錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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カルロとの邂逅からひと月ほどが経った。
カルロの足はあれ以降痺れがぶり返すこともなく、カルロは冒険者として復帰。それを見た他の者たちも診療所へと通うようになり、ナタは目論見通り様々な症例とポーションの効能を試すことが出来た。

しかし、いくらスラムとは言え、「ナタ・ディアーナ」の名前がどこに広まっているのか分からないので、ナタはここでは「ヒナタ」と名乗り、診療所で様々な患者と言う名の被検体にポーションによる治療、もとい、実験を繰り返していた。

ナタからすれば様々な被検体に好き勝手実験できるこの場所はもはや天国。初級、中級ポーションは在庫がまだ大量にあるし、仮に素材が足りなくなってもナタは全部自分で採取ができる。

ルンルンで実験……いや、治療を無償でしていった結果。

「あ、ヒナタ先生!いい猪が手に入ったんだ!後で持ってくな!」

「おうヒナタ先生!これ素材に使えたよな!?後で診療所に運んどくわ!」

「ヒナタせんせー!おれ、この字読めるよーになったよー!」

(なんでこんな好かれてるんだ……???)

スラムでは救世主のような扱いになっていた。

ナタだって馬鹿じゃない。好き勝手実験した自覚はあるし、自分が聖人のような言動をしていないことを分かっている。それなのに何故こんなに好かれるのか分からず、スラムを歩きながら首を傾げた。

しかし、ナタは気づいていないが、ゲームで不人気かつ最弱職であった錬金術師アルケミストはこの世界では貴重な役職であった。
そもそも錬金術スキル自体が貴重で、そのスキルがあれば神殿が一生生活の面倒を見てくれるほど。

なので現実のステラート世界では錬金術師アルケミストは神殿に在籍し、ポーションだけを生成する役職なのだ。
ナタのように装飾品へのバフの付与は勿論、上級ポーションだってあんなポンポン生み出せるものではない。故に市場への流通は神殿の独占状態であり、金額は年々高騰していた。

つまるところ、スラムにいるような貧困層は神殿に見向きもされない。
そんな中、上級ポーションをポンポン生み出し(ゲーム性引継ぎのため)、それを無償で与え(実験データが欲しいため)、治療後も手厚いフォローを(経過観察のため)してくれるナタはまさに救世主。それこそ最近巷で噂の神の子供と言えるほどに感謝と信仰を得ていた。ま、噂の神の子供本人なのは確かなんだけど。

さらに言えば、ナタは戦闘力の面でも一目置かれている。
ナタがスラムで活動して数日は絡んできたり難癖をつけたりする破落戸ごろつきがわんさか湧いて出たが、片っ端から魔法弓の餌食にしてやったところ、そんな馬鹿も次第に鳴りを潜めていった。

それにこのスラムは元々冒険者として国を守るために魔物と戦っていた猛者たちが集まる場所。強い者は尊敬されるし、憧れの的になる。
ましてや再び冒険者として活躍できるチャンスを与えてくれたナタに感謝しないわけがないのだ。

「……ま、実験の邪魔されないならいっか。」

うん、そういうやつだよな、お前は。
ナタは深く考えるのをやめた。

勝手に祭壇作って崇められているわけでもないし、とあの女神の森を思い出し、「あ、そういえば。」とふとナタは動きを止める。

(供物の回収したいな。また『輝きの織物』ほしいなぁ~。)

だがそうなるとこのスラムの診療所を一時的に空けなくてはいけなくなる。何より急患の実験体を逃すのはもったいない。

「う~ん……」

と、診療所の前で唸るナタに「お?どうした?」と、診療所から顔を出したのはすっかり小綺麗になったカルロだった。冒険者として再び働けるようになったカルロはすっかり酒も抜け、時間があるときは診療所の手伝いも買って出てくれている。
まぁ、元々ここカルロの家だけど。

「……ちょっと行きたい所があるんだけど、診療所ここを空けるのもなぁって。」

そう顔を顰めたまま答えたナタに「素材でも採取に行くのか?」とカルロが問う。

「似たような物かな。回収したいものがあって。」

流石に女神の森に行くとは言えなかった。言ったら確実に人外扱いされる。本当にやめて欲しい。俺は普通の人間なんだ、とナタは今までの御子扱いを思い出して遠くを見やる。
そんなナタの様子に「ふーん?」と興味なさげに音を鳴らしたカルロは

「渋るほどなら遠いのか?」

と更に問うた。

「そこそこ?俺ならすぐだけどたまに近くに人がいて話相手に捕まることがあるからさ。その間に急患が来たらと思うと……」

ふぅ、と1つため息を零すナタ。もしこのセリフにナタが言葉を続けるなら「貴重な実験のチャンスをみすみす逃すようなものだし。」と倫理観の無さが露見するとことだったが、いい感じに言葉が切れたため、カルロはナタが「自分が不在のせいで急患が助からなかったときを考え、迷っている」と解釈した。

「お前ってやつは……」

なんてカルロは仕方のない子供を見るかのように柔い視線をナタに向ける。
残念だがこいつにそんな聖人的思想は全くないぞ。こいつの脳内にあるのは錬金術関連の事だけである。

「大丈夫だ。何日も不在になる訳じゃないんだろ?診療所にはポーションの予備もある。仮に急患が出てもヒナタが帰ってくるまで、俺がぜってぇ死なせねぇよ。」

と、カルロはナタの茶色い髪をわしゃわしゃと豪快にかき混ぜる。
それをどこか鬱陶しそうな顔をしながらも、されるがままになっているナタは「……まあ、そこまで言ってくれるなら。」と言葉をぽつりと落とした。

それに満足そうに歯を出して笑うカルロは

「おう!んで、いつ頃行くんだ?」

と尋ねた。馬車を頼むにしろスラムに呼ぶには難しい。街中に行くのなら俺が付いて行った方がいいだろう、とすっかり保護者面していたカルロだったが、

「あ、今から行ってくるから実験体急患来たら死なせないでよ。」

そう、ナタが言った次の瞬間。もうナタの姿はどこにもなく、カルロは訳の分からぬ現象に「ハアッッッ!?!?」と間抜けた叫びを響かせた。

「こ、これだからあのガキはぁぁぁ~~~!」

と、頭を押さえて叫ぶカルロ。
規格外なガキだとはわかっていたけど普通消えるか!?というか人間って消えれるのか!?と脳内大騒ぎ大混乱フィーバータイムに突入したカルロを更に嘲笑うかのように、

「ここに名医がいるというのは本当か!?」

と、荒々しく止められたスラムに似つかわしくない豪奢な馬車。そして明らかに高級品で身を包んだお貴族様の青年。どう見たって厄介事が舞い込んできた。

「早く帰ってきてぇぇぇえええ!!!」



**後書き**

皆さま、明けましておめでとうございます!
今年も月金16時更新を目標に頑張りたいと思います。

どうぞ今年も「錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中」をよろしくお願いいたします!
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