、気をつけろよ。こいつはお前と違って、非力なんだからよお」
「うるせえよ、おっさん」
「おい、お前はしゃべったらダメなんだぞ。黙って愛想をふりまいてろ、可愛くな」
可愛く……ほお、可愛くねえ……。にやにや笑っているオッサンに向けて、これでも食らいやがれと頭突きをかましてやった。ふふん、どうだ、可愛いだろう?
「おまっ、それのどこが可愛いってんだ?!」
今度はそのままジャンプしながら体当たり。そこはさすが酒屋のオヤジ、普段から足腰を鍛えているだけあって、しっかりと両足で踏ん張って踏みとどまった。さすがだな、おっさん、やるじゃないか。
この一件のせいで、キーボ君二号は少々ヤンチャであるということになってしまったのだが、これは俺の自業自得ってやつだな、いやあ、まいった。
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「おい、京子!」
その日、交番勤務の三宅巡査が、勤務日誌を書いた時、いきなりガタンという音がして、それと同時に声をかけられた。彼女が顔を上げると、派出所の入口で、青いものがジタバタしている。
キーボ君がなんで派出所の入口にはさまっているんだろう?
「京子、これ何とかしてくれっ」
しかもこちらの名前を知っていて、助けを求めているようだ。
「えっと……どちら様?」
「俺だよ、恭一だよ!」
「恭ちゃん?」
しかも、どうやらキーボ君の中にいるのは、自衛官になって地元を離れた幼なじみの男らしい。椅子から立ち上がって。ジタバタしているキーボ君のところへと向かう。
「なんではさまってるのよ、そんなところで」
「んなこと言ったって、入れると思ったんだよ。なんとかして入れてくれ」
「自衛官が情けないわね。ちょっと待って……これで、どう?」
はさまってジタバタしているキーボ君の、脇のあたりを押してへっこませる。
なんとか動けそうなぐらいの空間は、できたと思うんだけど。それでもかなり無理やり体を押し込んできているようで、ドアとドア枠がミシミシと嫌な音を立てている。入口が壊れたら、防衛省に修理代を請求しても良いのかしら?
「んー……いけるか、な。入れたっ」
最後はズポッという感じで、前のめりによろめきながら、派出所の中へ転がり込んだ。
「んで? なんの用なのよ、これ、出るのがまた大変よ?」
「トイレ!」
「え?」
「トイレ貸してくれ。その前に後ろのチャック開けてくれ!」
そう言いながら、キーボ君はせわしなく体を揺する。
「なんでこんなところで……」
「しかたないだろ。中の人が見えたら子供の夢が壊れるって、自治会の爺さん達が言うんだから。だからここまで走ってきた。とにかくチャックおろせ」
「はいはい。まずは奥の部屋に行って。ここ、外から丸見えだから」
キーボ君を奥の休憩室へと連れていく……のもこれまた大変。あちらこちらの物を引っかけるものだから、彼が通った後は、ありとあらゆるものが床に落ちていた。
「はあ……これ、誰が片づけると思ってるの?」
「謝るのも手伝うのも後で。とにかくトイレに行かせてくれ!」
「はいはい」
チャックをおろすと、慌てた様子の幼なじみが飛び出してきた。
「久しぶりだな。だけど挨拶は後で!」
そう言って、久し振りに顔を合わせた幼なじみはトイレに駆け込んだ。
そんなわけで、希望が丘駅前派出所はキーボ君のトイレ休憩の場所として定着することになり、彼の通り道となる、扉から休憩室へと続く道のりにあった机や棚は、いつの間にか壁際へと押しやられていた。
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