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今年は一緒に飛びません!
第一話 二度目の航空祭
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「おはようございます、槇村さん。今日は仕事ですか? それともプライベート?」
基地のゲートを通り抜けようとしたところで警備担当のお兄さんに声をかけられた。最近は葛城さんのお蔭で随分と限定的な地域で知名度が上がってしまっている。ゲートに立っていたこのお兄さんは官舎で葛城さんの部屋の下に住んでいる人で、遊びに行った時に何度か階段で顔を合わせたことがあった。
「おはようございます。今日はプライベートで遊びに来ました。うちの局の取材クルーは別に来ている筈ですよ?」
「そうなんですか。そう言えば葛城一尉、今年は確かあっちの担当ですよね」
そう言いながら指で空をさしてクルクルと円を描く。そう、今年の航空祭での展示飛行は葛城さんが飛ぶことになっていて、今日は私のエスコートをしてくれるのは葛城さんではなくて相方さんの桧山さんだ。もちろん飛ぶのは無しで!
「そうなんですよ。乗らないまでも自分の彼氏が飛ぶところぐらいちゃんと見ろって言われて。本当に我がままですよね、葛城さん」
「それは仕方がないですよ、誰だって恋人にかっこいいとこ見せたいじゃないですか」
その心理は分からないでもない。だけど飛行機で飛ぶのが好きではない私としては飛んでいる姿を見ているだけでも眩暈がしそうな気分になるんだけど、飛ぶのが大好きな葛城さんにはその辺の私の心理が理解が出来ないらしい。そりゃあブルーインパルスみたいな曲芸飛行をするわけではないんだからその点は安心して見ていられるんだけど……。
「遅くなって申し訳ない、槇村さん。ブリーフィングが長引いちゃって」
向こうから桧山さんが走ってきた。去年の葛城さんと同じでパイロットスーツにキャップとジャンパーといういでたちだ。
「こちらこそ申し訳ありません、桧山さんだってお仕事中なのに」
「いやいや。俺は今は待機中じゃないないのでお気になさらず」
「パイロットスーツを着ているのに?」
そう言いながら桧山さんの服を指さした。
「これはお客さん達へのサービス。アラート待機中の連中を外に出してウロウロさせるわけにはいかないからね」
ニッコリと微笑むと行こうかと言って私の腕をとった。
「俺の方は上から許可はちゃんと貰っているから気にすることないよ。それに今年は去年には無かった米海軍の機体も来ているし、葛城曰く飛行機と戦闘機の区別がつかない槇村さんにも分かるように説明してやってくれってことなんでね」
む、葛城さん桧山さん、それは余計な一言なんじゃ?
「そんなことまで二人で話しちゃってるんですか?」
「俺と葛城は付き合いの長い相棒だからね。では行きますか」
「私、飛行機と戦闘機が違うことぐらい分かってるんですよ?」
「本当に?」
私の横を歩く桧山さんが愉快そうな顔をして見下ろしてきた。
「旅客機と戦闘機ぐらいの違いなら……」
「正直なのは良いことです」
そう言って桧山さんはさっそくあれやこれやな飛行機達が展示されている会場へと私を案内してくれた。そしてそれぞれ一機ずつ前に立ち止まってはパネルに書かれたことだけではない説明を丁寧にしてくれる。その説明ぶりは一年前の葛城さんと同じでとても分かりやすいもので、途中で見知らぬ親子連れさんがこっそりと後をついて来て説明に聞き入っているのが何だかとても微笑ましかった。
それから途中で何度か桧山さんが一般のお客さん達に写真をお願いされるので立ち止まりはしたものの、思っていたよりスムーズに回ることが出来た。そして一通り回ってみての感想は一言で軍用機と言っても色々あるんだなあって改めてビックリというもの。本当に色々な機体があるんだなあって感心してしまう。
「あ、そうだ。前から気になっていたんですけどね桧山さん。飛行機の名前にFとかCとかついているじゃないですか、あれって何か意味でもあるんですか?」
展示されている飛行機達の説明パネルにも書かれている機体の名前。機体の名前だってことは分かるんだけどそれが何の意味を表しているのか分からなくて何となくモヤモヤしていたのだ。
「ああ、それね。最初についているFとかPっていうのは任務記号でね。元々は米軍で使われていたものなんだけど自衛隊でもそのまま使っているんだ。Fは言うまでもなくファイターのことで戦闘機。Cがカーゴで輸送機、ちなみにPはパトロール・エアクラフトということで偵察機のことだよ。これで分かるかな?」
そう言えば前に見たニュースの映像に出ていた海上自衛隊の哨戒機がP何とかだったなあと思い出した。
「あ。ってことはブルーインパルスが使っているT4のTっていうのは……?」
「トレーナーのT。つまりあれは戦闘機ではないってことだね」
「なるほど~~」
つまり葛城さんが以前に練習機って訂正したのは私に意地悪したわけじゃなくてちゃんとした根拠があったってことなんだ。
「へえ……私、適当につけてあるんだと思ってました。じゃあ数字も?」
「数字はアメリカで開発された順番だよ。たまに欠番があるのは開発が中止になったりしたものが存在するってことだね」
「そちらもなるほど~~」
そして驚いたことに同じ種類の機体でも空中戦向きや偵察向きなんていう細かいバージョンもあるらしくて、葛城さんや桧山さんが乗っている戦闘機はアメリカのF15の中でも迎撃や空中戦に向いていたバージョンのものを元にして作られたものらしい。うーん、ここまでくるとさすがに難しい、こういうのは絶対に浅木さん向きのお話だよね。浅木さんなら喜んで桧山さんと一日中でも話していられるんじゃないかな。
「ではここで問題です」
「え?」
いきなりのことに慌てて立ち止まって桧山さんを見上げた。何で桧山さんてばうちの局のクイズ番組のオープニングテーマを口ずさんでニヤニヤしてるの?!
「俺や葛城が飛ばしているイーグルは通常はF15Jと呼ばれています。これがどういう機体であるか、さっきまで自分が説明したことを利用して簡単に言ってみて下さい。はい、どうぞ」
「えぇぇ?!」
いきなりテスト問題とか!! そりゃ桧山さんの説明はちゃんと聞いていたよ? だけどまさかここで質問されるとは思ってなかったよ! 桧山さんって葛城さんとは違って優しい人だって思っていたけどとんでもないよ、もしかして類友?! しかもわざとらしくチックタックと言いながらカウントしてるし!!
「えーとですね……」
桧山さんの説明を改めて思い起こしてみる。Fは戦闘機ってことだよね?
「えっとー……つまりは、アメリカで十五番目に開発された戦闘機で、それをJ……ってことは、ジャパンの略で航空自衛隊仕様にしたもの! ……ってことであってますか?」
もしかしてJはバージョンの順番かも?と言ってから心配になる。
「ピンポーン♪ 正解でーす」
ニッコリと微笑んだ桧山さんの顔を見てホッとした。ここで間違えたら東都テレビさんの人間はお馬鹿の集まりじゃないかって言われちゃうかもしれないからドキドキしちゃったよ。
「これで少しは槇村さんも戦闘機のことが分かってきたんじゃないかな?」
「だと良いんですけど……」
名前の法則については分かってはきたものの、未だにどの戦闘機もみんな同じに見えるしどれがどの名前かなんて全く分からないんだもの……。
「まあ最近は一口に戦闘機と言っても空中戦をするだけじゃなくて、偵察したり爆撃をしたりと色々な用途で使われるようになってきたからね。ではマルチロール機に関して講義を始めても?」
「頭が爆発しちゃいますから勘弁して下さい……」
「だよね。じゃ、そろそろ葛城が離陸する時間だから行こうか。次の講義は日を改めて」
「鬼だ……」
「俺は優しい方ですよ、葛城に比べれば」
ニコニコしている桧山さんの顔が物凄く胡散臭く見えたのは気のせいだと思いたい……。
基地のゲートを通り抜けようとしたところで警備担当のお兄さんに声をかけられた。最近は葛城さんのお蔭で随分と限定的な地域で知名度が上がってしまっている。ゲートに立っていたこのお兄さんは官舎で葛城さんの部屋の下に住んでいる人で、遊びに行った時に何度か階段で顔を合わせたことがあった。
「おはようございます。今日はプライベートで遊びに来ました。うちの局の取材クルーは別に来ている筈ですよ?」
「そうなんですか。そう言えば葛城一尉、今年は確かあっちの担当ですよね」
そう言いながら指で空をさしてクルクルと円を描く。そう、今年の航空祭での展示飛行は葛城さんが飛ぶことになっていて、今日は私のエスコートをしてくれるのは葛城さんではなくて相方さんの桧山さんだ。もちろん飛ぶのは無しで!
「そうなんですよ。乗らないまでも自分の彼氏が飛ぶところぐらいちゃんと見ろって言われて。本当に我がままですよね、葛城さん」
「それは仕方がないですよ、誰だって恋人にかっこいいとこ見せたいじゃないですか」
その心理は分からないでもない。だけど飛行機で飛ぶのが好きではない私としては飛んでいる姿を見ているだけでも眩暈がしそうな気分になるんだけど、飛ぶのが大好きな葛城さんにはその辺の私の心理が理解が出来ないらしい。そりゃあブルーインパルスみたいな曲芸飛行をするわけではないんだからその点は安心して見ていられるんだけど……。
「遅くなって申し訳ない、槇村さん。ブリーフィングが長引いちゃって」
向こうから桧山さんが走ってきた。去年の葛城さんと同じでパイロットスーツにキャップとジャンパーといういでたちだ。
「こちらこそ申し訳ありません、桧山さんだってお仕事中なのに」
「いやいや。俺は今は待機中じゃないないのでお気になさらず」
「パイロットスーツを着ているのに?」
そう言いながら桧山さんの服を指さした。
「これはお客さん達へのサービス。アラート待機中の連中を外に出してウロウロさせるわけにはいかないからね」
ニッコリと微笑むと行こうかと言って私の腕をとった。
「俺の方は上から許可はちゃんと貰っているから気にすることないよ。それに今年は去年には無かった米海軍の機体も来ているし、葛城曰く飛行機と戦闘機の区別がつかない槇村さんにも分かるように説明してやってくれってことなんでね」
む、葛城さん桧山さん、それは余計な一言なんじゃ?
「そんなことまで二人で話しちゃってるんですか?」
「俺と葛城は付き合いの長い相棒だからね。では行きますか」
「私、飛行機と戦闘機が違うことぐらい分かってるんですよ?」
「本当に?」
私の横を歩く桧山さんが愉快そうな顔をして見下ろしてきた。
「旅客機と戦闘機ぐらいの違いなら……」
「正直なのは良いことです」
そう言って桧山さんはさっそくあれやこれやな飛行機達が展示されている会場へと私を案内してくれた。そしてそれぞれ一機ずつ前に立ち止まってはパネルに書かれたことだけではない説明を丁寧にしてくれる。その説明ぶりは一年前の葛城さんと同じでとても分かりやすいもので、途中で見知らぬ親子連れさんがこっそりと後をついて来て説明に聞き入っているのが何だかとても微笑ましかった。
それから途中で何度か桧山さんが一般のお客さん達に写真をお願いされるので立ち止まりはしたものの、思っていたよりスムーズに回ることが出来た。そして一通り回ってみての感想は一言で軍用機と言っても色々あるんだなあって改めてビックリというもの。本当に色々な機体があるんだなあって感心してしまう。
「あ、そうだ。前から気になっていたんですけどね桧山さん。飛行機の名前にFとかCとかついているじゃないですか、あれって何か意味でもあるんですか?」
展示されている飛行機達の説明パネルにも書かれている機体の名前。機体の名前だってことは分かるんだけどそれが何の意味を表しているのか分からなくて何となくモヤモヤしていたのだ。
「ああ、それね。最初についているFとかPっていうのは任務記号でね。元々は米軍で使われていたものなんだけど自衛隊でもそのまま使っているんだ。Fは言うまでもなくファイターのことで戦闘機。Cがカーゴで輸送機、ちなみにPはパトロール・エアクラフトということで偵察機のことだよ。これで分かるかな?」
そう言えば前に見たニュースの映像に出ていた海上自衛隊の哨戒機がP何とかだったなあと思い出した。
「あ。ってことはブルーインパルスが使っているT4のTっていうのは……?」
「トレーナーのT。つまりあれは戦闘機ではないってことだね」
「なるほど~~」
つまり葛城さんが以前に練習機って訂正したのは私に意地悪したわけじゃなくてちゃんとした根拠があったってことなんだ。
「へえ……私、適当につけてあるんだと思ってました。じゃあ数字も?」
「数字はアメリカで開発された順番だよ。たまに欠番があるのは開発が中止になったりしたものが存在するってことだね」
「そちらもなるほど~~」
そして驚いたことに同じ種類の機体でも空中戦向きや偵察向きなんていう細かいバージョンもあるらしくて、葛城さんや桧山さんが乗っている戦闘機はアメリカのF15の中でも迎撃や空中戦に向いていたバージョンのものを元にして作られたものらしい。うーん、ここまでくるとさすがに難しい、こういうのは絶対に浅木さん向きのお話だよね。浅木さんなら喜んで桧山さんと一日中でも話していられるんじゃないかな。
「ではここで問題です」
「え?」
いきなりのことに慌てて立ち止まって桧山さんを見上げた。何で桧山さんてばうちの局のクイズ番組のオープニングテーマを口ずさんでニヤニヤしてるの?!
「俺や葛城が飛ばしているイーグルは通常はF15Jと呼ばれています。これがどういう機体であるか、さっきまで自分が説明したことを利用して簡単に言ってみて下さい。はい、どうぞ」
「えぇぇ?!」
いきなりテスト問題とか!! そりゃ桧山さんの説明はちゃんと聞いていたよ? だけどまさかここで質問されるとは思ってなかったよ! 桧山さんって葛城さんとは違って優しい人だって思っていたけどとんでもないよ、もしかして類友?! しかもわざとらしくチックタックと言いながらカウントしてるし!!
「えーとですね……」
桧山さんの説明を改めて思い起こしてみる。Fは戦闘機ってことだよね?
「えっとー……つまりは、アメリカで十五番目に開発された戦闘機で、それをJ……ってことは、ジャパンの略で航空自衛隊仕様にしたもの! ……ってことであってますか?」
もしかしてJはバージョンの順番かも?と言ってから心配になる。
「ピンポーン♪ 正解でーす」
ニッコリと微笑んだ桧山さんの顔を見てホッとした。ここで間違えたら東都テレビさんの人間はお馬鹿の集まりじゃないかって言われちゃうかもしれないからドキドキしちゃったよ。
「これで少しは槇村さんも戦闘機のことが分かってきたんじゃないかな?」
「だと良いんですけど……」
名前の法則については分かってはきたものの、未だにどの戦闘機もみんな同じに見えるしどれがどの名前かなんて全く分からないんだもの……。
「まあ最近は一口に戦闘機と言っても空中戦をするだけじゃなくて、偵察したり爆撃をしたりと色々な用途で使われるようになってきたからね。ではマルチロール機に関して講義を始めても?」
「頭が爆発しちゃいますから勘弁して下さい……」
「だよね。じゃ、そろそろ葛城が離陸する時間だから行こうか。次の講義は日を改めて」
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