錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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少年の髪と同じ、金の瞳が露わになり、彼は「あれ……私は……」と小さく言葉を零した。
それに青年は「ああ、よかった!ソール様!お目覚めで何よりです!」と安堵の混ざった声をかけながら、その背に手を回し、上体を起こすのを手伝う。

そして、きょろりとあたりを見渡しナタを視界にとらえ、彼はわずかに目を丸くした。

「何故『女神の森』に人間が……」

そうぼそりと零された言葉に、

「ソール様。彼が上級ポーションを分けてくれたのです。」

そう青年が説明すれば、ソールと呼ばれた少年は丸くしていた瞳にわずかに温かみを灯す。
一方ナタはそんな少年を

(ゲームも即効性だったけど、ここでも即効性なんだな。意識ははっきりしているし、これが通常の効能なんだろうか?それとも呪毒に侵された時間によって変化があるんだろうか?今回呪毒を受けてから割と早い段階でポーションを飲んだと思うから意識の回復の速さに関しては実験を重ねてデータを取った方がいいな。)

と、がっつり観察していた。
こいつには助かってよかったね、なんていう感性は無い。あるのは自分の錬金術でつくったポーションの効能だけである。
しかしそんなナタの内心を知る由もない少年はふわりと笑って

「そう……礼を言おう、名も知らぬ少年よ。君のおかげで私はまだこの国のために動ける。」

そうナタへと言葉をかけた。

(うわぁ、なんか国のためとか出てきた。ガチで面倒ごとなやつだこれ。)

尊大な口調や、セリフから明らかに1貴族とかではなく王族に連なる人間だろう。ナタとしては面倒ごとに関わると錬金術の時間が減るのでこのまま森でお別れしたい。

「申し遅れたね。私はソール・ソラーレ。君の名前は?」

しかしそんなナタの気持ちとは裏腹に、そうソールが名乗れば、青年がすかさず「ソール様!」と声をあげる。
切実にやめてほしい。ファミリーネーム言われたところで俺にはどこの国の要人かわからん、とナタは小さくため息をついた。

そんなナタに気づいていないのか、はたまた気づいているが気にしていないのか、ソールは朗らかに笑って「いいじゃないか。彼は恩人だよ。ほら、マールスも。」と青年にも自己紹介を促した。

それに青年は苦い顔をしながらも、

「……マールス・マルケッルスだ。」

と渋々名を名乗り、次はお前の番だと言わんばかりに顎をしゃくられ、今度こそ隠しもせずナタは特大級のため息をそれはもう長々と吐いてやった。

(……ファミリーネームを名乗るのは当然っぽい感じの自己紹介だったな……神の名と言えど、地球でも神の名から派生した姓名があったし、よくあるファミリーネームで押し通せるかな……)

なんて思考を回しつつ、ナタは重い口を開いて、

「……ナタ・ディアーナ。」

と、この世界での名を口にした。

すると、月明かりに照らされ煌めく二人の瞳がこぼれんばかりに見開かれ、ナタは自身の行動の選択を誤ったことに気が付いた。

「なっ!?ディアーナの姓を使うなんてお前非常識にも程があるだろ!」

非常識。つまりは普遍的なファミリーネームではなかったという事だ。予想外の反応にナタは「あー、そうゆー感じ?……めんど。」と月を仰ぎ見た。

名前もらってもいーこと無いんだけど、と月を睨みつけるが当然あの女神の声は聞こえない。

「そもそも、何故『女神の森』に立ち入ってるんだ……ここは基本立ち入り禁止だぞ。」
(そういえばさっきも女神の森って言ってたっけ。)

ゲームにもフィールドに女神の森が存在した。もしゲームと同じ地理をしているなら、ナタが転移したこの場所はトロイヤ大陸のど真ん中、と言うことになる。

(でも、錬金術の素材集めに来ていたくらいで、クエストは進めていなかったから、どこの国が統治しているのかわかんないなぁ……)

さすが錬金術バカ。覚えているのは錬金術に必要な情報だけである。

「……というか、立ち入り禁止ならそもそも貴方たちもダメなのでは?」

そんなナタの素朴な疑問にクスリと笑ったソールは

「私たちはここに立ち入れる人間なんだよ。……『ソラーレ』の名前に聞き覚えはないのかい?」

と、問うてきた。恐らく、大陸の人間なら名前を聞けばすぐにわかるほどの名であるという事だろう。それならば、自己紹介を受けた時に何も反応しなかった時点で詰んでいる、ということだ。ナタの目は死んだ。
ソール本人も反応がなかった時点でソラーレの名を知らないことに気づいている。しかし問うことでこちらの出方をうかがっているだろう。

この質問に関してナタは答えることなくただため息をついて見せた。

そんなナタにマールスが嘘だろ、と言わんばかりの目を向けたその時だった。

「おいいたぞ!!」
「ちょこまかと逃げやがって!」

という複数人の足音と荒々しい怒号、そして火矢が、飛んできたのだ。

「追ってきてるのは魔物じゃなく人間だったのか……!」

思わず舌を打ったナタに「いや、やつらは獣人族だ!」とマールスが剣を抜いた。

そして、先ほど刺さった火矢の炎が近くの草に引火。瞬く間にナタたちの居る場所は火に飲まれてしまった。

「クソ……!女神の森になんてことを……!」
「ルーナ・ディアーナ様の神聖な森が……!」

そう、ここは神聖な女神の森。
女神の加護の及んだ、本来なら争いを避けるべき場所。

そして

(き、貴重な素材がある森なのにぃぃぃぃ~~~~!)

錬金術の素材の宝庫でもあった。

それなのに、よりにもよって火をつけたのだ。すべてを灰にし、無にする火を。
ナタの怒りは一気に最高潮に達した。こいつ、錬金術の事になると沸点が部屋のカーペット並みに低くなるのだ。フローリングとの差は一センチ足らず。あまりにも低くなりすぎる。

「……燃やしたな。」

恨みと怨念のこもった声が、ナタの喉から発せられた。突然のそれに気圧されたソールたちが息をのんだ。

「……大事な(錬金術の素材がある)森を燃やしたな……!」

まだ採取していない素材があるのに!と、ナタは拳を強く握りしめる。

こいつ、錬金術のことしか考えてねぇ!

しかも、ナタのアバターレベルは140。ゲーム性が反映されているため、ナタの魔力はその辺の魔法使いの非ではない。何故なら現実のステラート世界にレベル機能はないからだ。
人気を集めるために作られたゲームシステム。それをそのまま現実に反映するとどうなるか。

「俺の怒りを知れ!『神の裁きジュスティーツィア・ディアーナ!』

突如ナタの手元に出現した光り輝く銀の弓。そしてバチバチといかづちをまとって放たれた豪速の矢。
その一撃で吹き飛ぶ獣人たち。

そう、神の御業(笑)の瞬間である。

しかもスキルの名前がいけなかった。これはゲームでは魔法弓まほうきゅうをセットできるジョブなら誰でも使えるスキルだった。しかし現実はそうじゃない。

世界の創設神で最高神のルーナ・ディアーナと『同じ姓を持ち』、『神の裁き』なんてそのままの名前の魔法を使い、その威力は明らかに『人智を超えて』いる。しかも場所は『女神の森』。

まあ、ここまで揃ってしまえば何が起こるかと言うと

「これまでの無礼をお許しくださいナタ様。まさか女神の御子おこが下界にいらしているとはつゆ知らず……」

「……は?」

まあ、こうなるわけである。
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