ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第1章 ファスティアの冒険者

第55話 はじまりの決戦

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 切り札である〝虹色のせいれいせき〟を使ったエルス。
 彼は光輝く精霊の姿に変身し、戦闘の構えをとる!

 そんなエルスの目の前で、魔法の氷塊が弾け飛んだ――!

 「ルオオオォ……損傷……損傷……防衛……形態……」

 氷のいましめを破った〝こうの杖〟は無機質な単語ことばを発し――
 杖から伸びた巨大な〝手〟の形態を変化させはじめた。

 手の甲からは角や牙のような白いとげが無数に突き出し、伸びた五指には関節が増え、先端には鋭い刃が生えた――!


 「へッ! そっちも本気ってワケか!――なら、一気に決めるぜッ!」

 エルスは天井付近まで飛翔し、かざしたてのひらから氷の矢を放つ!
 無数の矢は闇色の触手をかき消し、床一面を氷で覆いつくす――!

 「オオォォン……反撃……排除……」

 反撃を示すこえと共に――。
 敵の棘が緑色の光を発し、エルスに向かって風の刃を撃ち出した!

 だが、風の攻撃はエルスに触れた瞬間に、何事もなく消え失せる!

 「――わりィな! 今の俺には、そんなモンは効かねェ!」

 余裕の笑みを浮かべるエルス。
 すると今度は、ギョロリと動いた巨大な目玉が彼を正面に捉えた!

 エルスは正体不明の力で全身の自由を奪われ――
 激しく天井に押しつけられる!

 「ぐおッ!?――チクショウ、これがあったのを忘れてたぜ……!」

 敵は狙いを定め、エルスに向かって闇の刃を伸ばす――!

 そして彼を貫こうと何度も攻撃を繰り返すが――
 やがて硬質な音と共に、それは粉々に砕け散ってしまった!


 「無駄だ無駄だッ! さっさと放しやがれッ!」

 その言葉通りに諦めたのか。
 敵はエルスから、おもむろにを逸らした。

 エルスは再び自由を取り戻し、天井の付近を浮遊する――。

 こうしている間にも〝杖〟の根元からは闇の触手が生え続け、魔物を召喚する態勢に入っている。〝こう〟の名が示す通り、あくまでも杖は、魔物を呼び出すことを最優先にするようだ。

 「チッ、また振り出しかッ! これじゃらちがあかねェ……」

 エルスも攻撃によるダメージこそ受けていないが、急速に体内の魔力素マナを削られてゆくのがわかる。それに比例し、少しずつ〝自分自身〟が消え去ってしまうような――奇妙な感覚が、彼には迫っていた。


 《……力を貸してあげるよ?……》
 ――エルスの頭に、声が響く。

 「うッ……。何だ……?」

 頭に直接ささやかれたかのような声に、思わずエルスは額を押さえる。

 さきほどの声は、友好的な言葉とは裏腹にまがまがしく――
 決して受け入れてはいけないと、自身の直感が告げている!

 「いらねェよ! こっちは、アレの相手だけで精一杯なんだ!」
 ――声を振り払うように叫び、エルスは敵の正面に舞い降りる。

 これ以上の長期戦は不味い――。
 一気に決着をつけるべく手をかざし、エルスは呪文を唱える――!

 「マヴィスト――ッ!」

 風の精霊魔法・マヴィストが発動し、敵の根元に緑色の魔法陣が出現する!
 魔法陣から発生した風が渦を巻き、竜巻のように敵を斬り刻んだ!

 闇の刃や触手は粉々に砕かれ――
 杖本体と、目玉の付いたてのひらだけが残される!

 「これで――ッ!」

 エルスは手刀を振り上げ、敵に向かってぶ!――が、見開かれた瞳が彼の自由を奪い、壁際まで吹き飛ばす!

 こちらが動けない間にも――
 敵は再び刃や触手を伸ばし、改めて態勢を整えなおす――。

 「また振り出しかッ……! どうすりゃいいんだッ!?」

 さきほど放った魔法マヴィストよりも、さらに高位の魔法は存在する。
 だが、この洞窟内で使えば間違いなくほうらくし、エルス自身も生き埋めとなるだろう。

 「駄目だ……。石の中に埋まって、助かる保証はねェ……。それに――」

 エルスは、壁にもたれ掛かったままのジェイドをる。
 刃を交えた相手とはいえ――言葉も交わし、共闘もした。
 せめて最期くらいは、地上でとむらってやりたい。

 「――絶対に、生きて戻ってやるッ!」

 気合いを入れ、エルスは再度立ち上がる――が、さらに魔力素マナを失ったためか、彼は激しい目眩めまいに襲われる……!

 なんとしても、ここで倒さなければ。
 もう助けてくれる勇者ロイマンは、ファスティアには居ないのだ。

 ――あと一撃が足りない。仲間が欲しい――。

 《……力を貸すよ? かわってあげる……》
 ――頭の中に再び、声が響く。

 エルスの脳裏に、焼け焦げた魔法衣ローブ姿の、幼い少年の姿が浮かぶ。
 銀髪の少年は残忍な笑顔を浮かべ、ゆっくりとエルスに向かって手を伸ばす――!

 「ウオオォ――! おまえの助けはイラネェって言ってんだろッ!」
 エルスは叫び、頭の中の不気味なイメージを振り払う!

 この声に負ければ――おそらく彼が、最もが起きる!

 「俺はアレを倒して、俺のままで帰るんだッ!」
 右腕に巻かれたアリサのリボンを見つめ、自らの意識を強く保つ!

 そんなエルスのに――
 再び、声が響いた!


 「ハッ! ならば、俺様が力を貸してやろう!――マヴィストォ!」

 ジェイドは叫び――左眼で敵を睨みつけながら魔法を放つ!
 風の精霊魔法マヴィストの魔法陣から発生した竜巻が、再び〝杖〟を丸裸にした――!

 「ジェイド!?――生きてたのかッ!」
 「俺様の右腕うらぎりものの始末は、俺様がつける! さあ行け、少年よ!」

 この一瞬に賭けるため――。
 ジェイドの作ってくれたチャンスに応えるため、エルスは呪文を唱える――!

 「レイフォルス――ッ!」

 炎の精霊魔法・レイフォルスが発動し――
 エルスの右腕が、燃えあがるつるぎと化した!

 「うおおおぉ――ッ!」

 竜巻に向かって一直線に飛び、手刀を振りかざす!
 だが寸前で――巨大な目玉が、エルスをとらえた!

 「ルォオオオン……!……防衛……排除……!」
 「ハッ!――こっちを向け、裏切り者め! マヴィストォ――!」

 ジェイドはさらに魔法を放つ! 彼の左手にめられたせいれいせきの指輪が、次々と砕け散ってゆく――!

 再びの竜巻にさらされ――
 巨大な目玉が、ジェイドを――!

 「今だ――ッ! 戦闘終了オォ――!」

 エルスは炎のつるぎを斜めに振り下ろし――
 バッサリと、こうの杖を溶断した――!

 「……ォオオオォ……機能……ォォル……停止……」

 本体である〝杖〟を失い――
 巨大な手は地面へと落下し、その場で崩れ去ってゆく――。


 「やった……!? ついに倒したのかッ!?」

 「ハッ! 上出来だ、少年!……ぐほっ……!」
 「――ジェイドッ!?」

 エルスは魔法剣を解除し、急いでジェイドの元へ飛ぶ。
 同時に――洞窟全体に激しい振動が走り、天井の岩が崩れ始めた!

 勝利のいんに浸る暇など無く――
 早く脱出しなければ、二人とも生き埋めになってしまう!

 「頼むッ! もう少しだけ、ってくれッ!」
 ――ジェイドの左腕を自らの肩に回し、エルスは呪文を唱える!

 「マフレイト――ッ!」

 運搬魔法マフレイトが発動し、風の結界が二人を包む!
 エルスは崩れ落ちようとする部屋から高速で離脱し、外へ向かって飛び去っていった――!


 そして、エルスたちが脱出した直後――。
 天井の岩が崩落し、入口の塞がった部屋には、折れた〝こうの杖〟だけがのこされた。

 そこへエルフ族の紳士・ルゥランが、とうとつに姿を現した!

 「まさか彼が、〝女王の罪の証〟だったとは! 実に興味深いですねぇ!」

 ルゥランは足元に転がる〝杖〟を拾い上げ、じっくりと観察する――。

 「やはり〝はじまりの遺跡〟の物と同じ。まったく、何方どなたの仕業なのやら!――いえ、それよりも!」

 ルゥランは楽しげに笑い、岩で塞がってしまった通路へ視線を移す――。

 「いやぁ、長生きはするものです! また、お会いしましょうねぇ? エルスさん!」

 にこやかな笑顔で言い、ルゥランの姿はくうへと消える――。

 やがて轟音と共に、再び岩が崩落し――
 無人となった洞窟は、今度は跡形もなく崩れ去ってゆくのだった――。
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