【完結】異世界で勇者になりましたが引きこもります

樹結理(きゆり)

文字の大きさ
56 / 96
六章 勇者

第五十六話

しおりを挟む
「消えるってどういうことだ!!」

 アレンが叫んだ。

「どうもこうもないよ? 勇者の役目を放棄するなら、戻る権利も天寿を全うする権利もなくなってしまうだけさ~」

 固まって動けない。考えることも出来ない。思考回路が停止したかのようだ。

「さて、どうする? ユウ」

 神は顔を覗き込んできた。
 ディルアスが抱き寄せ神から引き離す。

「うーん、とりあえずどうするか決まったら教えてね~。勇者を放棄するなら新しい子を探さないといけないし。あー、いっぱい喋って疲れたよ~。じゃあね~」

 軽口を叩いて消えていった。

「ユウ……ユウ!」

 ディルアスが肩を揺さぶる。

「あ、ディルアス……ごめん」

 呆然としたままだった。イグリードとアレンに座るよう促される。
 沈黙が流れる。

「やはり過去と同じように魔物討伐をしていくのが一番良いんじゃないか?」

 イグリードが口を開いた。

「あ、あぁ、俺もそう思う」

 アレンも同意した。ディルアスは何も言わない。

「でも……魔物が増えると被害も大きくなる……」

 やっと言葉が出た。
 過去の記載を読んでいると、魔物に襲われたときの被害状況も載っていた。魔物が増える度にその被害は甚大なものになっていた。
 それを思うと気軽に言えない。

「ユウが戦うのなら俺たちは全力で人々を守る」

 アレンもイグリードも真っ直ぐな瞳を向けた。
 だから心配するな、と。

「ありがとう、少し時間が欲しい」


 部屋に戻り放心していた。考えることを放棄してただ一日放心していた。

『ユウ』

 ルナは人間化し横に座った。肩を抱き引き寄せ瞼を手で隠した。

『我らはいつまでも側にいる』

 オブも寄り添って来た。
 掌の温もりを瞼に感じ眠りについた。


 夢を見た。向こうの世界の夢だ。
 ただ無気力に生きていた。
 何かに夢中になれることもなく、ただ大学とバイトを繰り返しているだけだった。
 あの時はあれで普通だった。何も疑問に思わなかった。

 今は……だいぶ変わったよね。色んな意味で。
 無気力だった自分が信じられないくらいに、今が大事になっている。
 いきなり異世界に放り込まれ訳が分からなかったけど、たくさんの優しい人たちに助けられ楽しくて。
 魔法にも興味を持ち夢中で勉強した。
 色んな種類のドキドキがいっぱいあった。
 楽しかった。そう、とても……。

 うん、こちらの世界で私は良い人生を経験出来たんじゃないかな。
 今から元の世界に戻ればきっと前みたいな無気力じゃなく、一生懸命生きられるはず。
 そう思う。そう思わせてくれたからこそ……。
 こちらの世界が大切になった。
 だからこそ魔物で苦しんで欲しくはない。
 アレンとイグリードには争いを起こさないことで人々を守って欲しい。

 
 決めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...