錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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「出血は派手ですが、傷自体は浅そうですね。そういえば額に近い部分って浅くとも出血しやすいんでしたっけ。そのあたりの人体構造は獣人でも変わらないんですねぇ。内臓に位置も種族差はないんでしょうか?それにしてもあんなに硬そうなもので殴られてこの程度の傷とは……やはり耐久値自体が高いんですねぇ。これなら低級ポーションでも治りますかね?でもなぁ、脳みその状態までは診断できないしなぁ……でも低級ポーションの効き方見てみたいし……」

止まらない止まらない。言葉も好奇心も欲望も止まらない。早口フルスロットルに捲し立てられる言葉たちに頭を掴まれたまま大混乱真っただ中のネプト。

しかも誰しもが必ず持つ体臭がナタから全くしないことで、ネプトは余計に困惑していた。

まあ、こいつの体はアバターだから匂いなんてするわけがない。獣人で鼻がいい故の弊害。深まっちゃうね神疑惑。

「あ、あの、御子様……?」

「とりあえず低級ポーションあげますね。飲んでください。今すぐ。」

犬耳ローブの男の言葉など耳に入らないナタは「ほら早く。」とアイテムボックスから取り出した低級ポーションをネプトの顔に押し付ける。

それに犬耳ローブの男は息を飲んだ。そう、アイテムボックスから出した、と言う事はナタ以外の者たちからすれば突然手のひらに低級ポーションが現れたように見える。下手したらその手のひらでポーションを錬成したように見えるのだ。

まさに神の御業。
ゲームシステム故そういうものだ、と思い込んでいるナタは気づいていないが。

「うぅん……この神、押しが物理的に強いぞぉ……」
「神じゃないです。ほら早く。」

頬にガラス瓶がめり込む勢いで押し付けられているネプトの言葉にナタがそう言ったところで誰も信じるわけがない。
何ならナタは実際にポーションで傷が治る様を観察したくてたまらないだけなので、そんな周りの様子などちっとも気にとめていない。そういう所だぞ。

「……わかりました。御子の温情、ありがたく頂戴します。」
「ネプト様!」

ローブ男が「第十三王子が下賜されていいものじゃないだろ!」と言わんばかりに声を荒げるが、それは効能が早く見たいナタのひと睨みにより、その身を竦めあがらせるに終わった。

そして、ネプトは意を決してポーションを受け取り、グイッと勢いよく中身を口内に流し入れた。

淡い光に包まれたかと思えば、あっという間に痛みも傷も消えたそれに、ネプトは目を丸くする。本来ならば、低級の回復ポーションはもっと治るのに時間がかかるし、治る際にも傷口にかゆみを伴った痛みが走る。
しかし、ナタが渡したポーションは、全く痛みを感じず完治してしまった。

傷口を間近で観察していたナタは驚いているネプト達など目に入らず、

(うん、演出も傷の治る速さもゲームと変わらないな。やっぱりこの程度のケガなら低級で事足りるな……でも、同じ浅い傷でも数が多ければこんなにきれいには治らないか?まだ検証が必要だな。脳の状態が分からないのもあるし……)

と、頭の中であれこれ考えを巡らせていた。

本当にこいつ錬金術のことしか興味がない。少しは周りを見た方がいい。

(やっぱりもっと多くの被検体が欲しいな……)

挙句には王子を被検体呼ばわりし始めた。失礼にもほどがある。

「……あ、あのぁ、ナタ様……?」

「……ああ、もう治ったのでいいですよ。」

パッと手を離したナタに、ネプトは「お、温情の程、ありがとうございました……」と消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。しかもその顔は真っ赤に染まり、わずかに目はうるんでいた。

(血流良くなったのか?怪我が治るメカニズムを解析するのも面白そうだな……)

違う、そうじゃない。

ここでひとつ、ナタの容姿に触れておこう。

ナタは自覚がないが、ナタの容姿はとても整っている。それはそうだ。だってゲームのアバターだもん。

顔のパーツは左右均等だし、髪の毛はさらりと流れ、輝いている。瞳は薄い黄色を選択しているし、髪色も白いセンター分けロングヘアをセットしているので、色合いだけでも神秘的なのだ。

ちなみに錬金術にしか興味のないナタがなぜそんな綺麗なアバターパーツを選択しているのか。
単純にレア度が一番高いパーツを選択しているだけである。

ただでさえ錬金術師アルケミストは最弱職。レア度の低いアバターのままゲームのステラート世界を歩いていると、煽られたり、妨害行為をしてくるプレイヤーもいるのだ。
そういう面倒な奴らには、装備やアバターパーツ、プロフィールでの称号、見える全てをSSRにしておくと勝手にビビる。たまにそれも気に入らなくて突っかかってくるやつもいたが、母数はグッと減ったため、ナタはそれ以降ずっとレア度の高いパーツを使っている。

つまり、そんな現実離れした美に見つめられ(※観察され)続け、美を目の前で浴び続けたネプトが無事でいられるなか、と問われれば

「……はぅ……心臓過労死しそぉ……髪の毛さらさらぁ……あ、なんかいい匂いする気がするぅ……」

まぁ、無理な話である。
ネプトの脳みそは焦げ焦げよ。お前さっき何の匂いもしないって言ってただろ。

しかしそんなことに一切気が付いていないナタは、頬を染めるネプトの熱っぽい視線も、自分たちが見下していた王子が御子の恩恵を受けたことに喚くローブ男たちのBGMも、全く、これっぽっちも頭に入らず、頭の中は

(データの比較対象がほしいなぁ……被検体をどうやって大人数確保するかが問題だな。人が多いところがいいけれど、目立つのは嫌だし、チェントロとエスト以外でどこか……)

錬金術……というか錬金術で生み出したものの治験の事しか考えていなかった。

(……あれ、そういえば北の方の国にいい感じのスラム街なかったっけ?)

確か、ノルドと言っただろうか。ゲームのステラート世界で素材集めのために立ち寄ったことがある。
一応メインストーリーでも触れられていたらしいがナタはそこまでストーリーを積極的に進めていたわけではないので詳しくは知らない。

ただ、貧困街らしく治安も悪く、警備隊の目も行き届かない、言わば無法地帯。

そして病気や怪我人がたくさんいる場所。

(……あれ?最高の場所では?)

被検体はいっぱいいる。

最悪、観察のために攫ってもバレなそう。

そして勝手にポーション飲ませても変なものを飲まされた!と司法に訴えることもできない。

つまり治験し放題!

誰か倫理観と常識を持ってきて。馬鹿が治るくらいの。

(そうだ!ノルドへ行こう!)

しかしナタがそんなことを考えているとも知らないネプト達は、急に黙りこんでしまったナタの顔色を窺うように、「御子様……?」と恐る恐る声をかけた。

それにナタは

「帰ろっと。」
「えっっっ!!!???」

全てを放置したまま、迷うことなく『マイルーム』のボタンをタップした。

そういう所だぞナタ・ディアーナ!!




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