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第4話
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『面倒なことになったかも』
アンジー様の呟いた言葉が頭の中で響いた。
ここに居てはマズイ、確実にマズイ。
スティーブン様が部屋から連れ出されると、入れ替わりで騒ぎを聞きつけたマーサさんが、お医者様から預かっていた薬と私が何よりも気になっていたお給金を持ってきてくれた。
嬉しいはずのお給金の袋はずっしりとしていたけれど、大変なことになったので複雑な思いがした。
マーサさんは責任を感じているのか、しきりに謝ってくる。
でも、今はそれどころじゃない。
薬とお給金をもらうと、私はマーサさんにお礼を言って走り出した。
「ジョイ、芋は昨夜のうちに運んでおいたわ。
あと、3日間はゆっくり休んでちょうだい」
良かった。
3日間の休みは有難いし、さすがに今の状態であの芋を運ぶのはキツイだろうから。
もう少し、あともう少しで、使用人出入り口だ。
そこから出て、護衛騎士に挨拶すれば門があって外に出られる。
はずだった。
「ジョイ、申し訳ないが、通すわけにはいかないんだ」
いつもの顔馴染みの護衛騎士に気の毒そうに止められ、少しするとスティーブン様の侍従のジェレミーさんが現れた。
「すみません、ジョイさん。
スティーブン様がジョイさんを呼び続けていて、手のつけられない状態で。
お願いします。
1時間で、いや30分でいいので、来て頂けませんか」
ジェレミーさんは青白い顔をしている。魚介にあたって、まだ具合悪いんだろう。
ここで足止めされている以上、どのみち選択の余地なんて無いも同然に思えた。
この人に深く頭を下げられ、私は渋々30分だけ、私には絶対に触らせないことを約束してもらい、行くことにした。
またあんな風に抱きつかれたりでもしたら、たまったもんじゃない。
社交界きっての美丈夫で、世の女性を虜にしていたスティーブン様。
でも、いつも眉間に皺を寄せていた記憶がある。
あんな笑顔初めて見た。
魅了なんて信じてなかったけど、あれを見れば、信じざるを得ない。
「ジョイ」
「ねぇ、ジョイ」
「美味しい、ジョイ?」
ウットリした顔で、しかも低い美声で私の名前を連呼している。
いちいち名前を呼ぶ必要はあるのだろうか。
公爵家のゲストをお迎えする立派なお部屋に案内されれば、紅茶に数々のケーキ、クッキー、サンドイッチまでが、それは美しくセッティングされている。
超高級そうなソファに間違っても汚さないように、最近なんてすっかり忘れていたテーブルマナーを思い出す。
「美味しいです。
ありがとうございます」
顔が引き攣りそうになる。
ソファの隣に座っているスティーブン様が、最初に座った場所より近寄っているのは気のせいだろうか。
クッキーに手を伸ばして口に入れる。
美味しい。
弟のジャックが好きそうなバターたっぷりのやつだ。
ん?
な、何か、違和感というかーー
左側に座っていたスティーブン様がいつの間にか私に密着して座っている。
隣を見れば、とろけそうな笑顔でこちらを見ていた。
そして、私がついさっきクッキーを掴んだ右手を取り、自分の口元まで持っていった。
「ヒィィ」
チュッと、唇を当てた音が聞こえた。
「スティーブン様、約束しましたよね」
ジェレミーさんの声が合図となり、スティーブン様はまた護衛騎士3人に引き剥がされた。
心臓が、ばくばくする。
戻ってきた右手が熱い気がする。
「ジョイの手、甘い匂いがした」
スティーブン様を見ると、とびきりの笑顔だった。
アンジー様の呟いた言葉が頭の中で響いた。
ここに居てはマズイ、確実にマズイ。
スティーブン様が部屋から連れ出されると、入れ替わりで騒ぎを聞きつけたマーサさんが、お医者様から預かっていた薬と私が何よりも気になっていたお給金を持ってきてくれた。
嬉しいはずのお給金の袋はずっしりとしていたけれど、大変なことになったので複雑な思いがした。
マーサさんは責任を感じているのか、しきりに謝ってくる。
でも、今はそれどころじゃない。
薬とお給金をもらうと、私はマーサさんにお礼を言って走り出した。
「ジョイ、芋は昨夜のうちに運んでおいたわ。
あと、3日間はゆっくり休んでちょうだい」
良かった。
3日間の休みは有難いし、さすがに今の状態であの芋を運ぶのはキツイだろうから。
もう少し、あともう少しで、使用人出入り口だ。
そこから出て、護衛騎士に挨拶すれば門があって外に出られる。
はずだった。
「ジョイ、申し訳ないが、通すわけにはいかないんだ」
いつもの顔馴染みの護衛騎士に気の毒そうに止められ、少しするとスティーブン様の侍従のジェレミーさんが現れた。
「すみません、ジョイさん。
スティーブン様がジョイさんを呼び続けていて、手のつけられない状態で。
お願いします。
1時間で、いや30分でいいので、来て頂けませんか」
ジェレミーさんは青白い顔をしている。魚介にあたって、まだ具合悪いんだろう。
ここで足止めされている以上、どのみち選択の余地なんて無いも同然に思えた。
この人に深く頭を下げられ、私は渋々30分だけ、私には絶対に触らせないことを約束してもらい、行くことにした。
またあんな風に抱きつかれたりでもしたら、たまったもんじゃない。
社交界きっての美丈夫で、世の女性を虜にしていたスティーブン様。
でも、いつも眉間に皺を寄せていた記憶がある。
あんな笑顔初めて見た。
魅了なんて信じてなかったけど、あれを見れば、信じざるを得ない。
「ジョイ」
「ねぇ、ジョイ」
「美味しい、ジョイ?」
ウットリした顔で、しかも低い美声で私の名前を連呼している。
いちいち名前を呼ぶ必要はあるのだろうか。
公爵家のゲストをお迎えする立派なお部屋に案内されれば、紅茶に数々のケーキ、クッキー、サンドイッチまでが、それは美しくセッティングされている。
超高級そうなソファに間違っても汚さないように、最近なんてすっかり忘れていたテーブルマナーを思い出す。
「美味しいです。
ありがとうございます」
顔が引き攣りそうになる。
ソファの隣に座っているスティーブン様が、最初に座った場所より近寄っているのは気のせいだろうか。
クッキーに手を伸ばして口に入れる。
美味しい。
弟のジャックが好きそうなバターたっぷりのやつだ。
ん?
な、何か、違和感というかーー
左側に座っていたスティーブン様がいつの間にか私に密着して座っている。
隣を見れば、とろけそうな笑顔でこちらを見ていた。
そして、私がついさっきクッキーを掴んだ右手を取り、自分の口元まで持っていった。
「ヒィィ」
チュッと、唇を当てた音が聞こえた。
「スティーブン様、約束しましたよね」
ジェレミーさんの声が合図となり、スティーブン様はまた護衛騎士3人に引き剥がされた。
心臓が、ばくばくする。
戻ってきた右手が熱い気がする。
「ジョイの手、甘い匂いがした」
スティーブン様を見ると、とびきりの笑顔だった。
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