青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -

鏡野ゆう

文字の大きさ
3 / 22
本編

第三話 二号と愉快な仲間達

しおりを挟む
「プッ」
「グッ」

 目の前にいる矢野やの下山しもやまが、なんとも言えない顔でこちらを見ている。

「マジで安住あずみ?」

 そう言って手をのばし、グワングワンと俺を揺するのは下山。

「揺らすなっ」
「うはっ、安住の声がした! マジかっ」

 目の前で、こちらを愉快そうにながめているのは同僚の矢野と下山。今はオフで見た目は民間人だが、同じ年に自衛隊に入隊し、現在は同じ偵察隊に所属している。そして来月からは、共に第一空挺団に配属されることになった、気の合う仲間だ。

「はー……自衛官以外にも面白いことをしてるんだな、お前」

 矢野が、少しあきれたように言った。

「別に好きでしてるわけじゃねーよ。子供にはまとわりつかれるは、オッサンにはどつかれるは、しかもトイレに行くのも一苦労なんだぞ、こいつ」

 そんなことを話していると、中学生の一団が通りかかった。以前のイベントで、ユルキャラなんてダサいとか言っていた連中だ。ちょっと冷めたことを言うのが大人だと勘違いしている、今時のガキンチョなんだな。ま、何年か前の俺達みたいなものだ。

 そして準備運動には丁度良い相手だ。

「またいた……」

 そう嫌そうな顔をするなよ小僧ども。ちょっと遊んでいかないか?とばかりに、ジャンプしながら手を振って愛想をふりまいてやった。矢野と下山が怪訝けげんな顔をして、ガキンチョ共と俺を交互に見ている。

「なにする気なんだよ、お前」
「ユルキャラはな、子供達と仲良く遊ばなきゃいけないんだとさ」
「……なんかお前、良からぬこと考えてるだろ……」
「なんだ、遊んでやるだけだぞ? 子供達も大騒ぎして喜ぶんだからな」

 そう言って軽くその場でジャンプしてから、ガキンチョ共めがけてダッシュした。俺は実際に見たことないんだが、この青いやつが薄笑いを浮かべながら、ダッシュして自分のほうへとやってくるのは、相当怖いらしい。

 そんなわけで、ガキンチョ共がウギャーッとかギャーッとか言いながら逃げ出した。こういう時の集団心理というのは面白いもので、全員がなぜか同じ方向、しかも商店街のメインストリートをまっすぐに走っていく。もっとばらけて逃げれば良いのにな。ま、最初にターゲットを決めているし、商店街から逃げようとても、先回りするから無駄だけどな。自衛官をなめんなよ? あいつらはこっちの正体を知らないけど。

 ガキンチョ共を追いかけている途中で、買い物の途中らしい、ひょろりとした端正な顔の男とすれ違った。たしか一号の中に入ってる東名とうめい君だったか? 早く交代しろよ、そろそろ俺はあきてきたぞ? 最近、休暇のたびに、こいつを着なきゃいけないのはどうしてなんだ?

「ちょ、なにその早さ、マジ、有り得ねぇぇぇっ!」

 逃げながら叫んでいる男子生徒。この程度で走る速度が落ちるかっつーの。手は上げらけないが、足の部分は見えないだけで、けっこう動くようになってるんだぞ? そら行くぞ、キーボ君ジャンピングアターックッ!!


+++++


「……で?」
「ん?」

 なぜか俺は、パトロール中だった京子きょうこに派出所に連れて行かれて尋問中。しかもキーボ君のままで。最近になって、こいつを着たまま座れるようにと、背もたれのないパイプ椅子まで用意されるようになった。はたから見ると、座っているキーボ君もなかなか可愛いらしい。

「最近、キーボ君二号が、中学生を見るとダッシュで追いかけくるらしいって、変な都市伝説みたいな噂話が流れているんだけど」
「そうなのか。すごいな、キーボ君は伝説にまでなるのか」
「関心してる場合じゃないでしょ?」

 そっと手を中に引っ込めて携帯を引っ張り出す。こういう時は着ぐるみってのは便利だな。とにかく矢野にたのんで、台車で回収してもらわないと。さすがに疲れた。

「ちょっと、きょうちゃん、聞いてる?」
「ああ、聞いてる」

 メール打ってるけどなー。

「まあ、子供達は喜んでいるみたいだから良いけど、怪我人が出たら問題になるんだからね?」
「ちゃんと手加減してるだろ? 俺が手加減せずに頭突きを食らわすのは、篠宮しのみやのオッサンぐらいだよ」

 さっきだって、本気でジャンピングアタックしたわけじゃない。ポーズはしたものの、悲鳴を上げたガキに頭突きを軽く食らわせただけだ。あっちは腰を抜かしてたみたいだけどな。

「そういうことじゃないでしょ? あんまり暴れ回ると、そのうちクレームがくるわよ?」
「俺はめったに出てこないから問題ないだろ。普段はお行儀のよい一号オンリーなんだし。それより京子、お茶くれ。走りすぎて喉がかわいた」
「もう……本当に反省してないんだから……」
「なんだよ、冷めたお子様達ともそうやって、うまくコミュニケーションをとってるんだろ? お蔭で、あいつらもイベントに参加するようになったって言うじゃないか。二号のお蔭だろ」
「そりゃそうだけど……、はい、お茶。こぼさないでね」

 京子は後ろのチャックを少しだけさげて、中にコップを突っ込んできた。それをありがたく受け取る。

「これ、中にポケットとかついてるんだよな。誰か中で住むつもりなのか?」
「知らないわよ、そんなの」

 派出所のドアが軽くノックされる。体ごと振り返れば、矢野がこちらをのぞき込んでいた。

「お迎えが来た。お茶、サンキュー」

 コップを後ろからチョロリと出す。

「恭ちゃん、ほどほどにね?」
「わかってるって。んじゃ」

 矢野が開けてくれたドアを通ろうと体を横にしてみたが、来た時と同じでやはりつっかえた。ふむ、縦も横も大して幅は変わらないのか……。そして俺は、ふたたび中途半端な場所で立ち往生だ。

「なあ京子、ここの派出所のドア、もうちょっとなんとかならないか?」
「なんでキーボ君の、しかも二号の為だけに派出所を改装しなきゃならないのよ。奥の部屋まで行く道を作ってあげただけでも、感謝してほしいぐらいなのに」
「ここに来るたびにつっかえるのも困りもんだぞ……」
「知らないわよ、押すわよ」
「って蹴るなって! いくら外から見えなくても、警官がユルキャラを蹴るってどんなんだよ」
「中が恭ちゃんなんだもの、かまやしないわ、よっ」

 えいっとばかりに一蹴りされて派出所の外に飛び出た。酷いあつかいだな。

「あ、そうだ。京子、こいつら紹介しとく。俺の同僚で矢野と下山。矢野、下山、こっちは三宅京子。俺の幼なじみだ」
「初めまして。恭一がこれ以上バカなことをしないように、ちゃんと見張っててくださいね、お願いします」

 大丈夫ですよ普段のこいつは真面目ですから~と矢野が答え、下山が俺を大きめの台車に乗せた。

「まったく……なんで俺達がお前のお迎えなんだよ」
「たまには良いだろ、民間人のお手伝いだ」
「お前は自衛官だろうが」

 そんなわけで、台車に乗せられて商店街を進む俺の周りには、ふたたび子供達が集まってくる。普段はむさい野郎ばかりの職場なんだ、たまにはこういう雰囲気も楽しいだろ? そう聞いてやると、矢野も下山もなんとも言えない微妙な顔つきになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白衣の下 スピンオフ 18歳 町田柊士の若き日の過ち

高野マキ
キャラ文芸
町田柊士はその厳つく大柄な体躯にも関わらず街の画材店の二階で時を忘れたかのようにデッサンに没頭していた。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

★【完結】棘のない薔薇(作品230327)

菊池昭仁
恋愛
聡と辛い別れをした遥はその傷が癒えぬまま、学生時代のサークル仲間、光一郎と寂しさから結婚してしまい、娘の紅葉が生まれてしあわせな日々を過ごしていた。そんな時、遙の会社の取引先の商社マン、冴島と出会い、遙は恋に落ちてしまう。花を売るイタリアンレストラン『ナポリの黄昏』のスタッフたちはそんな遥をやさしく見守る。都会を漂う男と女。傷つけ傷つけられて愛が加速してゆく。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ワケあり公子は諦めない

豊口楽々亭
ファンタジー
精霊の加護により平和が守られている、エスメラルダ公国。 この国の公爵家の娘、ローゼリンド公女がある日行方不明になった。 大公子であるヘリオスとの婚約式を控えた妹のために、双子で瓜二つの兄である公子ジークヴァルトが身代わりになることに!? 妹になり代わったまま、幼馴染みのフロレンスと過ごすうち、彼女に惹かれていくジークヴァルト。 そんなある日、ローゼリンドが亡骸となって発見されて……───最愛の妹の死から始まる、死に戻りの物語!! ※なろう、カクヨムでも掲載しております。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冷たい舌

菱沼あゆ
キャラ文芸
 青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。  だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。  潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。  その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。  透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。  それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...