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小ネタ
緑色のパンダさん
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twitterで呟いたお話を元に書いた小話です。
+++++++++
今日は土曜日で病院の診察はお休みなんだけど私は何故か職場である病院にいた。正確には病棟の方ではなくて医学部の方にある会議室なんだけど。
そして今日の会議は病気のことではなく病院の経営問題について。大きな病院に務めていると患者さんのことだけを考えていれば良いってわけにはいかないところが実に悩ましいところだ。
「森永先生、今日は院内保育はお休みだけどお子さん達は大丈夫なのかい?」
今後の経営方針を決める長くて退屈な会議が終わって、やっと家に帰ることができると安堵の溜め息をもらしたところで小児科の山中先生に声をかけられた。
山中先生は診察だけではなく、院内保育園の子供達や院内学級の子供達の健康管理も任されているので子供達のこともよく知っている。
「はい。今日はパパがお休みなので三人でお留守番していると思います。ああ、そんなことないかな、なにか見に行きたいものがあるとか言ってましたからお出掛けしているかも」
「あのおチビちゃんをお父さん一人でかい? そりゃあ大変そうだ」
普段からの二人の元気さを知っている先生からしたら当然のお言葉。うん、確かにあの元気っぷりを発揮されたら私も一人ではちょっと大変かも。でもうちのパパさんは何と言っても特作の隊長さんですから。あ、この部分は先生には言えないことだけどね。
「それがそうでもないですよ? 私より旦那さんの方が子供達をうまくコントロールできるみたいで。きっと今日は二人とも大人しくしていると思います」
「旦那さんは自衛官だったね。大勢の部下達を統率することからしたらおチビちゃん二人ぐらいなんてことないか」
「多分? 子供達二人の方が部隊全員より手ごわそうですからね~~」
私がそう言うと先生が笑った。
うん、本当に。だって何事にも例外ってやつがあるし、子供達ってとんでもないハプニングを巻き起こす天才なんだもの。
もちろん信吾さんの手に負えないことが起きたら携帯電話にSOSを入れることになっていたけれど今のところそれもないし、多分、何事もなく三人で過ごしているはず……多分ね。
「でもそろそろ限界だと思うので急いで帰ります。お利口にしていたら子供達が好きなケーキをお土産に買って帰るって約束しましたから。先生は帰宅されないんですか?」
先生は病棟にいる時と同じように白衣を着て首から聴診器をかけていた。ということはこのまま病棟に戻るってことだ。
「ん? ああ、こっちに残っている子供達の様子を一通り確かめてから帰ろうと思ってね。呼び止めてすまなかった、気をつけて帰ってくれ」
「はい。じゃあお先に失礼します」
きっと今頃は私よりケーキを待っているんじゃないかなあと心中でニマニマしながら病院の敷地を出る。ちょうどいい具合に駅前に行くコミュニティバスが来たのでそれに飛び乗った。そして座席に座ると信吾さん宛にメールを打つ。
『いま会議が終わったよ。一時間ぐらいでそっちに着けると思う。お土産に二人と約束してたケーキ買って帰るね』
送ると駅に着いた頃に返信が返ってきた。
『了解。晩飯の用意は完了している。子供達からの伝言。コアラとウサギのムースが良いそうだ。そんなのあったか?』
そのメールを読んで思わず吹き出してしまった。信吾さんが友里と渉からコアラだウサギだと言われて戸惑っている顔が目に浮かんじゃうよ。子供達がお気に入りのケーキ屋さんのことは信吾さんも何度も一緒に行っているから知ってたけど、新作の動物達のムースケーキはまだ見たことないものね。
『信吾さんにもクマさん買っていくから楽しみにしてて(^^♪』
そう返事を送ると速攻で『了解』の返事が返ってきた。きっと今頃は「クマ?」と更に首を傾げているに違いない。
+++++
「ただいま~~、ってなんなの、その顔っっっっっ!!」
「「おかえり~~!!」」
そして私はお土産のムースケーキの入った箱を手に帰宅したわけだけど、危うくその大切な箱を放り投げそうになる事態に直面した。
出迎えてくれた友里と渉の顔の色が凄いことになっている。顔色が悪いなんてものじゃない、顔全体が緑色になっていて目の周りが茶色だ。
「私達パンダさんになったの!!」
「パ、パンダ……?」
友里がご機嫌な様子でそう言った。でもママ、緑色に茶色の隈取のパンダなんて見たことないよ……。
「ぼく、はやくとりたいのにママにみせるからって、ゆうちゃんが」
そして渉の方は何とも情けない顔で私のことを見上げている。どうやら首謀者は友里で渉は巻き込まれたってことみたい。それにしたって……。
「信吾さーん、二人ともなんなのこの顔!!」
二人が何を顔に塗っているかなんて聞かなくても分かる。信吾さん達が訓練なんかで使っている迷彩用のドーランってやつだ。私の叫びに信吾さんがやっと奥のリビングから出てきた。
「友里が装備品の中から見つけてこれは何だって話になってそれを説明したらこんなことになった。まあ無害なものだし自分の顔に塗りたくるぐらいなら問題ないだろうと好きにさせていたんだが」
その顔からして面白がっているのは間違いない。まったくもう!!
「にしたって塗りすぎ! これじゃあ二人とも誰だか分からないじゃない」
「ほんとーはお耳の中までぬるんだって!!」
「ええ?!」
友里の言葉に慌てて二人の耳を覗き込む。幸いなことに耳は無事みたい。
「ママー、おとしてもいい?」
渉が情けない声をあげた。そして友里はまだこのままでいたいと言い張っている。
「友里、そんな顔のままご飯もケーキも駄目だからね! 二人ともパパに手伝ってもらって落としなさい!」
「えーー!! せっかくぬったのにーーー!! パパ達もこうやってぬるんだって!」
「パパ達はパンダになんてしないから。とにかく早く落としなさい。でないとコアラもウサギも無しだよ! 信吾さん、二人の顔、なんとかして!!」
私が半分本気で怒っているのを感じたらしい信吾さんは少しだけ真面目な顔をしてみせた。
「分かった。二人とも、ママに見てもらったんだからもう良いだろ? パンダメイクを落とすぞ」
信吾さんは不満げな声をあげる友里と安堵している様子の渉を洗面所につれていく。私はやれやれと溜め息をつきながら玄関のカギをしめてチェーンをかけた。
「ケーキの箱、落とすところだったじゃない……」
洗面所をのぞくと私が使うようなメイクシートの大きなもので友里が無理やり顔を拭かれていた。その横で渉が信吾さんがやっているのを見よう見まねで自分の顔をシートで拭いている。
「それ、ちゃんと落ちるの?」
「大丈夫だ。俺達はこの後に顔を洗うんだが、それは風呂に入る時で構わないだろ?」
「……まあ人間の顔に戻るなら今は拭くだけでいいけど」
「ママー、コアラあったー?」
信吾さんに顔をゴシゴシされながら友里が私に尋ねてきた。
「あったよ。パパ用にクマとママ用にネコも買ってきた。食べるのはご飯の後だからね」
「はーい」
そのケーキ達だって二匹の緑パンダさんのせいで危うくグチャグチャになるところだったけど!!
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今日は土曜日で病院の診察はお休みなんだけど私は何故か職場である病院にいた。正確には病棟の方ではなくて医学部の方にある会議室なんだけど。
そして今日の会議は病気のことではなく病院の経営問題について。大きな病院に務めていると患者さんのことだけを考えていれば良いってわけにはいかないところが実に悩ましいところだ。
「森永先生、今日は院内保育はお休みだけどお子さん達は大丈夫なのかい?」
今後の経営方針を決める長くて退屈な会議が終わって、やっと家に帰ることができると安堵の溜め息をもらしたところで小児科の山中先生に声をかけられた。
山中先生は診察だけではなく、院内保育園の子供達や院内学級の子供達の健康管理も任されているので子供達のこともよく知っている。
「はい。今日はパパがお休みなので三人でお留守番していると思います。ああ、そんなことないかな、なにか見に行きたいものがあるとか言ってましたからお出掛けしているかも」
「あのおチビちゃんをお父さん一人でかい? そりゃあ大変そうだ」
普段からの二人の元気さを知っている先生からしたら当然のお言葉。うん、確かにあの元気っぷりを発揮されたら私も一人ではちょっと大変かも。でもうちのパパさんは何と言っても特作の隊長さんですから。あ、この部分は先生には言えないことだけどね。
「それがそうでもないですよ? 私より旦那さんの方が子供達をうまくコントロールできるみたいで。きっと今日は二人とも大人しくしていると思います」
「旦那さんは自衛官だったね。大勢の部下達を統率することからしたらおチビちゃん二人ぐらいなんてことないか」
「多分? 子供達二人の方が部隊全員より手ごわそうですからね~~」
私がそう言うと先生が笑った。
うん、本当に。だって何事にも例外ってやつがあるし、子供達ってとんでもないハプニングを巻き起こす天才なんだもの。
もちろん信吾さんの手に負えないことが起きたら携帯電話にSOSを入れることになっていたけれど今のところそれもないし、多分、何事もなく三人で過ごしているはず……多分ね。
「でもそろそろ限界だと思うので急いで帰ります。お利口にしていたら子供達が好きなケーキをお土産に買って帰るって約束しましたから。先生は帰宅されないんですか?」
先生は病棟にいる時と同じように白衣を着て首から聴診器をかけていた。ということはこのまま病棟に戻るってことだ。
「ん? ああ、こっちに残っている子供達の様子を一通り確かめてから帰ろうと思ってね。呼び止めてすまなかった、気をつけて帰ってくれ」
「はい。じゃあお先に失礼します」
きっと今頃は私よりケーキを待っているんじゃないかなあと心中でニマニマしながら病院の敷地を出る。ちょうどいい具合に駅前に行くコミュニティバスが来たのでそれに飛び乗った。そして座席に座ると信吾さん宛にメールを打つ。
『いま会議が終わったよ。一時間ぐらいでそっちに着けると思う。お土産に二人と約束してたケーキ買って帰るね』
送ると駅に着いた頃に返信が返ってきた。
『了解。晩飯の用意は完了している。子供達からの伝言。コアラとウサギのムースが良いそうだ。そんなのあったか?』
そのメールを読んで思わず吹き出してしまった。信吾さんが友里と渉からコアラだウサギだと言われて戸惑っている顔が目に浮かんじゃうよ。子供達がお気に入りのケーキ屋さんのことは信吾さんも何度も一緒に行っているから知ってたけど、新作の動物達のムースケーキはまだ見たことないものね。
『信吾さんにもクマさん買っていくから楽しみにしてて(^^♪』
そう返事を送ると速攻で『了解』の返事が返ってきた。きっと今頃は「クマ?」と更に首を傾げているに違いない。
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「ただいま~~、ってなんなの、その顔っっっっっ!!」
「「おかえり~~!!」」
そして私はお土産のムースケーキの入った箱を手に帰宅したわけだけど、危うくその大切な箱を放り投げそうになる事態に直面した。
出迎えてくれた友里と渉の顔の色が凄いことになっている。顔色が悪いなんてものじゃない、顔全体が緑色になっていて目の周りが茶色だ。
「私達パンダさんになったの!!」
「パ、パンダ……?」
友里がご機嫌な様子でそう言った。でもママ、緑色に茶色の隈取のパンダなんて見たことないよ……。
「ぼく、はやくとりたいのにママにみせるからって、ゆうちゃんが」
そして渉の方は何とも情けない顔で私のことを見上げている。どうやら首謀者は友里で渉は巻き込まれたってことみたい。それにしたって……。
「信吾さーん、二人ともなんなのこの顔!!」
二人が何を顔に塗っているかなんて聞かなくても分かる。信吾さん達が訓練なんかで使っている迷彩用のドーランってやつだ。私の叫びに信吾さんがやっと奥のリビングから出てきた。
「友里が装備品の中から見つけてこれは何だって話になってそれを説明したらこんなことになった。まあ無害なものだし自分の顔に塗りたくるぐらいなら問題ないだろうと好きにさせていたんだが」
その顔からして面白がっているのは間違いない。まったくもう!!
「にしたって塗りすぎ! これじゃあ二人とも誰だか分からないじゃない」
「ほんとーはお耳の中までぬるんだって!!」
「ええ?!」
友里の言葉に慌てて二人の耳を覗き込む。幸いなことに耳は無事みたい。
「ママー、おとしてもいい?」
渉が情けない声をあげた。そして友里はまだこのままでいたいと言い張っている。
「友里、そんな顔のままご飯もケーキも駄目だからね! 二人ともパパに手伝ってもらって落としなさい!」
「えーー!! せっかくぬったのにーーー!! パパ達もこうやってぬるんだって!」
「パパ達はパンダになんてしないから。とにかく早く落としなさい。でないとコアラもウサギも無しだよ! 信吾さん、二人の顔、なんとかして!!」
私が半分本気で怒っているのを感じたらしい信吾さんは少しだけ真面目な顔をしてみせた。
「分かった。二人とも、ママに見てもらったんだからもう良いだろ? パンダメイクを落とすぞ」
信吾さんは不満げな声をあげる友里と安堵している様子の渉を洗面所につれていく。私はやれやれと溜め息をつきながら玄関のカギをしめてチェーンをかけた。
「ケーキの箱、落とすところだったじゃない……」
洗面所をのぞくと私が使うようなメイクシートの大きなもので友里が無理やり顔を拭かれていた。その横で渉が信吾さんがやっているのを見よう見まねで自分の顔をシートで拭いている。
「それ、ちゃんと落ちるの?」
「大丈夫だ。俺達はこの後に顔を洗うんだが、それは風呂に入る時で構わないだろ?」
「……まあ人間の顔に戻るなら今は拭くだけでいいけど」
「ママー、コアラあったー?」
信吾さんに顔をゴシゴシされながら友里が私に尋ねてきた。
「あったよ。パパ用にクマとママ用にネコも買ってきた。食べるのはご飯の後だからね」
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