錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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考えたこともない話だった。

生まれた時からルーナ・ディアーナを最高神に据えた女神教を信仰し、祈り、女神が誰もを見守っていると信じ続けていた。
しかし、言われれば各国の王族であるこの場にいる誰もが女神の姿どころか声を聴いたこともない。

「……女神、ルーナ・ディアーナが降臨し、ソラーレに管理人として使命を与えたのも最早1000年も昔の話……たしかに神はいちいち下界の人間を気にすることはないのかもしれませんね。」

そう、どこか寂しそうな声色をにじませたソールに「ソラーレがそれを言っちまったら神殿が黙ってねーんじゃねぇの?」と、ウェスタがため息をついた。

「構いませんよ。神殿の内部は腐り始めている……いっそ、ナタ様の名でも使って一掃してみますか。」
「まぁナタ様なら名前勝手に使われても気にしなそぉー。」

やっちゃえー、なんて無責任な野次を飛ばすネプトに、レトゥムは深々とため息をついた。

「ならば逆に、それほどまでに人の営みに興味のない神が、なぜ今になって現れたのでしょうか?」

ふと疑問を口にしたファウナ。それに「確かに、何か目的があって現れたのかどうなのか……」と、レトゥムも顎に指を添えて考えるそぶりを見せる。

しかし、

「……もしかしたら生まれたばかり、とは考えられないでしょうか?」

と、ソールがその長いまつげを伏せ、少し視線を迷わせながらそんな言葉を落とした。

「確証がある訳ではないのですが、その、神にこんなことを言うのは不謹慎かもしれませんが、少し子供っぽい言動があったのです。なので、わざわざ下界に来た、と言うよりもあくまで興味のある所に現れた所を我々が出会った、と言うのが正しい気がします。」

ディアーナの姓について問われた時、彼はうんざりとした顔を隠すことなく、しかも「めんど。」とはっきり言っていた。ソールにはそれが見た目よりも幼い言動に思えたのだ。
そしてそんなソールの言葉に、「あ、言われてみればぁ。」と、ネプトがぽん、と己の手のひらに拳を置いた。

「祭壇の供物も手をかざしたら消えたんだけど、あれどうも回収していたみたいでさぁ。従者が静止の声をあげた時……とは言っても静止は別件だったけど、タイミング悪くてねぇ。回収を止められたと思ったのか『嫌です。祭壇に乗せたのならこれは俺のだから。』って。ちょっと拗ねたような口調だったぁ。」

「子供っぽい、と言われれば確かに子供っぽいような気もしますね。」

ネプトの語るエピソードにファウナも神妙に頷いて見せる。

「……それ、逆に危ねぇってことじゃねーか?」

ウェスタの思わぬ言葉に、全員の視線が一斉に向けられる。ウェスタは腕を組んだまま言葉を続けた。

「おめーらも知ってるだろ?子供ってのは時に残酷だって。無邪気に命を奪うこともあるし、はしゃぎすぎて父親のケツに剣ぶっ刺しちまうことだってあんだろ?」
「後者に関してはウェスタだけかな。」

とんでもねぇ思い出話にレトゥムが思わず突っ込む。それに、そうか?なんて首を傾げながらも「ま、とにかく本当に生まれたばかりなら、人類にとって危険だってことは、頭に入れといた方がいーと思うね、アタシは。」とウェスタはその話を締めくくった。

「そうなると各国、不穏分子が御子様に何かやらかさないようにより気をつけねばなりませんね……」

ふぅ、と細く息を吐いたファウナ。そうだな、と答えたのはレトゥムだけだったが、他の三人も声に出さないだけで、頷き同意を示した。それぞれの国がそれぞれの厄介事を抱えている。

「ま、下界に興味のねぇ御子様なんぞ、しばらく現れねぇと思うケド。」

なんてカラリと笑ったウェスタに「これから厳しい冬になるからね。女神の森ではなく、暖かいスッド国に現れるかもしれないぞ?」と、レトゥムがにやりと笑う。

「ンなこと言って、次はお前の目の前に現れるかもな?」

そんなレトゥムにウェスタが言葉を返せば「それはないだろうね。」と鼻で笑った。

「なんせ我が国ノルドは雪の覆う北の貧しい国。御子様の興味を引くような物なんて無いからね。」

と、肩を竦め「我が国に御子様が来ることはないさ。」なんて自嘲気味に告げたレトゥム。


しかし残念な事に特大フラグなんだよなぁ。



****


そして早すぎるフラグ回収タイム。
ナタはさっそくゲームのマップ機能を使ってノルド国の首都の近くにあるスラム街にやってきていた。

ゲーム機能が維持されているおかげでの、ゲームのステラート世界で行ったことがある場所なら、自らの足で向かわなくても、転移が可能だ。そのためナタはネプト達と別れた後、すぐにノルドに転移したのだ。

流石にSSRのアバターパーツは目立つため、適当なパーツで茶色い短い髪と同じく茶色い瞳の地味な感じに設定し、衣装も適当な黒いローブを被り、その汚いゴミの散らばる道を歩き進めていく。

至る所に、瘦せこけフケと土にまみれた人間が横たわり、手足の欠けた者が蹲る。そして病気なのか薬に手を出したのか、彷徨う焦点はどこにも合わずぶつぶつと一人で話し続ける者もいた。

そう、つまり

(被検体がいっぱ~~~~~い!)

誰かこいつに倫理観を叩き込んでくれ。

片っ端からポーションぶっかけて経過観察したいところだが、それでは正確なデータはとれない、とナタは逸る気持ちを何とか抑え込む。

(ちゃんと正確にデータを取るためにも被検体をしっかりと管理できる拠点が欲しいんだよな……)

自力で起き上がれない人間の運搬等を考えるとできればスラムの中か、近くが理想だ。
しかし、

「お前、見慣れねぇやつだなぁ?お忍び貴族かぁ?有り金全部置いてけや!!」

問題はこの治安の悪さだ。なんて言ったってここはスラム街。警備隊の目も司法の目も届かない無法地帯。まぁだからこそ好き勝手錬金術を試せるから、ここに来たんだが。

はぁ、と絡まれとことに小さく息を吐いたナタに、馬鹿にされたと思ったのか、ただでさえ酒で赤かった顔を更に赤くして

「小綺麗な坊ちゃんをスラムにお似合いな姿にしてやんよぉ!」

と、右手に持つ酒瓶を振り上げた。

だが、アバター故に細身に見えるが

土の壁ムーロ・ディ・テッラ。」
「はっ!?」

ナタは140レベルにまで上り詰めた錬金術師アルケミスト
男の振り上げた酒瓶はナタが生み出した土壁に阻まれ、簡単に砕け散ってしまった。

もちろん酒の一滴もナタに届くことはなかった。

そして、目の前で高度な魔法を見せられ、決して敵わない相手に喧嘩を売ったのだと気づき、顔を青くし震える男に

「ちょうどいーや。お前の家に案内しろ。」

と、ローブのフードを少し持ち上げ、ナタはその口角をつり上げた。
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