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第5話
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「あそこの角で停めて下さい」
あの後、私が家へ帰る話を聞きつけたスティーブン様が“送る”と言い出して、公爵家の立派な馬車で送ってもらうことになった。
馬車の座席はフカフカで、内部にも装飾が施されている。
しかも、隣にはなぜか私の方に体を向けて座るスティーブン様がいるから、それは落ち着かなかった。
向かいの座席には、ジェレミーさんが幾分マシになった顔色で座っている。
「名残惜しいよ」
スティーブン様は寂しげな顔をして、私にリボンで結ばれた白い箱を渡してくれた。
「これは」
「クッキーだよ。美味しそうに食べていたからね」
あのクッキー。
ジャックが喜びそうだ。
私はお礼を言い、馬車から降りようとすると、スティーブン様はサッと先に馬車を降りて私の手を取った。
洗練された身のこなしにドキッとした。
「じゃあ、ジョイ、また明日」
相変わらず笑顔のスティーブン様に、小さいお辞儀だけした。
3日間は休みだ。
明日も明後日もその次の日も、家でゆっくりする。
この1日は、色々ありすぎて疲れた。
私は、ずっしりしたお給金の入った袋とクッキーの箱を抱えて、子爵家の裏口へ向かってゆっくり歩いた。
だから気づかなかった。
スティーブン様が私の後をつけて、どこが家かを確認していたなんて。
「姉ちゃん、おかえり!」
「姉さん、おかえり」
「ねーたん、りー」
「ただいま!」
飛びついてくる末っ子のジャンを抱っこする。
もうすぐ2歳になるジャンだけど、まだまだ赤ちゃんぽさが残っていて癒される。
こうしていると、さっきまでの出来事が嘘のように感じてしまう。
「ジョン、変わりなかった?
晩御飯と朝食はちゃんと食べた?」
「うん。昨日の夜にさ、公爵家のニックさんて人が来て姉ちゃんが夜勤になったって教えてくれて、チキンとかパンとか色々持ってきてくれたよ。
あと、芋もね」
庭師見習いのニックさんが届けてくれたんだ。
「そっか、良かった」
「眼鏡してないんだね、髪もほどいてさ。
何かあったの?」
仮面をつけるのに眼鏡は邪魔で外して、その後アンジー様にもらうも、眠ってしまいあの部屋に忘れてきたようだった。
色々あって、髪のことなんて忘れてた。
「疲れて、ちょっと仮眠をとったら忘れただけ」
ある意味間違ってはいない。
弟に公爵家の秘密を教えるわけにはいかないし。
「ふーん」
ジャックとジャンを見れば、テーブルにお茶を準備してクッキーをお皿に載せて食べていた。
小さいジャンには、赤ちゃん用のお菓子が用意されている。
ジャックは8歳とは思えないくらいにしっかりしている。
穏やかでしっかり者のジャックにジャンはいちばん懐いている。
「さ、私達も食べよーよ」
「おっ、ホントだ!美味そう!」
ジョンは箱に手を入れて、クッキーを掴んでボリボリ食べている。
兄弟でこうも違うものかと可笑しくなる。
私もクッキーを食べた。
バターの香りが口に広がる。
右手を見ると、スティーブン様を思い出してしまった。
夜は芋と野菜、ベーコンのスープにパンを食べた。
明日はお昼から2人のズボンを買いに行く約束をして、早めにベッドにはいった。
疲れていた私はすぐに眠りについた。
「姉ちゃん!!姉ちゃん!!
氷の公爵が来たよ!!」
「ねーたん、たー」
翌朝、そんな声で目が覚めた。
着替えをして狭い居間へ行くと、そこにはジャンを肩車した楽しそうなスティーブン様が居た。
「俺たちに、こんなに子どもが居たんだね」
満面の笑顔で、面白くない冗談を言っていた。
あの後、私が家へ帰る話を聞きつけたスティーブン様が“送る”と言い出して、公爵家の立派な馬車で送ってもらうことになった。
馬車の座席はフカフカで、内部にも装飾が施されている。
しかも、隣にはなぜか私の方に体を向けて座るスティーブン様がいるから、それは落ち着かなかった。
向かいの座席には、ジェレミーさんが幾分マシになった顔色で座っている。
「名残惜しいよ」
スティーブン様は寂しげな顔をして、私にリボンで結ばれた白い箱を渡してくれた。
「これは」
「クッキーだよ。美味しそうに食べていたからね」
あのクッキー。
ジャックが喜びそうだ。
私はお礼を言い、馬車から降りようとすると、スティーブン様はサッと先に馬車を降りて私の手を取った。
洗練された身のこなしにドキッとした。
「じゃあ、ジョイ、また明日」
相変わらず笑顔のスティーブン様に、小さいお辞儀だけした。
3日間は休みだ。
明日も明後日もその次の日も、家でゆっくりする。
この1日は、色々ありすぎて疲れた。
私は、ずっしりしたお給金の入った袋とクッキーの箱を抱えて、子爵家の裏口へ向かってゆっくり歩いた。
だから気づかなかった。
スティーブン様が私の後をつけて、どこが家かを確認していたなんて。
「姉ちゃん、おかえり!」
「姉さん、おかえり」
「ねーたん、りー」
「ただいま!」
飛びついてくる末っ子のジャンを抱っこする。
もうすぐ2歳になるジャンだけど、まだまだ赤ちゃんぽさが残っていて癒される。
こうしていると、さっきまでの出来事が嘘のように感じてしまう。
「ジョン、変わりなかった?
晩御飯と朝食はちゃんと食べた?」
「うん。昨日の夜にさ、公爵家のニックさんて人が来て姉ちゃんが夜勤になったって教えてくれて、チキンとかパンとか色々持ってきてくれたよ。
あと、芋もね」
庭師見習いのニックさんが届けてくれたんだ。
「そっか、良かった」
「眼鏡してないんだね、髪もほどいてさ。
何かあったの?」
仮面をつけるのに眼鏡は邪魔で外して、その後アンジー様にもらうも、眠ってしまいあの部屋に忘れてきたようだった。
色々あって、髪のことなんて忘れてた。
「疲れて、ちょっと仮眠をとったら忘れただけ」
ある意味間違ってはいない。
弟に公爵家の秘密を教えるわけにはいかないし。
「ふーん」
ジャックとジャンを見れば、テーブルにお茶を準備してクッキーをお皿に載せて食べていた。
小さいジャンには、赤ちゃん用のお菓子が用意されている。
ジャックは8歳とは思えないくらいにしっかりしている。
穏やかでしっかり者のジャックにジャンはいちばん懐いている。
「さ、私達も食べよーよ」
「おっ、ホントだ!美味そう!」
ジョンは箱に手を入れて、クッキーを掴んでボリボリ食べている。
兄弟でこうも違うものかと可笑しくなる。
私もクッキーを食べた。
バターの香りが口に広がる。
右手を見ると、スティーブン様を思い出してしまった。
夜は芋と野菜、ベーコンのスープにパンを食べた。
明日はお昼から2人のズボンを買いに行く約束をして、早めにベッドにはいった。
疲れていた私はすぐに眠りについた。
「姉ちゃん!!姉ちゃん!!
氷の公爵が来たよ!!」
「ねーたん、たー」
翌朝、そんな声で目が覚めた。
着替えをして狭い居間へ行くと、そこにはジャンを肩車した楽しそうなスティーブン様が居た。
「俺たちに、こんなに子どもが居たんだね」
満面の笑顔で、面白くない冗談を言っていた。
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