7 / 105
第1章 ファスティアの冒険者
第7話 敗北を糧に
しおりを挟む
勇者パーティへの仲間入りを賭けた対決に、見事勝利したラァテル。
ロイマンは勝者に対し、笑みを浮かべながら右手を差し出す。
「予想以上に良い闘いだった。ラァテル、お前を仲間として歓迎するぜ」
その手をラァテルが取った瞬間――。
敗北したエルスは力なく、膝から崩れ落ちてしまった。
まだ周囲の歓声が鳴り止まぬ中。勝負を終えたラァテルは黒いフードを外し、軽く左右に首を振る。肩まで伸ばした美しい金髪に、青白くも端整な顔立ちは、美青年と呼んでも差し支えない容貌だ。
それに何より、彼の特徴的な尖った耳に、全員の視線が注がれる。
「えッ……? エルフ? 嘘だろッ……」
ラァテルの正体を知ったエルスは、今度は肩までガックリと落とす。
全身で絶望を表現したかのような様子は、さながら軟体生物のようだ。
「俺は力比べで……、エルフに負けた……?」
エルフ族は高い魔力と魔法の才能を持ち、長命を誇る種族である一方、筋力においては極めて虚弱な特徴を持つ。
魔法を織り交ぜた闘いならまだしも、剣と体術の肉弾戦でラァテルに叩きのめされたエルスにとって、この敗北によって突きつけられた意味は大きかった。
「ハッハッハ! まさかエルフとはな! いいぞ、ますます気に入ったぜ!」
身体能力の劣るエルフ族が、〝力比べ〟で人間族に勝利したことで、再び酒場は熱気と興奮に包まれた!
好き勝手に祝杯を挙げ始める酔客らを尻目に、エルスは項垂れながら大舞台を降りる。
もう誰も、彼のことなど見ていなかった。
――ただ一人の少女を除いては。
「エルス!」
意気消沈して戻ってきたエルスを、アリサが出迎えた。
「大丈夫?」
「あぁ……? なんだアリサか……。依頼は終わったのかよ?」
エルスは不機嫌そうに彼女から目を逸らし、ヨロヨロと出入り口へ向かって進む。そんな彼の少し後ろを、アリサは静かについてゆく。
「おまえ、いつから来てたんだ?」
「んー。あのオジサンが大声で怒鳴ったあたりかな」
アリサの返答に、エルスは小さく舌打ちをする。
「見てたのか……。あれが〝勇者ロイマン〟だよ……」
「じゃあエルスの命の恩人だね。あと、わたしたちの親の仇を討ってくれた人」
「それはッ! いや……魔王は、まだ生きてるッ!」
エルスは動揺したように声を荒げ、痛む腕を支えながら拳を強く握りしめた。
「そうさ……。今度こそ俺が、魔王を倒すんだッ!」
「うん、そうだった。ごめん。一緒に頑張ろうね?」
再びフラフラと歩き出したエルスに近づき、アリサは小さな肩を貸す。
「いてッ……! 痛ェんで、腕には触らねェでくれよ。イテテ……」
「あ、待ってね。それなら魔法で治してみるからっ」
「放っときゃその内治るッて! 大丈夫なのかよ? それ……」
「精霊魔法は間に合わなかったけど、光魔法はすっごく頑張ったんだから。動かないでね?」
不安げなエルスをよそに、アリサは小さく呪文を唱える。
「セフィド――っ!」
治癒の光魔法・セフィドが発動し、アリサの掌に柔らかな光が生じる。そして彼女は癒しの光を、痛むエルスの腕へ優しく押し当てた。
「どうかな? 効いてる?」
「あ? ああ……。やるじゃねェか。効いてる効いてる!」
「よかった。ドワーフの血を引くわたしだと、これでも苦労するんだからねっ」
「ああッ、ありがとなアリサ! よしッと!」
エルスはアリサの肩から離れて真っ直ぐに立ち、痛みの引いた腕を軽く振ってみせた。
「もう良いの?」
「ああ、バッチリ治してもらったからな! それに、どっちかッ言うと精神的なダメージの方が痛かったし……」
未だ歓声の鳴り止まぬ大舞台を背に、エルスは小さく呟く。敗北の惨めさからか、もう背後を振り返ることも出来ない。
「魔法もアリだったら、エルスが勝ってたかもね。あの勝負」
「エルフ相手に魔法で勝負とか、それこそ無謀すぎンだろ……」
実のところエルスは、剣術よりも魔法を得意としている。しかし、圧倒的な魔力素を体内に宿すエルフ族との勝負では、さすがに分が悪いだろう。
「そうかなぁ? でも、わたしはエルスが負けて嬉しかったかな」
「なッ!? おまッ……何でだよ!」
「だって、エルスが勇者のオジサンの仲間になっちゃったら――わたし〝ひとり〟になっちゃうし」
「ぐあッ!? それは……」
エルスは憧れの存在であったロイマンに会えたことで冷静さを失い、最も身近なアリサの存在を全く考えていなったことに、今更ながらに気がついた。
「――スマンッ! 悪かったッ! 本当に……」
「あっ……。えっと、違うの。ごめんね、大丈夫だよ。でも……」
何かを言いかけたアリサ。
しかし彼女は言葉を切ったまま、そのまま静かに歩きはじめてしまった。
「でも……? どうした?」
「ううん、大丈夫。それより外に出たいな。ここ苦手かも」
「……そうだな。ここで飯を食いたいッて気分じゃねェし、外の空気でも吸うかッ!」
「行こっ!」
アリサはエルスの腕を掴み、酒場の出入り口へと駆けてゆく。
「おいッ、わかったから引っ張るなッて! この怪力女ッ!」
彼女に力強く引っ張られ、エルスは足をもつれさせながらも、なんとか外へと辿り着く。
エルスが受けた敗北の傷は、相棒のおかげで完全に癒えたようだ。
ロイマンは勝者に対し、笑みを浮かべながら右手を差し出す。
「予想以上に良い闘いだった。ラァテル、お前を仲間として歓迎するぜ」
その手をラァテルが取った瞬間――。
敗北したエルスは力なく、膝から崩れ落ちてしまった。
まだ周囲の歓声が鳴り止まぬ中。勝負を終えたラァテルは黒いフードを外し、軽く左右に首を振る。肩まで伸ばした美しい金髪に、青白くも端整な顔立ちは、美青年と呼んでも差し支えない容貌だ。
それに何より、彼の特徴的な尖った耳に、全員の視線が注がれる。
「えッ……? エルフ? 嘘だろッ……」
ラァテルの正体を知ったエルスは、今度は肩までガックリと落とす。
全身で絶望を表現したかのような様子は、さながら軟体生物のようだ。
「俺は力比べで……、エルフに負けた……?」
エルフ族は高い魔力と魔法の才能を持ち、長命を誇る種族である一方、筋力においては極めて虚弱な特徴を持つ。
魔法を織り交ぜた闘いならまだしも、剣と体術の肉弾戦でラァテルに叩きのめされたエルスにとって、この敗北によって突きつけられた意味は大きかった。
「ハッハッハ! まさかエルフとはな! いいぞ、ますます気に入ったぜ!」
身体能力の劣るエルフ族が、〝力比べ〟で人間族に勝利したことで、再び酒場は熱気と興奮に包まれた!
好き勝手に祝杯を挙げ始める酔客らを尻目に、エルスは項垂れながら大舞台を降りる。
もう誰も、彼のことなど見ていなかった。
――ただ一人の少女を除いては。
「エルス!」
意気消沈して戻ってきたエルスを、アリサが出迎えた。
「大丈夫?」
「あぁ……? なんだアリサか……。依頼は終わったのかよ?」
エルスは不機嫌そうに彼女から目を逸らし、ヨロヨロと出入り口へ向かって進む。そんな彼の少し後ろを、アリサは静かについてゆく。
「おまえ、いつから来てたんだ?」
「んー。あのオジサンが大声で怒鳴ったあたりかな」
アリサの返答に、エルスは小さく舌打ちをする。
「見てたのか……。あれが〝勇者ロイマン〟だよ……」
「じゃあエルスの命の恩人だね。あと、わたしたちの親の仇を討ってくれた人」
「それはッ! いや……魔王は、まだ生きてるッ!」
エルスは動揺したように声を荒げ、痛む腕を支えながら拳を強く握りしめた。
「そうさ……。今度こそ俺が、魔王を倒すんだッ!」
「うん、そうだった。ごめん。一緒に頑張ろうね?」
再びフラフラと歩き出したエルスに近づき、アリサは小さな肩を貸す。
「いてッ……! 痛ェんで、腕には触らねェでくれよ。イテテ……」
「あ、待ってね。それなら魔法で治してみるからっ」
「放っときゃその内治るッて! 大丈夫なのかよ? それ……」
「精霊魔法は間に合わなかったけど、光魔法はすっごく頑張ったんだから。動かないでね?」
不安げなエルスをよそに、アリサは小さく呪文を唱える。
「セフィド――っ!」
治癒の光魔法・セフィドが発動し、アリサの掌に柔らかな光が生じる。そして彼女は癒しの光を、痛むエルスの腕へ優しく押し当てた。
「どうかな? 効いてる?」
「あ? ああ……。やるじゃねェか。効いてる効いてる!」
「よかった。ドワーフの血を引くわたしだと、これでも苦労するんだからねっ」
「ああッ、ありがとなアリサ! よしッと!」
エルスはアリサの肩から離れて真っ直ぐに立ち、痛みの引いた腕を軽く振ってみせた。
「もう良いの?」
「ああ、バッチリ治してもらったからな! それに、どっちかッ言うと精神的なダメージの方が痛かったし……」
未だ歓声の鳴り止まぬ大舞台を背に、エルスは小さく呟く。敗北の惨めさからか、もう背後を振り返ることも出来ない。
「魔法もアリだったら、エルスが勝ってたかもね。あの勝負」
「エルフ相手に魔法で勝負とか、それこそ無謀すぎンだろ……」
実のところエルスは、剣術よりも魔法を得意としている。しかし、圧倒的な魔力素を体内に宿すエルフ族との勝負では、さすがに分が悪いだろう。
「そうかなぁ? でも、わたしはエルスが負けて嬉しかったかな」
「なッ!? おまッ……何でだよ!」
「だって、エルスが勇者のオジサンの仲間になっちゃったら――わたし〝ひとり〟になっちゃうし」
「ぐあッ!? それは……」
エルスは憧れの存在であったロイマンに会えたことで冷静さを失い、最も身近なアリサの存在を全く考えていなったことに、今更ながらに気がついた。
「――スマンッ! 悪かったッ! 本当に……」
「あっ……。えっと、違うの。ごめんね、大丈夫だよ。でも……」
何かを言いかけたアリサ。
しかし彼女は言葉を切ったまま、そのまま静かに歩きはじめてしまった。
「でも……? どうした?」
「ううん、大丈夫。それより外に出たいな。ここ苦手かも」
「……そうだな。ここで飯を食いたいッて気分じゃねェし、外の空気でも吸うかッ!」
「行こっ!」
アリサはエルスの腕を掴み、酒場の出入り口へと駆けてゆく。
「おいッ、わかったから引っ張るなッて! この怪力女ッ!」
彼女に力強く引っ張られ、エルスは足をもつれさせながらも、なんとか外へと辿り着く。
エルスが受けた敗北の傷は、相棒のおかげで完全に癒えたようだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる