恋と愛とで抱きしめて

鏡野ゆう

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番外小話 4

三匹目のコグマ?

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小説家になろうで書いた『紅き狼の鎮魂歌』関連になります。
あの事件が終息した直後のお話ってことで。


++++++++++


 事態が終息してやれやれと一息をついた。少なくともこの件に関わった全員が無事に帰国するまでは気を抜くこと出来ないしまだやるべきことは残っていたが、ここからはどちらかと言えば政治的な話になるので重光さんや背広組の仕事がメインとなり一連の事態は俺の手からは離れることになる。大使館襲撃時に死亡したかと思われていた駐在官の山崎一尉に関しても一命をとりとめたということで予断は許さない状態ではあるものの一安心だ。

 自宅に戻ると子供達が賑やかにお喋りをしながら朝飯を食べていて、奈緒はそんな二人の相手をしながらさり気無く登校時間が迫っていることを知らせ子供達を急かしている。それはいつもの我が家の朝の風景だ。

「お帰り信吾さん、お疲れ様」

 奈緒はここ暫くのニュースを見て事態を察していたようだがそれ以上のことは何も言わなかった。

「「パパ、お帰りー!!」」
「ただいま。そろそろ時間だが二人とも大丈夫なのか?」
「「大丈夫~~!!」」

 相変わらずこのハモり具合は双子の神秘としか言いようがないなと思いつつ賑やかに話しかけてくる二人を見下ろす。

「信吾さん、コーヒーでも飲む?」

 子供達のお喋りの合間に奈緒が声をかけてきた。

「いや、やめておくよ。今日はさすがに少し仮眠をとった方が良さそうだな」
「お風呂は?」
「シャワーを浴びてくる。渉、友里、時間だぞ」
「せっかくパパが帰ってきたのにー!」
「まだいいじゃーん!」

 いつまでも愉快な会話を聞いていたい気はするがタイムリミットだ。無言で子供部屋を指さすと二人は無念そうにブーブー言いながら自分達の部屋にランドセルを取りに行った。

「帰ってきたら大変そうだ」
「今夜はゆっくり出来ないと覚悟しておかないと」

 二人が元気に家を出ていくと笑いながらベランダへと足を運ぶ。奈緒曰くいつもそこから見送るのが決まりなんだとか。そう言えば子供達が生まれる前も俺のことをそうやって見送っていたなと思い起こす。

 しばらくしてマンションのエントランスから走り出してきた二人がこっちを見上げてジャンプしながら手を振ってきて、下で集まっていた同じ小学校の子供達集団と合流して元気に学校へと出掛けていった。

「今のうちに寝ておいた方が良いと思う。あの様子だと帰ってきたら絶対に信吾さんのそばから離れないと思うから」
「じゃあ先ずはシャワーを浴びてくるか」
「着替えは用意しておくから制服脱いだらそのまま行っちゃって」

 頷きながら出掛けるそぶりを見せない奈緒の様子を不思議に思って声をかけた。

「奈緒、今日は仕事に行かないのか?」
「うん。昨日と今日はカルテを管理しているシステムの入れ替えでね、うちの外来はお休みなの」
「そうだったのか」
「私のところはそれほどでもなかったけど他の外来はこの二日間を捻り出す為の調整が大変だったみたい」

 コンピューター化するのも善し悪しだよねと笑った。

 それから数十分後、シャワーを浴びて風呂場から出ると下着とスエットの上下がバスタオルと共に置かれていた。

「ねえ、お腹に何も入れなくて良いの? お腹は空いてないの?」

 着替えてリビングに行くとキッチンで子供達の朝飯を片付けていた奈緒が顔を上げる。

「今はそっちより睡眠だな」
「そう? だったら信吾さんが寝てる間に私、お買い物に行ってこようかな。何か食べたいものある?」
「今のところ特には。だがそうだなあ……敢えて言うなら抱き枕を所望する」
「抱き枕? 食べ物じゃなくて?」

 信吾さんてば子供みたいだねと笑っている奈緒の横に立つとこちらが言った意味を理解したのか、明らかにギョッとした顔をしてこちらを見上げてきた。

「え、寝るんだよね?」
「ああ。だから抱き枕」
「……」
「休みなんだよな?」

 ベランダに洗濯物が干されているということはそっちの用事は済ませたということだよな、奈緒?と見下ろすと諦めたように溜め息をつかれてしまった。

「もう信吾さんてば……」
「ここ暫く一緒に寝ることが出来なかったんだ、だからそのぐらい良いだろ?」
「まさかこの年で信吾さんを寝かしつけることになるなんて」

 最後のマグカップを未練たらしく拭きながら文句を言う様子に思わず口元がにやけた。その様子からして本気で嫌がっていないことは分かっている、これも我が家の夫婦間のやり取りのお決まりみたいなものだな。

「なんだ不満か?」
「そんなことないけど……」
「だったら行くぞ」

 まだブツブツと何か言っている奈緒の手からフキンを取り上げるとそのまま腕をとって寝室へと引っ張っていく。

「なんで偉そうなのかな」
「俺が群長だから」
「理由になって無い気がする……」


+++


 しばらくしてスッキリした気分で目が覚めた。時計を見れば二時間ほど熟睡したようだ。隣では奈緒が寝る前と同じように腕の中で丸くなって目を閉じていたがどうやら眠っているわけではなさそうだ。こちらが目を覚ました気配を感じたのか片目だけ開けて顔を見上げてくる。

「起きた?」
「ああ、自分で思っていたより疲れていたみたいだな。こんなに寝るとは思ってなかった」
「ずっと緊張が続いていたんでしょ? 仕方ないよ」

 もうそんなに若くないんだし?などと笑いながら呟くのを聞いて少しだけムッとなる。これでも仲間内では森永はいつまで経っても若いままだなと言われているんだがな。

「これでも同世代の連中に比べたらまだまだ元気な方なんだがな」
「そうなの?」
「なんだ、証明してほしいのか?」

 俺の問い掛けにギョッとなる。

「え?! 別にそんなことしなくても良いよ!」
「遠慮は無用だ」

 逃げ出す前に捕まえるとそのまま自分の体の下に組み敷いて着ているものを脱がせにかかる。

「待って信吾さん、も、もう少し休んだらどうかな?! ほら、睡眠だって足りてないんだよね?!」
「十分に休んだ」
「そっちが足りたんなら朝ご飯はどう?! 本当にお腹は空いてない?!」
「先ずはこっちの空腹を満たすのが先だな」
「でもさ、人間、空腹のままはやっぱり……っ」

 まだ続けようとする抗議の言葉をキスで塞ぐと数日ぶりの奈緒の体を味わうことに専念した。指と唇で首筋から爪先にかけてゆっくりと愛撫を続けていくうちに奈緒は大人しくなり、いつもの可愛らしい声をあげて体を震わせ始める。受け入れる準備が十分に整っているのを確かめてから体を起こすと奈緒を見下ろした。

「そろそろいいか? それともここでやめておく?」
「ここで終わらせたら少なくとも一ヶ月はエッチ禁止だからね!」

 潤んだ目で軽く睨んでくるのが何とも愛おしくもう一度キスをするとそのまま体を繋げた。熱く柔らかく自分を包み込んでくれる感触にホッと息を吐く。その安堵感に改めて山崎を生きて愛する妻の元に帰してやることが出来そうで本当に良かったと思った。

「信吾さん?」

 こちらが何か別のことを考えたのを察したのか奈緒が首を傾げて見上げてきた。

「何でもない。さて覚悟は良いか?」
「どういうこと?」
「ここしばらく堅苦しい連中ばかりに囲まれてお行儀良くしていたからな、少し羽目を外したくなった」
「え?!」
「仕事が休みで良かったな」
「えええ?!」


 そういう訳で久し振りに妻を抱き潰すことになったんだが後悔はしていない。


+++++


 そういう訳で信吾さんが満腹になって満足する頃には時計は既にお昼を過ぎていた。お蔭で私はグッタリ。もう相変らず私の旦那様は体力があり過ぎて笑えない……。

「もう……お休みの日って言うのはゆっくり過ごして鋭気を養う日なのに……」
「ゆっくり過ごしているだろ?」
「ベッドの中で信吾さんと運動することはゆっくり過ごすのとは違うの!」

 エッチすることで消費するカロリーは微々たるものだって言うのが世間の常識だけど我が家は絶対に違うと思う。うん、間違いなく違う筈!

「シャワー浴びたい」

 そう言いながら何とか体を起こすと足の間で何かがトロリと零れ出るのが分かった。

「もう信吾さん、シーツ替えなきゃいけないじゃない!! せっかくのお休みの日にやることが増えるなんて!!」

 そう言いながら怒っても相変わらず満足げにニヤニヤしているんだから困った人だよ……。ブツブツ言いながらベッドを出ようとしたところで急に信吾さんが真面目な顔になって私のことを引き留めた。

「奈緒」
「なによう、シャワー浴びてシーツ替えるの手伝ってよね!」
「それのことなんだが……」
「なんのこと?」

 「それ」って? せっかくお洗濯が終わっていたのに更に増えたこと? それとも手伝ってと言ったこと?

「もしかして今日のうちにあっちに戻らなきゃいけいなの?」

 仮眠しに戻ってきただけだった? それにしては仮眠する以上のことをしてノンビリしてたよね?

「仕事のことじゃない。すっかり忘れてた」
「なにを?」

 訳が分からなくて首を傾げる私のお腹に信吾さんが手を当ててきた。

「用心すること」
「……あ」

 言われてみれば信吾さんが用意しているのを見なかったような気が。ってことはさっき体の中から零れ出したのは信吾さんが放ったものってこと?

「大丈夫だったか?」

 そう尋ねられて頭の中にカレンダーを思い浮かべて計算してみる。

「……微妙な感じ。あ、でもほら、信吾さんだって年齢がそれなりにいってるから出すものも薄くなるし可能性は低いんじゃないかなあ」
「おい」
「なんでムッとなるのー。それは医学的にも証明されてるんだから仕方ないんだってば。わあ」

 ムッとなったままの信吾さんに再び押し倒されてしまった。

「それに大丈夫かって聞いてきたってことは妊娠したら困るってことじゃないの?」
「それはそうだが薄いとか言われると腹が立ってきた」
「それってどういう意味」
「こういう意味」

 そう言って信吾さんは満足して終わらせたことをまた最初から始めてしまった、しかもやる気満々な状態で。

「もうっ……天気が良いんだから今のうちにお洗濯をしておきたいのに……っ!!」
「乾燥機という文明の利器があるだろ」
「そういう問題じゃなくてぇ」
「気が散るから静かにしろ」
「えー……」

 そりゃね、渉と友里の手も離れたことだし、もう一人ぐらい子供がいても良いかなって考えることも無いことは無いけど、もしまた双子だったらどうするのって思わない? 望むところだ? そうなの……。 



 それから我が家のリビングのクマちゃんソファにこっそりと小さなクマちゃんを追加したんだけど、信吾さんてば油断しているらしくてまだ気が付いてないんだよね。いつ知らせてあげようかな。
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