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盛り上げるの頑張ってます
第二話 くだを巻くカメラマン
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「へえ……けっこう長い時間を船の中で過ごすんだ……」
葛城さんと一緒に観艦式に行くことが決まって有給休暇の申請をし終ってから昼休みを利用してネットで調べてみると、既に一般の申し込みと抽選は終わっていて乗艦場所や乗艦時間などが防衛省のホームページに掲載されていた。更に調べていくと三年前に乗った人の体験記なども出てきたので参考までにと読んでみる。潮風が強いから膝掛けがあると良いとか階段は梯子に近いから女性はヒールが低い方が良いとか色々と書かれている。葛城さんにとっては身近なことだから当たり前なことなんだろうけど読んでおいて良かった。
「前の日からうちに泊まりに来いって言ってたのそういうわけだったのかぁ」
出港の時間は思っていたよりずっと早くて私の家から始発に乗っていたら間に合わない時間。葛城さんがいる官舎からも結構な距離があるから当日はかなり早く家を出なきゃいけないことになる。ただ私を泊まらせたいだけじゃなかったんだ。だけど私はともかく葛城さんの方は大丈夫なのかな、仕事。
「槇村ちゃん、何の調べもの?」
取材から戻ってきた浅木さんが私の席の後ろを通りかかった時に声をかけてきた。今日の取材先は確か東京湾で漁をする漁師さんだった筈。
「お帰りなさい、浅木さん。東京湾のお魚、食べれたんですか?」
「江戸前って言葉はダテじゃないってことが良く分かったよ。だけど食べることが出来たのはリポーターの三輪ちゃんだけで俺達はカメラ越しに絵を観てただけ」
腹が立ったから今日は三輪ちゃんの奢りで飲みに行くんだと笑っている。
「それで? なんで護衛艦の写真なんて眺めてるんだ? もしかして空自の彼氏を捨てて海自の誰かにでも乗り換えるつもりでいるのか?」
「まさか」
万が一そんな気分になったとしてもとても葛城さんに手放してもらえそうにないんだけどな私。それこそヤンデレみたいになって監禁さそうで怖い。いやいや、もしかしてグルグル巻きにされて葛城さんの愛機に乗せられてグルグル飛んじゃうよの刑かも。あ、ヤンデレ監禁よりもそっちの方がずっと怖いじゃん!
「これ、三年前の観艦式の写真だよな。ってことはもしかして、あのパイロット君が今年の観艦式に誘ってくれているってことかな?」
「まあそんなところです」
写真を撮って来いって言われるんじゃないかって少し冷や冷やしながら頷いた。
「観艦式でデートとはなかなか面白くて良いじゃないか。取材の時は怪我で行けなかったんだから楽しんで来いよ」
「飛ばない限り楽しめると思いますよ」
私の答えに愉快そうに笑う。
「そんなこと彼氏君には言うなよ? 臍を曲げちまうから」
「誘われた時に行くって即答したら文句言ってましたよ、戦闘機に乗るのは嫌がるくせにこっちは即答かよって」
仕方ないよね、私は本当に飛ぶのが嫌いなんだもの。
「波が穏やかだと良いな。俺達が取材に行った時は低気圧が通過中でそこそこ揺れたし」
「え……それを聞いたらなんか乗るのが嫌になってきました」
「大丈夫大丈夫、大きな船だし転覆することなんてまずないから。まあ心配するのは転覆よりも転倒だろ? 歩きやすい靴を履いて行けよ」
「それはこの人のホームページにも書いてありましたよ」
やっぱり取材前の事前調査って大事だと思った。今回は取材じゃなくてデートだけどさ。
その日、仕事が終わると何故か私も一緒に三輪さんの奢り飲み会に強制的に連れて行かれることになった。三輪さん、三か月前に結婚したばかりの新婚さんなのに何だかちょっと可哀想。まあ奥さんの礼香さんも総務とは言え同じ局勤めだから浅木さんの性格はよく分かっているとは思うけど、浅木さんてば容赦ないなあ……。
「良かったんですか? 私は留守番組ですし別にお魚が食べられなくても腹は立ってないんですけど。あ、まさか万が一のお財布援護要員とか?」
今日のお昼ついついネットであれこれ見ていたせいで、昼休みにATМでお金を引き出すのうっかり忘れちゃったから私のお財布の中もあまり見せられたものじゃないんだけど大丈夫かな?!
「違う違う。女性が一人でも混じっていたら皆がお行儀良くしてくれるんじゃないかと思って。ほら全員が明日も仕事だからね」
「浅木さんが大トラに化けたら奥さんに電話すれば良いんですよ。直ぐに捕獲しにきてくれますよ?」
「こら、そこの二人。楽しそうに何こそこそ喋っているんだ」
テーブルの向こう側からビールを飲んでいる鬼瓦みたいな顔が睨んできた。うわ、ここにきて一時間も経ってないのにもう出来上がっちゃってるよ。
「浅木さんは新婚さんに優しくないって話ですよ。忘れてるかもしれないけど三輪さん、新婚さんなんですよ? なのにこんなオッサンばかりに囲まれて平日から飲み会だなんて」
「オッサン」の言葉に浅木さんよりも若いスタッフさん達から異議が出たけど認めてあげない。
「それは槇村ちゃんが悪い」
「え、なんで?!」
ちょっと! なんでいきなり私のせいにされるわけ?!
「オッサンばかりになったのは我々のマスコットだった槇村ちゃんの付き合いが悪くなったからだろうが」
「反論するのはそこなんですかっ」
「どうやら俺の私生活はまったく考慮されてないみたいだ……」
浅木さんの言葉に三輪さんがぼやく。確か披露宴で二人のケーキカットの写真を撮ったのって浅木さんだった筈じゃ?
「最近じゃあのパイロット君とばかりデートして俺等に付き合ってくれないからオッサンだらけになるんだろ。少しはこっちにも付き合え羨ましいリア充め、まったくもってけしからん」
そーだそーだと皆が相槌を打っている。でも仕方ないじゃん、葛城さんと付き合うようになって色々な意味で体力が必要なんだもの、浅木さん達にまで付き合って平日から飲んでいたら絶対に体がもちません。恋人も職場の先輩達も大事だけど何より一番大事なのは自分の健康なんだから。それにここにいる人達って全員が奥さんかカノジョさんいるじゃないですか、なんで私だけが羨ましくてけしからんの?
爆ぜろとかもげろとか言いながらお刺身の盛り合わせをあてにお酒を飲んでいる浅木さんのことを呆れた気持ちで眺めてしまう。あれで妻子持ちのいい年した大人なんて信じられる?
「もしかして浅木さん、奥さんと喧嘩でもしたんでしょうか?」
「それはないと思うよ。今朝だって愛妻弁当を持ってきたぐらいだから」
「ピンク色のデンブありました?」
「あった」
ピンク色のデンブでハートマークが描かれていたりするんだよね、浅木さんとこの愛妻弁当。で、喧嘩や諸々のことがあって奥さんが怒っているとそれが真っ黒な佃煮海苔の変わるのだ。浅木さんはそれを見てあれこれ奥さんが何に対してご立腹なのか悩むのだとか。最近真っ黒になったのは確か浅木さんが家でトイレの蓋を閉めない日が連続したせいとかなんとか。
「そんなにお魚、美味しかったんですか?」
「そりゃあとれたてだからねえ……」
食べ物の恨みって怖いねえと三輪さんが笑った。やれやれと溜め息をついているとカバンの中で携帯が鳴った。この時間だと間違いなく葛城さんだ。カバンに手を突っ込んで携帯電話を取り出した。
「もしもし~?」
『いま何処にいる? 飯でも一緒にどうかと思ったんだが』
「あー……それがねえ……」
そこまで話したとこでニュッと毛むくじゃらの手がのびてきて携帯を奪っていった。
「おう、もしもし? リア充の片割れ葛城君?」
「浅木さん、なにするんですか……」
奪い返そうとするけど浅木さんは身を引いて私の手の届かないところにまで移動してしまう。
「そうだよ、君の大事な槇村ちゃんは俺達と一緒だ。無事に返して欲しかったら君も顔を出したまえよ。場所? あー、ここ何処だっかな三輪ちゃん」
そう言って今度は三輪さんに私の携帯を手渡した。ちょっと私の携帯電話なんだから私に返して下さい。
「あ、こんばんは、葛城さん、三輪です。すみません、浅木さん出来上がっちゃってて。……はい、居酒屋まんぼうってとこなんですけど来たことありますか? そうです、局の近くにある支店の方です。はい、お待ちしてます。あ、槇村さんに代わりますね」
携帯電話がやっと私のところに帰ってきた。
「もしもし?」
『酔っ払いに捕まっちまったのか』
苦笑いしている葛城さんの顔が浮かぶようだよ。
「まあ仮にも先輩だからムゲにも出来ないでしょ?」
「仮にもってなんだ仮にもって!」
『おーおー出来上がってるな』
浅木さんの文句が電話越しに聞こえたらしくて可笑しそうに笑っている。
『車で迎えに行けば飲まされる心配はなさそうだな、理性が残っている三輪さんのそばから離れるなよ? 今からだと三十分ぐらいでつけると思うから』
「分かった~」
そう言って電話を切ったんだけど葛城さんは直前に「俺が行くまで酔っ払って誰かにお持ち帰りされたりするなよ』って釘を刺すことを忘れなかった。失礼な、私、そんなに飲んだりしないってば。それにここにいる取材クルーの皆はそれぞれ相方さんがいるんだからね。
「行くから三輪さんから離れるなって」
「葛城さんが迎えに来たらさっさと逃げちゃえば良いよ。ああなると浅木さん、下手したら午前様だから」
「明日も取材あるのに……」
「大トラ出現で佃煮海苔の出番かもね」
「うわあ……」
そういう訳で私は葛城さんがお店に到着したのでそうそうと戦線離脱することに。
その後は案の定の午前様で皆それはそれは酷い二日酔いらしく次の日はゾンビみたいな顔で出社して取材に出掛けていった。そんな中でいつもと変わらず元気にカメラを抱えていた浅木さんの平常運転ぶりには感心しちゃうけど、それ以上に、三時まで浅木さんに付き合っていたのに普段と同じ爽やかな笑顔を振りまいていた三輪さんは凄いと思う。
ちなみに。やっぱりその日の愛妻弁当、ご飯の部分は海苔の佃煮で真っ黒だったらしい。
葛城さんと一緒に観艦式に行くことが決まって有給休暇の申請をし終ってから昼休みを利用してネットで調べてみると、既に一般の申し込みと抽選は終わっていて乗艦場所や乗艦時間などが防衛省のホームページに掲載されていた。更に調べていくと三年前に乗った人の体験記なども出てきたので参考までにと読んでみる。潮風が強いから膝掛けがあると良いとか階段は梯子に近いから女性はヒールが低い方が良いとか色々と書かれている。葛城さんにとっては身近なことだから当たり前なことなんだろうけど読んでおいて良かった。
「前の日からうちに泊まりに来いって言ってたのそういうわけだったのかぁ」
出港の時間は思っていたよりずっと早くて私の家から始発に乗っていたら間に合わない時間。葛城さんがいる官舎からも結構な距離があるから当日はかなり早く家を出なきゃいけないことになる。ただ私を泊まらせたいだけじゃなかったんだ。だけど私はともかく葛城さんの方は大丈夫なのかな、仕事。
「槇村ちゃん、何の調べもの?」
取材から戻ってきた浅木さんが私の席の後ろを通りかかった時に声をかけてきた。今日の取材先は確か東京湾で漁をする漁師さんだった筈。
「お帰りなさい、浅木さん。東京湾のお魚、食べれたんですか?」
「江戸前って言葉はダテじゃないってことが良く分かったよ。だけど食べることが出来たのはリポーターの三輪ちゃんだけで俺達はカメラ越しに絵を観てただけ」
腹が立ったから今日は三輪ちゃんの奢りで飲みに行くんだと笑っている。
「それで? なんで護衛艦の写真なんて眺めてるんだ? もしかして空自の彼氏を捨てて海自の誰かにでも乗り換えるつもりでいるのか?」
「まさか」
万が一そんな気分になったとしてもとても葛城さんに手放してもらえそうにないんだけどな私。それこそヤンデレみたいになって監禁さそうで怖い。いやいや、もしかしてグルグル巻きにされて葛城さんの愛機に乗せられてグルグル飛んじゃうよの刑かも。あ、ヤンデレ監禁よりもそっちの方がずっと怖いじゃん!
「これ、三年前の観艦式の写真だよな。ってことはもしかして、あのパイロット君が今年の観艦式に誘ってくれているってことかな?」
「まあそんなところです」
写真を撮って来いって言われるんじゃないかって少し冷や冷やしながら頷いた。
「観艦式でデートとはなかなか面白くて良いじゃないか。取材の時は怪我で行けなかったんだから楽しんで来いよ」
「飛ばない限り楽しめると思いますよ」
私の答えに愉快そうに笑う。
「そんなこと彼氏君には言うなよ? 臍を曲げちまうから」
「誘われた時に行くって即答したら文句言ってましたよ、戦闘機に乗るのは嫌がるくせにこっちは即答かよって」
仕方ないよね、私は本当に飛ぶのが嫌いなんだもの。
「波が穏やかだと良いな。俺達が取材に行った時は低気圧が通過中でそこそこ揺れたし」
「え……それを聞いたらなんか乗るのが嫌になってきました」
「大丈夫大丈夫、大きな船だし転覆することなんてまずないから。まあ心配するのは転覆よりも転倒だろ? 歩きやすい靴を履いて行けよ」
「それはこの人のホームページにも書いてありましたよ」
やっぱり取材前の事前調査って大事だと思った。今回は取材じゃなくてデートだけどさ。
その日、仕事が終わると何故か私も一緒に三輪さんの奢り飲み会に強制的に連れて行かれることになった。三輪さん、三か月前に結婚したばかりの新婚さんなのに何だかちょっと可哀想。まあ奥さんの礼香さんも総務とは言え同じ局勤めだから浅木さんの性格はよく分かっているとは思うけど、浅木さんてば容赦ないなあ……。
「良かったんですか? 私は留守番組ですし別にお魚が食べられなくても腹は立ってないんですけど。あ、まさか万が一のお財布援護要員とか?」
今日のお昼ついついネットであれこれ見ていたせいで、昼休みにATМでお金を引き出すのうっかり忘れちゃったから私のお財布の中もあまり見せられたものじゃないんだけど大丈夫かな?!
「違う違う。女性が一人でも混じっていたら皆がお行儀良くしてくれるんじゃないかと思って。ほら全員が明日も仕事だからね」
「浅木さんが大トラに化けたら奥さんに電話すれば良いんですよ。直ぐに捕獲しにきてくれますよ?」
「こら、そこの二人。楽しそうに何こそこそ喋っているんだ」
テーブルの向こう側からビールを飲んでいる鬼瓦みたいな顔が睨んできた。うわ、ここにきて一時間も経ってないのにもう出来上がっちゃってるよ。
「浅木さんは新婚さんに優しくないって話ですよ。忘れてるかもしれないけど三輪さん、新婚さんなんですよ? なのにこんなオッサンばかりに囲まれて平日から飲み会だなんて」
「オッサン」の言葉に浅木さんよりも若いスタッフさん達から異議が出たけど認めてあげない。
「それは槇村ちゃんが悪い」
「え、なんで?!」
ちょっと! なんでいきなり私のせいにされるわけ?!
「オッサンばかりになったのは我々のマスコットだった槇村ちゃんの付き合いが悪くなったからだろうが」
「反論するのはそこなんですかっ」
「どうやら俺の私生活はまったく考慮されてないみたいだ……」
浅木さんの言葉に三輪さんがぼやく。確か披露宴で二人のケーキカットの写真を撮ったのって浅木さんだった筈じゃ?
「最近じゃあのパイロット君とばかりデートして俺等に付き合ってくれないからオッサンだらけになるんだろ。少しはこっちにも付き合え羨ましいリア充め、まったくもってけしからん」
そーだそーだと皆が相槌を打っている。でも仕方ないじゃん、葛城さんと付き合うようになって色々な意味で体力が必要なんだもの、浅木さん達にまで付き合って平日から飲んでいたら絶対に体がもちません。恋人も職場の先輩達も大事だけど何より一番大事なのは自分の健康なんだから。それにここにいる人達って全員が奥さんかカノジョさんいるじゃないですか、なんで私だけが羨ましくてけしからんの?
爆ぜろとかもげろとか言いながらお刺身の盛り合わせをあてにお酒を飲んでいる浅木さんのことを呆れた気持ちで眺めてしまう。あれで妻子持ちのいい年した大人なんて信じられる?
「もしかして浅木さん、奥さんと喧嘩でもしたんでしょうか?」
「それはないと思うよ。今朝だって愛妻弁当を持ってきたぐらいだから」
「ピンク色のデンブありました?」
「あった」
ピンク色のデンブでハートマークが描かれていたりするんだよね、浅木さんとこの愛妻弁当。で、喧嘩や諸々のことがあって奥さんが怒っているとそれが真っ黒な佃煮海苔の変わるのだ。浅木さんはそれを見てあれこれ奥さんが何に対してご立腹なのか悩むのだとか。最近真っ黒になったのは確か浅木さんが家でトイレの蓋を閉めない日が連続したせいとかなんとか。
「そんなにお魚、美味しかったんですか?」
「そりゃあとれたてだからねえ……」
食べ物の恨みって怖いねえと三輪さんが笑った。やれやれと溜め息をついているとカバンの中で携帯が鳴った。この時間だと間違いなく葛城さんだ。カバンに手を突っ込んで携帯電話を取り出した。
「もしもし~?」
『いま何処にいる? 飯でも一緒にどうかと思ったんだが』
「あー……それがねえ……」
そこまで話したとこでニュッと毛むくじゃらの手がのびてきて携帯を奪っていった。
「おう、もしもし? リア充の片割れ葛城君?」
「浅木さん、なにするんですか……」
奪い返そうとするけど浅木さんは身を引いて私の手の届かないところにまで移動してしまう。
「そうだよ、君の大事な槇村ちゃんは俺達と一緒だ。無事に返して欲しかったら君も顔を出したまえよ。場所? あー、ここ何処だっかな三輪ちゃん」
そう言って今度は三輪さんに私の携帯を手渡した。ちょっと私の携帯電話なんだから私に返して下さい。
「あ、こんばんは、葛城さん、三輪です。すみません、浅木さん出来上がっちゃってて。……はい、居酒屋まんぼうってとこなんですけど来たことありますか? そうです、局の近くにある支店の方です。はい、お待ちしてます。あ、槇村さんに代わりますね」
携帯電話がやっと私のところに帰ってきた。
「もしもし?」
『酔っ払いに捕まっちまったのか』
苦笑いしている葛城さんの顔が浮かぶようだよ。
「まあ仮にも先輩だからムゲにも出来ないでしょ?」
「仮にもってなんだ仮にもって!」
『おーおー出来上がってるな』
浅木さんの文句が電話越しに聞こえたらしくて可笑しそうに笑っている。
『車で迎えに行けば飲まされる心配はなさそうだな、理性が残っている三輪さんのそばから離れるなよ? 今からだと三十分ぐらいでつけると思うから』
「分かった~」
そう言って電話を切ったんだけど葛城さんは直前に「俺が行くまで酔っ払って誰かにお持ち帰りされたりするなよ』って釘を刺すことを忘れなかった。失礼な、私、そんなに飲んだりしないってば。それにここにいる取材クルーの皆はそれぞれ相方さんがいるんだからね。
「行くから三輪さんから離れるなって」
「葛城さんが迎えに来たらさっさと逃げちゃえば良いよ。ああなると浅木さん、下手したら午前様だから」
「明日も取材あるのに……」
「大トラ出現で佃煮海苔の出番かもね」
「うわあ……」
そういう訳で私は葛城さんがお店に到着したのでそうそうと戦線離脱することに。
その後は案の定の午前様で皆それはそれは酷い二日酔いらしく次の日はゾンビみたいな顔で出社して取材に出掛けていった。そんな中でいつもと変わらず元気にカメラを抱えていた浅木さんの平常運転ぶりには感心しちゃうけど、それ以上に、三時まで浅木さんに付き合っていたのに普段と同じ爽やかな笑顔を振りまいていた三輪さんは凄いと思う。
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