恋と愛とで抱きしめて

鏡野ゆう

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番外小話 3

【雪遊び企画2015】雪遊びも命がけ?

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ムーンライトノベルズで開催された菅原一月さま×mo-toさま主催【雪遊び企画】用に作ったお話です。


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「信吾さん!! すっごい雪が積もってるよ!!」

 前の日の夕方から降り出した雪、天気予報では都市部でも積もる可能性がありますなんて言っていたから少しだけ楽しみにしていたんだけど、これはちょっとやそっとの積もり方じゃない。しかもまだ空からは白いモノが降り続いているし関東では珍しいぐらいの大雪。久し振りに家族全員の休みが重なったから皆で何処かに出掛けられたら良いねって話だったんだけどこれはどう考えても無理かな。

「ねえ、信吾さんってば!!」

 まだ目を閉じている信吾さんに声をかけた。私がベッドから出た時点で目を覚ましているのは分かっているんだから寝たふりしてもダメなんだからね? 返事を待っていると少しだけ眉間にシワを寄せて片目を開けるとこちらを軽く睨んできた。せっかくの休みなのにって顔してるのがちょっとおかしい。

「……なんでそんなに朝からテンション高いんだ」
「だって雪が積もってるんだよ? 渉と友里も起こしてくる!!」
「おい、一体なにを……」
「なにをって決まってるじゃない、雪だるま作りをするんだよ。二人が昨日の天気予報を見ながらテレビの前で言ってたでしょ? 早く出掛ける準備して行こうよ」
「俺もか?」
「当たり前。パパが行かなかったら二人ともガッカリする」
「……分かった。だが朝飯を食ってからだぞ」
「うん!!」

 子供より奈緒の方が楽しみにしていたんじゃないのか?って笑いながら呟いている信吾さんを置き去りにして部屋を出ると、まずはリビングの暖房のスイッチを入れてポットに水を入れてスイッチを押した。それから子供達の部屋に行く。

「渉~、友里~、雪が積もってるよー」

 寒くなってからは声をかけても布団の中でモジモジしていることが多い二人も“雪が積もってる”の言葉には即反応して飛び起きた。そして歓声を挙げながら窓に飛びつく。窓から見えるのは空から降ってくる雪と積雪で白くなった街並み。ここから見下ろせる場所にあるいつもの公園も真っ白だ。

「つもってるー!!」
「ゆきだるまつくれるー?」
「歯磨きして、着替えて、朝ご飯を食べてからね。皆で雪だるま作りに行くよー」
「パパもー?」
「うんうん、パパも一緒だから」

 パパも一緒という言葉に大喜びしながら子供達は部屋を飛び出した。こういう体力勝負の遊びは私よりも信吾さんの方が向いているものね、子供達は良く分かってる。はしゃぐ子供達に先ずは歯磨きして顔を洗えって命じている信吾さんの声が聞こえてきた。その命令口調に子供達が喜んで了解しましたー!!と返事をしているのが何ともおかしくて思わず服を用意しながら笑ってしまった。きっとあの様子からして敬礼までしているんじゃないかな。

「奈緒、上着と手袋、それと靴は防水スプレーをかけておいた方が良いと思うぞ」

 私が二人の服を持ってリビングに行くと信吾さんがそう言った。

「そう? 雪だるまを作るぐらいならそこまでする必要は無いと思ったんだけど駄目かな」
「だるまを作って終わりなわけないだろ、なあ?」

 信吾さんは歯磨きをしている子供達を見下ろした。二人は歯ブラシを咥えてニコニコしながら頷いている。雪だるま作りだけでは終わらないってことはもしかして?

「もしかして?」
「一応はハンデとして俺一人とそっち三人な」

 つまりは雪合戦をするって事ね。こんだけ雪が積もっているなら雪玉も作り放題だろうし材料で困ることはないし、子供達の様子からしてやる気満々だ。これは帰ってきたらお風呂に直行しなきゃいけないかも。


+++++


「うひゃっ!!」

 走っている途中で背中に雪の塊が飛んできて後頭部に当たった。もう、信吾さんてば無駄に射程長いし手加減なさすぎて笑えない!! しかも後頭部に当たった雪が首のところに入ってきて冷たいじゃない!! そのまま雪の中をズボズボと自分の陣地に戻ると雪玉をたくさん作っている子供達に声をかける。

「渉、友里!! 先制攻撃してきたパパに反撃開始!!」
「こうげきかいしー!! あゆむちゃん、とつげきー!!」
「りょーかいー!!」

 渉と友里はそれまで作っていた雪玉を持って信吾さんの方へと走っていく。私には容赦なく雪玉をぶつけてきた信吾さんだけど、さすがに子供達には手加減……って、全くしてないじゃないっ!! ぶつける場所は選んでいるみたいだけど確実に二人の足止めを狙っているみたいで、大きな雪玉をぶつけられた渉がその場でつんのめって雪の中に顔を突っ込んで倒れた。うわあ、信吾さんてば絶対に本気でぶつけてるよ。

「信吾さん、手加減しなさすぎー!!」
「なに言ってるんだ、そっちは三人もいるんだぞ、孤軍奮闘中の俺が手加減なんて出来る筈ないだろ」
「ハンデとか言ったのは信吾さんのくせにー!」
「だから三人相手に頑張ってるんだろ。ほら、友里、足が止まってるぞ」

 そう言って笑いながら今度は友里に雪玉を投げつけた。一つ目は何とかしゃがんで避けた友里も直ぐに飛んできた二つ目の雪玉にはなすすべもなくてそのままおでこに直撃で引っ繰り返ってしまった。手加減できないなんて絶対に嘘、信吾さんに手加減するつもりが無いってのが正しいんだと思う、絶対。

「ほらほら、奈緒。子供達が危険な目に遭っているというのに何を呑気に眺めてるんだ」
「もう、最初に雪だるまを作ってからにしようって言ってたのに何でいきなり戦闘開始なのよう!!」
「動いた方が寒くないだろうが」
「だからって容赦なさすぎ!!」

 私が雪玉を作りながら文句を言っている間に子供達は起き上がって手元の雪をかき集めて次の雪玉を作り始めた。少なくともそうしている間は信吾さんも雪玉をぶつけてくることはない。つまりは雪玉を手にした途端にターゲットにされるってこと。

「むううう、まだ一つも信吾さんにヒットさせてないよね……」

 あっちの方が射程が長いから仕方がないけど何とか一つでもぶつけないと悔しい。何かいい方法は無いものか……そんなことを考えながら雪玉を手に立ち上がったところで顔面に雪玉がぶつかってきてそのまま尻餅をついてしまった。もう……信吾さんてば本当に容赦なさすぎて笑えない……。

「もう、やだあ……」

 起きたらまた雪玉が飛んでくるからもうこのまま寝てる。ママはもう疲れました、戦線離脱します!! その場で引っ繰り返ったまま子供達の笑いを含んだ悲鳴を聞き続ける。やっぱり体力勝負なことは私には向いてないよ、こういうのは絶対に信吾さん担当だ。次からは遠巻きに見物していよう。

「ママ―、だいじょうぶー?」

 渉の声が近づいてくる。

「いたいのー?」
「んー? パパが手加減してくれないからママはもうここで寝てる」
「かぜひくよー?」

 心配そうに見下ろしてきた渉を見上げながらちょっと黒い考えがよぎった。んーこれってうまくいくかな?

「ママは疲れた、お休み」
「パパよぶー?」
「まだ友里と遊んでるでしょ?」
「でもママのことみてるよ」
「そうなの? でも起きたらまた雪玉とんでくるもん。顔に当たったの痛かったから一回お休み」
「パパー、ママがいたいからおやすみだって」
「大丈夫なのか?」
「わかんない」

 渉は私の顔を心配そうに見下ろしていたけど、私がちょっと黒い成分を含んだ笑みを返したら何か察したみたいで少しだけ悪戯っぽい笑みを返してきた。もしかして私の意図を理解したのかな、まだ幼稚園児なのにその察しの良さはやっぱり信吾さん譲り? こっそりとシーッてしたら頷いてその場にしゃがむとさり気無く自分の方に雪をかき集めはじめた。我が子ながら素晴らしい。その調子で以心伝心の友里にも伝わっていれば完璧なんだけどな。

「奈緒、大丈夫なのか?」

 さすがに私が起きようとしないので心配になったみたいで信吾さんの声も本気で心配してそうな感じ。だいたい思いっ切り顔にぶつけてきておいて大丈夫か?じゃないよ今更。足音が近づいてきて信吾さんが私の顔を覗き込んできた。

「信吾さんのせいでしょ? もう起こして!!」

 そう言って両手を差し出すと信吾さんは私の手を掴んできた。チャーンス!! 思いっ切り体重をかけて信吾さんを引っ張ると不意を突かれたのかよろけて倒れ込んできた。だけどそこであっさりと顔面から雪に突っ込まないところがさすが自衛官って言うか。踏ん張ろうとした信吾さんの背中に渉と友里が背中に飛びついた。さすが双子、ちゃんと以心伝心で伝わっていたのね、さすがだ~凄いぞ、渉と友里。

「お前達!!」

 その場に膝をつくようにして倒れ込んだ信吾さん。こっちの策に嵌ったと気が付いたけど既に手遅れってやつで。渉と友里は反撃ーとか言いながらその場の雪を両手で掻き集め、私が手を掴んでいるせいで思うように反撃できない信吾さんの顔やら頭やらに容赦なく浴びせ始めた。

「奈緒!! お前達、卑怯だぞ!!」
「作戦勝ちなんだからね、ほら、二人ともパパが降参って言うまでやっちゃえー!!」


+++++


「まったく、お前達ときたら……」

 それから暫くして雪まみれになってエレベーターホールの前まで戻って来た時に信吾さんがぼやいた。さすがに子供達の無茶苦茶な雪攻撃には信吾さんも降参するしかなくて、取り敢えずは私達三人の勝ちということで雪合戦勝負は幕引きとなった。信吾さん的には納得できなかったみたいだけどね。だけど雪合戦を先にしたせいで四人とも上から下まで雪まみれになっちゃって、体が温まったから雪だるまを作ろうって状態ではなくなってしまったのでこうやって戻ってきた次第。

「だって、ああでもしないと信吾さんに雪玉あてられないんだもの」
「あれは玉じゃないぞ、ただの雪の塊だ。最初からあの作戦を三人で決めていたのか?」
「ううん、単なる思いつき。二人は私の考えを察してくれただけ。信吾さんだって子供相手に本気で投げてたんだもの、お互い様でしょ? ねー?」
「「ねー!!」」

 子供達に同意を求めるとパパに勝ったことがよっぽど嬉しいのか上機嫌な返事が返ってきた。

「そのうち三人でまた良からぬことを考え付きそうで怖いな、まったく……」

 信吾さんはそう言って苦笑いをした。それから四人で服に積もった雪を掃うとそのままホールに入ってエレベーターに乗り込む。

「お風呂の用意しておいて正解だったかも」
「そうだな、さっさと温まらないと風邪をひきそうだ」

 部屋は暖房をつけっぱなしにしておいたので暖かい。ホッとしながら上着を脱ぐと信吾さんが二人に向かってお風呂にはいるぞーって声をかけた。

「奈緒も一緒にどうだ?」
「さすがに四人で入るのは無理があるから私は後で良いよ、二人のこと任せて良い?」
「ああ。じゃあ渉、友里、服を脱いでお風呂に直行」
「私のことはいいから、ゆっくり温まってきてね」

 そう言って信吾さんに二人のことを任せると子供部屋と私達の寝室を回って三人の服を用意した。お風呂の中からは渉と友里の楽しそうなお喋りが聞こえてくる。パパとのちょっと過激な雪合戦がよっぽど楽しかったみたい。このまま雪が積もったらまた明日もやりたいとか言い出さないかちょっと心配かも。もし明日もしたいとか言い出したら今度は大人しく一人で雪だるまでも作ってよう……。
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