錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

文字の大きさ
18 / 19

18

しおりを挟む
さて、ナタが今どこにいるのかと言うと

「わぁ、本当にいっぱいいるーーー!」

ギルド、東ノッテ支部の屋根の上である。

空を覆いつくし、ぐるぐる旋回しながら獲物住民に狙いを定め始めている大量の素材ヤクルスを眺め、ナタはもうニッコニコだった。

ヤクルスは本来、山の生い茂った木に身を隠し、地上の獲物に飛びつき狩りをする魔物。
基本的に群れないのでヤクルス由来の素材集めは難しいのだ。

なので最早この状況は入手困難な素材の取り放題ご褒美タイム。
ナタはめちゃくちゃテンションが上がっていた。

しかし、ゲームと違いこのリアルな世界では撃ち落とした獲物を他の冒険者に横取りされる可能性がある。
なのでナタは

「まさか、魔物を落とすから拾えなんて言われる日が来ようとは……」
「というか撃ち落とせるもんなんだね……ヤクルスって……」
「僕、魔物討伐初めてです……」

カルロ、レトゥム、ソムヌスに回収を頼んだ。
3分の2がこの国の要人。ギルドマスターの胃は死んだ。

(さて、そろそろ民間人が襲われるから、仕留めないとな。)

本来ならこの騒動で出るであろう怪我人の救護と称してポーション実験をしたいところだが、それを差し置いてもヤクルスの素材は欲しい!

素材採取がメインの目的なので、ナタは極力少ない傷でヤクルスを仕留めたい。
しかしそんな目立つ魔法弓の使い方をすれば、せっかく茶色い髪と瞳で擬態しているヒナタという一般人(自称)まで人外扱いされてしまう。

なので、ナタは屋根に登るにあたって、そのアバターを変更していた。

茶色く短い髪は輝き靡く美しい白髪に。同じく茶色の地味な瞳を星を散りばめたような薄い黄色に。
光の加減では銀髪に金目という非常に神秘的な色合いをしている。

そう、先月ネプト・フィウーメの脳を焦げ焦げにしたあのSSRパーツである。

そんなナタが、前代未聞の未曾有の危機に現れて、雷のようにぱちぱち弾ける銀に輝く弓を持って、

「さあ俺の元に落ちてこい!『雷の雨ピオッジャ・コン・フルミーネ!』

まるで矢が雷の雨のように魔物を貫き、そして殲滅したら

「んふふ、大量ゲット~。」

果たしてどうなるかと言えば

「神だ……ノルドに神が現れた……!」

まぁ、こうなるわな。

しかもこれ、きっかけはナタが原因なのだが、非常に厄介なことに

「ええ!彼は今!話題の!神の御子!あのルーナ・ディアーナ様の御子である!ナタ・ディアーナ様なのです!!」

ここに狂信者レトゥムがいるという事だ。
それはもう目をキラッキラさせて大声で布教に勤しんでいる。

王子?品性?うるせぇ!今布教しないでいつ布教するんだ!?彼の脳みそはもう焦げっ焦げである。

カルロはなんかもう一周回って無になって黙々と撃ち落されたヤクルスを一か所に集めているし、ソムヌスは初めて見る神の所業(※誤解)に口をあんぐりと開けて固まってしまっていた。

元々、ノルド国は魔族の多い国である。
そして魔族というのはエルフ族と同じく魔力を多く持って生まれやすい。
そのため冒険者も魔法系の職業ジョブについているものが多いのだ。

だからこそ、ノルド国民はナタのその桁違いの魔力量を正確に理解し、慄き、まさしく神なのだと誤認した。

仕方ないね。ゲームの140レベルのステータスを引き継いだ状態で、付与付き装備着けられるだけ着けてバフ盛り盛りで魔法使っているので。

とうとう住人達は膝を地に着き、ナタに祈りを捧げ始めた。
彼らからすれば全てが奇跡。全てが神秘的。
この場に起きたことの全てが神の偉業なのだ。

ナタは素材ヤクルスしか目に入っていないので全く気づいていないが。

(んふふふ、これだけの素材があれば、皮を鞣して鎧や鞄……武具のホルダーもいいな……爪や血から作れるポーションも沢山の改良レシピが試せるし、角は魔法陣との親和性が高いから色んなバフの付与を試せる……!)

最早ナタの脳内はお祭り騒ぎ。そう全ては自分のハッピー錬金術ライフのためだ。

少しは周りを見た方がいい。

しかし屋根から降りたナタは、跪いて祈りを捧げる住民など欠片も視界に入らず、一直線にカルロが集めた素材の山へ。
もうそれはニッコニコの満面の笑みで、山に抱きつき

「んへへ、これは全部俺の!俺が撃ち落としたんだからな!!」

とほっぺた赤くしてふんすと鼻息と共に宣言。

レトゥムは供給過多によって気絶した。驚くほど穏やかな幸せに満ちた顔で気絶した。何なら少し泣いている。

ギルドマスターが慌てて下敷きにならなければ王子の後頭部は衝撃と共に地面とお友達になってしまうところだった。

勿論、ナタが撃ち落とした魔物を横取りしようなんて考えの者はいなかった。それ以上にナタのインパクトが強すぎたので。

しかし、ナタがまるで小さな子供のように魔物の山に抱きついて満面の笑みで「俺の!」と宣言したことにより、住人達は慌てて立ち上がった。

「お、おい、ナタ様の為に落ちたヤクルス集めるんだ!」

「男手集まれー!全部ここに運ぶんだー!!」

そう、もっと喜ばせ貢がなければ、と――……!!

無事、この首都の住人も脳を焦がされた瞬間だった。

住人総出でナタの元へとかき集められるヤクルス。
ナタはもうウッキウキ、カルロは死んだ目でそれの集計作業をしていた。
一応ギルドに討伐数報告しなければいけないので……

そして集計が終われば次に浮上したのはこの大量のヤクルスをどう捌くか、という問題だ。

しかし、

「全部回収しちゃうからいーよ、別に捌かなくて。」

とナタが片っ端からアイテムボックスに収納。

見た目を変えてあるのでナタはもう開き直って能力を見せつけていた。そうすればスラムで活動するヒナタの存在が霞む、という魂胆だ。
カルロの目はなんかもう虚無を眺めている。

ソムヌスは兄の横にソッと横たわって気絶した。病み上がりには少し刺激が強すぎた。

ギルドマスターは泣きたくなった。どうして街への被害はひとつも無いのに国の要人である王子2人は気絶してしまうのか。
王城への呼び出しと事情聴取が確定した瞬間である。強く生きて欲しい。

そうして未曾有の危機に、大団円でことが終わったかと、住民たちが歓喜に湧き、お祭り騒ぎへと転じる中、少し離れた建物の影から、ナタ達を睨みつける人影があった。

ガリガリと手袋越しに爪を噛むその様子からは抑えきれない苛立ちが伺える。

そしてナタを睨む目は気絶しているソムヌスへも向けられた。

「クソ……あいつが予定通り呪いで暴走してくれたらこんなことに……クソ!クソクソクソ!!」

そうして手に握りしめていた魔法具を地面に叩きつけた人影は、クルリとその場から踵を返した。
隠しきれない荒々しさとは反対に、その足は音ひとつ立てることなく街の影へと消えていった。



**後書き**

ストック出し切っちゃったのでどこかでお休み挟むかもです。(その時はSNSで告知します。)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる

暁刀魚
ファンタジー
 社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。  なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。  食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。  そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」  コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。  かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。  もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。  なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。  カクヨム様にも投稿しています。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。 そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた―― 「……いや草」

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

処理中です...