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番外小話 4
森永家 in 松島基地 その1
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航空自衛隊松島基地
「うわー、やっぱり凄い人だねえ」
「地元にとっても、年に一度の大きなイベントだからな」
基地の開放時間までまだ一時間ほどあるっていうのに、歩道は既に長蛇の列ができあがっている。横田基地で開催される日米友好祭や、入間基地の航空祭も凄いけれど、ここも負けず劣らずでなかなか凄い人出だ。
「大丈夫か?」
信吾さんがこっちに視線を向ける。
「うん、大丈夫。でも、そろそろ車から降りて足を動かしたいかな」
「あと少しだから我慢してくれ。友里、渉、降りたら先にトイレに行っておけよ。基地内にあるトイレとは別に簡易トイレは用意されているが、そっちは使えないものだと思っておくように」
後ろに座っている二人に信吾さんが声をかけると、ニッコリした二人が揃って敬礼をした。ピッタリとタイミングのあった敬礼ぶりに思わず笑ってしまう。森永家の二人は、ブルーインパルス以上のシンクロ率かも。
「他人事みたいな顔をして笑ってるが、奈緒も同じなんだからな?」
「分かってまーす」
大袈裟さに敬礼の仕草をしてみせると、信吾さんが愉快そうに口元をゆがめた。
ところで、今日の信吾さんはお休みだけど制服姿だ。なんで制服?と首を傾げた私に、一目で自衛隊関係者だと分かる恰好をしていた方が、面倒がなくて良いんだって言った理由が、今ようやく分かった。うん、確かに私服のまま並んでいる人達を追い越していったら、色々と文句を言ってくる人が出そうな感じだものね。
基地前のゲートに辿り着くと、そこに立っていた警備の隊員さんが運転席の方に歩いてくる。信吾さんが名乗ると、少しだけ緊張した表情を浮かべて敬礼をして、ゲートを通してくれた。いくら事前に連絡が来ていたとしても、陸自の特殊作戦群の関係者が自分達の基地を尋ねてきたら、そりゃ緊張するよね、分かる分かる。
「でもさ、こんな風に一足先に入れてもらったら、ずっと並んでいる人達に申し訳ないね」
基地内はまだ開場前ということで、準備をしている隊員さんや売店の準備をする人達が、忙しそうに歩き回っている。その合間を縫うようにして、私達の車は駐車場に向けて進んだ。
「最後尾に並びたいなら止めはしないが、通り過ぎた時の感じでは行列はかなり長かったぞ? あの行列に友里と渉は並びたいか?」
「やだー!」
「せっかく入ったのに、また出るのやだよー」
その問い掛けに、二人はブンブンと頭を横に振る。
「別に私だって並びたいわけじゃないけど、随分と早くから並んでいる人もいるみたいだしさ。のんびり朝ご飯食べて、ホテルを出てきた私達がお先するのが申し訳ないかなあって」
「たまには、自衛官の身内としての特権を使ってもバチは当たらないだろ? 普段は滅多に使おうとしないんだから」
「そう? 習志野では結構良くしてもらってるから、滅多に使ってないことないと思うけど。ねえ?」
後ろの子供達に同意を求めるように声をかけた。
「パラシュートのおもしろかったよ!! また行きたい!! ねえ、渉ちゃん?」
「ぼく、こわかったからもうやりたくないよ」
「えー、渉ちゃん、こんじょうないね」
二人が言っているのは、習志野駐屯地にある、パラシュート降下訓練用の訓練用タワーと呼ばれているもののこと。
優秀な自衛官さん達にだって、何事にも最初の一歩というものがあって、それは空から降下する訓練も例外じゃない。当然のことながら、いきなりぶっつけ本番でヘリや輸送機から飛び降りるなんてのは、漫画かアクション映画の世界の話で、現実世界では、本番前にその訓練用タワーで何度も降下訓練をしてから、本番に臨むのだ。
で、それを友里と渉は体験させてもらったというわけ。もちろん一人ではなく、安住さんと下山さんが付き添ったタンデムという形でなんだけどね。
今の口振りからして、渉はイマイチだったみたいで二度とごめんって感じだけど、友里の方はとても気に入ったみたいだ。
え? 私? もちろん私は子熊ちゃんのこともあるから、丁重にお誘いをお断りして、下から二人が行くり降下してくるのを見学してましたとも。
「葛城のおじちゃんがね、パイロットでも同じような訓練があるって言ってたよ? あとー、戦闘機からとびだす訓練用のもあるんだって!!」
「ええ?」
そんなものがあるの?と横を伺うと、信吾さんは頷いた。そんな信じられないようなものが本当に存在するらしい。
「まさか、やってみたいなんて言ってないよね?」
「うーんとね、なんかすっごく勢いよく飛び出すやつだから、小さい子はだめだって。ざんねーん!!」
友里の言葉に眩暈を覚えてしまう。まったく元気なのは良いことだけど、ちょっと元気すぎない?
「もう、友里ったら……そのうち佐伯さんとも話をして、なにかとてつもない訓練の体験したいとか言い出すんじゃないかって、ママ心配になってきたよ……」
「海上自衛隊の訓練って、なにがあるのかなー?」
ああ、もう、もしかしてヤブヘビだった?!
「ぼく、したくないからね」
「えー、せっかくだからいこうよー」
「やだ」
行こう行こうと騒ぐ友里の横で、渉はイヤだ行かないの一点張りだった。ただ渉の場合、降下訓練のタワーでも本当に怖がっていたのかどうかは謎なのよね。なんとなくタワーでの時も興味深そうに装置を見ていたし、友里よりも冷静な顔して、高いところから降りてくる自分の足元を観察していた様子だったし。
「葛城だ」
指定された駐車スペースに行くと、制服姿の葛城さんが私達のことをニコニコしながら待っていた。
+++
今年の夏休み、私達は、信吾さんのお友達である航空自衛隊の葛城さんが、松島に来ないかと誘ってくれたのでこうやって宮城の地に立っている。
葛城さん自身はもうパイロットではないし、今は横田の航空総隊ってところでの勤務なはずなのに、どうして松島基地なんだろうって不思議に思っているんだけど、その辺は信吾さんも詳しくは聞かされていないらしい。
ま、久しぶりに皆そろっての旅行で子供達も喜んでいるから、まあ良いかって感じかな。子熊ちゃんが生まれたら、またしばらくは皆で旅行なんて出来ないものね。
「ようこそ松島基地へ。二人とも大きくなったなあ、もう三年生だっけか? 早いもんだな、この前生まれたばかりだと思っていたのに。こっちが年をとるはずだな」
車から降りると、そう言いながら葛城さんは私達に向けてにこやかに敬礼をした。
「私達、おねーちゃんとおにーちゃんになるんだよ!!」
「え?」
友里が誇らしげに宣言すると、葛城さんは目を丸くして私の方に目を向けた。そして信吾さんの方を見て意味深な笑みを口元に浮かべる。
「それはそれは、相変わらず仲が良くて結構なこった。しかし奈緒さん、遠距離の移動、体調の方は問題なかったか?」
「この通り元気ですから御心配なく」
少なくとも仙台までは、新幹線でグリーン車でゆったりできたし、ホテルからここまでのレンタカーでの移動も何の問題もなった。最初の時がお二人様だったせいか、今度の妊娠は何となく体が軽い。そんなことを言ったら、友里が私達重たくなかったもんって怒るんだけど。
「元気すぎて俺は逆に心配だ」
信吾さんは溜め息がつくと、葛城さんは嫁さんが元気なのはいいことじゃないかと笑った。
「ところで葛城、どうして横田にいるお前が、俺達を松島基地に招待したのか奈緒が不思議がっているんだがな」
「なんだ、お前、教えてやらなかったのか?」
「大体の見当はついてるが、俺だってお前からちゃんと理由を聞いたわけじゃないぞ? まさか、たまたまって話じゃないよな?」
信吾さんの言葉に、葛城さんはそうだったかな?と首を傾げている。
「まあ話としては簡単なことなんだ。ここはブルーインパルスや救難隊だけじゃなく、F-2戦闘機の訓練課程がある基地でね。つまりF-2戦闘機のパイロットをしていた俺にとっては、第二の母校みたいなもんなんだ。で、若い頃に一緒に飛んでいたヤツがここの司令になったもんだから、ちょっと挨拶に来てやろうと思ったってわけだ」
「岩代だったか?」
「ああ、岩代だ」
岩代さんって?と尋ねたら、葛城さんや榎本さんが、戦闘機パイロットとして訓練を始めた時に一緒だった、いわば同級生さんということだった。
「気難しいヤツでね。俺だけだとあいつのことだから、問答無用で基地から俺のことを追い出しかねない。そこで援護要員として、陸自の森永とその御家族の皆様を招待したってわけだ。どうかな? これで理由は納得してもらえたかな?」
「えっと、つまり私達は、葛城さんの用心棒みたいなものでしょうか……?」
「まあそんなところ。あいつ目つきが森永並みに怖いから、援護をお願いします」
「俺並みというのは余計だ」
もちろん、本気で私達に援護をしろって話ではないんだと思う。だけど、信吾さんと安住さん達もそうだけど、ここの人達ってたまに本気か冗談か判断つかないことをするから、今の葛城さんの言葉も、全てが冗談とは言い切れないのよね。何処までが本気なんだろう。岩代さんって人が、葛城さんを追い出しちゃいそうな人ってのは、本当だったりするのかな?
「言っとくが、戦闘状態に突入したら、俺は妻と子供達を抱えてその場から離脱するからな」
「なんだよ、友達らしく援護射撃ぐらいしろよ」
「俺はお前の僚機じゃない」
ほら、信吾さんでさえこんなこと言ってるんだもの。もしかして、空自同士の痴話げんかに巻き込まれちゃったりする危険性が大いにあり?
「じゃあ今日一日は、基地司令の岩代に遭遇しないことを祈っておくしかないな。さてと、じゃあ俺はホストらしく、ゲストの皆様を案内することにしよう。先ずは何が見たい? やっぱり目玉のブルーからかな? それとも他の戦闘機が良いかな?」
葛城さんは子供達に声をかけた。もちろん子供達の答えは決まっている。
「「ぜんぶー!!」」
その返事に葛城さんはニカッと笑った。
「よーし、じゃあ葛城おじさんが特別に、この基地に配置されている、航空機とヘリ全ての見学ツアーに御案内しよう。で? お前も来るか? それとも嫁と二人っきりで見物するか? お前だったら、一睨みで警備に立っている連中を追いやって、立入禁止の場所にも入れると思うが?」
ニヤニヤした顔で信吾さんにそう問い掛けてくる。
「奈緒はどうしたい? 二人を葛城に任せて俺達は俺達だけで見学をするか? まあ、俺は空自の機体については詳しく分からないものの方が多いから、葛城の解説付きの方が分かりやすいとは思うんだがな」
「……えっと、だったら私も、葛城さんの見学ツアーに参加したいな。今までゆっくり話を聞いたことないし」
「というわけだ」
信吾さんが頷きながら、葛城さんの方に目を向けた。
「了解した。じゃあ四名様ご案内だな。ここが開場して人で溢れかえる前に移動しよう。ああ、その前にトイレに行った方が良いんだよな?」
「ああ。人が少ない今のうちに、済ませておく方が良いだろう」
「じゃあ先ずはそっちに案内しよう。だがここなんてまだマシな方だろ? 入間なんて、人間航空祭って呼ばれるぐらいの人出なんだから。行ったことある?」
葛城さんの質問に友里と渉が元気よく「あるー!」と返事をする。
もともと人が多い入間の航空祭もだけど、年々歳々どこの航空祭でも人が増えているみたいなのよね。その原因の一つに、制服萌えとか鉄分萌えとかそういう流行もあるんだとか。それぞれ自衛隊に興味を持つきっかけは何であれ、信吾さん達の任務について、もっとたくさんの人に理解してもらえるようになると良いんだけどな……。
そんなことを考えながら、楽し気にお喋りを続ける子供達と葛城さんの後ろに、私と信吾さんは続いた。
「うわー、やっぱり凄い人だねえ」
「地元にとっても、年に一度の大きなイベントだからな」
基地の開放時間までまだ一時間ほどあるっていうのに、歩道は既に長蛇の列ができあがっている。横田基地で開催される日米友好祭や、入間基地の航空祭も凄いけれど、ここも負けず劣らずでなかなか凄い人出だ。
「大丈夫か?」
信吾さんがこっちに視線を向ける。
「うん、大丈夫。でも、そろそろ車から降りて足を動かしたいかな」
「あと少しだから我慢してくれ。友里、渉、降りたら先にトイレに行っておけよ。基地内にあるトイレとは別に簡易トイレは用意されているが、そっちは使えないものだと思っておくように」
後ろに座っている二人に信吾さんが声をかけると、ニッコリした二人が揃って敬礼をした。ピッタリとタイミングのあった敬礼ぶりに思わず笑ってしまう。森永家の二人は、ブルーインパルス以上のシンクロ率かも。
「他人事みたいな顔をして笑ってるが、奈緒も同じなんだからな?」
「分かってまーす」
大袈裟さに敬礼の仕草をしてみせると、信吾さんが愉快そうに口元をゆがめた。
ところで、今日の信吾さんはお休みだけど制服姿だ。なんで制服?と首を傾げた私に、一目で自衛隊関係者だと分かる恰好をしていた方が、面倒がなくて良いんだって言った理由が、今ようやく分かった。うん、確かに私服のまま並んでいる人達を追い越していったら、色々と文句を言ってくる人が出そうな感じだものね。
基地前のゲートに辿り着くと、そこに立っていた警備の隊員さんが運転席の方に歩いてくる。信吾さんが名乗ると、少しだけ緊張した表情を浮かべて敬礼をして、ゲートを通してくれた。いくら事前に連絡が来ていたとしても、陸自の特殊作戦群の関係者が自分達の基地を尋ねてきたら、そりゃ緊張するよね、分かる分かる。
「でもさ、こんな風に一足先に入れてもらったら、ずっと並んでいる人達に申し訳ないね」
基地内はまだ開場前ということで、準備をしている隊員さんや売店の準備をする人達が、忙しそうに歩き回っている。その合間を縫うようにして、私達の車は駐車場に向けて進んだ。
「最後尾に並びたいなら止めはしないが、通り過ぎた時の感じでは行列はかなり長かったぞ? あの行列に友里と渉は並びたいか?」
「やだー!」
「せっかく入ったのに、また出るのやだよー」
その問い掛けに、二人はブンブンと頭を横に振る。
「別に私だって並びたいわけじゃないけど、随分と早くから並んでいる人もいるみたいだしさ。のんびり朝ご飯食べて、ホテルを出てきた私達がお先するのが申し訳ないかなあって」
「たまには、自衛官の身内としての特権を使ってもバチは当たらないだろ? 普段は滅多に使おうとしないんだから」
「そう? 習志野では結構良くしてもらってるから、滅多に使ってないことないと思うけど。ねえ?」
後ろの子供達に同意を求めるように声をかけた。
「パラシュートのおもしろかったよ!! また行きたい!! ねえ、渉ちゃん?」
「ぼく、こわかったからもうやりたくないよ」
「えー、渉ちゃん、こんじょうないね」
二人が言っているのは、習志野駐屯地にある、パラシュート降下訓練用の訓練用タワーと呼ばれているもののこと。
優秀な自衛官さん達にだって、何事にも最初の一歩というものがあって、それは空から降下する訓練も例外じゃない。当然のことながら、いきなりぶっつけ本番でヘリや輸送機から飛び降りるなんてのは、漫画かアクション映画の世界の話で、現実世界では、本番前にその訓練用タワーで何度も降下訓練をしてから、本番に臨むのだ。
で、それを友里と渉は体験させてもらったというわけ。もちろん一人ではなく、安住さんと下山さんが付き添ったタンデムという形でなんだけどね。
今の口振りからして、渉はイマイチだったみたいで二度とごめんって感じだけど、友里の方はとても気に入ったみたいだ。
え? 私? もちろん私は子熊ちゃんのこともあるから、丁重にお誘いをお断りして、下から二人が行くり降下してくるのを見学してましたとも。
「葛城のおじちゃんがね、パイロットでも同じような訓練があるって言ってたよ? あとー、戦闘機からとびだす訓練用のもあるんだって!!」
「ええ?」
そんなものがあるの?と横を伺うと、信吾さんは頷いた。そんな信じられないようなものが本当に存在するらしい。
「まさか、やってみたいなんて言ってないよね?」
「うーんとね、なんかすっごく勢いよく飛び出すやつだから、小さい子はだめだって。ざんねーん!!」
友里の言葉に眩暈を覚えてしまう。まったく元気なのは良いことだけど、ちょっと元気すぎない?
「もう、友里ったら……そのうち佐伯さんとも話をして、なにかとてつもない訓練の体験したいとか言い出すんじゃないかって、ママ心配になってきたよ……」
「海上自衛隊の訓練って、なにがあるのかなー?」
ああ、もう、もしかしてヤブヘビだった?!
「ぼく、したくないからね」
「えー、せっかくだからいこうよー」
「やだ」
行こう行こうと騒ぐ友里の横で、渉はイヤだ行かないの一点張りだった。ただ渉の場合、降下訓練のタワーでも本当に怖がっていたのかどうかは謎なのよね。なんとなくタワーでの時も興味深そうに装置を見ていたし、友里よりも冷静な顔して、高いところから降りてくる自分の足元を観察していた様子だったし。
「葛城だ」
指定された駐車スペースに行くと、制服姿の葛城さんが私達のことをニコニコしながら待っていた。
+++
今年の夏休み、私達は、信吾さんのお友達である航空自衛隊の葛城さんが、松島に来ないかと誘ってくれたのでこうやって宮城の地に立っている。
葛城さん自身はもうパイロットではないし、今は横田の航空総隊ってところでの勤務なはずなのに、どうして松島基地なんだろうって不思議に思っているんだけど、その辺は信吾さんも詳しくは聞かされていないらしい。
ま、久しぶりに皆そろっての旅行で子供達も喜んでいるから、まあ良いかって感じかな。子熊ちゃんが生まれたら、またしばらくは皆で旅行なんて出来ないものね。
「ようこそ松島基地へ。二人とも大きくなったなあ、もう三年生だっけか? 早いもんだな、この前生まれたばかりだと思っていたのに。こっちが年をとるはずだな」
車から降りると、そう言いながら葛城さんは私達に向けてにこやかに敬礼をした。
「私達、おねーちゃんとおにーちゃんになるんだよ!!」
「え?」
友里が誇らしげに宣言すると、葛城さんは目を丸くして私の方に目を向けた。そして信吾さんの方を見て意味深な笑みを口元に浮かべる。
「それはそれは、相変わらず仲が良くて結構なこった。しかし奈緒さん、遠距離の移動、体調の方は問題なかったか?」
「この通り元気ですから御心配なく」
少なくとも仙台までは、新幹線でグリーン車でゆったりできたし、ホテルからここまでのレンタカーでの移動も何の問題もなった。最初の時がお二人様だったせいか、今度の妊娠は何となく体が軽い。そんなことを言ったら、友里が私達重たくなかったもんって怒るんだけど。
「元気すぎて俺は逆に心配だ」
信吾さんは溜め息がつくと、葛城さんは嫁さんが元気なのはいいことじゃないかと笑った。
「ところで葛城、どうして横田にいるお前が、俺達を松島基地に招待したのか奈緒が不思議がっているんだがな」
「なんだ、お前、教えてやらなかったのか?」
「大体の見当はついてるが、俺だってお前からちゃんと理由を聞いたわけじゃないぞ? まさか、たまたまって話じゃないよな?」
信吾さんの言葉に、葛城さんはそうだったかな?と首を傾げている。
「まあ話としては簡単なことなんだ。ここはブルーインパルスや救難隊だけじゃなく、F-2戦闘機の訓練課程がある基地でね。つまりF-2戦闘機のパイロットをしていた俺にとっては、第二の母校みたいなもんなんだ。で、若い頃に一緒に飛んでいたヤツがここの司令になったもんだから、ちょっと挨拶に来てやろうと思ったってわけだ」
「岩代だったか?」
「ああ、岩代だ」
岩代さんって?と尋ねたら、葛城さんや榎本さんが、戦闘機パイロットとして訓練を始めた時に一緒だった、いわば同級生さんということだった。
「気難しいヤツでね。俺だけだとあいつのことだから、問答無用で基地から俺のことを追い出しかねない。そこで援護要員として、陸自の森永とその御家族の皆様を招待したってわけだ。どうかな? これで理由は納得してもらえたかな?」
「えっと、つまり私達は、葛城さんの用心棒みたいなものでしょうか……?」
「まあそんなところ。あいつ目つきが森永並みに怖いから、援護をお願いします」
「俺並みというのは余計だ」
もちろん、本気で私達に援護をしろって話ではないんだと思う。だけど、信吾さんと安住さん達もそうだけど、ここの人達ってたまに本気か冗談か判断つかないことをするから、今の葛城さんの言葉も、全てが冗談とは言い切れないのよね。何処までが本気なんだろう。岩代さんって人が、葛城さんを追い出しちゃいそうな人ってのは、本当だったりするのかな?
「言っとくが、戦闘状態に突入したら、俺は妻と子供達を抱えてその場から離脱するからな」
「なんだよ、友達らしく援護射撃ぐらいしろよ」
「俺はお前の僚機じゃない」
ほら、信吾さんでさえこんなこと言ってるんだもの。もしかして、空自同士の痴話げんかに巻き込まれちゃったりする危険性が大いにあり?
「じゃあ今日一日は、基地司令の岩代に遭遇しないことを祈っておくしかないな。さてと、じゃあ俺はホストらしく、ゲストの皆様を案内することにしよう。先ずは何が見たい? やっぱり目玉のブルーからかな? それとも他の戦闘機が良いかな?」
葛城さんは子供達に声をかけた。もちろん子供達の答えは決まっている。
「「ぜんぶー!!」」
その返事に葛城さんはニカッと笑った。
「よーし、じゃあ葛城おじさんが特別に、この基地に配置されている、航空機とヘリ全ての見学ツアーに御案内しよう。で? お前も来るか? それとも嫁と二人っきりで見物するか? お前だったら、一睨みで警備に立っている連中を追いやって、立入禁止の場所にも入れると思うが?」
ニヤニヤした顔で信吾さんにそう問い掛けてくる。
「奈緒はどうしたい? 二人を葛城に任せて俺達は俺達だけで見学をするか? まあ、俺は空自の機体については詳しく分からないものの方が多いから、葛城の解説付きの方が分かりやすいとは思うんだがな」
「……えっと、だったら私も、葛城さんの見学ツアーに参加したいな。今までゆっくり話を聞いたことないし」
「というわけだ」
信吾さんが頷きながら、葛城さんの方に目を向けた。
「了解した。じゃあ四名様ご案内だな。ここが開場して人で溢れかえる前に移動しよう。ああ、その前にトイレに行った方が良いんだよな?」
「ああ。人が少ない今のうちに、済ませておく方が良いだろう」
「じゃあ先ずはそっちに案内しよう。だがここなんてまだマシな方だろ? 入間なんて、人間航空祭って呼ばれるぐらいの人出なんだから。行ったことある?」
葛城さんの質問に友里と渉が元気よく「あるー!」と返事をする。
もともと人が多い入間の航空祭もだけど、年々歳々どこの航空祭でも人が増えているみたいなのよね。その原因の一つに、制服萌えとか鉄分萌えとかそういう流行もあるんだとか。それぞれ自衛隊に興味を持つきっかけは何であれ、信吾さん達の任務について、もっとたくさんの人に理解してもらえるようになると良いんだけどな……。
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