不貞の罪でっち上げで次期王妃の座を奪われましたが、自らの手を下さずとも奪い返してみせますわ。そしてあっさり捨てて差し上げましょう

松ノ木るな

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① そんな「そういう日記」とかつけたりしません

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「私の前によく顔を出せたものだ、ノエル。残念だが君との婚約は破棄する」

 呼び出されたからやってきたら、マティアス殿下の顔に途方もなく失望の色が浮かぶ。婚約者の私を壇上の下手したてに置き去ったまま言い放ち、そんな彼の隣に在る女性が仰々しく寄り添う。

「殿下、私がこの記帳を見つけ出さなければ、あなたは何も知らず彼女と婚姻を結び、最期まで騙されていたことでしょう」

 彼女はガンニバル伯爵家令嬢アデラ。最近私に慣れ慣れしくにじり寄ってきた女性。なぜ殿下の隣に。

 ああ! 彼女の手にあるそれは、私の書いた原稿。一束なくなったと大慌てで探したのが先週のこと。どうにも見つからないと思っていたら……。

「これは間違いなく君の手跡だ。すべて読ませてもらったよ、ノエル。ここまでふしだらな女だったとは。王城の誇れし聡明な次期王妃と称される君が……」

「私は何もしておりません!」

「白を切るつもりか! これは君の不貞の証拠なのだろう。どこの誰とこうなったか今は知れないが、必ずこの間男を突き止め鉄槌を下してやる」

「不貞の証拠!?」

 周囲もざわめく。ここに集められた人々は、証拠人として召集されたのであろうか。
 ここで殿下の肩に隠れたアデラが、扇子の奥から覗く冷たい目で私を冷笑した。

「近々王家に嫁ごうという女性が、こんな大胆なことをなさるなんて。王城の庭であんなこと、塔の鐘の下でそんなこと……。そして誰にも話せないそれを忘れないうちに、赤裸々に記帳に記す……。ああ汚らわしい」

「ち、違います! 私の実体験などでは!」
「あらぁ、こんな生々しいお話、実体験でなければなんなのかしら」

 違う、それは物語の原稿なのだ。脱稿したら編集の組合に提出し、冊子にしてもらう。そして複製し、世の女性たちのもとに届けられる。私の不貞の記録だなんて、誤解なのに……!

「ノエル、この王宮から出ていけ、今すぐに。私はこのアデラを妻とし、国を盛り立てていくことに決めた。君は金輪際不要だ」

「ええ!? 殿下はその方を好いておられたのですか!?」

「愚問だな。己の不貞の責を私になすり付けようというのか? アデラは私を思ってこの告発を、証拠品を引っ提げて行ったのだ。恩人と言っても良いだろう」

「マティアス様が心を痛めるかと、私とて幾日も迷いましたわ。しかし、とても看過できることではなく……」

 そのスルリと作り話が口をついて出るところ、私の創作スキルに付け加えたい……はっ、こんな時にも“職業病”が顔を出してしまった。いけないわね。

 ともかく、こんな冤罪は論外よ。でも。

 それは私の創作物だと今この場で言えない。この立場で職業を持っているだなんて……大勢の前で明るみにするのははばかられる。

「殿下、それはあまりにも短絡的ではありませんか」

 その時、広間前方入り口のカーテンをしのぎ颯爽と現れた、黒衣裳の殿方がそう一言。

「何だ、ラグナル」

 殿下の前でも臆することなく、すらりと立ちはだかるこの長身の男性は、王の近衛騎士ラグナル=リヴォフ。

 殿下の乳兄弟で、臣下とは言え歯に衣着せぬ物言いのでき、人扱いの敏腕において重臣らからも絶大な信頼を得ている。もちろん軍人としても、槍の腕前や軍隊の指揮能力は群を抜き、宮廷内で名を轟かす若き実力者だ。

「調査もせず、その女の言を鵜呑みにし、ここまで婚約者として常にあなたを立てていらしたノエル様を追放するというのです?」

「ふん。そんなもの、相手の男さえ捕らえ拷問にかければ明白となる。ああ、ラグナル。ノエルを実家に送り帰せ。カンテミール家には後日追って伝える、この女の処遇をな」

 殿下は私を冷たく一瞥し、マントを翻したらカツカツと足音を立て行ってしまった。勝ち誇った顔のアデラがやはり私を上から嘲笑い、それを追う。残された私は茫然と立ち尽くし、そののち騎士ラグナルに促され、そこを去るより他なかった。
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