もう一度、私に恋させて!

かわた

文字の大きさ
8 / 22

閑話01:とある異世界の少年の回想

しおりを挟む
神都で400年ぶりに勇者を召喚し、魔の殲滅の旅に出たという。
村に来た商人や旅人が嬉しそうに大きな声で話すのですぐに広まった。

魔という謎のモンスターが世界を蔓延って1年。
俺の住んでいる場所が新都から近いが山の中にある集落だからあまりピンッと来ない。
けれどこの1年で格段に旅人は少なくなったし、俺たちも気軽に村からは出れなくなったのは感じていた。

魔の脅威に便乗して別の国では簒奪が起こったという話も聞いたし
勇者信仰の神殿は毎日救いを求めて人が殺到しているという話しも耳に届いた。

でもどれも田舎に届くのは噂程度でその時はふーんという感想しか抱かなかった。


俺が初めて勇者様をみたのはそれから半年後。
住んでいる村に勇者一行が滞在したときのことだ。
都会のような煌びやかさもない山の中の小さい集落にも勇者様は赴いているようで
少しの荷物と仲間を引き連れて、いや引き連れられてと言ったほうが正しいか。

それも仲間のメンバーが派手だからだ。
美男美女の集まりをみて村の女性男性達は盛り上がり、肝心の勇者様を見逃しているようだ。
俺はその様子に少し呆れつつ今や時の人となっている勇者様に目を向ける。

初めてみた勇者様は噂とは違い、外見は普通の子供であった。
黒髪黒目に象牙色の肌、子供特有の可愛らしい丸っこい頬は少し赤みがさしている。
細かい貴金属の装飾がついた装備をまとっている小さい身体をみた。
どこをとっても小さくて、すぐに折れてしまいそうだと思う。

「なんだありゃあ、赤ん坊の人形かなんかか?」

「こらっ滅多なこというんじゃないよ。勇者様だぞ」

小さい声で聞こえた声に周りは少しくすくすと笑う。
確かにそういわれてもおかしくないほど彼女は俺たちに比べると小さく幼くみえたから。

そんなことを知らない勇者様は周りに合わせて頷く
勇者様の隣にいた白魔導士の女性がそっと彼女の耳に手を当てなにかを伝える。
勇者はそれにくすぐったそうに微笑んだ。
小さな野の花が咲いたような無邪気な笑みで、表情まで子供らしく周りが毒気を抜けるのを感じた。


勇者様達は村の外れの遺跡に住む魔を退治にきた。
明日の朝すぐに退治へ向かって昼過ぎにはもうこの村を出てしまうとのことだ。
だから今日の夜は宴を開く予定だったけれどそれは断られてしまったらしい。

村のみんなはそれを残念がっていたが俺は少しほっとしていた。
彼らは王城や大きな街のもてなしになれているであろう
対してこんな田舎ではたいしたもてなしもできないので恥ずかしさがある。

そんなことを思いながら月明かりが明るい夜道を歩く。
今日は勇者様がくる直前釣りに行っていたため、道具を置いてきてしまったからだ。
だが川は家からあるいて数分、しかも足場もあまり悪くないため夜でも安心して行ける。

なにかすすり泣く声が聞こえ、背筋がぞぞぞ、と凍える。

そういえばこの変は治安はいいが怪談話がある場所でもあった。
恐怖半分興味半分ですすり泣いているところへと近寄る

「勇者、様?」

暗がりの隅っこの石に蹲って座っているのは遠くても勇者様だと分かる。
立っていてもあんなにも細くて小さかった彼女がもっと小さく弱々しく見えた。
ふらふらと誘われるように近寄ろうとするとすぐに誰かが彼女に近寄ったのがわかった。

「お探しいたしました。
…夜は冷えます、御身をご自愛ください。」

まるで月の化身のような美丈夫が膝をついて彼女に手を差し伸べた。
腰まである銀色の髪の毛はまるでシルクのように滑らかで、月にあたってきらきらと輝いている。
勇者様もこんな美しい男に膝をつかれては頬を染めるだろう、と俺は思った。

「一人に、して…ください。」

彼女は怪訝そうな顔で唇を噛み締めた。
意外な反応にきょとんと目を丸くしてその様子を見つめる。

「ヴェルデが御心を案じ泣いております…どうか我が君…」

男は彼女にそう懇願し、黙る。
勇者様はその言葉に反応し、ゆっくりと顔を上げた。

「…魔を倒したところで糾弾されるいわれはございません。
あの方もきちんと生きていたでしょう?」

冷たそうな外見とは裏腹に宥めるような声色はとても柔らかい
彼女はその言葉を聞いてさらに泣き始めた。

「わたっ、わ、私が、な、なんであんなこと、いわれなきゃ、い、いけないの?
あんなに、痛い思いをして、なんで、なんで…?」

怒りが途中で困惑したように語尾が弱々しく変わった。
しゃくりあげながら叫ぶ勇者に彼は痛ましいものをみる表情を浮かべた。
そしてゆっくりと彼女を包んだ。

「お気になさらないでください…とは申しません。
ですが、斯様な言葉は貴女様に掛けられるものではありませんでした。
本当は気にすることなど、何一つないのです」
「…も、もうやだよ…つらい、つらいよ…」

そして小さく彼は懺悔するように『申し訳ありません』といった。
勇者様はそのまま顔を上げずしゃくりあげていた。

俺がずっと描いていた勇者様というのは、綺麗でなんでもできるまさに『英雄』だった。
だけれど勇者様は普通の女の子なんじゃないのか?
俺たちが勝手に祭り上げているだけで。

それに気が付いて俺は道具のことも忘れて、ぼんやりしたまま家へと帰った。


勇者様は昨日のことがなかったかのように少し紅い目元を化粧で隠して笑っていた。
魔を退治する時に怪我をしたのだろうか、綺麗な装備には赤い血が少し着いている。
怪我は魔法で治る、だけれど傷は痛かっただろう。

『さすが勇者様!』と人々は言うけれど、まるで彼女を勇者にするための、呪いのようだった。
彼女は手足も小さくて、誰かが守っていけなきゃいけないただの女の子なのに。

その数年後、俺はまた勇者様に会うのだ。
次は彼女を守る仲間として
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...