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第1章 ファスティアの冒険者
第25話 特別たる者の責任
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エルスの目の前に出された物――。
リリィナが持つビンの中には、見覚えのある〝虹色の砂粒〟が入っていた。
「この街に着いた時にね? 面白い物を見つけたから買っておいたの」
抑揚のない声で言い、リリィナはビンを二人の前へ置く。
目の前のアイテムを嫌悪するように目を逸らすエルスに対し、アリサは物珍しそうにビンを凝視している。
「なぁに? これ。キラキラしてて、きれいだね」
「……俺が必死に店番を頑張ってた原因だよ。つい握りしめちまってさ……。それ、あんたが持ってきたってことは、やっぱり……?」
「ええ、本物の精霊石よ。でもあの店主の言う通り、かなりの〝塗料〟も混じっているから。あまり純度は高くないわね」
予想通りの回答に、エルスは右手で顔を覆う。
アイテムの価値もさることながら――。
それは彼にとって、過去の辛い記憶を呼び起こす要因でもあった。
「そんなモン、わざわざ買ってこなくても……」
「精霊石を粉末にできるなんて、広く知れたら大変なことになるわ。エルス。それを作ったあなたが、責任を持って処理しなさい」
リリィナは叱りつけるように言い放ち、じっとエルスの目を見つめたまま、彼の前へと虹色のビンを滑らせる。
「わかったよ……、相変わらず怖ェな……。それにしても、あの店の姉さんにも悪いことしちまったなぁ」
「向こうが付けた価格よりも、多めに支払っておいたから大丈夫よ。下手に払いが良すぎると、それの正体に気づかれてしまうから」
「これって、そんなに危ないの? お姉ちゃん」
首を傾げながら問うアリサに対し、リリィナは厳かな声色で言う。
「……ええ、とっても。過去には、それと似たようなモノが原因で起こった戦争なんてものもあったわ……」
「脅かすなよッ……。エルフのご長寿様が言うと洒落に聞こえねェ……」
「そういうワケだから。早くそれを仕舞いなさい? ね? エルス?」
フードから覗く瞳の威圧感に負け、エルスは慌ててビンを自身のバッグへと放り込む。
間もなくしてリリィナの注文を取るために、店の者がテーブルへ近づいてきた。
「ランベルベリーアイスを三つ。お願いね」
リリィナは先ほどとは別人のような笑顔になり、明るい口調で注文をする。
これ以上、この話題を続けるのは危険だ。危機を察したエルスは店員が立ち去ったのを確認し、さりげなく話題を変えた。
「そういやリリィナってさ、ラァテルのヤツとどういう関係なんだ?」
「ラァテル……。あの子はルツィア――私の妹の遺した、たった一人の忘れ形見よ」
「へッ? じゃあアイツ、リリィナの家族なのか……。そういやぁ、なんとなく似てなくも……」
金髪こそ同じであるものの、ラァテルの青白い肌に真紅の瞳。そして常に殺気を帯びたかのような鋭い目つきは、他人を拒み、遠ざけるかのようだ。
対して、こういった荒んだ場所では外見を隠さなければ〝無用なトラブル〟に巻き込まれてしまうほど、リリィナには人を惹きつけてしまう美貌がある。
「んー……。似てるといえば似てるし、似てねェといえば似てねェな……」
「うーん。伯母さんだもんね、お姉ちゃん」
「そうだよな。オバサンだもんなぁ」
エルスは妙に納得したように、何度も「うんうん」と頷いた。
「……まぁ良いわ。私は、あの子を守らないと。絶対にね……」
「守るッていっても、アイツかなり強ぇぞ? しかも勇者の仲間になったしさ」
「そう……。あの子は、まだ運命に抗おうとしているのね……」
リリィナは物思いに耽るかのように、そっと目を瞑じる。
その間、再度近づいてきた店員がテーブルに三つのアイスを置き、一礼の後に去っていった。
「ッていうか、アイツらは王都の方へ行ったらしいぞ。追いかけなくていいのか?」
「ええ。ただ近くにいれば守れるワケじゃないから。私は、私にできることをするつもりよ」
「なんだか大人っぽくていいなぁ。でも、わたしは近くに居てほしいかも」
そう言って口元に指を当てるアリサに、リリィナは優しく微笑みかける。
「ふふっ、そうね。あなたたちは、その方が良いと思うわ。エルス、アリサ。これからも仲良くね?」
「なッ……。急になんだよ……?」
その問いには答えず、リリィナは自身のアイスを二人の中央に滑らせた。
自然とエルスとアリサの視線が、同時に器へと注がれる。
「頑張った二人に〝ご褒美〟よ。私はそろそろ帰るわね」
「ありがとう、お姉ちゃんっ」
「もう行くのか? なんか色々と、ありがとなッ!」
「ええ、また会いましょう。二人とも」
リリィナは上品に手を振り、椅子に立てかけてあった杖を持ってカウンターへと向かう。そこで彼女は代金を支払い、静かに宿から出ていった。
同時に周囲の喧騒が、心なしか増したように感じられる。
「なんだかすごい話だったけど、こんな所で話して大丈夫だったのかなぁ」
アリサの言うとおり、それほど広くはない空間には、本日の成果を肴に酒を酌み交わしている、他の冒険者らの姿も見える。
「たぶん平気だと思うぜ。そこにあったリリィナの杖――アレから、障壁の魔法が出てたからな。遺跡の扉にあったのと同じヤツさ」
「そうなんだ? よく気づいたね」
「今日は朝から、何回も見たからなぁ。なんとなく、だなッ!」
「そっか。――ねぇ、エルス。せっかくだし、これ、半分ずつ食べよっか」
アリサはリリィナがくれた、一皿のランベルベリーアイスを眺めながら言う。しかし二人の目の前には、それぞれのアイスが手付かずのまま残っている。
「ん? ああ、おまえ食っていいぞ。ここに一個ずつあるし」
「せっかくお姉ちゃんがくれたから、一口だけでも。はい、〝あーん〟して?」
「なんだよ〝あーん〟ッて。まったく、おまえら二人が揃うと、いつも俺をガキ扱いしやがッて」
エルスは嫌々ながらも、差し出されたスプーンを口にする。
「――お、美味ェなッ!」
冷たいランベルベリーの甘酸っぱさと爽やかさが、エルスの疲れた心と体に心地良く沁み渡る。このアイスは一説に、実際に疲労や魔力素を回復させる効果も備わっているらしい。
「よかった。じゃ、残りは貰っちゃうね?」
「ああ、しっかり食っとけッ!」
はじめての大きな依頼を、無事に終えた二人。
今夜はゆっくりと勝利の晩餐を味わい、二階の部屋へと戻るのだった。
リリィナが持つビンの中には、見覚えのある〝虹色の砂粒〟が入っていた。
「この街に着いた時にね? 面白い物を見つけたから買っておいたの」
抑揚のない声で言い、リリィナはビンを二人の前へ置く。
目の前のアイテムを嫌悪するように目を逸らすエルスに対し、アリサは物珍しそうにビンを凝視している。
「なぁに? これ。キラキラしてて、きれいだね」
「……俺が必死に店番を頑張ってた原因だよ。つい握りしめちまってさ……。それ、あんたが持ってきたってことは、やっぱり……?」
「ええ、本物の精霊石よ。でもあの店主の言う通り、かなりの〝塗料〟も混じっているから。あまり純度は高くないわね」
予想通りの回答に、エルスは右手で顔を覆う。
アイテムの価値もさることながら――。
それは彼にとって、過去の辛い記憶を呼び起こす要因でもあった。
「そんなモン、わざわざ買ってこなくても……」
「精霊石を粉末にできるなんて、広く知れたら大変なことになるわ。エルス。それを作ったあなたが、責任を持って処理しなさい」
リリィナは叱りつけるように言い放ち、じっとエルスの目を見つめたまま、彼の前へと虹色のビンを滑らせる。
「わかったよ……、相変わらず怖ェな……。それにしても、あの店の姉さんにも悪いことしちまったなぁ」
「向こうが付けた価格よりも、多めに支払っておいたから大丈夫よ。下手に払いが良すぎると、それの正体に気づかれてしまうから」
「これって、そんなに危ないの? お姉ちゃん」
首を傾げながら問うアリサに対し、リリィナは厳かな声色で言う。
「……ええ、とっても。過去には、それと似たようなモノが原因で起こった戦争なんてものもあったわ……」
「脅かすなよッ……。エルフのご長寿様が言うと洒落に聞こえねェ……」
「そういうワケだから。早くそれを仕舞いなさい? ね? エルス?」
フードから覗く瞳の威圧感に負け、エルスは慌ててビンを自身のバッグへと放り込む。
間もなくしてリリィナの注文を取るために、店の者がテーブルへ近づいてきた。
「ランベルベリーアイスを三つ。お願いね」
リリィナは先ほどとは別人のような笑顔になり、明るい口調で注文をする。
これ以上、この話題を続けるのは危険だ。危機を察したエルスは店員が立ち去ったのを確認し、さりげなく話題を変えた。
「そういやリリィナってさ、ラァテルのヤツとどういう関係なんだ?」
「ラァテル……。あの子はルツィア――私の妹の遺した、たった一人の忘れ形見よ」
「へッ? じゃあアイツ、リリィナの家族なのか……。そういやぁ、なんとなく似てなくも……」
金髪こそ同じであるものの、ラァテルの青白い肌に真紅の瞳。そして常に殺気を帯びたかのような鋭い目つきは、他人を拒み、遠ざけるかのようだ。
対して、こういった荒んだ場所では外見を隠さなければ〝無用なトラブル〟に巻き込まれてしまうほど、リリィナには人を惹きつけてしまう美貌がある。
「んー……。似てるといえば似てるし、似てねェといえば似てねェな……」
「うーん。伯母さんだもんね、お姉ちゃん」
「そうだよな。オバサンだもんなぁ」
エルスは妙に納得したように、何度も「うんうん」と頷いた。
「……まぁ良いわ。私は、あの子を守らないと。絶対にね……」
「守るッていっても、アイツかなり強ぇぞ? しかも勇者の仲間になったしさ」
「そう……。あの子は、まだ運命に抗おうとしているのね……」
リリィナは物思いに耽るかのように、そっと目を瞑じる。
その間、再度近づいてきた店員がテーブルに三つのアイスを置き、一礼の後に去っていった。
「ッていうか、アイツらは王都の方へ行ったらしいぞ。追いかけなくていいのか?」
「ええ。ただ近くにいれば守れるワケじゃないから。私は、私にできることをするつもりよ」
「なんだか大人っぽくていいなぁ。でも、わたしは近くに居てほしいかも」
そう言って口元に指を当てるアリサに、リリィナは優しく微笑みかける。
「ふふっ、そうね。あなたたちは、その方が良いと思うわ。エルス、アリサ。これからも仲良くね?」
「なッ……。急になんだよ……?」
その問いには答えず、リリィナは自身のアイスを二人の中央に滑らせた。
自然とエルスとアリサの視線が、同時に器へと注がれる。
「頑張った二人に〝ご褒美〟よ。私はそろそろ帰るわね」
「ありがとう、お姉ちゃんっ」
「もう行くのか? なんか色々と、ありがとなッ!」
「ええ、また会いましょう。二人とも」
リリィナは上品に手を振り、椅子に立てかけてあった杖を持ってカウンターへと向かう。そこで彼女は代金を支払い、静かに宿から出ていった。
同時に周囲の喧騒が、心なしか増したように感じられる。
「なんだかすごい話だったけど、こんな所で話して大丈夫だったのかなぁ」
アリサの言うとおり、それほど広くはない空間には、本日の成果を肴に酒を酌み交わしている、他の冒険者らの姿も見える。
「たぶん平気だと思うぜ。そこにあったリリィナの杖――アレから、障壁の魔法が出てたからな。遺跡の扉にあったのと同じヤツさ」
「そうなんだ? よく気づいたね」
「今日は朝から、何回も見たからなぁ。なんとなく、だなッ!」
「そっか。――ねぇ、エルス。せっかくだし、これ、半分ずつ食べよっか」
アリサはリリィナがくれた、一皿のランベルベリーアイスを眺めながら言う。しかし二人の目の前には、それぞれのアイスが手付かずのまま残っている。
「ん? ああ、おまえ食っていいぞ。ここに一個ずつあるし」
「せっかくお姉ちゃんがくれたから、一口だけでも。はい、〝あーん〟して?」
「なんだよ〝あーん〟ッて。まったく、おまえら二人が揃うと、いつも俺をガキ扱いしやがッて」
エルスは嫌々ながらも、差し出されたスプーンを口にする。
「――お、美味ェなッ!」
冷たいランベルベリーの甘酸っぱさと爽やかさが、エルスの疲れた心と体に心地良く沁み渡る。このアイスは一説に、実際に疲労や魔力素を回復させる効果も備わっているらしい。
「よかった。じゃ、残りは貰っちゃうね?」
「ああ、しっかり食っとけッ!」
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