彼と私と空と雲

鏡野ゆう

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盛り上げるの頑張ってます

ちょいとばかり近況をば2 (陸海空三夫婦が集う時 side - 空自)

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陸海空三夫婦が集う時は『恋と愛とで抱きしめて』『俺の彼女は中の人』『彼と私と空と雲』のそれぞれの夫婦が集まった時のお話です。それぞれの視点で陸海は小ネタ、空は「ちょいと近況をば 2」として投稿します。


++++++++++


「優、陸自の森永のことは覚えてるよな?」
「どうしたの急に」

 子供達を風呂に入れて寝かしつけた優がリビング戻ってきたので声をかけた。

「あいつがさ、嫁さんもらったんだ」

 こちらの言葉にその場で立ち止まって目を丸くする優。その可愛い顔はオオスズメフクロウそのものだ。

「え、本当? だって最近会った時にはあちこちから再婚しろって言われて辟易としているとか言ってたんだよね? もしかしてとうとう圧力に屈しちゃったの?」
「屈するわけないだろ、昇任さえはねつける奴だぞ? そうじゃなくて、その飲み会の時に会った子でお互いに一目惚れってやつらしい」
「えー?!」

 驚いた声をあげてから慌てて口を手で塞いで子供部屋の方に目をやった。そして子供達が目を覚ましていないことを確認すると声を潜めてから俺の横に座ると話を再開した。

「でもでも、大丈夫なの? ほら、色々と難しいんでしょ? 自衛官の奥さんになるのって」

 どうやら身上調査のことを言っているらしい。

「その点は抜かりはないだろ。俺よりも森永の方が分かっていることだし」

 森永が所属している部署は隊内でも抜きに出て厳格な情報統制がなされているところで奴はその次席トップの地位についている。その手のことに関しては俺達よりもずっと気を遣っている筈だ。

「そうなの? でも森永さんの奥さんになった人がどんな人なのか興味あるな~。あ、飲み会で会った人ってことは一馬さんもその相手の女性を見たの?」
「んー、チラリとだけどな」
「ね、どんな人?」
「いきなりインタビューモードに入ったな」

 あれこれと聞く態勢に入った優の様子に笑いが込み上げる。全くうちの嫁ときたら……。

「だって知りたいじゃない、どんな人か。出来たら会ってみたいな、もしかしたら自衛官のお嫁さん同士で仲良くできるかもしれないし。上からさんざん言われていたのに再婚せずにいたあの森永さんが見初めたってことは、よっぽどの女性ってことよね? 仕事がバリバリ出来るキャリアウーマンみたいな女性かな、それとも逆に物凄く母性を感じさせる和風で内助の功的な女性とかそんな感じ?」

 こちらが何も答えないうちからあれこれと勝手に想像を巡らせている。その様子を見てうちの嫁は本当に知らないんだなと「あちら側」の情報隠匿の手際の良さに感心してしまった。下手すれば大騒ぎにだってなり兼ねない事態だったのに結局はまったく表に出ることはなかったわけだ。そんなことを考えながらどうしたものかと考える。

「なあ優、真面目な話なんだが森永の嫁さんに会ってみたいんなら、俺が森永のことを話す間はそっちの仕事のことはちょっと忘れてくれないか?」
「そっちの仕事って? 私の仕事ってこと?」
「ああ」

 そうなんだよな。優は自衛官の妻ではあるがそれと同時にマスコミ側の人間でもある。もちろん家庭内で俺が愚痴った仕事関係の話を自分の職場で話すなんてことは絶対にしないが、念には念を入れておかなくてはならない。

「えっとこの話の流れからすると森永さんの奥さんの件は私の仕事だとオフリミットの方が望ましいってこと?」
「そんなところだ」
「私が奥さんと仲良くなるのは問題ないのよね?」
「自衛官の妻としてなら」
「分かった」

 こちらの言いたいことは伝わったようで頷くと俺の顔をジッと見詰めてくる。

「森永の奥さんな、医学生なんだ」
「学生さん? ってことは超年の差婚?」
「そんなところだ。確か二十歳とか言ってたな」

 それを聞いて優は「わおっ」と驚いた顔をした。

「それ何処情報?」
「俺が本人から無理やり聞き出した」
「呆れた。私に仕事のことは忘れろとか言いながら私よりもマスコミ関係者っぽいことしてるじゃない。もしかしたら芸能リポーターとか向いてるかもよ?」
「なんでだ。俺は当分のあいだパイロットの座からおりるつもりは無いからな」

 それに現役パイロットを退く前にお前のことを後ろに乗せてもう一度飛ぶって野望はまだ捨ててないんだぞと付け加えてやる。優はそれを聞いてまだ言ってると呆れた顔をした。本人はそれが俺達が初めて会ってからのお決まりの冗談だと思っているようだが俺の方は割とマジでこの野望を持ち続けているんだがな、それを言わないだけで。

「それで? 超年の差ぐらいでオフリミットにするなんてことはないわよね。別に未成年と結婚したわけでもないんだし」
「まあな。ただな、その嫁の旧姓が片倉ってのが問題なわけだ」

 その苗字を聞いて直ぐに埴輪みたいな口をしたのはさすがと言うか。

「えっと、それってあれよね? ちょっと前に亡くなった……」
「ああ、それだ。そこが嫁さんの実家」
「ってことはあの何とかさんがお父さんってこと? よく結婚できたわねと言うのが感想なんだけど……」
「それは俺も最初に聞いた時に思ったことだ。まあその辺の詳しいことは俺も聞かなかったんだが、上が問題無しと判断したんだし森永もそれで閑職に回されるってことはなかったんだから推して知るべしなのかもな。これで忘れてくれと言ったのは納得できただろ?」
「物凄く納得した」

 優によると昼間のワイドショーでその何とかさんが取り沙汰されていた頃に、家族のこともあれこれ調べて面白おかしく流そうとしていた記者がいたことにはいたらしい。だがある日突然それとこれとは別問題だから私人である家族のことは放っておけとお達しが出て、それ以上の取材は立ち消えになったんだとか。まあ何とかさんの嫁さんに関してはあれこれ言われていたんだから厳密にはまったく放っておかれたわけでもないんだが。

「私もあの何とかさんが再婚だってのは知ってたんだけどね」

 世間って広いようで狭いんだねと感心している。

「まあそういうわけで森永の嫁さんにはちょっと複雑な事情があるわけなんだが、それでも会ってみたいか?」
「会いたい」
「即答かよ」
「だって、あの森永さんの奥さんよ? しかも二十歳のお嬢さんなんでしょ? もうちょっとしたアレよね、えっとこういうのって何て言うのかな……萌え?」
「なんだよ、モエって」

 優曰く俺のような男には分からん女の子の心理らしい。三十路を過ぎて女の子ってなんなんだと呟いたら思いっきり足を踏まれてしまった。まったく解せない。

「とにかくあの強面な森永さんがどんな具合に崩壊しているか見てみたい!」
「……会いたい動機が不純すぎる気がしてきたぞ」
「一馬さんだって見たくない? 森永さんが盛大に惚気るところ」
「あいつが惚気たところなんて恐ろしくて考えたくないぞ……」

 だいたい嫁のことで惚気るような柄じゃないんだかなあと呟くが優はそんなことないの一点張りだ。

「じゃあ賭けてみる?」
「森永が惚気るかどうかを? よし、だったら俺が勝ったら優を新しく調達した戦闘機に乗せてやる」
「え」

 途端に優は嫌そうな顔をした。

「何だ、自信がないのか?」
「そ、そんなことないよ」

 その割には声がビビり気味だぞ、槇村さん?

「心配するな、取材ということでちゃんと話を通してやるから。で? 優が勝ったらどうする?」
「……じゃあレグネンスホテルのディナーを一馬さんのお小遣いから御馳走して」
「そんなんで良いのか?」
「うん」

 もっと何か欲しいものはないのか?と尋ねたが特に無いらしい。そういう欲の無いところは相変わらずだ。

「じゃあ久し振りに二人だけでゆっくり過ごせるように手配しよう」
「子供達は?」
「俺と優の賭けなんだからチビ達は関係ないだろ」
「仲間外れにされてガッカリするかも」
「相変わらず父と母は仲が良くて大変よろしいって言ってくれるさ」

 こうなると賭けに勝てなくても良いような気がしてきたな。

「俺が勝った時も二人でのんびり過ごすってのはどうだ?」
「えっと、飛行機は無しで?」

 ちょっと期待した顔で尋ねてくる。どんだけ飛ぶのが嫌いなんだかまったく……。

「んなわけあるか、込みに決まってる」
「えー……」
「それとな、何度も言うが飛行機じゃなくて戦闘機な?」
「どっちでも良いよ……」

 そんなわけで海自の佐伯を含めた三夫婦で食事会なるものを催すことになったんだが、まさかあの森永が惚気るところを見せつけられるとはこの時の俺は思ってもみなかったわけだ。しかも真顔で惚気るとか有り得ないだろ。しかもそれを指摘したらお前には言われたくないと言われるわ賭けには負けて優を後ろに乗せて飛ぶ野望も叶わなかったわで俺にとっては散々な日となった。


 もちろん優にディナーをおごった後に散々な目に遭った埋め合わせをしてもらったのは言うまでもない。
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